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個人事業主のための資金調達ガイド|自己資金・融資・補助金・クラウドファンディング・家族支援で確保する方法

個人事業主のための資金調達ガイド|自己資金・融資・補助金・クラウドファンディング・家族支援で確保する方法
黒瀧 泰介 税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

執筆者

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

黒瀧 泰介

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒。監査法人トーマツにて会計監査に従事し、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルや組織再編コンサルなど、法人個人問わず幅広く税務コンサルティング業務に従事。2015年税理士法人グランサーズを開設。スタートアップ企業からIPO(上場)準備支援まで、あらゆる成長段階の企業のサポートをしており、税務会計顧問にとどまらない経営を強くするためのコンサルティングサービスに中小企業経営者の信頼と定評を得ている。

個人事業主として事業を開始する際、多くの人が直面する課題の一つが開業資金の準備です。

「事業を始めるのに、どれくらいの資金が必要なのか」「自己資金だけでは不安な場合、どこから調達すればよいのか」といった具体的な疑問を持つ方は少なくありません。法人と比較して、個人事業主が利用できる資金調達の情報は限られる面があります。

本記事では、個人事業主が活用できる多様な資金調達方法を取り上げ、それぞれのメリット・デメリット、そして実行に向けた具体的な手順までを詳細に解説します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の融資や補助金の勧誘ではありません。制度や要件は変更されるため、最新の公的案内や専門家の助言を確認してください。

開業に必要な資金はどれくらい?

開業に必要な資金はどれくらい?

事業を始めるために必要な資金は、その事業形態によって大きく異なります。

たとえば、飲食店や美容室などの店舗型の場合、内装工事費、厨房機器、什器、賃貸保証金などで、数百万円から1,000万円程度かかるケースもあります。

特に内装や設備にかかる費用が大きくなりがちです。

一方、Webデザイナーやライター、コンサルタントといった非店舗型の場合、パソコンやソフトウェア、通信費など、数十万円程度で開業できることが多く、比較的少ない自己資金でスタートできます。

「見えない初期費用」にも注意!

開業資金を考える際に見落としがちなのが、以下のような「見えない初期費用」です。

運転資金: 開業後、売上が軌道に乗るまでの家賃や仕入れ費用、生活費など。一般的に3~6ヵ月分の運転資金を準備できると安心とされています。  
広告宣伝費: チラシ、Web広告、SNS広告など、事業を周知するための費用。  
諸経費: 税理士への相談料、各種登録料、印鑑代、各所訪問などの交通費など。

事業計画を立てる際は、これらの費用も忘れずに計上しましょう。

実は融資や補助金も使える!個人事業主が知るべき注意点

「個人事業主だから融資は難しいだろう」と思っていませんか?個人事業主でも、融資や補助金など多様な資金調達方法を活用できます。

ただし、法人とは異なる注意点があります。法人では会社の信用力が問われますが、個人事業主の場合は事業主自身の信用情報や経歴が審査に大きく影響します。

また、事業とプライベートの資金が混同しがちです。収支を明確にし、事業用の口座や事業用クレジットカードを作るなどして管理を徹底しましょう。

資金調達のリアルな選択肢

資金調達のリアルな選択肢

自己資金

最も基本的かつ重要な資金調達方法です。自己資金が多いほど、融資の審査でも有利になります。利息の支払いがない、返済義務がない、事業の自由度が高いというメリットがある一方、貯蓄額に依存するため、調達額に上限があるというデメリットがあります。

親族・知人からの借り入れ

家族や親しい友人から借りる方法です。金利や返済条件を柔軟に設定できる、審査がないというメリットがありますが、お金の貸し借りが人間関係に影響を与える可能性があるというデメリットがあります。

知り合いからの資金融通は後々のトラブルにつながりやすいため、金額や返済条件は必ず契約書に明記しましょう。書面化することで人間関係のトラブルや、税務上「贈与」と誤解されるリスクも防げます。

日本政策金融公庫の「新規開業資金・スタートアップ支援資金」

政府系の金融機関である日本政策金融公庫は、新たに事業を始める方を対象とした融資を積極的に行っており、「新規開業・スタートアップ支援資金」という制度があります。より

多くの起業家が融資を受けやすい内容となっています。

〈新規開業資金の主な特長〉  
無担保・無保証で利用可能:一定の要件を満たすことで、原則として担保や保証人なしで融資を受けることができます。  

返済期間・金利が有利: 設備資金は最長20年、運転資金は最長10年の返済期間を設定でき、据置期間も最長5年と長めに取ることが可能です。金利は時期や条件によって変動しますが、一般的に民間金融機関より低めに設定されており、要件を満たせばさらに優遇される場合もあります。  

