iDeCo(個人型確定拠出年金)には、掛金が全額所得控除になる強力な税制優遇があります。iDeCoの掛金に所得控除を適用させるには、年末調整または確定申告による手続きが必要です。会社員や公務員であれば、年末調整で比較的簡単に控除を受けられます。今回はiDeCoの制度についてと、iDeCo加入者の年末調整の手続きをわかりやすく解説します。
- iDeCoは掛金が全額所得控除になり、節税しながら老後資金を準備できる
- iDeCoの掛金についての所得控除は会社員・公務員なら年末調整で受けられる
- iDeCoの掛金についての所得控除を受けるには、申告時に「小規模企業共済等掛金払込証明書」が必要
そもそもiDeCoとは?
最初にiDeCo(個人型確定拠出年金)とは、どのような制度なのか解説します。
任意で加入できる私的年金制度
iDeCoは20歳以上65歳未満の国民年金加入者が任意で加入できる、私的年金制度です。私的年金制度とは、企業年金や個人が任意で加入するiDeCo、国民年金基金のような制度のことです。
iDeCoに加入して老後資金を積み立てると、国民年金と厚生年金などの公的年金とは別に老後の生活費を準備できます。
掛金を自分で運用する
iDeCoは公的年金と異なり、加入者が掛金を自分で運用します。その運用成果を60歳以降に受け取る仕組みです。そのため、運用次第で年金資産が大きく増えたり、反対に少なくなったりします。
運用は、金融機関(運営管理機関)が用意した商品を組み合わせます。運用商品には、定期預金のような元本確保型商品と投資信託があります。
投資信託には元本割れのリスクがありますが、iDeCoのような長期での積み立てで堅実な成長が期待できます。また低金利の状況下では、元本確保型商品だけでは資産を増やすことは難しくなっています。
税制優遇を受けられる
iDeCoに加入すると、以下の3つの税制優遇が受けられます。
- 掛金が全額所得控除
- 運用益が非課税
- 受け取り時にも所得控除
iDeCoの掛金は、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象です。所得控除によって課税される所得が少なくなり、かかる所得税・住民税を抑えられます。
通常、投資信託などの運用で発生した利益には20.315%の税金がかかります。しかし、iDeCoの運用で生じた利益に税金はかからず、再投資に回される仕組みです。
iDeCoの年金資産の受け取り方法には、一時金と年金があります(併用も可)。一時金の場合は退職所得控除が適用され、年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。
引き出しは原則として60歳以降
iDeCoの年金資産は原則として60歳になるまで引き出しはできません。また、60歳からiDeCoの受け取りを開始するには、iDeCoに加入していた期間等(通算加入者等期間)が10年以上必要です。通算加入者等期間が10年未満の場合、受給できる年齢が繰り下がります。
60歳まで引き出しができないため、運用中の掛金額は無理のない範囲で設定しましょう。
iDeCoは年末調整で所得控除できる
iDeCoに加入している会社員・公務員は、年末調整によって所得控除を受けられます。
そもそも年末調整とは?
年末調整は、会社員や公務員の1年間の個人の状況に合わせて所得税を調整する手続きです。具体的には勤務先が従業員の報酬から源泉徴収した税額と、本来の所得税額の過不足を精算します。
源泉徴収税額はあくまで概算であるため、納め過ぎがあれば還付され、不足すれば追加で徴収されます。
年末調整の対象は、給与所得者で源泉徴収があり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人です(パート、アルバイト従業員も含まれます)。ただし、給与総額が2,000万円を超える人は対象となりません。
所得税と住民税が軽減される
iDeCoの1年間の掛金の合計額は収入から差し引かれ、所得税や住民税が軽減されます。iDeCoの掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象であるためです。
所得税や住民税(所得割額)は、課税所得に税率をかけて求めます。課税所得とは所得額(収入から必要経費を差し引いた金額)から、所得控除を差し引いた金額です。
所得控除は無条件で差し引かれる基礎控除以外は、個人の状況によって適用される種類が異なります。適用される所得控除が多いほど課税所得が減り、所得税や住民税が安くなる仕組みです。
毎月1万円ずつiDeCoの掛金を積み立てた場合、年間12万円が所得から差し引くことができます。年末調整の結果、所得税が下がれば還付され、住民税の軽減は翌年の税額に反映されます。
掛金が増えるほど節税効果が高くなる
iDeCoには掛金の上限はありますが、掛金額が増えるほど節税効果が高くなります。小規模企業共済等掛金控除で節税できる所得税の額は、1年間の掛金の合計額を所得から差し引くことができるので、「1年間の掛金×所得税の税率」分であるためです。
