高齢になり認知症などで判断能力が低下すると、財産が凍結される可能性があることをご存じでしょうか?そんなときのために「家族信託」という制度があります。今回は、家族信託が必要なケースや、家族信託を行うメリット・デメリット、後悔しない方法について解説しています。将来の財産管理に不安のある方や、家族信託について興味のある方は、ぜひご一読ください。
(本記事は2024年2月1日時点の情報です。)
- 家族信託が必要なのは「家族に財産管理を任せたい」「介護費用を財産でまかないたい」「孫の代まで相続先を指定しておきたい」といったケース
- 家族信託が必要ないのは「託したい財産がない」「信頼できる家族がいない」「すでに生前贈与を行っている」といったケース
- 家族信託で後悔しないためには、ご自身の判断能力があるうちに早めに行動することがポイント
家族信託とは
家族信託とは、財産を家族に託し管理してもらう制度です。家族信託を締結していれば、ご自身の認知機能が低下して財産管理が困難になっても、詐欺や他の相続人からの使い込みを防げます。財産の名義は託された家族に移りますが、固有財産にはならないため贈与税がかからないのも特徴です。
家族信託では、次の3つの役割が登場します。
- 「委託者」…財産を託す人
- 「受託者」…財産の管理・運用・処分を担う人
- 「受益者」…財産の利益を得る人
家族信託では、財産を託される側の権利を「受託者」と「受益者」の2つに分けて考えます。代表的なのは、親が「委託者」、子どもが「受託者」となる事例です。
しかし、家族信託はすべての家族にとって必ずしも必要という訳ではないため、「うちには必要ない」と考える方が多いかもしれません。財産にかかる税金についてよく知らないまま家族信託を締結すると、受益者の税負担が大きくなるトラブルも考えられます。家族信託を結ぶ必要性があるかどうかは、家族でよく話し合って決めることが大切です。
家族信託が必要なケース
家族信託はどのようなときに必要になるのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
家族に財産の管理をお願いしたい
家族に財産を管理してもらいたい場合は、家族信託を締結しておくと安心です。財産管理を依頼する受託者には、信頼できる人を選ばなければなりません。財産の管理能力だけでなく、ご自身を大切にしてくれるかどうか、という点も重要です。家族信託では、ご自身の判断能力が確かなうちに受託者を選ぶことができます。
また、何の対策もせず認知機能が低下した場合は「法定後見制度」を利用して財産管理をするしかありません。法定後見制度では、財産が裁判所の管理下に置かれてしまい、財産の管理や処分には裁判所の許可が必要になります。財産を管理する後見人は裁判所によって選ばれることになり、弁護士や司法書士などの専門家になることもあるのです。
万が一専門家が後見人になると報酬を支払う必要性も出てきます。そのため、家族に財産管理を託したいと考えている場合は、元気なうちに家族信託を検討することをおすすめします。
介護費用を本人の財産でまかないたい
介護費用をご自身の財産でまかないたい場合は、家族信託を結んでおいた方が良いでしょう。高齢になり介護が必要になると、自宅をバリアフリーにするための費用や老人ホームへの入居費用など、さまざまな費用がかかります。
しかし、本人が認知症などで判断能力を失っている場合は、財産凍結により財産の利用ができなくなるのです。その点、家族信託を結んでおけば親の財産の管理権を子どもに移すことが可能になるため、財産凍結を避けられ、財産を利用できます。
孫の代まで財産の相続先を指定したい
家族信託では、契約次第で孫世代やそれ以降の世代へ財産の相続先を決めることが可能です。例えば「長男に財産を相続させたいが、長男が亡くなった後は次男ではなく孫へ相続させたい」といったケースが当てはまります。
遺言では子世代への相続先は決められますが、孫世代やそれ以降の相続先は指定できません。そのため、子どもだけでなく孫世代にも相続してほしい場合は、家族信託を締結しておくと良いでしょう。
収益が見込める財産がある
アパートやマンション、駐車場、商業ビルなど、収益が見込める財産を所有している場合は、家族信託をおすすめします。例えば、賃貸借契約や修繕・リフォームの工事契約などは、所有者が判断し対応しなければなりません。
しかし、所有者が認知症などで判断や対応ができなくなると、財産管理は難しくなるでしょう。家族信託を結んでおけば、財産の管理権を子どもに移せるため、引き続きアパートなどを所有できます。
事業承継について希望がある
家族信託は、事業を継承させたい場合にも有効な方法です。家族信託では、私的な財産だけでなく事業用の資産や株式といった財産も託すことができます。
また、親族以外にも継承先を指定することが可能です。そのため、事業の後継者を決めている場合は、家族信託で継承先を指定しておくと希望を叶えられるでしょう。
家族信託が必要ないケース
財産管理のさまざまなケースで家族信託が有効であることがわかりました。しかし、次のようなケースでは不要といえます。
本人がまだ若くて健康
財産を所有する本人が若くて健康なのであれば、家族信託の締結は必要ないでしょう。そもそも家族信託は、財産所有者の判断能力が低下した場合に財産管理ができなくなることを想定した制度です。家族信託を結んだ後は財産を受託者名義にするため、預金引き出しなどが自由にできなくなります。ご自身で積極的に財産を活用し、運用したい場合には、家族信託は向いていないでしょう。
生前贈与で財産の名義を変更済
すでに生前贈与を行い財産の名義を変更している場合も、家族信託は不要です。このようなケースでは、家族信託をしなくても介護費用などを贈与した財産から捻出できます。生前贈与で計画的に財産を家族に移す方法があることも、財産を託す方法として念頭に置いておくとよいでしょう。
金融資産・不動産を所有していない
家族信託の信託財産となるのは、現金・預金・株式などの金融資産や、不動産です。そのため、これらの財産を所有していない場合は、家族信託を結ぶ必要がありません。
