これからフリーランスになろうとする方は、さまざまなことが心配になるかもしれません。中でも心配になるのが保険に関することではないでしょうか。結論からいうと、フリーランスであっても公的医療保険に加入しなくてはいけないので、病気・けがをしても保障は受けられます。ただし、公務員や会社員に比べると薄い部分があるので注意が必要です。このコラムでは、フリーランスの保険事情について、詳しく解説します。
- フリーランスの場合、国民健康保険に入るケースが大半だが、任意継続や家族の扶養も選べる
- フリーランスが公的医療保険に加入しない場合、未加入期間の保険料を請求される
- 公務員・会社員に比べるとフリーランスは公的な保障・補償が薄いため民間の保険を手厚くして備えると良い
- 保険以外にも、各種サービスを利用して上手に備えを
フリーランスが入る社会保険とは?
フリーランスと会社員とでは、加入できる公的保険が大きく異なるため注意が必要です。その違いを理解するために、ここではフリーランスの正確な意味と、フリーランスの公的医療保険の事情について詳しく解説します。
そもそもフリーランスとは?
そもそもフリーランスとは、特定の組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き方を指します。中小企業庁によるフリーランスの条件は以下のとおりです。
- 実店舗を持たない
- スタッフを雇わない個人事業主・法人代表者(いわゆる一人社長)である
- 自身の経験・知識・スキルを活用して収入を得る
なお、混同されがちな言葉に「個人事業主」があります。これは、開業届を提出して個人として何らかの事業を営んでいる方の「税務区分」を指す言葉なので、必ずしもイコールではありません。個人事業主として申告をするフリーランスもいれば、法人代表者として申告をするフリーランスもいます。
フリーランスと会社員の保険の違い
フリーランスと会社員とでは、加入する公的医療保険が違います。前提として、日本では国民皆保険制度といって原則として何らかの公的医療保険に加入しなくてはいけません。職業や勤務先によって加入すべき保険が異なるのも大きな特徴です。
会社員の場合、一般被用者保険に加入することになります。つまり、保険料は会社と折半して支払う(実際は給与から天引きされる)仕組みです。公務員や公立学校・私立学校の教職員などは共済組合に加入します。一方、フリーランスの場合は自営業となるため、国民健康保険に加入しなくてはいけません。
会社員時代の健康保険に任意継続することも可能
会社員から独立してフリーランスになる場合、所属していた会社の健康保険を任意継続することもできます。簡単にいうと、以下の2つの条件を満たす場合、最長2年間まで元の会社の健康保険の被保険者でいられる制度です。
- 退職日の前日までに継続して2ヵ月以上の被保険者期間がある
- 退職日から20日以内(当日が営業日でないなら翌営業日まで)に申請する
任意継続制度を利用するメリットとして、以下の2点が挙げられます。
- 人によっては国民健康保険に比べ保険料が安くなる
- 健康保険の未加入期間の発生を防げる
一方、次のデメリットもあるので注意しましょう。
- 保険料が全額自己負担になるので独身、夫婦ふたりの世帯は割高になりがち
- 保険料を滞納したら資格を喪失する
- 地域によっては国民健康保険に加入したほうが安いこともある
家族の扶養になる
ご家族が会社員・公務員の場合は、健康保険組合もしくは共済組合に扶養として入るのもひとつの方法です。扶養として入れる条件はそれぞれの健康保険組合もしくは共済組合により異なります。なお、協会けんぽの場合は以下のとおりです。
- 被保険者の配偶者など一定の関係にあり、同居・別居している
- 主として被保険者に生計を維持されている(生活費の大半を出してもらっている)
- 扶養される側の年収が130万円未満(60歳以上もしくは障害厚生年金を受けられる程度の障害者であれば180万円未満)
フリーランスが健康保険に加入しなかったらどうなる?
会社員から自営業・フリーランスになった場合、しかるべき手続きをしないと一時的にせよ無保険状態になります。この状態を放置しておくとどうなるのか見ていきましょう。
未納料金を請求される
結論からいうと、未納料金を請求されます。前述したように、日本では国民皆保険制度を採用しているため、国民健康保険や健康保険組合・共済組合に加入しないといけないためです。加入せずに放置した場合、さかのぼって保険料を納付する義務が生じるため注意してください。
フリーランスは民間の保険を手厚くすべき?