たとえば、年収500万円の30歳の会社員が、65歳までiDeCoの積み立てをするとします。基礎控除以外の控除がない場合の、所得税・住民税の軽減額を掛金ごとに比較してみましょう。
掛金月額 | 5,000円 | 1万円 | 2万3,000円 |
年間所得税・住民税軽減額 | 1万2,000円 | 2万4,000円 | 5万5,200円 |
35年分の所得税・住民税軽減額 | 42万円 | 84万円 | 193万2,000円 |
参考:国民年金基金連合会「かんたん税制優遇シミュレーション」より作成
この例はずっと年収と税率が変わらないケースを想定していますが、収入が上がって適用される税率も上がるといっそう節税効果が高くなります。運用の成果は不確定ですが、節税効果は確実に得られます。また、運用で1万円以上の利益を出すのは簡単ではありません。その意味でも、iDeCoの税制メリットは魅力的だといえます。
所得控除の対象は本人だけ
iDeCoの掛金で所得控除の対象となるのは本人分だけである点に注意しましょう。同一生計の家族の社会保険料を支払っている場合、社会保険料控除の対象になります。しかし、iDeCoの掛金は加入者単位で納めるため、加入者本人の掛金しか所得控除の対象になりません。
iDeCoの年末調整でいくら戻る?
iDeCoに加入すると年末調整で所得税はいくら戻ってくるでしょうか。具体的な数値で試算してみましょう。
課税所得ごとに税率が異なる
所得税の税率は、ベースとなる課税所得によって異なります。以下のように所得金額によって税率と控除額が決められています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 ~194万9,000 円 | 5% | 0円 |
195万円 ~ 329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円 ~ 694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円 ~ 899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円 ~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円 ~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円 以上 | 45% | 479万6,000円 |
たとえば、課税所得金額が400万円の場合、所得税は以下のように求めます。
400万円×20% - 42万7,500円 = 37万2,500円
年収600万円で毎月2万円積み立てると…
年収600万円(30歳)の会社員が、iDeCoで毎月2万円積み立てているケースをシミュレーションしてみましょう。差し引かれる控除は給与所得控除、社会保険料控除、基礎控除のみとします。
iDeCoに加入している場合
iDeCoに加入している場合の所得税額は、以下のとおりです。
年収 | 600万円 |
給与所得控除 | 164万円 |
社会保険料控除(東京都の場合) | 84万9,000円 |
基礎控除 | 48万円 |
小規模企業共済等掛金控除 | 24万円 |
課税所得 | 279万1,000円 |
所得税額 | 18万1,600円 |
iDeCoに加入していない場合
iDeCoに加入していない場合の税額は、以下のとおりです。
年収 | 600万円 |
給与所得控除 | 164万円 |
社会保険料控除(東京都の場合) | 84万9,000円 |
基礎控除 | 48万円 |
課税所得 | 303万1,000円 |
所得税額 | 20万5,600円 |
iDeCoに加入している場合と加入していない場合の所得税の差額は、2万4,000円(20万5,600円-18万1,600円)となります。iDeCoに加入していない場合に年末調整で還付される金額より、2万4,000円多く戻ってくると考えられます。
iDeCoの年末調整の手順
会社員や公務員などの給与所得者が、iDeCoの年末調整をする手順を解説します。ただし、掛金を事業主払込で納付している人は、iDeCoの年末調整の必要はありません。
小規模企業共済等掛金払込証明書の受け取りと保管
iDeCoに加入すると、国民年金基金連合会から毎年10月下旬に「小規模企業共済等掛金払込証明書」という書類が郵送されます。
小規模企業共済等掛金払込証明書は、生命保険料控除の「控除証明書」に相当する書類です。年末調整で小規模企業共済等掛金控除を申告する際に提出するため、それまで保管しておきましょう。
紛失した場合は窓口となる金融機関に連絡すると、再発行してもらえます。
給与所得者の保険料控除申告書の記入
