「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」では、なぜそのように言うかという理由の1つについてご説明しました。このコラムでは、Part1に続いて、その他の理由についてご説明していきます。
1. FIREおさらい
「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」でFIREについて概要等をご紹介しましたが、内容をおさらいしておきます。
「FIRE」とは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、経済的自由を得て早期に会社を退職し、会社に縛られない自由な生き方をすることをいいます。アメリカが発祥で、欧州でもこの生き方に対する共感が広まり、日本においても昨年くらいから急速に注目が集まり、FIREを目指す方が増えてきています。
FIREは、徹底的に支出を見直すことから始め支出の最適化を図ったうえで1年間に必要とする支出額を算出し、「4%ルール」に基づく計算式で求めた額を貯めることを目指します。貯める方法として紹介されているのは、徹底して節約を心掛け、インデックス投資で4%の利回りを得る、というものです。そして、FIREを達成した後も「4%ルール」に従って生活します。積み上げた資産からあらかじめ算出していた支出額の範囲で生活し、残りの資産を4%で運用すれば、一生資産は底をつくことが無く、働く必要がないという考えです。
ところが、FIREを達成した方が早期退職して必ずしも幸せにならないというケースがあります。どのようなことがというと、「仕事に縛られない自由な生活」に憧れを抱いただけでFIRE後の生活に明確なビジョンがないとFIREはその後の生活に幸せを生み出さないということです。早期リタイアした後に何をするのか、何のために早期リタイアするのか、ここを明確にしておくことが資産形成、FIREを目指すうえでとても大事なのです。
「仕事に縛られない自由な生活」に憧れを抱いただけでFIREを目指す方は、本来の目的と手段を勘違いしていることがあります。FIREに興味を持つこと、FIREによってご自身の生き方を見直すことは良いことだと思いますが、その結果安易にFIREを決断してしまわないように、「そのFIRE、ちょっと待った!」と伝えたいです。
2. お金について学んだことはありますか?
さて、「そのFIRE、ちょっと待った!」という他の理由の1つについてご説明します。
初めてFIREを目指して、資産運用を始めるほとんどの方々はマネーリテラシーが低い可能性があるからです。最近様々なところで使われるようになっている「リテラシー」という言葉、ご存知でしょうか?リテラシーとは、「物事を正確に理解し活用できる能力、ある手段を適切に活用するための知識やスキル」を指します。本来は「読み書きの能力」という意味でしたが、それが転じてご紹介したような意味で使われるようになっています。つまり、マネーリテラシーとは、お金と上手に付き合っていくために必要な知識やスキル、お金について正確に理解し活かせる能力、のことをいいます。そして、マネーリテラシーが低いということは、お金についての知識が少なく、活用する能力が高くないということになります。
「マネーリテラシーが低い」というのは、FIREを目指す方だけでなくほかの方にもいえることです。
あなたはお金について学んだことはありますでしょうか?
親を含めた身内からお金について教えてもらったという方は少ないでしょう。ほとんどの方は、子どもの頃お小遣いやお年玉をもらうと、「無駄遣いしてはいけません」、「貯金しておきましょう」、「お小遣い帳をつけましょう」などと言われて育ってきていると思います。そして、お小遣い帳のつけ方を教えてもらい、家計簿をつけることが大事だと言われ、つけ方を教えてもらう、たいていの方はお金について教えてもらったのは帳簿の付け方だと思います。「家計簿はつけなくていい?資産形成のための第1ステップ」でご説明している通り、お小遣い帳、家計簿は支出の管理にとどまっているだけで、それが資産形成に役立っていないことがほとんどでしょう。それでは意味がなく、お金について学んでいるとはいえません。
また、学校でもお金についてのカリキュラムがなく、学ぶ機会はこれまではありませんでした。なぜ「これまでは」という表現を使っているかというと、2022年度からはお金についての授業がカリキュラムに組み込まれる予定だからです。2022年度から始まる高校の新学習指導要領では、家計管理などを教える家庭科の授業で「資産形成」の視点に触れるよう規定されています。少なくとも学ぶ機会が与えられることは喜ばしいことですが、お金のことは学ぶことが色々とあり高校のカリキュラムだけでカバーできるものではありません。
日本ではお金の話をすると眉をひそめられることが多いです。子どもにお金の心配をさせるような親は親失格、などといわれることもあり、お金の話をするのは下品と思われ、タブー視されてきました。これがお金の教育が日本でなされなかったことに影響している可能性があります。
このような状況ですから、マネーリテラシーが低い方が多いのも仕方がないともいえます。
3.マネーリテラシーが低いと
さて、マネーリテラシーが低いとどうなるかを説明しましょう。
まず、「4%ルール」についてです。FIREの前提は4%での運用ですが、「4%」は誰かに保証されているものではありません。金利(利回り)は変わっていくものです。2021年11月現在、1年物定期金利預金の金利が0.002%という低金利時代にあって、4%の運用益を得るのがどういうことかわかりますか?