これまで説明してきたように、フリーランスであっても、国民健康保険などの公的医療保険に加入する必要があります。しかし、民間の保険はあくまでも任意なので、加入しなくても法的には問題ありません。ただし、実際は以下の2点の理由から、フリーランスは民間の保険を手厚くしたほうが良さそうです。
- 国民健康保険の場合は傷病手当金がない
- 老齢年金が少ない
国民健康保険の場合は傷病手当金がない
国民健康保険であっても、療養給付や高額療養費制度は利用できます。療養給付とはわかりやすくいうと「公的医療保険が適用される診察・治療であれば医療費は3割負担で済む」ということです。
また、高額療養費制度とは、1ヵ月に払った医療費の限度額を超えた場合、超えた部分についてはあとから返還される制度をいいます。医療費の限度額は、収入によって決まる仕組みです。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
イ | 年収約770万円~1,160万円 健保:標報53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
ウ | 年収約370万円~770万円 健保:標報28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
一方、会社員・公務員であれば受け取れる傷病手当金はありません。傷病手当金とは、業務外のけが・病気で仕事を休まざるを得ない時に、一定の条件を満たせば通算で1年6ヵ月、給与のおおよそ3分の2が受け取れる制度です。
つまり、フリーランスの場合、働けなくなると収入がゼロになるリスクが極めて高いため、民間の保険でカバーする必要がありそうです。
老齢年金が少ない
老後にもらえる年金が安いのも、フリーランスが民間の保険を手厚くすべき理由です。会社員・公務員(国民年金保険第二号被保険者)であれば老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取れます。
しかし、フリーランスを含めた自営業者(国民年金保険第一号被保険者)の場合は老齢基礎年金しか受け取れません。老後に受け取れる年金が少ない可能性もあるため、以下の方法で不足分を補いましょう。
付加保険料 | 月額400円を国民年金保険料に上乗せして将来受け取る年金額を増やす。 |
国民年金基金 | 一定の条件を満たす国民年金保険第一号被保険者を対象とした制度で、プランを選んで掛金を支払うことで将来受け取る年金額を増やす。 |
iDeCo | 個人型確定拠出年金のこと。毎月一定の掛金を拠出し、60歳以降になったら一時金または年金として受け取る。 |
民間の保険 | 個人年金保険、養老保険など |
経済的リスクに備えた民間保険の種類とは?
フリーランスとして安心して働き続けるためには、さまざまな経済リスクに備えなくてはいけません。また、ご自身に万が一のことがあった場合にも、ご家族が生活に困らないよう備えをしておくのが望ましいでしょう。
ここでは、シチュエーション別に、備える手段として使える民間保険の種類をご紹介します。
病気やケガで入院した場合
病気やケガで入院した場合に使える民間保険は以下のとおりです。
医療保険 | 病気やけがで入院・手術・通院した場合に給付金を支給し、医療費の負担を軽減するための保険商品 |
がん保険 | 医療保険の一種で、がん(悪性新生物・上皮内新生物)と診断されたり、入院・手術を受けたり、通院したりなど一定の条件を満たす場合に給付金が支給される保険商品 |
就業不能保険 | 被保険者が病気やけがで長期間働けない状態(就業不能状態)に陥った場合に、毎月給付金が支給される保険商品 |
所得補償保険 | 被保険者が病気やけがで一定期間働けない場合に保険金が支払われる保険商品。就業不能保険に比べ保険期間が短期であることが多いが、60歳満了など長期のものもある |
万一亡くなった場合
万が一亡くなってしまった場合に備えるには、以下の保険商品を使います。
収入保障保険 | 被保険者が一定期間内に死亡または所定の高度障害状態になったときに保険金を一定額ずつ受け取れる保険商品 |
定期保険 | 一定期間内に被保険者が死亡・高度障害状態に陥った場合に保険金が給付される保険商品 |
収入保障保険と先ほど紹介した所得補償保険・就業不能保険も含めて違いを押さえておきましょう。
所得補償保険 | 収入保障保険 | 就業不能保険 | |
