情報格差やリスクマネーの不足、「担保」重視の慣習……地方の起業家には、このように都市部にはみられない「資金調達の壁」が存在します。
しかし、こうした「壁」は、見方を変えれば「武器にもなりうる」と、公認会計士の村木謙介氏はいいます。
そこで本稿では、資金調達のフェーズを大きく「創業期」と「成長期」に分け、地方のスタートアップが積極的に取り組みたい「資金調達戦略」とそのポイントについて解説します。
地方企業の前に立ちはだかる「資金調達の壁」は、「武器」になりうる

「いい技術やサービスはあるのに、資金が続かない」「東京のスタートアップのような億単位の資金調達なんて夢のまた夢だ」――地方で事業を営む経営者や、これから起業を志す人々の多くは、こうした「資金調達の壁」に直面しています。
実際、大規模な資金調達のニュースの多くは都市部に集中しており、地方には地方特有の厳しい現実があるのはたしかです。
しかし、地方企業には「地方だからこそ活かせる資源」があります。地域に根ざした金融機関や自治体の手厚い支援制度、そして地域社会との密接な関係性は、都市部には乏しい“地域密着型の資本”は大きな強みとなり得ます。
重要なのは、これらをパズルのように組み合わせ、適切なタイミングで活用することです。
そこで本稿では、地方特有の課題を整理したうえで、創業期から成長期にかけて「なにを」「どの順番で」活用すべきか、実践的な資金調達戦略を提示します。
これは単なる資金集めのノウハウではなく、地域社会と共に成長するための生存戦略です。
なぜ地方企業の資金調達は難しいのか…地域経済にはびこる「構造的課題」

具体的な手法に入る前に、地方で資金調達がハードルが高く感じられる理由を、構造的な観点から押さえておきましょう。
リスクマネーの不足
最大の違いは、「リスクマネー」の供給量です。都市部では、VCやエンジェル投資家など「リスクマネー供給者」が層として存在し、赤字段階でも将来性を評価して出資する直接金融のエコシステムが形成されています。
一方、地方経済を支えるのは銀行などの「間接金融」が中心です。原資が預金である以上、元本割れを避けるため「実績」や「確実性」が重視されます。これが、実績のない創業期や急成長を目指す企業にとって高い壁となっています。
「担保・保証人」依存
経営者保証を不要とする動きは広まりつつありますが、地方の現場では依然として「担保・保証人」が重視される傾向が強く残っています。資産を持たない若手起業家や、Uターン・Iターンの起業家にとって、この慣行は大きな足かせとなり、挑戦心を削いでいます。
情報格差
また、都市部と地方で深刻なのは情報の非対称性です。国や自治体には多くの中小企業支援策があるものの、情報を能動的に探さなければ活用することはできません。
したがって、地方では「知っていれば補助金がもらえたのに」「いつの間にか申請期限を逃した」という事例は日常茶飯事です。経営者が孤立しやすく、こうした情報を得るネットワークに入り込めないことが、資金調達の機会損失を生む要因となっています。
地方企業の資金調達…創業期は実績ゼロからのスタートを支える“信用補完”がカギ

