家族が亡くなると、葬儀などの費用が発生します。しかし、故人名義の口座は凍結されてしまい、葬儀費用や当面の間の生活費に困ってしまうケースがあります。こうした事態を解決するため、「預貯金の仮払い制度」が作られました。本記事では、預貯金の仮払い制度の手続き方法や注意点について詳しく解説していきます。
(本記事は2023年12月25日時点の情報です)
- 口座名義人が亡くなって凍結した口座から、「預貯金の仮払い制度」により一定額の払い戻しが可能になった
- 制度を利用した方が良いケースとそうでないケースがある
- 制度を利用すると、相続放棄ができない可能性がある
- 仮払い制度や相続放棄について不安がある方は、専門家へご相談を
預貯金の仮払い制度で凍結された故人の口座から払い戻しができる
口座名義人が亡くなると、遺産分割協議が終わるまで預金口座が凍結されます。しかし、「預貯金の仮払い制度」を利用して払い戻しが可能となりました。以下、預貯金の仮払い制度について解説していきます。
新制度は2019年に適用開始
口座名義人が亡くなると、遺産分割協議が終わるまで預金口座が凍結され、相続人単独では相続預貯金の払い戻しを受けられないことがあります。
このため、相続人の当面の生活費用や葬儀費用の支払いなどの必要があっても、相続預貯金で支払うことが難しくなります。
そこで、このような不都合を解消するため、2019年7月の民法等改正により「預貯金の仮払い制度」が施行されました。この制度により、遺産分割協議前でも、一定額の払い戻しが可能になりました。
遺産分割協議前に引き出し可能な金額上限は?
「預貯金の仮払い制度」では、家庭裁判所の手続きを不要とする代わりに、150万円を上限に「亡くなった時の預貯金残高×法定相続分×1/3」の金額を払い戻すことができます。法定相続分とは、民法によって定められる相続割合です。
また、民法で定められた範囲の中にいる相続人のことを法定相続人といいます。法定相続人には、被相続人との関係性によって優先順位が設けられています。そして、法定相続人の順位ごとに遺産分割の目安となる割合が設定されており、これを法定相続分といいます。なお、同順位の法定相続人が複数いた場合は、法定相続分を均等に分けます。
法定相続分とは
法定相続分とは、民法で定められた相続人の相続割合のことです。相続人は、亡くなった人の配偶者、子ども、直系尊属、兄弟姉妹などで、それぞれに法定相続分があります。法定相続分は、遺言書や相続人の合意によって変更できますが、遺言書や合意がない場合や、相続人間で紛争が起きた場合には、法定相続分が遺産分割の基準になります。
法定相続分の具体的な割合は、次のようになります。
相続順位 | 法定相続人 | 法定相続分 | 備考 |
第一順位 | 配偶者と子 | 配偶者 1/2 子 1/2 | 子が2人の場合1/2をさらに分割し、1/4ずつとなる |
第二順位 | 配偶者と直系尊属 (親など) | 配偶者 2/3 直系尊属 1/3 | 直系尊属(親など)が複数の場合、さらに分割 |
第三順位 | 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4 | 兄弟姉妹が複数の場合、さらに分割 |
払い戻し上限以上は家庭裁判所の仮処分が必要
葬儀に必要な費用などが仮払い制度の上限金額を超える場合は、家庭裁判所の判断によって払い戻しが可能です。家庭裁判所に預貯金の仮払いを申し立てるためには、まず遺産分割の調停や審判が申し立てが必要となります。
遺産分割調停が申し立てられていることの他に、預貯金を払い戻す必要性を示さなければなりません。必要性を認めてもらうためには、必要な理由や金額の裏付けとなる資料を提出しましょう。
また、預貯金の仮払いをした影響で、その後の遺産分割において共同相続人の利益を害さないなどの条件があります。家庭裁判所への申し立ては、多額の金銭が必要なケースで有効ですが、いくつかのハードルがあるといえます。
預貯金の仮払い制度が活用できるケースとそうでないケースとの違い
預貯金の仮払い制度が活用できるケースと、そうでないケースとの違いを解説していきます。
預貯金の仮払い制度が有効なケース
預貯金の仮払い制度が有効なケースは、亡くなった方の葬儀費用が足りない場合や、故人と同居していた相続人の生活費の支払いが必要な場合です。
また、被相続人が借金をしていて返済の必要がある場合や、被相続人の住んでいたアパートなどの家賃の支払いにお金が必要な場合も預貯金の仮払い制度が活用できます。