また、田んぼや畑といった農地は、家族信託の対象にはできないため注意が必要です。農地を家族信託するためには、法律上、農業委員会の許可が必要ですが、原則として認められないのです。さらに、年金についても、受け取り口座を本人名義の口座にしか指定できないため、家族信託で財産を託すことはできません。
親族間が不仲で悪用される可能性がある
親族が不仲で、財産を託しても悪用される可能性がある場合は、家族信託を行うべきではないでしょう。家族信託は、家族に大切な財産を管理してもらう制度のため、信頼できる人でなければ財産を任せられません。金遣いが荒く、借金をするような親族がいるケースでは、家族信託は避けた方が無難です。
財産を託す親族がいない
家族信託は財産を託す制度のため、頼れる親族がいない場合は家族信託を結べません。また、親族がいても信頼できない場合は、家族信託をしない方がよいでしょう。
もしも、誰かに財産を託したい場合には、親族以外で頼れる人を探すか、他の制度を利用するのもひとつの手です。例えば、ご自身の判断能力が低下したときに、財産管理などの支援を受けられる制度として「任意後見制度」があります。
家族信託のメリット・デメリット
家族信託を行うべきかどうか、メリット・デメリットも踏まえて考えてみましょう。家族信託のメリット・デメリットをまとめました。
メリット
家族信託の主なメリットは次のとおりです。
- 認知症になった場合に財産トラブルを避けられる
- 遺言書ではまかなえない相続や事業承継についても希望が実現できる
家族信託のメリットは、ご自身が認知症になったときでも財産トラブルを回避できることです。もしも、何も対策をせずに認知症になってしまった場合は、財産が凍結状態になりますが、家族信託を結んでおけばスムーズな財産管理ができます。
また、家族信託では、孫世代の相続先や、事業の継承先についても指定することが可能です。遺言書ではまかなえないことも、家族信託では叶えられるところがメリットでしょう。
デメリット
一方、家族信託には次のようなデメリットがあります。
- 費用がかかる
- 受託者に書類提出義務があり、負担が増える
- 家族間でトラブルが起きる可能性がある
家族信託のデメリットは、ある程度の費用がかかることです。家族信託を個人で進めるのは大変難しく、弁護士や司法書士など専門家のサポートが必要になります。専門家への報酬は基準が設けられていないため、場合によっては高額になることもあるのです。また、信託財産として不動産がある場合は登記費用などもかかります。
さらに、家族信託は受託者への負担が増えることもデメリットでしょう。受託者には、信託に関わる債務を負う責任がある他、求めに応じて、信託における事務処理の書類や信託財産の収支報告書を作成して提出する義務があるのです。
この他、受託者以外の家族から不平不満が出るなど、家族間でトラブルになることも考えられます。家族信託が本当に必要かどうか、デメリットをよく理解しておく必要があるでしょう。
家族信託を締結できないケース
家族信託は、認知症対策や相続の希望を叶えるために有効な制度ですが、場合によっては家族信託を締結できないケースもあります。家族信託を締結したくてもできないケースについて見ていきましょう。
後見制度を利用している
認知症などの対策として、すでに成年後見制度を利用している場合は、家族信託の締結は難しいといえます。成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した場合に支援を受けられる制度で、被後見人の財産保護が重要な役割とされています。
後見制度は原則、一度契約を結ぶと被後見人が死亡するまで後見が続けられ、簡単には契約を解消できません。そのため、後見制度の契約を結んでいる場合は、家族信託は利用できないと考えるのが無難です。
本人の意思確認ができない
家族信託は、本人に判断能力がない場合は締結できません。家族信託を締結するにあたり、大切な財産を託す受託者には財産の管理能力や信用があるか、しっかりと見極めて選任することが重要です。そのため、認知症などにより本人の意思確認ができない場合、家族信託は結べないのです。
ただし、認知症を発症した後でも判断能力があると判断される場合は、家族信託を結べるケースもあります。軽度の認知症などで契約が可能かどうか気になる場合は、家族信託契約の実績を持つ弁護士や司法書士などの専門家へ相談してみるのもひとつの手でしょう。
後悔しないための家族信託
家族信託を行うのであれば、後悔しないように対策を取ることをおすすめします。具体的に何をしておけば良いか確認しておきましょう。
早めに行動に移す
家族信託を行うときは、本人の意思確認ができるうちに早めに行動に移すことがポイントになります。また、家族信託は2007年から利用が開始された、比較的新しい制度です。今後、法制度に合わせて内容が調整される可能性もありますので、家族信託を行うなら早めに行動した方がよいでしょう。
財産や介護費用について確認しておく
家族信託を行う場合、財産にかかる税金についても考慮する必要があります。例えば、不動産の信託においては、高額な贈与税や登録免許税がかかるかもしれません。受託者への負担が大きくならないように、信託する財産についてよく調べておくことが大切です。
また、信託財産から捻出する予定の介護費用は、事前に見積もっておきましょう。ある程度、明確な金額がわかれば、受託者が財産を管理しやすくなります。
専門家に依頼する
家族信託の締結には専門的な知識が必要になるため、弁護士や司法書士などの専門家に手続きを依頼するとよいでしょう。ただし、家族信託といっても、家族によってさまざまなケースがあり、すべての専門家が対応できる訳ではありません。信託契約を多く経験している専門家に依頼した方が、ご自身の希望に沿った契約に対応できると考えられます。
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おわりに
家族信託は、認知症などで財産管理が難しくなったときの対策として有効です。もしものときに財産凍結がされ、自由にお金を使えないという事態にならないよう、早めの対策をおすすめします。ただし、費用がかかるなどのデメリットもあるため、家族信託が必要かどうか、家族でよく検討するようにしましょう。