「高利回りの金融商品があるじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。確かに高利回りをうたう金融商品は色々ありますが、マネーリテラシーが低い方は「得られるリターンが高いということはその分リスクも高い」ということを認識せず、その利回りだけにつられて投資してしまいます。また、FIRE達成後も積み上げた資金(資産)を最低年4%で運用するという必要がありますが、言い換えると4%を下回らないように管理しないといけない、ということになります。4%を下回ったら、なんとか挽回しようと焦り、その結果として一見「おいしい」とみえる話に乗ってしまうかもしれません。上手くいけば良いですが、目先の利益に目がくらんでおいしい話に乗ってしまうと資金(資産)を減らしてしまう結果につながることもあります。
もちろん上手くいく場合もありますが、リテラシーが低い方の場合はそれは「まぐれ」です。上手くいかないリスクがあるということを認識していない、これが「マネーリテラシーが低い」ということなのです。
次に、「インフレ」についてです。インフレとはどういうことでしょうか?お分かりの方も多いと思いますが、おさらいをしておきましょう。
現在の金融緩和政策は、2013年の第2次安倍政権発足でインフレ目標政策の導入に向けた動きが進展し、「あらゆる政策を総動員して、2%の物価安定の目標について、2年程度を念頭に置いて実現する」と日本銀行が決めたことによります。2021年11月時点においてもこの目標は達成されていませんが、2018年は+1.0%、2019年は+0.5%と物価は少しずつ上昇している状況です(総務省統計局公表。なお2020年は新型コロナウィルスの影響などもあり前年比±0%)。インフレということはモノの値段が上がるということです。
これは生活費に直結します。必要額の算出に当たっては算出時の物価で総支出額を計算しているはずで、インフレ、すなわち物価上昇は考慮されていません。生活費が上がれば、4%で運用できていたとしても、それでは資金(資産)は減少します。つまり、生活費が上がったことに応じて、運用益も4%ではなくもっと運用益を上げる=高い利回りを目指さないといけません。
最後に、「税金」についてです。前提となっている運用益の「4%」は税引き後である必要があります。2021年11月現在、株式などの運用益については、NISA等一部の例外を除き、利益に対して20.315%の税金が課せられます。この運用益については、増税すべきという意見もあり、計算が大きく狂ってくる可能性があります。脱税はもちろんいけませんが、資金(資産)を積み上げていくためには「税金を最小限に抑える=節税」は大事なポイントになりますので、世の中の動向にも注視しながら勉強する必要があります。
4.お金とは?
そもそもお金とは何でしょうか?どのようにとらえるか、どのように向き合うかが大事なことです。
見方により様々な定義ができますが、多くのサラリーマンにとっては、ご自身の時間と体力を使った対価が給料なため、「お金=エネルギー」といえるかもしれません。また単純に「道具」ととらえることもできるでしょうし、ものの価値を図る手段ともいえます。どの答えにしても、正解、不正解はありません。
お金があれば幸せですか?お金さえあれば望む人生が手に入るでしょうか?おそらくお金があれば望む人生が手に入ると思うからこそ一生懸命働いてお金を稼ごうとしていると思いますが、そのスパイラルにある限り望む理想の人生は手に入りません。なぜならお金が全てではないからです。ただ、叶えたいと思うものの全てにおいてお金が絡むため、だからこそ願いが叶えられ、全て解決できると勘違いしてしまう可能があります。
確かにお金があれば、選択肢が多くなるでしょう。つまり、叶えたいと思うことの幅や可能性がかなり広がります。しかし必ずしも、幸せな理想の人生に行けるかというとそうではありません。可能性が広がることと、希望が叶うことは別です。
FIREを目指さなくとも、生きていくためにお金が大事だということは明白でしょう。そのお金、ご自身で上手く舵取りできているでしょうか、それともお金に振り回されていますか?お金をどうとらえるか、どのようにつきあうか、ということにはその方の考え方がよく現れます。
お金についてよく知り、よく考え、学び、そしてご自身で上手く舵取りをしていく(リスクも引き受けるが最小限にとどめることを心掛け工夫する)、これが「マネーリテラシーが高い」ということです。FIREを目指した結果、痛い目に遭ってしまうことがないよう、その前にマネーリテラシーをある程度上げておくことは必要だと思います。
おわりに
望む理想の人生を手に入れるために必要なものとは何でしょうか?お金は大事で必要なものではありますが、ではそれについてどのくらい知識やスキルがありますか?日々の生活においても必要で身近にあるお金について、学んでいないとしたらなぜ学ぼうとしないのでしょうか?おそらくそもそもそういう視点がなかったからなのでしょう。
FIREを目指さなかったとしても、お金について学びマネーリテラシーを上げることは大事なことだと思っています。このコラムをお読みになられたあなた、「お金」と向き合ってみませんか。
なお、マネーリテラシー(の上げ方)については、別コラムでお伝えいたします。