預貯金の仮払い制度を利用しない方が良いケース
預貯金の仮払い制度を利用しない方が良い場合もあります。まずは遺言書がある場合です。遺言書により、相続人が指定されていた場合には、他の法定相続人などは仮払い制度は利用できません。
また、遺産分割協議がまとまらない可能性があれば、預貯金の仮払い制度は利用しない方が良いかもしれません。仮払い制度を利用して払い戻した預金は、払い戻しを受けた相続人が取得するものとして調整されます。
仮払い制度を利用した相続人がいる場合には、公平性を考慮して遺産分割協議をすることが大切です。仮払い制度を利用して預貯金を使ってしまった場合、相続を認めたこととなり、その後の相続放棄が難しくなってしまうため、注意が必要です。
預貯金の仮払い制度の手続き方法
預貯金の仮払い制度の手続き方法について、解説していきます。
金融機関で直接手続きする際の必要書類
預貯金の仮払い制度を利用する際、一般的な必要書類は以下の3つです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 払い戻しを希望する方の印鑑証明書
また、必要書類は金融機関ごとに異なる場合もあるため、事前に相談するのがおすすめです。
家庭裁判所への手続きは時間がかかる場合も
預貯金の仮払い制度の上限以上の金額を払い戻したい場合は、家庭裁判所への手続きが必要になります。家庭裁判所へ申し立てる場合は、審判書謄本と払い戻し希望者の印鑑証明書が必要となります。また、家庭裁判所への申し立ては、遺産分割調停や審判の申し立てが前提であり、費用や時間も多くかかってしまいます。
相続放棄を検討するなら注意が必要
相続の際には、プラスマイナスすべての財産を相続する「単純承認」と一切引き継がないとする「相続放棄」があります。相続放棄を検討するのであれば、いくつか注意点があります。以下、解説していきます。
預貯金の仮払い制度は使い道が重要
被相続人に借金があって相続放棄を考える場合が多いですが、故人の預貯金を引き出した場合、使い道によっては単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。預貯金の仮払い制度を利用し、故人の借金返済や生前の医療費など債務の弁済、葬儀費用にあてるのであれば問題はありません。
しかし、払い戻したお金を、生活費など自分のために使ってしまった場合、単純承認が成立してしまいます。相続放棄を検討しているのであれば、安易に預貯金の仮払い制度を利用しない方が良いでしょう。
相続放棄後の故人の銀行口座はどうなるの?
相続放棄後、法定相続人がまだいる場合には、相続放棄をしなかった相続人が被相続人名義の預貯金を解約して債務を返済していくことになります。
しかし、法定相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人の銀行預金や不動産などの財産を相続・管理できる方がいなくなってしまいます。このような場合には、債権者などが財産管理のための選任申し立てを行うケースが多いです。そして、裁判所によって相続財産管理人に選ばれた弁護士や司法書士などの専門家が、相続財産を借金返済などにあてて清算を進めていきます。
口座凍結や相続放棄に困ったら専門家への相談がおすすめ
ここまで、預貯金の仮払い制度に関わることについて解説してきましたが、制度の利用や相続放棄などは判断が難しい部分があり、不安に感じる方も多いでしょう。
迷った時は司法書士などの専門家に相談すると安心です。「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、相続の専門家が「相続が発生したけれど、何から手をつければいい?」「相続財産に不動産がある場合、どんな手続きが必要?」「亡くなった家族の預金口座が凍結されてしまった!」「借金は相続放棄したいけれど、どうすればいい?」など、相続に関するさまざまな疑問をトータルでサポートしてくれます。お気軽にご相談ください。
おわりに
この記事では、預貯金の仮払い制度の利用方法や活用が有効なケース、利用する際の注意点などを解説してきました。預貯金の仮払い制度は使い方によってはとても有用な制度ですが、相続放棄や他の相続人にも関わるもののため、慎重に対応すべきでしょう。何かお困りの際は、弁護士などの専門家に一度相談してみてはいかがでしょうか。
関連記事:相続時に預貯金を遺産分割する方法や手続き、注意点等をわかりやすく解説