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相続時精算課税制度にデメリットはある?適用すべきケースを解説

相続時精算課税制度にデメリットはある?適用すべきケースを解説
セゾンのくらし大研究 編集部

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ご自身の財産を生前贈与したい場合に活用すべき制度のひとつが、相続時精算課税制度です。本来は、どなたかひとりから1年間に110万円を超える財産を受け取った場合、受け取った方が贈与税を払わないといけません。しかし、相続時精算課税制度を使えば、将来相続が発生した時まで繰り延べることができます。今回は、相続時精算課税制度について、制度の概要やメリット・デメリット、適用すべきケースについて解説します。

(本記事は2024年2月1日時点の情報です。)

この記事を読んでわかること
  • 相続時精算課税制度とは、一定の条件のもとで適用される贈与税の計算方法のこと
  • 相続時精算課税制度を使うと生前の贈与については2,500万円まで特別控除の対象になる
  • ただし、相続が発生したら持ち戻し計算といって相続財産に贈与財産を含めて相続税額を計算しなくてはいけない
  • メリットがある反面、デメリットもあるので慎重に使うべきかを考えること

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは

最初に、相続税精算課税制度について詳しく解説します。

相続時精算課税制度について解説

相続時精算課税制度とは、一定の条件のもとで適用される贈与税の計算方法のことで、生前の贈与については2,500万円まで贈与税が非課税になります。ただし、贈与をした方が亡くなった場合は手元の財産だけでなく、生前に相続時精算課税制度のもとで贈与した財産も含めて相続税を計算します。

従来は20歳以上の子・孫について適用されていましたが、成年年齢の引き下げに伴い2022年4月1日以降の贈与からは年齢が引き下げられました。

相続時精算課税制度の適用条件

相続時精算課税制度の適用条件は以下のとおりです。

  • 贈与をする方(贈与者)と贈与を受ける方(受贈者)が「ご本人とお孫さん」など直系血族同士である
  • その年の1月1日において、贈与をする方は60歳以上、贈与を受ける方は18歳以上である

なお、贈与を受ける方は贈与税の期限内申告書の提出期間内に相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添付し、納税地の所轄税務署長に提出しなくてはいけません。

制度を利用した際の贈与税計算方法

相続時精算課税制度を利用した場合、通算して2,500万円までの財産は非課税で受け取ることが可能ですが、それ以上の部分に対しては一律20%の税率で贈与税が課されます。

例えば、生前に4,000万円を贈与されていた場合の贈与税の金額は「(4,000万円-2,500万円)×20%=300万円」と計算されます。

相続時精算課税制度を選択するメリット

相続時精算課税制度を選択するメリット

相続時精算課税制度を選択するメリットとして、以下の5点について解説します。

最大2,500万円の特別控除の対象になる

相続時精算課税制度を使えば、通算して2,500万円までの財産は非課税で受け取ることが可能です。相続財産を含めた財産があまり多くなく、贈与を受ける額と相続する額の合計が2,500万円以下に収まりそうなら、贈与税も相続税もかからないことになります。

2,500万円の超過分は贈与税率が一律20%になる

暦年課税の贈与税は、以下の速算表で算出します。なお、速算表とは、税額を簡単に計算するための税率表です。

「もらった財産価額の合計額-110万円(基礎控除)× 速算表の税率-速算表の控除額」

また、暦年課税の税率は「特例贈与」と「一般贈与」で区分されます。特例贈与とは、父母や祖父母から18歳(2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳)以上の子や孫への贈与をいいます。一般贈与は特例贈与以外となります。

下表は贈与税の速算表となり、一般贈与は特例贈与と比較して贈与税が高くなります。

【贈与税の速算表】

特例贈与(特例税率)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%25万円
1000万円以下30%65万円
1500万円以下40%125万円
3000万円以下45%175万円
4500万円以下50%250万円
4500万円超55%400万円

一般贈与(一般税率)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%30万円
600万円以下30%90万円
1000万円以下40%190万円
1500万円以下45%265万円
3000万円以下50%415万円
3000万円超55%640万円

出典:国税庁HP

相続時精算課税の贈与税は、以下の計算式で算出します。

「((贈与額-年110万円)-2,500万円)×20%」

年110万円の基礎控除を除く特別控除の合計額が2,500万円を超えた場合、20%の税率がかかります。そのため、贈与額が大きい場合は、相続時精算課税制度を使ったほうが結果として贈与税が安くなります。

必要なタイミングで財産贈与ができる

相続時精算課税制度を使えば、必要なタイミングで財産贈与をすることが可能です。お子さんやお孫さんが住宅購入や進学などでまとまったお金が必要な場合、暦年贈与を使うと贈与税を翌年には払わないといけないうえに、税額もかさみがちです。

