本来、NISAは税制優遇制度としてメリットが多いように思われますが、一部の投資家からは「デメリットしかない」と噂されているようです。なぜそのようにいわれているのか、NISAの特徴をおさらいしつつ、見過ごしがちなデメリットについて解説します。
このコラムを読めばNISAが本当にデメリットしかないのかがお分かりいただけるようにしました。これから投資を始めようと思う方、NISAが気になっている方はぜひ参考にしてみてください。
※本記事は、2023年以前のNISA制度について記載しています。新NISA制度については以下の記事をご確認ください。
まずはNISAをおさらい
まずはNISAの特徴について簡単におさらいしておきましょう。
NISAの特徴
投資を行うのであれば必ず理解しておきたいNISA。最大のメリットといわれる特徴やNISAの種類について解説します。
・非課税で運用できる
NISAとは、株式や投資信託を運用する際に利用できる「少額投資非課税制度」のことで、個人投資家向けにつくられた税制優遇制度の名称です。通常であれば投資で得た利益には約20%の税金が課せられるものの、NISA口座内から投資した場合は非課税になるため、原則全額受け取ることができます。
つまり、NISA口座を持つ最大のメリットは投資で得た配当金や売却益に税金がかからないということです。
・投資初心者でも始めやすい
NISAには少額から投資できる商品がたくさんあり、投資初心者が始めやすいという点においても魅力的です。証券会社によっては100円から投資できる場合も。NISAにはあらかじめ非課税対象になる投資上限額が設定されていますが、その枠内であれば何度でも売買できます。
NISAの種類3つ
NISAには現在3種類あり、それぞれ商品や非課税投資可能額の上限や期間が異なります。
・一般NISA
NISAの基本となる「一般NISA」。投資できる商品の幅が広いため、投資に慣れている方向けといえそうです。年間の非課税投資可能額は120万円を上限に、最長5年間の保有期間が設定されています。5年間という非課税期間は短く感じられますが、非課税で投資できる金額は5年間、毎年120万円まで投資した場合、最大で600万円となります。また、ロールオーバーなどの手続きをすることで再度非課税枠に移管することも可能です。
・つみたてNISA
長期・積立・分散投資を支援するためにつくられた「つみたてNISA」。投資内容は金融庁が定めた一定の条件を満たす届出した投資信託やETFに限られているため、投資に慣れていない方や初心者向けともいわれています。年間の非課税投資可能額は40万円で保有期間は最長20年という長いスパンから、子どもの教育資金準備として利用する方も多いようです。
・ジュニアNISA
未成年者を対象にした「ジュニアNISA」は、2023年末で終了することが決まっています。年間80万円の非課税投資可能額で保有期間は最長5年。こちらも教育資金の準備を目的に投資する方が多いようです。当然ながら未成年者が投資をすることは困難なため、運用は親や祖父母などの親族が代理で運用できます。
2024年から新制度に
2024年以降、新しいNISA制度が始まり、仕組みが大幅に変更されます。
新しいNISAでは、さらに多くの方が長期・積立・分散投資に触れられるよう、非課税投資期間の期間制限がなくなり、恒久制度となります。また新しいNISAでは「成長投資枠」と「つみたて投資枠」というものができ、年間投資上限360万円まででき、非課税での投資利用範囲が広がるなどの変更がされます。
現行NISAの非課税枠は、2024年から始まる新しいNISAと別枠なので、新しいNISAのスタートを待たずに、早めに現行NISAを始める方がメリットは大きいでしょう。
NISAにデメリットしかないと噂される理由とは
NISAは一見、投資家にとってメリットの多い制度のように思われますが、デメリットがある点も押さえておきたいポイントです。では、株式や投資信託などを運用するうえでNISAがデメリットとなるのはどのような場合なのでしょうか?
