何らかの理由により住宅ローンを返済できなくなった場合の解決法の一つとして挙げられるのが、任意売却です。金融機関の同意を得て家を売却し、住宅ローンの返済に充てることですが、メリットとデメリットを理解したうえで進めなくてはいけません。
このコラムでは、任意売却のメリット・デメリットを、周辺知識を交えながらていねいに解説します。住宅ローンの返済でお困りの場合でも、どのように対処すれば良いかが理解できるはずです。
- 任意売却とは住宅ローンの支払いが困難な場合に、債権者(金融機関)の同意のうえで、不動産を売却すること。
- 任意売却は「市場の相場で売却できる」「残債の返済の相談ができる」などのメリットがある。
- 「競売に比べると手間がかかる」「個人信用情報に登録される」などのデメリットに注意が必要。
- リバースモーゲージやリースバックなど、ほかの手段も検討する。
任意売却とはどういうこと?
任意売却も不動産売買の一種ではあるものの、通常の不動産売買とは事情がやや異なります。あくまで、住宅ローンの支払いができなくなって初めて話に出てくることです。
ここでは「任意売却とはどういうこと」という疑問への答えを、次の3つの側面から分かりやすく解説します。
- 任意売却の基本概要
- 任意売却と競売の違いとは
- 任意売却ができないケースとは
任意売却の基本概要
任意売却とは、住宅ローンの支払いができなくなった場合に、債権者(金融機関)の同意を得たうえで、不動産を売却することを指します。任意売却にかかる費用は、通常の不動産売買にかかる費用と大きく変わりありません。具体的には、以下の費用がかかります。
抵当権抹消費用 | 登録免許税・事前調査費用・司法書士への報酬など。相場は10,000~20,000円程度 |
売買契約書に貼付けする印紙代 | 物件の売却価格によって変わるため要確認 |
仲介手数料(3%+60,000円+消費税) | |
測量費用や解体費用等 | 必要に応じて支払う |
任意売却と競売の違いとは
任意売却と混同されがちなものに、競売があります。競売とは、債権者からの依頼にもとづき、裁判所が債務者の意思に関係なく、強制的に売却を進めることです。
任意売却はあくまで債務者の意思によるものであるため、全く性質が異なります。以下の表にもあるように、ほかにも細かい差があるため、混同しないよう注意しましょう。
競売 | 任意売却 | |
売却金額 | 相場より3~5割安い | 相場に近い金額で売れる |
残債の額 | 多い | 少ない |
残債の支払い | 一括返済または分割返済 | 分割返済の交渉ができる |
プライバシー | 公開される | 守られる |
退去日 | 指定される | 融通が利く |
引っ越し費用 | 出ない | 交渉次第では出る |
任意売却ができないケースとは
住宅ローンを滞納した場合であっても、必ず任意売却で解決できるわけではありません。任意売却は債権者の同意が必要であるうえ、競売にかけられる前(現実的には強制執行が実施される前)に進められるよう準備をしなくてはいけないからです。
以下の6つのいずれかに当てはまる場合、任意売却はできないと考えましょう。
- 債権者(銀行等)からの同意が得られない
- 売却額が住宅ローンの残高よりも低い
- 共同名義人・連帯保証人からの同意が得られない
- 任意売却するための時間的な余裕がない
- 充分な売却活動(内覧・情報公開)が行えない
- 所有者の本人確認ができない
任意売却を行うメリットとは
任意売却を行うメリットは、以下の4点です。
- 市場の相場で売却できる
- 諸経費を売却代金から支払える
- 引っ越し時期の調整ができ周囲に知られない
- 残債の返済の相談ができる
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
市場の相場で売却できる
任意売却では、市場の相場で物件を売却することが可能です。
競売では自由な売却活動ができませんが、任意売却であれば問題なく行えます。そのため、不動産会社の手腕や買主との交渉の結果次第では、市場の相場と同等か、それ以上の金額で売却できるかもしれません。
諸経費を売却代金から支払える
任意売却では、諸経費を売却代金から支払うことができます。一般的に、任意売却を含めた不動産売買では、以下の諸経費がかかるため、支払えるだけの資金を用意しなくてはいけません。
- 不動産会社への仲介手数料
- 売買契約時にかかる印紙税
- 抵当権の抹消登記費用
- 売却益に対する譲渡所得税
- 引っ越しのための費用
売却価格を高くできれば、住宅ローンの残債を払ったとしても余裕は充分にあるため、諸経費も充分に払えます。
引っ越し時期の調整ができ周囲に知られない
任意売却では、引っ越し時期の調整ができ、周囲に知られにくいというメリットがあります。