自己資金要件が撤廃: 以前の制度では「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」が必要でしたが、この要件はなくなりました。 ただし、自己資金を準備していることは、事業に対する熱意や計画性を示す重要な要素であり、審査において有利に働くことに変わりはありません。 また、自己資金を準備しておくことで、より高額な融資を受けられる可能性も高まります。

補助金・助成金

国や地方自治体が、特定の事業や取り組みを支援するために給付するお金です。原則として返済の必要がありません。

返済不要のため事業のリスクを軽減できるというメリットがありますが、受給までに時間がかかり、申請手続きが複雑で要件が厳しいというデメリットがあります。

また、補助金・助成金は多くの場合「後払い」であり、交付決定前に事業を始めると対象外となるケースもあります。不採択となった場合は自己負担となるため、つなぎ資金を含めた計画や資金繰りへの配慮が欠かせません。

クラウドファンディング

インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を募る方法です。新しいファンを獲得でき、事業の宣伝効果が高いというメリットがある一方で、方式や費用面に注意が必要です。

クラウドファンディングには「All-or-Nothing方式」と「All-in方式」があり、前者は目標金額に達しないと資金を受け取れません。加えて、手数料や支援者へのリターン(商品やサービス)の原価も考慮する必要があります。

さらに、株式型や融資型は金融規制の対象となるため、仕組みの違いを理解して選択することが重要です。プロジェクトが失敗した場合には、信用を失うリスクもあるため、計画段階から慎重な設計が求められます。

日本政策金融公庫の融資で失敗しないために

日本政策金融公庫の融資で失敗しないために

これらの選択肢のなかでも、特に多くの個人事業主が最初に検討するのが、政府系金融機関である日本政策金融公庫からの融資です。創業者にとって心強い味方となる、公庫の融資でつまずかないための具体的なポイントをみていきましょう。

審査通過率を上げるための「創業計画書」の作り方

公庫の審査で最も重要視されるのが創業計画書です。これは事業の設計図ともいえる重要な書類で、審査担当者が納得できるよう、具体的に作成する必要があります。

「将来性のある事業だから成功するはず」といった抽象的な説明では、審査通過は難しいとされています。

売上や経費については「数字に基づいた具体的な計画」、例えば「毎月〇〇個の商品を販売すれば、経費を差し引いてこれだけの利益が出る」といった根拠を明確に示しましょう。

その際、水道光熱費、通信費、各種サブスク費用、交通費などの細かな経費も忘れずに計画へ盛り込むことが大切です。

面談で聞かれること

創業計画書の内容に基づき、以下の点を深く掘り下げて質問されます。

収支計画: 「売上の根拠は?」「経費は本当にその金額で足りる?」など、計画の実現可能性について問われます。売上の計上タイミングや回収サイト(入金までの期間)、仕入条件など、資金繰りに関する前提も確認されることがあります。  

自己資金:  「自己資金はどのように貯めたのか?」「この資金だけで足りるのか?」など、自己資金の出所や金額について確認されます。預金履歴など、形成過程の説明を求められる場合もあります。  

事業内容: 「なぜこの事業を始めたいのか?」「競合他社との差別化ポイントは?」など、事業への熱意や独自性を問われます。また、経営者のこれまでの経歴もヒアリングされ、実現可能な経験を持っているかも重視されます。

金融公庫の相談窓口を活用しよう

融資の申し込みをする前に、公庫の相談窓口を利用することをおすすめします。

Web・電話での相談: 創業に関する一般的な疑問や、融資制度の概要について気軽に質問できます。  

創業相談会: 公庫が定期的に開催している無料の相談会です。専門家が個別に事業計画の相談に乗ってくれるため、融資に成功している方は、書類作成のアドバイスや、融資の可能性について具体的に聞いて確認をしています。  

これらの窓口を積極的に活用し、自身の事業計画を客観的に見直すことで、融資の成功率を高めることができます。

資金調達で失敗しないために

資金調達で失敗しないために

資金調達は事業を成功させるための第一歩です。

しかし、調達すること自体が目的になってはいけません。どんなに良い資金調達方法があっても、事業計画が曖昧では成功しません。

また、補助金や融資制度は、時期によって要件や内容が変わることがあります。常に最新情報を確認しましょう。

そして、税理士、中小企業診断士、認定経営革新等支援機関といった専門家に相談することで、より現実的な事業計画を立てることができます。

資金調達は事業への情熱と具体的な計画を示す重要な機会です。ただし、資金調達そのものが目的になってはいけません。資金繰り表(半年〜1年分)を用意し、専門家の助言も受けながら、現実的で持続可能な計画を立てましょう。

この記事が、あなたの第一歩を力強く後押しできることを願っています。

※本記事は一般的な情報提供であり、融資・補助金・助成金の利用や成果を保証するものではありません。制度・金利・要件は変更される可能性があるため、最新の公的情報をご確認ください。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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