老後資金を効率的に貯めるために国が用意した制度に「iDeCo(イデコ)」があります。iDeCoは税制優遇が設けられた個人が加入できる年金制度。iDeCoについて理解し、活用して老後に備えませんか?今回はiDeCoの基本情報を解説するとともに、メリット・デメリットやiDeCoには向いていない方についてもご紹介します。老後を真剣に考えたい方はぜひ参考にしてみてください。
iDeCoとはどういう制度?
まずiDeCoとは何か、その仕組みや加入条件など基本情報を紹介します。
iDeCoとは個人型確定拠出年金のこと
iDeCoとは個人が老後資金を貯めるための年金制度「個人型確定拠出年金」の愛称です。個人で拠出した掛金を自らが運用して資産形成を行うことで、効率的に老後資金を作ることができます。掛金の拠出は65歳まで。資金の受け取りは60歳からとなっており、掛金と運用益を合計したものが給付されます。
高齢期の長期化を懸念して、2022年に制度の一部(下記内容)が改正され、よりiDeCoを利用しやすくなりました。
【2022年の改正内容】
- 給付金の受給開始時期の上限が70歳から75歳に延長(2022年4月1日から)
もともと60歳から70歳までの10年間しかなかった受け取り期間が、60歳から75歳の15年間に延びるため、それぞれの働き方や暮らし方に合わせやすくなりました。
- iDeCoの加入資格が拡大(2022年5月1日から)
60歳未満までしか加入できなかったiDeCoですが、制度改正により65歳未満まで加入し続けられるようになりました。改正以前は、50代でiDeCoに加入した方は受給開始年齢が繰り下げられ、加入終了から資金受け取りの間に空白の期間が生まれていました。空白の期間は掛金の所得控除が受けられないうえ、口座管理料を支払わなければならないため、50代の新規加入にはデメリットも。2022年の改正で、老後資金をさらに貯めたい50代にもメリットのある制度になりました。
- 脱退一時金を受給できる要件の見直し(2022年5月1日から)
脱退一時金(受給開始年齢よりも早く引き出す中途引き出し)を受け取ることができる要件が見直しされました。国民年金被保険者になれず、資産額が少額で拠出期間が短いなど、要件を満たしていれば脱退一時金を受給できるようになります。
- 終了した確定給付企業年金(DB)からiDeCoへ年金資産の移管ができるように(2022年5月1日から)
在職中に積み立てていたDBの資産を、転職や退職後にiDeCoへ移管し加入することができます。
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)加入者もiDeCo加入要件が緩和(2022年10月1日から)
企業型確定拠出年金とは別名「企業型DC」とも呼ばれている制度です。企業型DCとは、企業が掛金を出し、それを従業員が運用して運用成績に応じた金額が退職金または年金となります。企業型年金規約の定めによりiDeCoに加入できなかった企業型DC加入者の方もiDeCoを併用して資金運用ができるようになりました。(加入要件を満たす必要があります。)
iDeCoの仕組みとは?
掛金を積み立ててから受け取るまでは3ステップあります。
- 掛金を積み立てる
iDeCoの掛金は最低5,000円から1,000円単位で設定することができます。金額は、年に1回変更することができます。毎月決めた金額を給料天引きか口座引き落としで納付します。ボーナス月には多めに納付するといった設定も可能。仮に納付ができない月があったとしても追納はできません。
- 商品を運用する
掛金の運用方法は「保険」、「定期預金」、「投資信託」の3種類。単品あるいはいくつかの商品を組み合わせるなど、自由に購入することができます。運用商品は途中で変更することも可能です。
- 運用益を給付金として受け取る
iDeCoの資産は老齢給付金として受け取ることが可能です。受け取り期間は60歳から75歳まで。受け取り方は3種類あり、「一時金」として一括で受け取るか「年金」として分割で受け取るか、あるいは一時金と年金を併用して受け取るかを選ぶことができます。
iDeCoを始められるのはどんな人?
iDeCoは日本に住んでいる20歳以上65歳未満の方が加入することができます。また、雇用形態にかかわらず誰でも加入できるのが特徴です。アルバイトや主婦、学生も加入資格があります。ただ、条件によってはiDeCoに加入できない方もいます。
iDeCoに加入できない人とは?
- 国民年金の保険料の全額あるいは一部を免除されている方
- 保険料の納付を猶予されている学生
- 農業者年金の被保険者
- 勤めている企業で企業型確定拠出年金に加入していて、iDeCoの同時加入が認められていない方
企業型確定拠出年金に会社が加入していても、iDeCoの加入が認められている場合は加入することができます。
iDeCoに限度額はある?