しかし、相続時精算課税制度を使えば、贈与税の支払いを先送りにしつつも、必要なタイミングでまとまった資産を贈与できます。

相続税対策ができる場合がある

相続時精算課税制度を利用して、相続税対策をすることも可能です。本来、相続時精算課税制度は課税を先送りにできる制度であって、税金を節約できる制度ではありません。しかし、収益物件や値上がりしそうな物件・株式を贈与することで、相続税対策ができることもあります。

例えば、収益物件を贈与した場合、相続時精算課税制度を使うと相続発生までの賃料は課税の対象になりません。

また、株式を贈与した場合、贈与時に価値が増加していたとしても相続時には贈与時の価格で評価されるため、結果として節税につながります。値上がりしそうな物件でも、この理屈は同じです。

相続人間のトラブルを防げる

相続時精算課税制度を使えば、相続人間のトラブルも防げます。例えば、相続財産の大半が不動産だった場合、複数の相続人の共有財産にしてしまうと、必要な時に修理や処分ができないなどのトラブルにつながりがちです。これを防ぐためには生前に相続人のうち誰かひとりに不動産を贈与しておくのが有効ですが、暦年贈与で行うと贈与税がかかります。

そこで、相続時精算課税制度を使って相続人のうちひとりに不動産を生前贈与しておけば、将来的に修理や処分が必要になった時にもめることはありません。加えて、2,500万円までの部分については非課税になります。

相続時精算課税制度を選択するデメリット

相続時精算課税制度を選択するデメリット

相続税精算課税制度は便利な制度ですが、デメリットもあります。ここでは具体的なデメリットとして、以下の点について解説します。

適用後は暦年課税が使えなくなる

一度でも相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与の対象外となるため、従来は暦年贈与における110万円の基礎控除も使えませんでした。

ただし、2023年税制改正により2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択して贈与をした場合、年間110万円まで基礎控除が受けられるよう改正がなされています。

ただし、注意すべき点もあります。

まず、年間110万円を超えたら相続税の申告が必要になるうえに、110万円を超えた部分についてはは相続開始前の期間に関係なく相続財産に加算しなくてはいけません。

加えて、どこまでが基礎控除の範囲で、どこからが相続税の対象になるのか把握する必要があります。把握が不十分だと、相続が発生した際に相続財産に加算すべき贈与財産の計上漏れ・過大計上が生じるので注意しなくてはいけません。

申告手続きの手間がかかる

相続時申告加算制度を利用する際は、確定申告を行う際に、以下の書類も提出しなくてはいけません。

  •  贈与税の申告書
  •  相続時精算課税選択届出書
  •  贈与を受ける人の戸籍謄本または戸籍抄本
  •  贈与を受けた人が18歳に達した時以後の住所がわかるもの
  •  贈与した人の住民票または戸籍の附票

手配に手間がかかるものもあるので、確定申告に間に合うよう、余裕を持って準備しましょう。

相続税が発生する場合がある

相続時精算課税制度を使っても、相続税が発生する場合があることに注意が必要です。相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行ったとしても、相続が発生したときは生前贈与を受けた分を相続財産に含めて相続税を計算しなくてはいけません。

これを持ち戻し計算といいます。持ち戻し計算を行った結果、相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超えていた場合は、相続税を支払わなくてはいけません。なお、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。

小規模宅地等の特例が使用できなくなる

相続時精算課税制度を使った場合、小規模宅地等の特例が使えなくなります。

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方のご自宅や事業に使っていた宅地について、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。評価額が大幅に減るため、結果として相続税も抑えられます。

なお、減額できる割合は宅地を何に使っていたのかによって決まる仕組みです。

宅地等の利用区分上限面積減額割合
特定居住用宅地等
(ご自宅の土地等)
300m280%
特定事業用宅地等 (事業用の土地:工場・お店など)400m280%
貸付事業用宅地等 (賃貸住宅の土地:アパート・駐車場など)200m250%

事業を営んでいたり、相応の広さがあったりする宅地を有している場合はあえて相続時精算課税制度を使わず、小規模宅地等の特例を使える余地を残しておくのも選択肢のひとつです。

不動産の生前贈与はコストがかかる場合がある

不動産を生前に贈与した場合、贈与税・相続税以外にも以下のコストがかかります。

不動産取得税  不動産を取得した者に対し、その不動産のある都道府県に対して支払う税金のこと。税率は原則4%だが、土地及び住宅取得にかかる税率は3%に軽減されている。
登録免許税  不動産を取得した者が、名義変更を行うために国に納める税金。生前贈与の場合は固定資産評価額の2%。
専門家への報酬税理士・司法書士などに支払う。金額はそれぞれの専門家により違うので要確認。

