事業の立ち上げや拡大において、資金調達は不可欠な要素です。しかし、資金調達はただのお金を集める行為ではなく、企業の成長を支える重要な経営戦略です。資金調達の方法には、融資や出資、クラウドファンディング、補助金活用など多岐にわたる選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
本記事では、資金調達の基本的な考え方を押さえながら、事業に応じた最適な資金調達方法を選ぶためのポイントを公認会計士の岸田康雄氏が解説します。資金調達を上手に活用して、事業の成長を実現するための秘訣を学びましょう。
資金調達とは何か?

資金調達とは、事業の運営や成長に必要な資金を確保する行為を指します。企業や個人事業主が事業を始めたり、拡大したりするために資金を集める手段。事業の立ち上げや成長には資金が必要であり、適切な方法を選ぶことで、リスクを抑えつつ成長できます。経営戦略に合った資金調達が、企業の成功を左右します。
本記事では、資金調達と融資の違いを明らかにしながら、目的別の活用法や実際の成功事例をご紹介します。
資金調達と融資の違いとは?

資金調達と融資は、しばしば同一視されがちですが、実は根本的な性質に違いがあります。融資とは、主に金融機関などからの「借り入れ」を指し、資金を得る代わりに返済義務と利息の支払いが生じます。このようにして得た資金は、一定期間を経て社外へ返済されるため、あくまで期限のある資金流入となります。
これに対し、資金調達とはもっと広い概念になります。出資や資産売却、補助金の取得、クラウドファンディングによる支援など、返済義務のない手段も含んでいます。
たとえば出資を受けた場合、調達した資金の返済は不要ですが、出資者に経営権が発生したり、事業内容を公開する必要が出てきたりするため、経営への影響が及ぶ可能性があります。
融資のメリットは、一度にまとまった資金を得られることや、借入先が経営に口出ししない点にあります。しかし、審査のハードルが高く、担保や保証人が求められることが多いため、信用力に課題のある企業や個人事業主には不向きな場合も考えられます。
これに対して、出資や補助金活用は資金面では有利ですが、事業の自由度が下がる懸念もあるのです。
どの手段が最適かは、企業の成長段階や資金使途、経営者の考え方によって変わります。だからこそ、資金調達を単なるテクニックではなく、経営判断として捉えることが重要です。
資金調達の目的は多岐にわたる

資金調達の主な目的は、事業運営に必要な資金の確保であり、その内容は非常に多様です。
まず、新たに事業を立ち上げる場合には、設備投資や人件費、広報活動にかかる費用など、初期費用として多額の資金が求められます。創業間もない時期は売上が安定せず、自力での資金確保が難しいケースも多いため、外部からの資金調達が重要な手段となります。
また、日常的な運転資金を確保することも、企業にとっては大きな課題です。人件費や原材料費、租税公課など、毎月発生する支払いに対応するためには、キャッシュフローの維持が重要であり、それを支える資金調達が求められます。
さらに、既存事業の拡大や成長を目指す場合、新たな市場への進出、新店舗や工場の設立、新製品の開発など、あらゆる局面で追加の設備投資が発生します。その際には、タイミングを逃さずに資金を用意できるかどうかが、競争力の維持や事業機会の獲得に直結します。
ほかにも、老朽化した設備の更新や、業務のデジタル化に伴う技術投資など、生産性を高めるための資金も必要です。特に製造業においては、機械設備の新陳代謝が競争力に大きく影響するため、この分野への資金投下は不可欠です。
そして、研究開発にかかる費用も見逃せません。技術革新が激しい現代では、新製品や新サービスの開発には時間とリスクが伴います。そのため、長期的視点での戦略的な資金調達が必要になります。
また、事業が計画通りに進まない場合や予期せぬ出費が発生した場合には、資金ショートを回避するための緊急的な調達も求められます。こうした場面でも、資金調達が企業の継続性を支える「安全弁」として機能します。
資金調達の重要性は経営の根幹にある

資金調達は単なる資金確保にとどまらず、企業の持続的成長を支える経営戦略そのものです。たとえば、AIやIoTといった先端技術を導入するためには、数千万円の資金が必要になることがあります。これを自己資金だけで賄うのは非現実的であり、資金調達の有無が成長スピードを決定づける要因となります。
また、中小企業の約8割が資金繰りに課題を抱えている現実も見逃せません。売掛債権を担保としたABLやファクタリングなどの資金調達手段を活用することで、キャッシュフローを改善し、倒産リスクを回避する企業も増えています。
人的資本への投資も、資金調達の成果の一つといえます。優秀な人材を確保するためには高額な報酬や福利厚生が必要ですが、それも資金があってこそ実現できることです。特に技術系スタートアップでは、研究者やエンジニアの確保が競争力を左右する要素となるため、資金調達の成否が採用戦略にも大きく影響します。
現場から学ぶ資金調達のリアルな姿

実際に資金調達に成功した3つのストーリーをご紹介します。資金調達がどのように事業成功に寄与したのかを考えてみましょう。
まず1つ目のケースですが、定年退職を機に小規模法人を設立した元保険会社勤務の男性は、自身の35年にわたる実績を「見える化」した資料にまとめ、退職金2,000万円を元手として日本政策金融公庫から1,000万円の融資を得ました。この際、「社会貢献」や「地域課題の解決」を盛り込んだビジネスモデルを提示したことが評価され、資金調達に成功しました。
2つ目のケースは、副業としてECショップを始めた女性の事例です。自宅で製造したパンをネット販売するため、初期費用300万円のうち100万円をクラウドファンディングで集めました。さらに、競合との比較分析や広告効果の数値を提示した事業計画を作成し、日本政策金融公庫から300万円の創業融資を受けました。自身のアトピー改善体験をコンテンツとして活用したことも、共感を呼び込む要因となりました。
3つ目のケースですが、小規模飲食店を開業した広島県の起業家は、日本政策金融公庫から300万円、信用保証協会からの紹介で地元の信用金庫からも500万円の融資を獲得しました。厨房のレイアウトや人件費率などを定量的に示し、「投資効率の高さ」を可視化した収支計画を提示したことが、審査を通過する決め手となりました。
戦略的な資金調達で夢をかなえる

資金調達のプロセスは、単なる資金の確保にとどまらず、経営者が自らの事業を客観的に見つめ、事業戦略を練り、周囲の理解を得るためのプロセスだといえます。融資、出資、資産売却、クラウドファンディング、補助金といった多様な選択肢のなかから、自社の状況と目的に合った手段を選び、明確な計画と熱意をもって挑むことが求められます。
そして、資金調達を通じて得られた外部の評価や支援は、企業にとっての信頼性向上にもつながります。資金を得ることそのものがゴールではなく、調達を通じて得た知見と関係性が次なる成長の糧になるのです。
これから起業を目指す方や、事業のさらなる発展を志す方にとって、戦略的な資金調達は夢を現実に変えるための最初の一歩であるといえるでしょう。
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