iDeCoを積み立てられる金額の上限は、加入している年金の種類や職業により変動します。
- 自営業者→月額68,000円
- 会社員で会社に企業年金がない方、または専業主婦(主夫)→月額23,000円
- 会社員で企業型確定拠出年金に加入している方→月額20,000円
- 会社員で企業年金+企業型確定拠出年金に加入している方、企業年金のみ加入している方、公務員→月額12,000円
自営業者が他の区分の方に比べて上限金額が高いのは、会社員や公務員が国民年金と厚生年金の2段階で備えられるのに対して、自営業者は国民年金のみのため。自営業者でも十分な金額の老後資金を蓄えるために、上限金額が高く設定されています。
参照元:iDeCo公式サイト|iDeCoの仕組み|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】】
iDeCoは元本割れする?メリットとデメリットとは
iDeCoのメリットとデメリットを解説します。
節税できる!iDeCoのメリット
iDeCoの最大のメリットは老後の資金を貯めつつ、節税になること。段階に応じて税制上のメリットがあります。
積立時
iDeCoの掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象となるため、年間の所得額の合計から差し引くことができます。差し引いた分、所得税や住民税が軽減されるのです。
運用時
通常資産運用で利益が出た場合、現在約20%の税金を支払う必要があります。しかしiDeCoに関しては、運用益に税金がかからないため、より効率的な運用が可能です。
受け取り時
資産を一時金として一括で受け取るときは「退職所得控除」、年金として分割して受け取るときは「公的年金等控除」が適用され、税負担が軽くなります。
元本割れするの?iDeCoのデメリット
こうしてみるとメリットばかりに見えるiDeCoですが、スタート前に注意しておきたい点がいくつかあります。
- 60歳までは資金を引き出すことができない
iDeCoは老後の資金を貯める目的で作られた制度です。少しでも将来に備えてほしいと税制優遇を設けて国が用意した制度なので、仮にお金が必要になったとしても途中で資産を引き出すことはできません。
- 毎月手数料がかかる
iDeCoをスタートして運用する際に、いくつかの手数料がかかってきます。iDeCo加入時や移管時の手数料、給付事務手数料、還付事務手数料などです。さらに口座管理手数料も毎月かかるので、たとえ資金不足で掛金を拠出できず一時停止したとしても手数料はかかり続けるという点に注意が必要です。また投資信託を保有している場合は信託報酬もかかります。
- 運用状況次第で、資産がマイナスになることも
元本保証のない投資信託は、運用益に期待ができる反面リスクもあります。経済状況によっては元本を下回ることもあります。最終的に受け取ることができるのは運用で得た資産になり、元本割れしても自己責任となることを覚えておきましょう。
iDeCoをやらないほうがいい人とは?
メリットばかりに見えるiDeCoですが、中にはやらないほうが良い方もいます。どのような方がiDeCoをやらないほうが良いのか解説しましょう。
安定した収入がない人
安定した収入がない方は、収入が少ない期間が長く続くと資金を支払うことができなくなる恐れがあります。また、転職で収入が大きく変動する予定のある方は、ある程度収入の見通しが立ってからiDeCoをスタートするのがおすすめです。
貯蓄が少ない人
iDeCoは60歳になるまでは引き出すことができない制度です。病気や災害などがいつ起きるかは予測ができませんので、ある程度貯蓄が溜まってからiDeCoをスタートさせましょう。
老後資金以外の目的で始めようとする人
iDeCoは子どもの学費やマイホームなど、近い将来のための貯蓄として考えている方には向いていません。老後資金を貯めるためというiDeCo本来の目的を知らずにスタートさせてしまうと、本当に必要な時にお金がないということになりかねません。
近い将来のために貯蓄を始めるのであれば「つみたてNISA」を利用する方法もあります。つみたてNISAはいつでも資金を引き出すことができるうえ、年間40万円までは運用益が非課税になるというiDeCoのメリットも持ち合わせた制度です。ご自身の貯蓄目的に合わせた制度を利用しましょう。
税金をさほど負担していない人
iDeCo最大のメリットは所得税や住民税を節税できること。しかし低収入で所得税が少ない方や、住宅ローン控除を活用して税金が少ない方はiDeCoの効果を充分に実感することができません。また、収入がゼロの場合は、そもそも所得税も住民税もかからないので、節税効果もゼロになってしまいます。
公務員は不利?!iDeCoが向いている人とは
では、iDeCoの恩恵を存分に受けられる方はどんな方なのでしょうか。
安定した収入が見込める人
安定した収入がある方は資金不足に陥る可能性が低いので、老後の資金作りのためにも積極的にiDeCoを取り入れましょう。またiDeCo最大のメリットは所得控除です。高収入であるほど、納める税金も多いので、iDeCoの恩恵を存分に受けられるともいえるでしょう。高収入かつ安定した収入が得られる見込みがある方はiDeCoを検討してみましょう。
20代などの若い世代
60歳になるまでに期間が充分ある20代〜40代は、時間をかけて積立投資をすることができます。過去からのトレンドでは長期間投資を続けることで、マイナスの振れ幅が小さくなり、短期間で投資するよりも利益が期待できるといわれています。早くスタートするほうが時間を味方につけられ、長期の運用が可能となります。
退職金が少ない人
退職金や一時金としてiDeCoを受け取る際には退職所得控除を利用することができます。退職金と一時金を同時に受け取る場合は、その金額に注意が必要です。退職金とiDeCoの一時金を合計した金額から退職所得控除額を差し引いた金額が大きいほど所得税がかかります。その方によってはiDeCoの収益額が所得税で消えてしまう可能性もあります。退職金の少ない方のほうが、iDeCoに向いていると言えます。また、iDeCoを一時金として受け取れず年金として分割して受け取ることで「公的年金等控除」を活用できます。
公務員
公務員は一般会社員と比べて退職金や年金が手厚い職種でした。しかし官民格差是正のために退職金が減額傾向となっている関係でiDeCo加入者が増加しています。公務員はもともと掛金上限が低く不利といわれていましたが、2024年12月以降上限額が12,000円から20,000円に増額されることが予定されています。これにより公務員もiDeCoの恩恵を受けやすくなったのです。
50代でもメリットはある!