年末調整では、勤務先から「給与所得者の保険料控除申告書」という書類を渡されます。この書類の右下の「小規模企業共済等掛金控除」欄に、「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」という項目があります。この欄に1年間のiDeCoの掛金の合計額を記入しましょう。
証明書と申告書を提出
申告書に必要事項を記入し、「小規模企業共済等掛金払込証明書」を添えて勤務先の担当部署に提出します。
年末調整の手続きが完了すると12月の給与で所得税が還付され、翌年の住民税に控除が反映されます。
年末調整が期日内にできなかった場合
年末調整でiDeCoの掛金の申告を忘れた場合、確定申告をすれば所得控除の適用を受けられます。また、個人事業主などは、確定申告でiDeCoの所得控除の適用を受けます。
確定申告でも所得控除申請できる
確定申告書の作成方法は、以下の3種類から選びます。
- 国税庁の確定申告書作成コーナーを利用
- 確定申告ソフトを利用
- 手書き
会社員や公務員が確定申告する場合、確定申告書作成コーナーの利用が便利です。入力するだけで税額の計算がされるため、ミスの心配もほとんどありません。
確定申告で必要となる主な書類は、以下のとおりです。
- 確定申告書
- 源泉徴収票
- 小規模企業共済等掛金払込証明書など控除の証明になるもの
- マイナンバーカードなどの本人確認書類
確定申告書を手書きする場合、申告書のダウンロードが必要です。確定申告書作成コーナーや確定申告ソフトを利用する場合、ネット上で作成できます。
還付を受ける場合、受け取りのための金融機関の口座情報も必要です。
申告書の提出には、以下の方法があります。
- e-Taxによる電子申告
- 税務署へ持参
- 郵送
確定申告も忘れた場合は還付申告を
確定申告もできなかった場合、還付申告の手続きで対応できます。還付申告はiDeCoの掛金を支払った翌年の1月1日から5年以内であれば、確定申告の時期でなくても手続きできます。
手続き方法や必要書類は、基本的に確定申告と同じです。
還付申告の期限も過ぎてしまわないよう、余裕を持って手続きしましょう。
iDeCoには掛金拠出時以外の嬉しさも
iDeCoのメリットは掛金が所得控除の対象になる点だけではありません。運用中、年金資産受取時にも税制メリットを享受できます。
運用利益は非課税
通常の投資では運用益に課税されますが(源泉分離課税20.315%)、iDeCoの運用益は非課税で再投資されます。
運用益が再投資されると複利効果が高まり、長期でのまとまった資産形成が期待できます。複利とは運用益を元本に組み込んで運用する方法で、運用期間が長いほど元本が増えて得られる利益も多くなります。
iDeCoは仕組み自体が長期運用であるため、複利効果を得やすくなっています。
なお、iDeCoの運用益は特別法人税(積立金に対し年1.173%)の課税対象ですが、現在は課税が停止されています。
受け取り時にも税制優遇がある
iDeCoは受け取り時にも、所得控除が適用されます。iDeCoの受け取り方法と適用される所得控除は以下のとおりです。
- 年金:公的年金等控除
- 一時金:退職所得控除
- 年金と一時金の併用:公的年金等控除と退職所得控除
年金で受け取る場合、国民年金や厚生年金と合算されて公的年金等控除を差し引きます。また、他の所得との合計に対して課税する、総合課税となります。
一方、一時金での受け取りでは、同じ年に勤務先からの退職金などがあると合計に対して退職所得控除が差し引かれる仕組みです。退職所得はそれ以外の所得とは合算せず、単独で税額が決まる分離課税です。
個人の所得状況などによって有利な受け取り方は異なるため、税額を試算して慎重に検討しましょう。
手数料が無料の金融機関も
iDeCoはさまざまな金融機関(運営管理機関)で取り扱っていますが、金融機関ごとにかかる手数料が異なります。
iDeCoの加入者は掛金納付の都度、以下の機関へ手数料を支払います。
- 国民年金基金連合会:105円
- 運営管理機関:運営管理機関ごとに異なる
- 事務委託先機関:通常は66円
国民年金基金連合会と事務委託先機関への手数料は避けられませんが、運営管理機関の手数料は低いほうが望ましいといえます。
「iDeCoに興味があるけれど、資産運用の知識が全くないので不安」、という方もいるでしょう。初心者は独学より専門家の講義を受けることが、お金についての疑問や不安を解消する近道です。セゾンマネースクールでは、経験豊富なファイナンシャルプランナー(FP)などの講義を無料で受けられます。受講方法は会場だけでなくWEBも選べるので、忙しい人でも気軽に参加できるでしょう。
おわりに
iDeCoの掛金は全額所得控除の対象であり、所得税・住民税の軽減効果を期待できます。運用成績が思わしくなくても、節税効果は必ず得られる点がiDeCoの大きなメリットです。所得控除の適用を受けるには給与所得者であれば、年末調整での申告が必要です。年末調整での手続きを忘れた人や個人事業主などは、確定申告での手続きができます。必ず申告し、確実に所得税・住民税を節税しましょう。