元本の保証がない
NISAで投資できる金融商品は、厳選された比較的リスクの低いものが多いといわれています。しかし、元本を保証するものではありません。投資する以上、必ずしも利益が生じるわけではなく、売却するタイミングによっては損失となる可能性があることを心得ておきましょう。
元本割れした状態で売却してしまうと、NISAのメリットを活かせないまま損失が発生することはいうまでもありません。せっかくNISAを利用するのであれば売却するタイミングは慎重に考えたいですね。
NISA口座は1つしか開設できない
NISA口座は「一人につき1口座のみ」保有できるという点も覚えておきたいポイントです。
例えば、一般NISAとつみたてNISAは併用できないため、どちらか一方を選ぶことになります。また、一人1口座の観点から、選べる金融機関も1つのみです。証券会社などによって取り扱う銘柄が若干異なるため、投資したい銘柄が決まっている場合はどこでNISA口座を開設すべきか把握しておく必要があるでしょう。
NISA口座の変更手続きは非常に手間なので、金融機関選びは最初から慎重に行うのがおすすめです。投資のしやすさが大きく変わるといっても過言ではありません。
このように、一般NISAとつみたてNISAどちらが自分の投資スタイルに向いているか、そして口座開設する金融機関はあらかじめ検討しておく必要があります。
損益通算ができない
NISAのデメリットには、「損益通算」ができないという点も挙げられます。
損益通算とは、1年分の利益と損失を相殺することです。通常の課税口座で投資した場合、利益に対して税金が課せられます。しかし、一方で損失があった場合には各種所得からその損失のうち一定のものを差し引いて税金を減らすことができるのです。
例えば、同じ年に複数の株式を売却したとしましょう。Aという株を売って30万円の利益を得た場合、一般的には約20%の税金を納めなければなりませんが、Bの株で30万円の損失があれば相殺して譲渡所得0円となり、税額が計算されます。
一方、NISAの場合はそもそも非課税のため、このような損益通算が適用されません。もし仮に課税口座で50万円の利益があり、NISA口座で50万円の損失が出ていたとしても、課税口座の50万円分に税金が発生してしまうのです。
つまり、課税口座とNISAを併用して投資を行っている方には特にデメリットに感じられることが多いかもしれません。
繰越控除ができない
もう一つ、税金においてNISAがデメリットとなるのが「繰越控除」です。
繰越控除とは、損益通算しても損失分が上回ったとき、翌年の課税分にその損失を繰り越して控除することができるという制度です。
例えば、課税口座で運用している株Aが大きく値下がりしてしまい50万円の損失になったとします。しかし、翌年に株Bで30万円の利益を得た場合、本来であれば30万円に対し約20%の課税があるものの、前年分の損失50万円を繰り越すことができるので【30万円-50万円=-20万円】ということで税金はかかりません。
これをNISAに置き換えた場合、NISAの損失は翌年に繰り越すことができないため課税口座で出た利益分はもれなく課税対象となってしまうのです。つまり、NISAは利益が出ることでメリットを感じられる制度ということが分かりますね。
一般NISAのデメリット
NISAには、見過ごされやすいデメリットも存在します。前項に加え、ここからは一般NISA特有のデメリットについて詳しく解説します。
【一般NISA】上限金額がネックとなる場合がある
一般NISAの非課税投資可能額は1年あたり120万円です。しかし、投資したい株式の金額が高額な場合はNISAで購入できない可能性があります。
例えば、投資したい個別銘柄が3社あったとします。A社50万円、B社50万円、C社30万円という価格だった場合、どれか一つはNISA枠で購入できません。また、そもそも120万円を超える価格の銘柄であればNISA枠で一つも購入できないことになります。
NISAは「少額投資非課税制度」という名の通り少額投資に向いた制度のため、上限金額がネックになることが考えられるでしょう。
【一般NISA】非課税枠が5年間
一般NISAの非課税期間は最長5年です。この期間を満了すると、売却する・再度NISAの非課税枠へ移す(ロールオーバー)・課税口座に移すという3つの選択肢から選ばなければなりません。
・売却した場合
まず考えるのは非課税期間が終了する前に売却することです。売却時の価格が取得価格よりも値上がりしていれば、利益に税金がかからないためNISAの恩恵を受けられます。しかし、売却時の価格が取得価格を下回っていた場合は、NISAの恩恵を受けることなく取引が終了してしまい、前述したように損益通算や繰越控除の対象にもなりません。
・ロールオーバーした場合
非課税期間の満了後はロールオーバーすることが最も理想のように思えますが、いくつか覚えておくべき注意点があります。
まず、ロールオーバーする価格は非課税投資とみなされます。120万円分ロールオーバーした場合はその年の非課税投資可能額をすべて使ったことになり、翌年までNISAの新規投資はできません。
さらに、前述したとおりNISAは2023年で終了することからNISAへ継続してロールオーバーできるのは2023年までとなります。よって2019年以降にNISAで購入したものは新しいNISAへロールオーバーすることに。しかし、制度の内容や仕組みが大幅に変わることから、ロールオーバーの手続きは少々複雑になります。そして新しいNISAも現状2028年で終わる見込みです。このように、ロールオーバーが永遠にできるわけではないことも心得ておく必要があるでしょう。