分類 | 損害保険 | 生命保険 | 生命保険 |
支払い事由 | 病気・ケガで働けなくなった時 (死亡時も一部含む) | 死亡・高度障害・介護状態で働けなくなった時 | 死亡・高度障害・介護状態・病気で働けなくなった時 |
対象の病気 | 特に制限なし ※精神障害は特約 | ※病気・精神障害は特約 | 制限なしor三大疾病プラスα ※精神障害は除く |
保険金額 | 月収の40~70% | 毎月5~50万円が多い | 毎月10~50万円だが年収で制限を受ける |
保障期間 (填補期間) | 1~3年か60歳満了の長期 | 60・65歳満了が多い | 60・65歳満了が多い |
保険金受け取り | 毎月 | 毎月か一括 | 毎月か一括 |
特約 | 精神障害など | 精神障害 三大疾病など | 5疾病など |
保険料 | 高め | 安め (特約次第で高め) | 中間 |
老後に必要な生活費を確保したい場合
老後に備えたい場合は、終身保険の利用を検討しましょう。終身保険とは、死亡保障が一生涯続く生命保険のことです。被保険者が死亡・高度障害状態に陥った場合保険金を受け取れます。
また、解約時には解約返戻金が受け取れるので、タイミングを見て解約し、老後資金に充てることも可能です。
さらに、個人年金保険や養老保険を使って生活費を確保することもできます。どちらも解約返戻金があるタイプの保険ですが、違いを理解しておきましょう。
個人年金保険 | 保険料を積立や一時払いなどで払い込んだ後に保険料は運用され、所定の年齢になったときから年金として受け取る保険商品 |
養老保険 | あらかじめ保障期間が決められていて、保障期間が終わると同時に満期保険金を受け取り、保険が終了する保険商品 |
いざというときにあると安心!フリーランスにおすすめのサービス
これまで紹介してきた保険の話以外にも、フリーランスはお金や取引の面でも会社員に比べて不利になりがちです。不利さを完全に克服することはできませんが、サービスを上手に使うことで幾分解消することはできます。
ここでは、いざというときにあると安心なフリーランスにおすすめのサービスをご紹介します。
PE-BANK
主にITフリーランスに向けた案件・求人の紹介サイトです。一定の条件を満たせば、福利厚生メニューが利用できます。サービスの一例を見ていきましょう。
ビジネス | 報酬早払いサービス、各種ソフトウェアの割引購入、各種イベント(コミュニティ)への参加 など |
ライフスタイル | レジャー補助金、家事代行や介護子育てサービスの割引 など |
ファイナンス | PE共済会への参加(所得補償を中心とした保険サービスが受けられる共済会)、確定申告ソフトの優待価格での利用 など |
ヘルスケア | 定期健康診断サポート、フィットネスクラブ補助金 など |
プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会
プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会は、自営業・フリーランスなど自身の名前で仕事をする会員を対象に、サポートや啓発活動を行っている団体です。先述したPE-BANKと同様、会員に向けてさまざまな優待サービスも提供しているので、一例をご紹介します。
保険 | 業務遂行中の対物・対人の事故だけでなく、情報漏えいや納品物の瑕疵、 著作権侵害や納期遅延など幅広いリスクに備える損害賠償保険を提供 |
福利厚生 | 福利厚生代行サービス「WELBOX」を会員本人および第二親等の親族まで利用可能 |
※その他、税務、ライフ・通信、マネー、キャリア・デザイン、法務・契約などさまざまな分野のサービスを利用可能
FReeNANCE
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おわりに
フリーランスは自己の裁量で自由な働き方ができる反面、公的医療保険など社会的な保障という意味では公務員や会社員と比べ不利なのも実情です。万が一のことが起きたり、老後を迎えたりしてからの保障も、何もしなければやや心もとない部分があります。しかし、不利な点はご自身で民間保険に加入したり、便利なサービスを使ったりすることでかなり解消することが可能です。いざというときに慌てないためにも、常に「トラブルに巻き込まれたらどうするか」「もっと便利にできる方法はないか」考えておくと良いでしょう。