50代は年齢的に資金に余裕があると考えられるため、掛金の上限で始めれば節税のメリットを最大限利用できます。若い方に比べて利益は少なくなるかもしれませんが、数年間は拠出した金額を節税できます。運用益も非課税、受け取り時も退職所得控除や公的年金等控除が利用でき、税制優遇を受けることは可能です。資産が減ってしまうリスクを考えるのであれば、安定して運用できる保険や定期預金の割合を増やしてリスク回避をする方法もあります。
iDeCoを始めるにはどうしたらいいの?
ここで、iDeCoの始め方をご紹介します。
加入資格があるか確認
まずはiDeCoの加入資格があるかどうかを確認しましょう。基本的に20歳以上65歳未満であれば加入することが可能です。雇用形態にかかわらずiDeCo加入は可能ですが、自営業者で国民年金保険の一部または全部を免除されている方や、保険料納付が猶予されている学生は加入することができません。
先述したように、企業型確定拠出年金に加入している企業に勤めている会社員は、企業がiDeCoの同時加入を認めている場合に限り、iDeCoに加入することが可能です。 iDeCoの加入を検討する際は、勤めている企業が企業型確定拠出年金に加入しているかどうか、iDeCoの加入が認められているかどうかを確認しましょう。
なお、2022年10月1日からは、企業型年金規約の定めによりiDeCoに加入できなかった企業型DC加入者の方も加入できるようになります。ただし、各月の企業型の事業主掛金額と合算して月額5.5万円までです。また、掛金が各月拠出であること、企業型DCのマッチング拠出を利用していないことが条件です。
掛金をいくらにするか考えよう
iDeCoは月額5,000円から1,000円ごとに掛金を設定することができ、ご自身の職種によって掛金の上限金額は異なります。積み立てたお金は60歳になるまで引き出すことができないので、無理のない金額に設定するのがポイントです。年に1回掛金の金額を変えられるので、ライフスタイルに応じて調節しましょう。
運用次第で減ることも増えることも!資産運用のリスクを知ろう
iDeCoは自己責任で行う資産運用です。運用の成果次第では積み立てた金額より減る可能性もあります。資産運用のリスクを把握したうえでiDeCoを行いましょう。
どの商品で運用するか考えよう
運用する商品によって返ってくるリターンやリスクの大きさが異なります。ご自身がどれくらいのリスクを取れるか考えてから運用商品の選択をしましょう。
運用商品によって「元本確保」があるものとないものがあります。定期預金や保険は元本確保型の商品です。投資信託に比べ低リスクで挑戦することが可能です。ただし、低リスクである分、資産が増えづらいという面もあるといえます。元本確保のない投資信託であれば、リスクを伴いながらも運用益を出せる可能性があります。リスク分散の方法として、長期積み立て、運用商品の組み合わせを分散させるという方法もあるので、ご自身の年齢や経験に応じて商品を検討しましょう。
金融機関を選ぼう
iDeCoを申し込む場合は、必ずiDeCoを取り扱っている金融機関を使って取引する必要があります。iDeCoをスタートするには専用の口座開設が必須。1人につき1口座までしか開設できないので、ご自身に合った金融機関を選ぶことが大切です。金融機関によって取り扱う運用商品やサービスが異なるので、運用したい商品があるかどうか、運用に役立つサービスがあるかどうかをまずチェックしましょう。
中には毎月かかる管理手数料が無料になるサービスや、iDeCo運用に役立つ知識をまとめたサイトを用意している金融機関もあります。どちらのサービスも完備している金融機関が「大和証券」です。せっかく大切なお金を使うなら、より効率的に資産運用できる金融機関がいいですよね。大和証券の公式サイト内では、ご自身がiDeCoで積み立てた場合のシミュレーションもあるので、一度試してみて下さい。
おわりに
人生100年時代と呼ばれる世の中。男性の平均寿命は約81歳、女性は約87歳となり、60歳から65歳までに退職すると収入のない生活が20年から30年近く続く計算になります。意外と長い余生を存分に楽しむためには資金が必要です。せっかく国が用意してくれた制度「iDeCo」を上手に活用して、効率的に老後の資金を貯めていきましょう。