創業期、つまり売上実績がほとんどない段階での資金調達は、最も難易度が高いです。そのため、この時期は公的な仕組みを利用して自社の信用の弱さを補う「信用補完」の戦略を立てることが重要になってきます。
補助金や助成金を活用し、「もらえる資金」を確保する
まずは借入の前に、「補助金」や「助成金」といった返済不要の資金を検討しましょう。具体的には、市区町村の「特定創業支援等事業」を確認することをおすすめします。
この認定を受けると、登録免許税の軽減や保証枠拡大など、創業初期の資金繰りを支える実務的メリットを受けられます。
また、自治体独自の「創業支援補助金」や、国の「小規模事業者持続化補助金(創業枠)」は必ず押さえておきたい制度です。これらは資金確保だけでなく、「公的な審査を通過し、事業計画が認められた」という事実が、以降の金融機関との交渉において強力な“お墨付き”となります。
申請にあたっては、地元の商工会議所や商工会を頼ることが鉄則です。彼らとの接点自体が、地域での信用につながります。
「日本政策金融公庫」の活用
地方企業にとって最も頼りになるのが、政府系金融機関である「日本政策金融公庫(公庫)」です。公庫は全国均一のサービスを提供しており、民間がリスクを取りにくい創業期でも積極的に融資を行います。
特筆すべきは、創業者向けの「無担保・無保証人融資」です。
かつての新創業融資制度の機能は、現在も「新規開業資金」などの特例として維持されており、代表者個人保証を不要とする特例があり、創業期でも無担保・無保証で融資を受けられる場合があります。
公庫で返済実績を作ることができれば、「公庫が貸した企業」という信用が生まれ、民間金融機関からの融資も受けやすくなります。まずは最寄りの支店へ相談に行きましょう。
「信用保証協会」を使い倒す
実績のない企業に対し、銀行が単独で融資(プロパー融資)を行うことは稀です。そこで活用すべきが、都道府県ごとの「信用保証協会」です。保証協会が公的な保証人となることで、民間金融機関は安心して融資を行うことができます。
特に「創業融資」の枠組みでは、金利や保証料を自治体が一部負担する制度(制度融資)も多くあります。
保証協会付き融資でも、金融機関と事業計画を共同で整えるプロセス自体が信頼関係の構築につながり、将来的なプロパー融資への道を開きまます。
地域金融機関への早期接触
「資金が必要になってから銀行に行く」のでは遅すぎます。創業前から地域の地方銀行や信用金庫に足を運び、「相談」という形で接触を持つことが大切です。特に信用金庫は「地域貢献」を理念としており、小規模事業者の支援に積極的です。
まずは口座を開設し、少額でも取引実績を作り、定期的に顔を見せるようにしましょう。このような“泥臭いコミュニケーション”こそが、いざというときの審査で「あの社長なら」という担当者の心証につながります。
クラウドファンディング活用による“潜在的顧客”の証明
近年、地方企業の有力な武器となっているのが「クラウドファンディング」です。
これは商品提供前に販売を行うことができるという構造上、資金調達方法のひとつであると同時に「予約販売」によるキャッシュフロー改善が叶い、さらに「事前に一定数の支援が集まった」という実績は、市場性の証明として機能し、融資審査での判断材料として扱われることもあります。
「売れるかどうかわからない」と銀行が融資を渋る案件でも、クラウドファンディングによる達成実績を示すことができれば、審査の空気は一変します。地域の応援団を可視化できるツールとして、積極的に活用したいところです。
成長期は、「多層的資金戦略」で事業拡大のスピードアップを図る