競売の場合、退去日までに立ち退かなかった場合は、強制執行により強制退去しなくてはいけません。周囲から見ると「前触れもなく急に引っ越した」ように映ります。また、競売にかけられた場合は、その事実がWEBサイトや新聞で公開されるため、いずれは知られてしまうはずです。「住宅ローンを滞納したから家を手放すことになった」という情報が知られるため、プライバシーの面からはあまり歓迎できません。
しかし、任意売却であれば、通常の不動産売却と同様、ある程度はスケジューリングをしたうえで、売却や引っ越しの手配を進めていけます。競売のように、WEBサイトや新聞で任意売却をした事実を知られることもありません。プライバシーが保たれるのも、任意売却の大きなメリットといえます。
残債の返済の相談ができる
任意売却では、残債の返済の相談ができることもメリットとして挙げられます。
不動産の売却価格次第では、任意売却をしても住宅ローンの残債を完済できない可能性はゼロではありません。そのような場合、金融機関が事情を鑑みて、無理なく返済を続けられるプランを提案してくれることがあります。
毎月の返済額は任意売却前よりも安くなるため、経済的負担も大幅に軽減できるはずです。具体的なプランは金融機関の担当者との相談になるため、どのような内容なら問題なく返済できそうか話し合いをしましょう。
任意売却によって考えられるデメリット
任意売却を行うことにより、一定のデメリットが発生することは考えられます。ここでは、具体的な問題点として以下の5つを解説しましょう。
- 個人信用情報に登録される
- 売却代金は自由に使えないことも
- 競売に比べると手間がかかる
- 残債の支払いは残る
- 連帯保証人の同意が必要
個人信用情報に登録される
任意売却を行った場合、個人信用情報に金融事故(異動)として登録されます。俗にいう「ブラックリストに登録される」状態です。
一定期間、住宅ローンやカーローンなどの融資商品やクレジットカードが使えなくなるのです。その間は、基本的に現金払いをしなくてはいけなくなるため、生活にも支障が出るので要注意です。
売却代金は自由に使えないことも
任意売却による売却代金は、住宅ローンの返済に充てられるため、自由に使えるわけではありません。
加えて、任意売却にあたっては次の諸経費も発生します。
- 不動産会社への仲介手数料
- 売買契約時にかかる印紙税
- 抵当権の抹消登記費用
- 売却益に対する譲渡所得税
- 引っ越しのための費用
これらを賄えるだけの資金を用意できなければ、任意売却を行うのは難しいでしょう。すでに触れたとおり、売却価格が比較的高ければ、住宅ローンを返済してもあまりは出るため、余裕を持って諸経費も払えます。しかし、売却価格が低かった場合は、どのように資金を捻出するかを考えなくてはいけません。
競売に比べると手間がかかる
任意売却は、競売と比べると手続きに手間がかかるのがデメリットです。任意売却も、一般的な不動産売買と同様、不動産会社に依頼し、買主を探してもらうことになります。物件の条件が良ければスムーズに売却まで進むかもしれませんが、難航する可能性もゼロではありません。
なお、任意売却が成立しなければ、いずれ競売にかけられます。競売を避けるには、任意売却を早めに成立させるに越したことはありません。そのため、どれだけ優秀な不動産会社に依頼できるかが、任意売却に失敗しないためには非常に重要になるでしょう。
残債の支払いは残る
任意売却をしたとしても、売却価格次第で残債が残り、住宅ローンの返済を続ける可能性も。このような状態が起きる原因として、以下のようなものが考えられます。
- 物件の状態が悪い
- 不動産会社の成果が芳しくなかった
例えば、売却しようとする物件が、雨漏りや浸水、シロアリ被害などで傷んでいた場合、どうしても売却価格は低くなります。築年数が経っていたり、最寄り駅から遠かったりする物件も不利になりがちです。
また、任意売却を含め、不動産の売却価格は担当者の手腕に左右されます。担当者の経験が少なかったり、売手とのコミュニケーションが円滑でなかったりした場合は、売却価格も低くなりがちです。事前に複数の不動産会社を比較検討し、信頼できそうな担当者がいる企業を選びましょう。
連帯保証人の同意が必要
大前提として、任意売却は連帯保証人や債権者(住宅ローンを契約した金融機関)との同意がなくては行うことができません。
万が一、どちらか一方からの同意が得られなかった場合は、任意売却を進めるのは事実上不可能になります。住宅ローンの支払いが困難になったら、できる限り早めに連帯保証人や債権者に相談しましょう。
任意売却の流れについて
任意売却の一般的な流れは以下のとおりです。
- 金融機関からの督促
- 現状の把握
- 不動産会社の選定と価格の査定
- 債権者への確認
- 任意売却の開始
- 売買契約の締結 売却開始から
- 不動産の決済・引渡し
- 残債務の返済
