障害者が相続によって被相続人の財産を受け継ぐ場合、納付すべき相続税額から一定額を減らすことができるのが「障害者控除」という制度です。ただし、控除の適用を受けるためには要件を満たす必要があり、注意点も多々あるため、相続後の不安を解消するためにも、あらかじめ把握しておきましょう。
この記事では、障害者控除の仕組みや要件、控除額の計算方法、気をつけたいポイントなどについて詳しく解説します。
(本記事は令和6年1月31日時点の情報です)
- 障害者控除の適用要件は、85歳未満の障害者であること、法定相続人であること、財産を相続すること、相続時に日本国内に住所があること
- 障害者は一般障害者と特別障害者に区分され、控除額の計算方法も異なる
- 申請に必要なのは「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」に加え、障害者手帳などの書類
- 要介護認定だけでは足りないことに注意が必要
相続税には障害者控除がある
障害者が相続(遺贈を含む)で被相続人の財産を受け継ぐ場合、納付すべき相続税額から一定額を減らすことができる「障害者控除」という制度があります。具体的には、相続人が85歳未満の障害者である場合に控除が適用されます。
障害者控除の目的は、親族の死後もその人の生活を守ることにあります。障害者は家族・親族の誰かの扶養に入っていることが多く、扶養していた家族・親族の死亡に伴い、相続人である障害者に多額の相続税が課されると、その後の生活が立ち行かなくなってしまいかねません。この点を配慮し、相続税の負担を軽減するのが障害者控除です。
相続税で障害者控除が適用される要件
相続税の障害者控除が適用される要件は以下の通りです。これらの要件を全て満たさなければなりません。
- 相続人が85歳未満の障害者である
- 法定相続人である
- 財産を相続する
- 相続時に日本国内に住所がある
それぞれの要件について、詳しく見ていきましょう。
相続人が85歳未満の障害者である
相続で財産を取得した場合、つまり相続開始時に85歳未満の障害者でないと障害者控除は受けられません。ここでいう障害者とは「一般障害者」「特別障害者」のことであり、症状や障害の程度によって区分されます。
一般障害者
一般障害者に該当する方の例は、以下のとおりです。
- 児童相談所または精神保健指定医等の判定により知的障害者と判定され、重度の知的障害者以外の者
- 精神障害者福祉手帳の交付を受け、障害等級が2級または3級と記載された者
- 障害者手帳に身体上の障害があると記載され、障害の程度が3級から6級とされた者など
特別障害者
一方、特別障害者に該当する人の例は、以下のとおりです。
児童相談所または精神保健指定医等の判定により知的障害者と判定され、かつ重度の知的障害者と判定された者
精神障害者福祉手帳の交付を受け、障害等級が1級と記載された者
障害者手帳に身体上の障害があると記載され、障害の程度が1級または2級とされた者など
また、相続人が相続開始後に精神障害者福祉手帳や障害者手帳の交付申請中の場合や、成年被後見人である場合も、障害者控除の対象となります。
法定相続人である
相続財産を取得した本人が法定相続人でなければ、障害者控除の適用は受けられません。
法定相続人とは、民法で定められた「被相続人の財産を相続する権利を持つ方」のことです。例えば、障がい者である孫が遺贈により被相続人の財産を取得した場合、代襲相続人でない限り障害者控除の適用を受けられません。
財産を相続する
相続人が障害者であっても、相続により財産を全く取得しない場合は障害者控除の適用はありません。被相続人の財産を取得していなければそもそも相続税が課税されないからです。
また、障害者である相続人本人の相続税額から控除できない分は、扶養義務者である相続人の相続税額から控除できます。ただし、障害者である相続人が相続財産を取得してなければこの適用もないので注意してください。
相続時に日本国内に住所がある
相続時に日本国内に住所があることも、障害者控除の適用要件のひとつです。
ただし、相続人が一時居住者で、かつ被相続人が一時居住被相続人や非居住被相続人の場合は、障害者控除の適用から外れます。
相続税における障害者控除額の計算方法
相続税における障害者控除は、相続税の税額から一定額を差し引きます。そのため、課税対象となる相続財産の金額を減額する基礎控除などと比べると、大幅な節税効果が見込めるのが特徴です。
障害者控除額は、相続人である障害者の障害の程度によって控除額が異なります。
- 一般障害者の場合:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
- 特別障害者の場合:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
障害者控除額と納税額をシミュレーション
では、具体的に障害者控除額と納税額はどのくらいになるのでしょうか。以下2つの条件のもと、シミュレーションしてみましょう。
年齢50歳・相続税額400万円の一般障害者の場合
この場合、障害者控除額は「(85歳-50歳)×10万円=350万円」です。相続税額が400万円なので、納税額は「400万円-350万円=50万円」となります。
年齢65歳・相続税額300万円の特別障害者の場合
この場合、障害者控除額は「(85歳-65歳)×20万円=400万円」です。相続税額が300万円なので納税額は「300万円-400万円=マイナス100万円」なので0円となり、相続税の申告・納付は必要ありません。
障害者控除額が控除しきれない場合
