時代の移り変わりとともに、結婚の在り方についても変化しています。そのひとつに、事実婚が挙げられます。近年、著名人の方が事実婚を選択したり、テレビ番組やWEBなどでも取り上げられたり、事実婚への知名度や関心はますます高まっています。
事実婚には、婚姻手続きを行っている法律婚ではできない自由な生活を送るメリットがあります。それと引き換えに、法的に守られていないことで起こるデメリットも存在します。このコラムでは、これから事実婚を検討している方のために、事実婚のメリットとデメリットについて解説します。
1.事実婚の定義
事実婚とは、法律上の婚姻手続きを行わず、両者が婚姻の意思を持って共同で生活を営み、生計を同一にしている夫婦と同等な状態を指します。法律婚とは違い戸籍に入っていないため、法律上は正式な夫婦として認められていません。
また、社会的事情など、やむを得ない事情で婚姻手続きをしていない場合は内縁、主体的な意思で婚姻手続きをしていない場合は事実婚として使い分けられることがあります。法律上では事実婚も内縁も婚姻とは見なされないため、それぞれに違いはありません。
そして、事実婚を選ぶのは男女のカップルだけではありません。日本では法律上の同性婚が認められていないため、同性同士のカップルが事実婚を選択するケースもあります。
2.事実婚のメリット3選
法律婚ではなく事実婚を選ぶ理由として、法律や周りの環境に縛られない自由な生活を送ることがあげられます。こちらでは、事実婚を選択した場合のメリットを3つ紹介します。
2-1.夫婦別姓を選択できる
事実婚を選択する夫婦の大きな理由のひとつは、姓の変更が伴わないことです。夫婦別姓が認められていない日本の法律では、婚姻手続きをすると必ず夫婦どちらかの姓に変更する必要があります。
2015年の統計によると、改姓をする割合を男女比で表すと、96%が女性となっております。世界的にも夫婦同姓を義務付けている先進国は日本だけであり、男女平等の観点からも違和感を覚える方は増えています。
生まれてから長年使用してきた姓の変更を、望まない方は多いのではないでしょうか。姓の変更に伴い、以下のような名義変更の手続きを行う必要があります。
- マイナンバーカードや運転免許証などの身分証
- 銀行口座やキャッシュカード
- 携帯電話
事実婚は婚姻手続きを行わないため、名義変更の手続きを行う必要がありません。
参照元:平成 28 年度 人口動態統計特殊報告 「婚姻に関する統計」の概況 P11
2-2.婚姻関係を解消しても戸籍に影響しない
法律婚の場合、夫婦関係を解消する際に離婚届を提出する必要があり、戸籍には離婚した旨が記載されます。離婚したことを表すバツ印が戸籍につくことで、離婚は「バツイチ」とも称されます。離婚した記録が残ることに抵抗がある方も多いでしょう。
一方、事実婚は婚姻手続きを行っておらず、戸籍上では独身と変わらないため戸籍に影響しません。例え事実婚を解消した後に新しいパートナーが現れたとしても、戸籍から詮索される心配もありません。慎重に夫婦生活を送りたいと望んでいる夫婦にとって、大きなメリットのひとつと言えます。
2-3.お互いの両親などと婚姻関係にならない
法律婚の場合、婚姻手続きを行うことで、パートナーの両親や兄弟と姻族関係となります。お互いの親類の結婚式や御葬式などの冠婚葬祭に参加したり、パートナーの親や親戚との付き合いがあったりする場面が増えてきます。
昔から、結婚は家同士が行うものと言われるように、パートナーの両親や親族についてもよく考える必要があります。ご自身の生活リズムを崩したくないと感じている方にとっては、親族とのしがらみに縛られることにストレスを感じることがあるかもしれません。
事実婚の場合、戸籍上は籍を入れていないため、煩わしい親戚付き合いから距離を置くことができます。
3.事実婚のデメリット4選
事実婚にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。メリットばかりに目を向けてしまうと「税制面で優遇が受けられない」など想定外の不利益が発生する可能性があります。ここでは、事実婚の4つのデメリットを例をあげて解説します。
3-1.夫婦の関係を証明しづらい
婚姻の手続きを行っていないため、夫婦として認めてもらえないケースがあります。パートナーが病気や事故で手術や入院が必要となった時、病院から家族として同意書へのサインを求められることがあります。
