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資金の使い道は明確か?成功する事業の条件とは

資金の使い道は明確か?成功する事業の条件とは
貝井 英則 (シェル総合会計 事務所代表/公認会計士/税理士/社会保険労務士/証券アナリスト/宅建士)

執筆者

シェル総合会計 事務所代表/公認会計士/税理士/社会保険労務士/証券アナリスト/宅建士

貝井 英則

税務を通じて企業の本質に深く入り込み、日々のご相談対応でこそ真価を発揮している「外部管理部長」。
資金調達、補助金、M&A、上場準備、事業承継、相続、事業再生など、他の会計事務所から敬遠された面倒な案件で頼りにされがち。
複雑な経営課題を整理し、現場感覚と専門性をつなぐ“経営の伴走者”として、企業の未来をともに描いている。

新たな事業を立ち上げ、継続的に成長させるためには、「資金調達」は重要です。

そのためには、資金の使い道を明確にし、それが事業の目標達成にどのように寄与するのかを理解してもらうことが鍵となります。資金の用途が不透明であれば、金融機関や投資家からの信頼を得ることは困難です。

本記事では、中小企業の資金調達を支援してきた税理士の視点から、資金の使途を具体化するためのポイントや、説得力のある説明を行うためのポイントを解説します。

資金の使い道が不明確なままでは事業は進まない

資金の使い道が不明確なままでは事業は進まない

「とりあえず資金を確保したい」「詳細はあとで考える」といった姿勢では、資金調達の段階でつまずきます。資金を何に、どのように使うかを明確に示さなければ、審査に通らないどころか、信用を損ねることにもなりかねません。

特に、「自分の中では分かっているつもり」でも、他人に説明してみると意外に曖昧なケースが多いものです。必ず第三者や顧問税理士・金融機関担当者の視点で計画をチェックしてもらいましょう。独りよがりになっていないか、客観的に見直すことが成功への第一歩です。

【事例1|賃貸オーナーCC社】

賃貸業を営むCC社は、築30年の物件リフォーム費用として融資を申請。

だが申請時には「外壁塗装・水回り改修」としか書かれておらず、対象住戸や工事内容、見積書の提示がないなど具体性に欠ける計画と判断され、いったん融資審査が中断。後日、業者見積や空室率資料を添付し、ようやく審査に入ることができた。

使い道の具体化:資金の「見える化」が信頼を生む

使い道の具体化:資金の「見える化」が信頼を生む

調達した資金は、項目別に内訳を整理し、何に・どれだけ・なぜ必要かを明示することが重要です。単なる総額ではなく、積算根拠や見積書の添付、数量単位の説明を行うことで、審査側の信頼を得やすくなります。

なお、事業環境や顧客ニーズの変化などで、資金使途の見直しが必要になる場合もあります。その際は、早めに関係者や専門家に相談し、計画修正を柔軟に行いましょう。

使い道の具体化:資金の「見える化」が信頼を生む2

【事例2|Webメディア運営N社】

東京のN社は、美容系Webメディア立ち上げに向けて1,800万円の融資を申請。

広告費「月60万円×6ヶ月」など、製作費を単価×数量ベースで積算し、見積書や契約案も提出。根拠が明確で過不足のない計画として評価され、希望額満額で実行された。

市場分析:資金投入の正当性を裏付ける

市場分析:資金投入の正当性を裏付ける

資金を投じる市場の魅力やタイミングを定量的に示すことは、計画の説得力を大きく高めます。市場規模、成長性、顧客ニーズの変化などの客観的データを活用しましょう。

【事例3|美容業P社】

新店舗を検討していたP社は、ターゲットをシニア層に絞った美容サロンを企画。

周辺に65歳以上人口が多い一方で、既存サロンの多くが若年層向けであることに着目。市の公開統計やヒアリング結果を根拠に「地域にニーズがある」と提示した。結果、地元信用金庫から「地域特性を捉えた好事例」として評価され、満額融資が決定。

競合との差別化:なぜ自社に投資すべきかを明示する

競合との差別化:なぜ自社に投資すべきかを明示する

金融機関や投資家は「なぜ他社ではなく、この企業なのか」を重視します。差別化の明確化は、資金使途の妥当性を説明するうえでも不可欠です。

【事例4|小売U社】

乾物屋U社は若年層の集客強化を狙い、SNS動画制作やLINE公式アカウント運用を開始し、来店数が増加。売上構成比で20〜30代が倍増し、地域の乾物店では異例の集客成功事例となった。

その成果をもとに、新たな商品ライン拡充とEC構築のための追加融資にも成功した。

ターゲットの明確化:顧客像に基づく資金設計

ターゲットの明確化:顧客像に基づく資金設計

「誰に何を売るのか」が不明確であれば、資金の使い方も曖昧になりがちです。ペルソナ設計に基づく投資配分は、事業の説得力を高める鍵です。

【事例5|住宅リフォームNN社】

工務店NN社は、高齢者向け住宅改修を「孫が遊びに来たくなる家」と再定義。単なるバリアフリーではなく、明るい照明設計や会話しやすいリビング空間に着目した。

「思い出をつくる空間」という感性価値を重視し、施工後の満足度アンケートも添付。顧客像に基づいた提案と実績が評価され、地元金融機関からの追加融資にもつながった。

資金使途の合理性:成果とのつながりを再検証する

資金使途の合理性:成果とのつながりを再検証する

資金使途に偏りがあると、短期的な満足は得られても、持続的な成長にはつながりません。成果を生む投資であるかどうか、客観的な視点で見直しましょう。

【事例6|飲食業Z社】

繁華街で営業するZ社は、当初内装に資金を投入する計画で融資を申請予定だった。しかし、「注文が通らない」「待ち時間が長い」など実務面の課題が噴出。計画を練り直し、タブレット注文システムと接客研修に融資の目的を振り替えた。

回転率1.3倍、売上20%増となり、成果レポートと併せて2号店資金も調達できた。

まとめ:明確な使い道こそ、信用と成長の土台となる

まとめ:明確な使い道こそ、信用と成長の土台となる

資金調達が成功したからといって、事業の成果が保証されるわけではありません。資金調達や事業計画に不安がある場合は、必ず税理士や専門家と一緒に計画を練ることが重要です。自社だけで判断せず、外部の視点を取り入れることで、計画の精度と実現性が大きく高まります。

むしろ、その資金を「どう使うか」こそが企業の真価を問われる局面です。金融機関や投資家が見るのは、目的に対する使途の妥当性、実行計画の実現可能性、そして成果に直結するストーリーです。

使途が不明瞭なままでは、資金は期待とは異なる方向に流れ、金融機関の信頼を失うとともに事業が失敗することになりかねません。逆に、明確な資金使途を数字と顧客視点で語れる企業は、継続的な支援を得て成長を実現できます。

事業の「設計図」としての資金使途は、自社の強みや戦略を再確認する機会でもあります。誰に、何を、どのように届けるのか——その意思が言語化されていれば、未来への道筋は自然と描かれていくのです。

そして、実際に資金を投入したあとは、計画通りの成果が得られているかどうか、必ず定期的に検証(モニタリング)し、必要に応じて戦略や資金使途を見直しましょう。この”実行と検証のサイクル”が、継続成長のカギとなります。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、最新情報は各サービスのホームページ等でご確認ください。

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