障害者控除額が相続税額よりも大きく、控除額の全額を使いきれない場合もあります。その場合、差額分を扶養義務者と分け合うことができるので、控除しきれなかった部分の障害者控除額を、その障害者の扶養義務者である他の相続人の相続税額から控除することが可能です。
ここでいう扶養義務者とは、配偶者・子・父母・祖父母・兄弟姉妹・孫、もしくは家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった3親等以内の親族(叔父、叔母など)です。扶養義務者が2人以上いる場合は、扶養義務者全員で協議して配分する、あるいは扶養義務者全員で分割割合に即して案分する等してそれぞれの控除額を決定します。
なお、扶養義務者の相続税額から障害者控除額を控除してもさらに控除額が残る場合は、二次相続に残しておくことも可能です。
【注意】障害者控除が2回目以降の障害者控除は計算方法が違う
過去の相続で障害者控除の適用を受けている場合、1回目の相続で残っている控除額と2回目相続時の年齢で計算した額のどちらか少ない方の金額が適用されることに注意してください。
例えば、特別障害者が50歳のときに1回目の相続があり、障害者控除額が「(85歳-50歳)×20万円=700万円」、相続税額が400万円で控除額が300万円残っているとしましょう。
その後、55歳のときに2回目の相続が発生した場合、障害者控除額は「(85歳-55歳)×20万円=600万円」ですが、1回目でのこっている控除額300万円の方が金額は少ないため、300万円が2回目の控除額として適用されます。
なお、1回目の障害者控除で控除額をすべて使いきっている場合、2回目に障害者控除の適用を受けることはできません。
相続税の障害者控除申請に必要な書類
相続税の障害者控除申請を行う場合は、必要書類・添付書類を用意する必要があります。ただし、あらかじめ特別な手続きは必要なく、相続税申告に障害者控除の計算を含めることで適用を受けることが可能です。
障害者控除の適用対象であるにもかかわらず適用を受けずに申告した場合は、更正の請求を行うことで、障害者控除分の相続税の還付を受けることができます。ただし、更正の請求の期限は、相続税の申告期限から5年以内です。
続いて、障害者控除の申請に必要な書類を見ていきましょう。
未成年者控除額・障害者控除額の計算書
障害者控除を適用して相続税の申告を行う場合は、相続税申告書の第6表「未成年者控除・障害者控除額の計算書」を作成する必要があります。
申告書の様式は、国税庁「相続税の申告書等の様式一覧」からダウンロードできます。
障害者手帳などのコピー
加えて、相続税申告書の添付書類として、障害者控除の適用要件を満たしていること、障害の程度を証明できる書類が必要です。
具体的には、障害者手帳や精神障害者福祉手帳のコピー、療育手帳のコピーなどが挙げられます。各種手帳がない場合は、医師の診断書で相続開始時に障害があったと証明できれば、障害者控除の適用が可能です。
相続税の障害者控除で気をつけたいポイント
相続税の障害者控除の適用を受ける際には、以下の点に注意してください。
- 相続開始日の現況で適用可否が決まる
- 満年齢で計算する
- 要介護認定は適用外
それぞれについて解説します。
相続開始日の現況で適用可否が決まる
相続人が障害者に該当するかどうかは、相続開始日(被相続人の死亡日)の現況によって決まります。
ただし、相続開始日時点ではまだ障害者手帳の交付を受けていないなど障害者に該当しない場合であっても、以下の要件に該当する場合は障害者控除の適用対象になります。
- 申告書の提出時に手帳の交付を受けている、もしくは交付を申請している
- 医師の診断書により、相続開始日の現況において、明らかに手帳に記載される程度の障害があると認められる
このような場合、実務上どのような書類を提出すれば良いのかといった疑問がある場合は、税理士や最寄りの税務署に問い合わせることをおすすめします。
満年齢で計算する
障害者控除額を計算する場合は85歳から現在の年齢を差し引く必要がありますが、この場合満年齢で計算することに注意してください。
例えば、相続開始時に50歳8ヵ月であった場合は50歳とされ、85歳から50歳を差し引いて控除額を計算します。
要介護認定は適用外
原則として、相続人が要介護認定を受けていただけでは、障害者控除の適用は受けられません。
ただし、市町村に対して「障害者控除対象者認定書」の発行申請を行うという方法があります。申請が受理され、認定書が発行されれば、障害者控除の適用を受けることが可能です。
相続税の障害者控除は「セゾンの相続」へ相談を
相続税には申告期限が定められており、その期間内に相続財産の調査、各財産の評価、遺産分割協議、申告書の提出及び納税を完了させる必要があるため、ご遺族の負担が非常に大きいのが実情です。特に障害者控除の適用が受けられるかどうかは障害者である相続人の方の今後の生活に大きく影響するため、慎重に進めなければなりません。
「セゾンの相続 相続税申告サポート」なら、相続税申告に強い税理士と提携しているため、信頼できる専門家との無料相談や最適なプランのご提案が可能です。今すぐには依頼を考えておらず、相談だけという方もぜひお問い合わせください。
おわりに
障害者が相続により被相続人の財産を受け継ぐ場合、納付すべき相続税額から一定額を減らすことができるのが障害者控除です。障害者に多額の相続税が課されると、その後の生活が立ち行かなくなってしまいかねません。この点を配慮し、相続税の負担を軽減するのが障害者控除です。
ただし、障害者控除の適用を受けるためには、要件を満たさなければなりません。また、必要書類を用意し、期限内に申告・納税を行う必要があるため、控除が受けられるか不安をお持ちでしたら「セゾンの相続 相続税申告サポート」のような専門家に相談することをおすすめします。