ある程度まとまった金額が必要な点に注意しましょう。

相続時精算課税制度を使うべき場合とは

相続時精算課税制度を使うべき場合とは

ここまでの話を踏まえて、相続時精算課税制度を使うべき具体的なケースとして、以下の6つを紹介します。

相続財産が基礎控除の範囲内の場合

相続時に生前贈与で特別控除の対象となった額と持ち戻した相続財産の総額が相続税の基礎控除額以内の場合には、相続時精算課税制度を利用しましょう。基礎控除額を超えていない以上、相続が発生したとしても相続税を支払う必要がないためです。

110万円以上の贈与をすでにしている場合

その年の1月1日から12月31日までの期間に、すでに110万円以上の贈与をしていた場合は、暦年控除の基礎控除からも外れてしまいます。状況次第では相続時精算課税制度を使うほうが支払うべき贈与税・相続税の総額が安くなるかもしれません。

ただし、実際にお得になるかどうかは個々の状況により異なるため、専門家に相談のうえ、シミュレーションをしてみましょう。

収益物件や値上がりしそうな物件を持っている場合

前述したとおり、収益物件や値上がりしそうな物件・金融資産を持っている場合は、相続時精算課税制度を使い生前贈与をしておくと節税につながる可能性があります。

ただし、将来的に値下がりした場合でも、相続時には贈与時の価格で評価されるため、かえって損をする可能性がある点に注意が必要です。

贈与時に価値が下がっている資産を持っている場合

贈与時に価値が下がっている資産を持っている場合も、相続時精算課税制度を使う余地はあります。例えば、5,000万円で購入した株式が3,000万円までに価値が下がってしまったとしましょう。

このときに相続時精査課税制度を使って生前贈与をしておけば、相続時には贈与時の価格の3,000万円で評価されるため、結果として節税につながるはずです。ただし、相続時にさらに価値が下がってしまった場合、相続税額が高くなるリスクもあるので注意が必要です。

事業継承をしたい場合

親族内で事業承継をする際、会社規模の財産を贈与・相続することになるため、到底110万円では足りません。このような場合も、相続時精算課税制度を使えば節税につながります。

例えば、自社株式の評価額が大きく目減りしているタイミングで相続時精算課税制度を使って生前贈与すれば、相続発生時には株価が回復したとしても、相続税額の計算は生前贈与をしたときの株価に基づいて行われるため、節税につながります。

相続時に親族間でトラブルが起きそうな場合

事前に相続時のトラブルが起こる可能性が高いと分かっている場合には、相続時精算課税制度によって生前贈与しておくと争いを防げます。

例えば「長男には持ち家があるので、自宅は賃貸に住んでいる次男に継がせたい」と考えたとしましょう。

この場合、ご自宅を生前贈与すれば、確実に引き継ぐことができます。ただし、やり方次第では他の方が不公平感を覚え、将来相続が発生したときにも遺産分割協議が紛糾する可能性もあるので注意してください。

生前贈与以外なら家族信託もおすすめ

生前贈与以外なら家族信託もおすすめ

相続時精算課税制度は便利な制度ですが、節税対策として使うのは難しいです。また、生前贈与そのものにも一定のデメリットがあり、万能の手段とはいえません。親世代から子世代にスムーズに財産を引き継ぎたいなら、家族信託も選択肢にいれましょう。

家族信託とは、信頼できるご家族にご自身の財産の管理・処分を任せる契約を結ぶことで、民事信託と呼ばれることもあります。例えば、以下の図のようにお父さまが委託者兼受益者となり、お子さんが受託者となる契約を結びます。

家族信託の大きなメリットは、ご自身が元気なうちに、ご意向に沿う形で財産管理をご家族に任せられることです。また、成年後見制度に比べ、財産の管理・処分が自由に行えます。

ただし、家族信託契約を締結するにあたっては、後々トラブルが起きないよう専門家のサポートが必要不可欠です。弁護士や司法書士などに相談することが考えられますが、報酬も決して安くはありません。ファミトラでは、弁護士監修のシステムを使い、コンサルタントがサポートしながら進めることで低価格での家族信託の利用を可能にしました。

ファミトラでは無料相談も対応してくれるため、「家族信託に興味があるけど、費用が高そうで心配」という方や、「そもそも家族信託が自分に必要かわからない」という方は、1度無料相談をしてみるのも良いかもしれません。

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おわりに

相続時精算課税制度は生前贈与を行った場合、課税の繰り延べができるというメリットがあります。ただし、向いている場合とそうでない場合があるので「我が家の場合はどちらを使うべきか」を慎重に考えなくてはいけません。向いているかどうかの判断には、専門的な知識も必要になるため、早い段階で税理士に相談しましょう。

生前贈与にこだわらずスムーズに財産の承継を行いたいなら、家族信託を検討してみるのも選択肢のひとつです。実際に動く必要がなかったとしても、早い段階で下調べだけは始めておくのをおすすめします。

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