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中小企業が銀行融資を断られたときの資金調達方法・次の一手

中小企業が銀行融資を断られたときの資金調達方法・次の一手
貝井 英則 (シェル総合会計 事務所代表/公認会計士/税理士/社会保険労務士/証券アナリスト/宅建士)

執筆者

シェル総合会計 事務所代表/公認会計士/税理士/社会保険労務士/証券アナリスト/宅建士

貝井 英則

税務を通じて企業の本質に深く入り込み、日々のご相談対応でこそ真価を発揮している「外部管理部長」。
資金調達、補助金、M&A、上場準備、事業承継、相続、事業再生など、他の会計事務所から敬遠された面倒な案件で頼りにされがち。
複雑な経営課題を整理し、現場感覚と専門性をつなぐ“経営の伴走者”として、企業の未来をともに描いている。

経営環境が厳しさを増すいま、資金調達は多くの経営者にとって切実な課題です。目の前の「壁」を乗り越えるだけでなく、これを「成長のチャンス」に変えるには、各資金調達方法の特性を深く理解し、戦略的に選択する必要があります。

本記事では、伝統的な銀行融資から最新のクラウドファンディングまで、多様な選択肢についてみていきましょう。実際の成功・失敗事例を交えながら、それぞれのメリット・デメリット、そして押さえておくべきポイントを紹介します。

「いつもの銀行」になぜ断られるのか?

「いつもの銀行」になぜ断られるのか?

「黒字だし、返済遅れもない。なのに、なぜダメなんだ……」

そんな声が、いま中小企業の現場で相次いでいます。長年付き合いのある銀行に融資を断られるケースが増えているのです。

その背景には、企業の努力不足だけでなく、金融機関全体を取り巻くマクロ的要因と、金融機関ごとのミクロ的要因の両面の変化があります。

マクロな環境変化はすべての企業が同じ条件下にあるため対応が困難ですが、ミクロな事情に対しては企業ごとに対策が可能です。マクロ要因を理解しつつ、ミクロ要因に対応する姿勢が重要となっています。

【マクロ要因】
●コロナ融資の反動:ゼロゼロ融資の回収局面に入り、金融機関は貸倒リスクを警戒。
●審査の厳格化:金融庁はモニタリング指針により、事業性評価の徹底と過剰融資抑制を強化。
●経営者保証の見直し:保証解除の流れのなかで、財務や経営力の厳格な評価が求められている。  

【ミクロ要因】
●担当者の異動:前任より能力が低い職員が担当になり、融資が突然NGに。
 →担当が変わっても「稟議が通るレベル」の計画書を常に用意することが重要。
●業種・地域の見通し悪化:個別の業績に関係なく、業界全体で融資枠が抑制されることも。
 →自社の強みや差別化ポイントを資料で明確化し、誰が見ても伝わるように整える。

融資を断られたときに最初にやるべきこと

融資を断られたときに最初にやるべきこと

断られた理由を「できるかぎり」確認する

多くの金融機関は「社内判断」「難しい状況でして…」と曖昧に済ませがちです。

しかし、金融庁の「中小・地域金融機関向け監督指針」では、「融資を謝絶する際には、可能な範囲でその理由を説明する体制整備」が求められています。

言い方の工夫例:

「今回のご判断について、可能な範囲で背景をお伺いできますか? 監督指針でも説明体制の整備が求められている、と顧問税理士がいっていました」

ただし、「金融庁に相談します」などと直接いうのは逆効果です。あくまで制度の存在を“やんわりと”示唆する程度にとどめましょう。

提出資料を再点検する

●収支と返済計画の整合性
 →売上計画と返済原資(営業CFなど)をきちんとつなげる。  

●売上・利益見通しの根拠提示
 →新規案件の獲得、単価改定、コスト削減などを具体的に記載。  

●第三者コメントの活用
 →税理士などによる意見書や同席による補足説明で、信頼性を補完。  

これらを整備することで、「人で通す」から「書類で通す」体制への転換が図れます。

他に選べる資金調達の選択肢

融資を断られたからといって、すべての手が尽きたわけではありません。以下のような手段を柔軟に検討しましょう。

●信用保証付き融資
 →保証協会の枠が残っていれば、別の金融機関を通じての利用も可能。なお、返済ができなくなった場合、保証協会が代位弁済した後も「求償債務」(保証協会への返済義務)は残るため、慎重な資金計画が必要です。  

●商工会議所や制度資金の活用
 →商工会議所経由で紹介される制度融資は、金利・保証料の優遇がある場合も。  

●他の金融機関に打診
 →地方銀行や信用金庫のなかには、関係が浅くても前向きに対応してくれるケースも。
  また、融資を伸ばしたい他の金融機関が借り換え(肩代わり)に応じてくれるケースも。  

●ノンバンク・ABL・リース
→不動産・売掛債権・車両・設備などの資産を活用した融資で、柔軟かつ迅速な対応が可能なことも。
 短期資金のつなぎに有効です。銀行融資に比べて金利や手数料が高い場合が多いため、返済計画には十分注意が必要です。  

●ファクタリング
→BtoBの業種(卸・製造・小売)には有効。現金化までの時間を買う手段として検討。手数料が高額になることや、違法業者(ヤミ金融・偽装ファクタリング等)のリスクもあるため、利用先は必ず信頼できる業者を選ぶことが重要です。  

●資本調達・クラウドファンディング
→エンジェル投資や地域密着型クラウドファンディングも視野に。返済不要の資金調達手段として注目されています。
 出資型の場合は株主との関係性や経営権への影響、情報開示の義務などにも注意が必要です。

事例紹介:資金調達に成功した企業の工夫

事例紹介:資金調達に成功した企業の工夫

■A社(製造業)

前任の担当者が交代し、設備投資資金の追加融資が突如NGに。A社は計画書を全面刷新し、設備導入による増益見込み、具体的な原価改善策、受注見通しを明記。税理士の意見書も添付し、副支店長同席で再プレゼンした結果、無事に融資が実行された。

ポイント:誰が見ても通るレベルの資料作成がカギ。

B社(卸売業)

金融機関に融資を断られ、資金繰りに支障が発生。B社は売掛債権を使ったファクタリングでつなぎ資金を確保し、その間に地元信用金庫に融資の相談を持ち込み、運転資金を確保した。

ファクタリングは短期資金繰りの改善に役立つ一方、手数料負担や与信管理の観点から、常用は避けるべき手段として適切に活用した事例。

ポイント:ファクタリングを「時間を買う手段」として限定的に使い、その間に別の金融機関を開拓。緊急時の選択肢として理解しつつ、根本的な資金調達ルートの確保を優先。

まとめ:否決は終わりではなく、再構築の始まり

否決は終わりではなく、再構築の始まり

融資を断られたという事実は、事業の“終わり”ではなく、むしろ経営の再構築のチャンスです。

「優秀な担当者だったから通っただけ」と冷静に受け止める    

「環境がよかったから資金が出ただけ」と前向きに捉える  

そのうえで、誰が見ても納得できる計画書を整備し、どんな状況でも通る戦略を再設計することで、金融機関との新たな関係性が築かれます。

金融の常識が変わるなかで、その変化に柔軟に対応する姿勢こそが、これからの中小企業経営者に求められる資質です。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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