任意売却の前提として、住宅ローンを滞納した場合、金融機関から督促が行われます。返済が難しいなら、任意売却を検討しなくてはいけません。任意売却を依頼する不動産会社を選定する前に、現状を把握するのが重要です。以下の3点は最低限、把握しましょう。
- 物件を相場とおりの金額で売却した場合、残債が完済できそうか
- 残債を完済するためにはいくらで売れば良いか
- 住宅ローンの正確な残債額、滞納額はいくらか
住宅ローンの正確な残債額、滞納額については、任意売却の可否を金融機関に相談する際に確認すれば構いません。
また、不動産会社によっても物件の査定額は異なります。できれば複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。
依頼すべき不動産会社が決まったら、任意売却に向けて具体的に動いていきます。売却活動が始まると、通常の不動産売買と同様、内覧の対応もしなくてはいけません。希望者に「ここなら大丈夫そう」と思ってもらうためにも、感じの良い対応を心がけましょう。
無事に話がまとまれば、売買契約を締結し、決済・引渡しに進みます。買手にすぐに使ってもらえる状態にしておかないといけないため、決済当日より前に引っ越し作業は済ませましょう。決済・引渡しが終われば、抵当権の抹消手続きに進みます。住宅ローンの残債がある場合は、完済に向けて返済を続けなくてはいけません。
住宅ローンを支払えない!任意売却以外の方法は?
任意売却以外にも、住宅ローンを払えない場合の解決法は存在するので、ご自身の状況に合った方法を選ぶのが重要です。
ここでは、具体的な解決法として、以下の4つを紹介します。
- 銀行に相談する
- リースバックを活用する
- リバースモーゲージを活用する
- 個人再生手続きを利用する
銀行に相談する
住宅ローンが払えそうにない場合は、まずは金融機関の担当者に相談しましょう。滞納する前に相談すれば、返済条件を見直してくれるケースがあります。
金融機関によっては、返済条件変更の相談に応じる専用の窓口を設けていることもあるため、事前に確認しましょう。
リースバックを活用する
住宅ローンの返済を続けることが難しい場合でも、リースバックを使えば、もとの家に負担なく住み続けることが可能です。
リースバックとは、正式名称が「セール・アンド・リースバック」であることからも分かるように、ご自宅などの不動産を売却した後に、その不動産を借りて住み続けるサービスを指します。一度不動産を売却する形になるため、それ以降の住宅ローンの返済は必要ありません。
また、賃貸という形で住み続けられるため、引っ越しの必要もないことから、出費やストレスも軽減できます。
セゾンのリースバックは、事務手数料や調査費用、礼金、賃貸借契約の更新手数料不要。ご契約いただいたお客様のために、たくさんの特典やご優待サービスも提供しています。最短2週間でのご契約も可能となっているため、まずはお電話もしくは公式WEBサイトから気軽にお問い合わせください。
リバースモーゲージを活用する
リバースモーゲージとは、一般消費者向けの融資商品の一種で、自宅を担保にしてお金を借りるローンのことです。
通常の住宅ローンと違い、元本の返済は利用者が亡くなった後や契約期間終了後に一括して返済する形を取ります。
存命中または契約期間中は、毎月利息のみを返済するのが大きな特徴。少ない負担で自宅に住み続けられることから、主に高齢者に向けて提供されています。
個人再生手続きを利用する
住宅ローン以外にも借金があることが原因で住宅ローンの返済が難しい場合は、個人再生手続きの利用も検討しましょう。
個人再生とは、債務整理の手法の一つで、裁判所に再生計画の認可決定を受け、借金を大幅に減額してもらう手続きのことです。個人再生には、住宅ローン特則といって、以下に掲げる一定の条件を満たせば住宅を残しつつ債務を圧縮することができる規定が設けられています。
- 住宅の購入やリフォームのために借りた資金であること
- 不動産に住宅ローン以外の抵当権がついていないこと
- 本人が所有している住宅であること
- 本人が居住用に供する住宅であること
なお、借り換えをしていたなどの理由で、住宅ローン特則を使えないケースも考えられます。個人再生を検討している場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
おわりに
やむを得ない理由で住宅ローンが返済できなくなった場合でも、任意売却やそのほかの方法により解決を図ることはできます。ただし、任意売却を含め、時間が経ってしまってからでは利用できない解決法も多いのが実情です。払えないからといって放置するのではなく、できる限り早い段階で相談しましょう。
また、任意売却が成功するかは、不動産会社の担当者の手腕にも左右されます。複数の不動産会社に問い合わせをし「ここなら大丈夫」と思えるところに依頼しましょう。