本来、手術等の同意は本人の意思で決定されますが、意識不明の重体や認知症を患っているなど、本人の意思を確認できない場合があります。そんな時に夫婦関係を証明できないため、以下のような制限がかかることがあります。
- 同意書へのサインや症状説明を受けられない
- 立ち会いや面会ができない
- 万が一の時に遺体を引き取れない
夫婦関係の証明が難しいことのデメリットを理解しておきましょう。解決策として、事前に手続きを行うことで夫婦関係の証明がしやすくなります。住民票を同一にしたり、公証証書を作成したりする手段もひとつです。
3-2.夫婦で親権を持てない
婚姻手続きを行っている法律婚の夫婦の間に生まれた子どもは、嫡出子(婚姻中の夫婦の間に生まれた子)として扱われます。事実婚の夫婦の間に生まれた子どもは、自動的に非嫡出子(婚姻届を出していない男女間に生まれた子)として、妻である母親の戸籍に入ります。
子どもの親権は母親だけになるため、万が一事実婚を解消した場合に、父親に対し養育費を請求できません。
3-3.税金の控除が適用されない
事実婚の場合、法律婚で受けられる以下の税制上の優遇措置を受けられません。
- 所得税の配偶者控除、配偶者特別控除
- 相続税の配偶者税額軽減
- 贈与税の配偶者控除
現在の法制度は、法律婚の夫婦を前提とした制度です。法律婚の場合、扶養に入っている配偶者は配偶者控除や配偶者特別控除を受けることで、所得税を軽減できます。
事実婚の場合、法律上では夫婦として認められないため、配偶者に適用される配偶者控除や配偶者特別控除を受けられません。
3-4.生命保険や遺産相続の受け取りが容易にできない
生命保険の場合、不正を防ぐために保険金の受取人の指定は厳しくなっています。各保険会社によって「同居年数」や「一定期間内に法律婚の予定がある」などの基準があるため、保険会社に確認してから加入することをおすすめします。
遺産相続の場合、事実婚であれば法的に配偶者として見なされないため、配偶者が亡くなった際に法定相続では、遺産を相続できません。遺言であらかじめ相手方を相続人として指定しておきましょう。
4.事実婚の前に確認しておきたい3つポイント
事実婚は自由度の高い夫婦生活を送ることができる一方、法的に認められている法律婚と違って法律に守られないことがあります。事実婚として夫婦生活を送る際に、重要なポイントを紹介します。
4-1.お金
夫婦として生活していくうえで、お金の管理は非常に重要です。共働きの夫婦も増えている中、お互いの収入や預貯金を把握していない家庭は多いかもしれません。
高額な商品を購入したり、金融機関からお金を借りたりする時はパートナーの承認を得るなど、夫婦でしっかり取り決めておきましょう。
また、法律婚の夫婦が離婚した時、パートナーに対して共有財産の清算を求める「財産分与請求権」を行使できますが、事実婚を解消した場合でも行使することができます。共有財産としての対象は以下のとおりです。
- 現金や預貯金
- 車
- 保険
- 株式や投資信託
- 各種の積立金や積立資産
普段から、将来のためにお互いのお金について話し合うことは大切です。
4-2.親権
事実婚の場合、子どもの親権は妻だけになります。
夫が子どもを「認知」することによって、戸籍上も父子であると登録されますが、認知したからといって、親権を持つわけではありません。親権を持つためには、家庭裁判所に対して、親権者変更調停を申し立てる必要があります。
子どもが生まれる前に、パートナー同士で親権について話し合っておき、パートナーや生まれてくる子どもに不安や負担をかけないことが大切です。
4-3.相続
法律婚と違い、事実婚の場合、パートナーは法定相続人になれません。
パートナーに遺産を遺すために、遺言を作成しておくことは大切です。パートナーに万が一のことがあった場合、今後の生活費や資産が利用できなくなる可能性があります。将来、残されたパートナーが不安になることがないように、事前に意思表示しておくことが重要です。
5.不安を解消して、自分にあった結婚の形を選びましょう
事実婚は、法律婚と比べて自由度の高い夫婦生活を送ることができます。一方で、事実婚は法律婚とは異なり、法律上の地位はありません。しっかりとした人生設計を考えておくことが重要です。
例えば、はじめは事実婚として夫婦生活を送り、子どもができたタイミングで婚姻手続きを行うなど、事実婚と法律婚を使い分けてみるのもひとつの方法になります。
事実婚のメリット・デメリットの両方をよく理解した上で、幸せな夫婦生活を送るために、ご自身にあった結婚の形を選んでみてはいかがでしょうか。