・課税口座へ移管する
最後の選択肢は課税口座への移管です。この場合、取得価格のまま移管されるのではなく非課税期間終了時の価格で移管されます。
例えば、NISAで購入した100万円の銘柄が課税口座への移管時に80万円になっていたとすると、取得価格は80万円に更新、それをベースに損益通算や税金が計算されます。その後、120万円で売却した場合40万円の利益が出たということになり、税金を支払わなければなりません。
つまり、実際はNISA口座で100万円で購入していたにも関わらず課税口座へ80万円で移管したことにより利益が40万円と計算され、その差額の20万円分の損失まで被ることになるのです。本来であれば売却やロールオーバーをするべきだったのに、非課税期間を忘れてしまうとそのまま特定口座もしくは一般口座といった課税口座へ移されてしまい、支払わなくても良かった税金を負担しなければなりません。これは避けたいところですね。
つみたてNISAのデメリット
続いて、つみたてNISAのデメリットについて具体的にご紹介します。
【つみたてNISA】上限金額がネックとなる場合がある
つみたてNISAの非課税枠は年間40万円と、一般NISAに比べてより上限金額の低いことが特徴です。さらに、投資できる内容も投資信託やETFに限られ、個別銘柄への投資はできません。
非課税投資枠が少ないことや、投資先の選択の幅が狭いことは、高いリターンを求める投資家にとって物足りなく感じるでしょう。つみたてNISAの目指すモデルは「長期・積立・分散」の要素でコツコツ資産を増やしていくことです。短期的に効率よく資産を増やしたい方や、もう少し投資金額に余裕のある方は、一般NISAを検討すると良いでしょう。
【つみたてNISA】非課税枠が20年間
つみたてNISAの非課税期間は最長20年です。一般NISAの4倍もの長期間を非課税で運用していけるのは大きなメリットともいえますが、簡単にお金を引き出せるため途中でやめてしまう方も少なくないようです。
長い運用期間の中では、株価が下がり元本を大きく下回ってしまった際に焦って売却を考えてしまうこともあるでしょう。つみたてNISAは非課税で長期運用をサポートしてくれますが、短期で売却してしまってはつみたてNISA本来のメリットを活かしきれません。
市場はさまざまな要因で動くものなので、運用実績は上がったり下がったりを繰り返します。しかし、20年という長期間で考えた場合、そのマイナスの局面がほぼ解消されるというデータもあることから「価格の変動に一喜一憂しない」という姿勢や「意志の強さ」が大切です。
NISAで損しないコツ
NISAにはデメリットもありますが、やはり利益や配当金を受け取っても税金がかからないことは大きなメリットです。ここからはNISAで損をせず賢く運用していくコツをご紹介します。
非課税枠の余りを把握しておく
NISAは、どのタイプも余った非課税枠を翌年に繰り越せないという注意点があります。その年の非課税投資可能額を使いきれなかった場合、未使用分は繰り越せず翌年リセットされてしまうのです。また、非課税枠で購入した投資商品を売却したとしても、その分の非課税枠が復活するわけではありません。
「NISA枠を損せず使い切りたい」という方は、非課税で購入できる残額をこまめに確認し、把握しておくことが何よりも大切です。
非課税期間終了後の対策を立てておく
非課税期間があることはどのタイプのNISAにおいてもいえるため、その後の対策は立てておく必要があります。非課税期間が終わる前に売却してNISAのメリットを享受するのか、今後も株の成長が見込めるならロールオーバーして運用を継続するのか、損をしないように検討しましょう。
どのような資産に投資するかはよく考えてから投資を !
これまでご紹介したように、NISAには見過ごされやすいデメリットがある一方で、やはり大きなメリットがあるからこそ、たくさんの方に利用されています。特に投資初心者や投資に慣れていない方にとって、NISAは非常に利用しやすい仕組みといえるでしょう。
最近では、100円から投資できる「少額投資」や買い物で貯まったポイントを投資に回せる「ポイント投資」なども人気です。貯金箱にお金を入れる感覚で投資をしていたらいつの間にか資産が増えていた、なんてことが可能になるのが少額投資の魅力です。
若年層の半数以上はスマホで資産運用している
株式会社クレディセゾンと株式会社スマートプラスでは 「お金・資産形成」について調査しました。
そこで分かったのは、40代に比べ20~30代の若年層の方がつみたてNISAを利用しているということ。また、スマートフォンアプリを利用して家計管理や支出管理を行っている方が多いことも分かりました。まさに若い方のお金に対する堅実さが伺える結果に。
参照元:若年層の半数以上がスマートフォンで支出管理・資産運用を実施!ポイント運用ユーザーのお金・資産形成に関する調査
おわりに
NISAは投資によって得た利益や配当金および分配金を非課税で受け取れることが最大のメリットです。しかし、損益通算や繰越控除ができない側面をもつことで一部の投資家たちからは「NISAはデメリットしかない」といわれてしまうことも。またNISAの種類によってもメリット・デメリットが異なるため、どちらが自分に合っているのかをしっかり検討する必要があります。
NISAのメリットを上手に利用すればデメリットを感じることも最小限に抑えられるので、ぜひ今回ご紹介した大切なポイントを参考にしてください。
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金融庁「新しいNISA」