事業が軌道に乗り、拡大フェーズに入ると、調達額を大きくしつつ手法を多様化させる高度な戦略が求められます。
「プロパー融資」への挑戦
実績が積み上がってきたら、「保証協会付き融資」から、金融機関が直接リスクを取る「プロパー融資」への移行を目指しましょう。これにより保証料が不要となり、対外的な信用度が格段に向上します。
また、この段階になれば、メインバンクを明確にしつつ、サブバンクとの関係も維持する「複数行取引」を検討し、適度に競争原理を働かせるのもひとつの手です。
ただし、地方では義理人情も重視されるため、露骨に天秤をかけるのは避けるべきです。
大型補助金と融資のハイブリッド活用
設備投資が必要なフェーズに入ったら、国の大型補助金をフル活用しましょう。2025年現在、主力となる制度は以下のとおりです。
……人手不足解消のためのロボット・IoT導入を支援
・ものづくり補助金
……革新的な製品開発や生産プロセス改善を支援
・中小企業新事業進出補助金
……事業再構築補助金の後継として、新分野展開を支援
・大規模成長投資補助金
……投資額10億円超の工場新設などを支援(最大50億円規模)
ただし、上記は原則“後払い”であるため、つなぎ融資が不可欠です。そこで、上記の「採択通知」を担保のように活用し、金融機関からつなぎ資金を調達しましょう。補助金と融資をセットで動かすことで、大規模投資が可能になります。
「地域VC」と「産業振興ファンド」
さらなる成長を目指す段階では、融資に加えて出資(エクイティ)も検討すべきです。地銀系VCや自治体の産業振興ファンドは、地域経済への波及効果を重視するため、都市部VCに比べてリターン要求が相対的に緩やかな点が特徴です。
こうした「返済不要の資金」で自己資本を厚くし、それを呼び水にさらに大きな融資を引き出す戦略も有効です。
都市部プロ人材(副業・兼業)を「参謀」に迎える
資金調達においては「誰が経営しているか」も重要な要素のひとつです。とはいえ、地方企業がCFOやマーケティング責任者を常勤で雇うのは難しいのが現実でしょう。
そこで、都市部のプロ人材を「副業・兼業」として迎え入れるというのも選択肢のひとつです。
実際、内閣府による規制改革などにより副業が一般化し、東京の大手企業やスタートアップのハイスキル人材が、地方企業で「週1日」や「リモート」で参画するケースが増えています。
彼らの参画は単なる人手不足解消にとどまりません。「元大手銀行マンが財務顧問にいる」「東京の有名ベンチャー幹部がマーケティングを担当している」という事実は、金融機関や投資家への強力な信用(シグナリング)となり、東京のネットワークを自社に接続することにもつながります。
地方だけで完結せず、外部の頭脳を取り入れる体制こそが、資金調達のスピードアップにつながります。
地方のエコシステムとIPO(新規上場)戦略
かつて東京一極集中だったインキュベーション施設※やVCとの接点は、いまや地方にも広がっています。自治体が整備した拠点やオンラインピッチイベント※などに積極的に参加し、チャンスを掴むべきです。
※ インキュベーション施設……起業家や創業期企業に、安価なオフィスや経営支援を提供する育成拠点。
※ オンラインピッチイベント……起業家や企業がインターネット上で事業計画や製品を発表し、投資家や支援者にアピールする場。
そして、融資中心の調達から脱却する選択肢として、「IPO(新規上場)」も現実的になってきています。TOKYO PRO Marketや地方市場(札証アンビシャス、福証Q-Board等)は柔軟な基準で上場が可能です。
上場は資金調達だけでなく「知名度向上による人材採用」と「事業承継」の切り札となります。
外部資本を入れることで企業体質を強化し、永続的な成長を目指す道は、地方中堅企業にこそ開かれているのです。
「地域ネットワーク」と「外部の知見」が、地域企業の成長を左右する

地方企業の資金調達成功の最大のカギは、最終的には「人」に帰結すると考えます。人の力をうまく活用することが、地方の「壁」の突破口となるのです。
地方のコミュニティは狭く、金融機関、自治体、商工会などは“横のつながり”が強い側面があります。「あの社長は勉強熱心だ」「地域イベントにも協力的だ」といった日頃の行いは、決算書には載らない“見えない資産”として蓄積されます。
いざというとき、担当者の背中を押すのは「この地域に不可欠な企業だ」という共通認識です。
また、近年はこの地域での信頼に加え、「外部(都市部)とのつながり」を持つことが、他の企業との強力な差別化となります。
地元の信頼をベースにしつつ、東京のプロ人材や新しい知識を柔軟に取り入れる。その「ハブ」としての役割を経営者が果たすことで、地元の金融機関からも「あの企業は新しい風を入れてくれる」と一目置かれる存在になります。
地方での資金調達ロードマップは、決して一直線ではありません。しかし、地域のステークホルダーを味方につけ、さらに外部の知見を掛け合わせることができれば、その資金調達力は盤石なものとなります。
まずは、地元の商工会議所のドアを叩くこと、あるいは副業人材のマッチングサイトを覗くことから始めてみてください。その小さな一歩が、地域企業の成長を加速させ、未来の大きな投資を呼び込むきっかけとなります。
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