相続に関して、実子や配偶者以外に財産を相続させたいと考える方もいらっしゃるでしょう。例えば、孫や実子の配偶者、再婚した配偶者の連れ子などです。その際に養子縁組は有効な制度ですが、注意も必要です。この記事では、養子縁組の制度を活用した節税を考えている方に、具体的にどのような方が有効なのか、メリット・デメリットも踏まえて解説します。
(本記事は2024年7月22日時点の情報です)
- 養子縁組をすることで財産を相続させたい方に確実に渡せるようになる
- 養子縁組をすることで節税ができる仕組み、得られる3つのメリット
- 節税になるシステムではあるが、手続きや相続人に配慮が必要!注意点もあるので専門家への相談がおすすめ
そもそも養子縁組とは?
養子縁組とは法律により血縁と同様の親子関係を発生させる制度のことです。養子縁組をした場合、養子も相続権を持ち、相続順位と割合は実子と同様です。
また、養子縁組の方法には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。詳しくは以下で解説します。
普通養子縁組と特別養子縁組の違い
普通養子縁組は養親と養子の合意によって成立します。普通養子縁組をするには、以下の条件を満たす必要があります。
- 養親が成年者であること
- 養子が養親の尊属(祖父母など自分より上の世代の血族)ではないこと
- 養子が養親より年長者でないこと
- 未成年者を養子にする場合は家庭裁判所の許可があること
また、普通養子縁組をしても実親からの相続権は継続します。
特別養子縁組は、家庭裁判所の審判によって成立します。特別養子縁組は、実親が子どもを育てられなくなった場合の救済措置として行われる側面があります。また、特別養子縁組をすると養子の実親との親子関係は終了し、実親からの相続権は失われます。
どちらも相続の割合や順位は実子と同じ
相続税法上では、血族の相続人順位が定められており、養子も実子も等しく親子関係を結んでいます。普通養子縁組でも特別養子縁組でも、相続の順位や割合において違いはありません。
相続のためだけに養子縁組をするのであれば普通養子縁組が一般的です。
相続対策における養子縁組のおもなパターンは3つ
相続対策における養子縁組のおもな3つのパターンを解説します。
再婚した相手の連れ子を養子にする
再婚した妻や夫の連れ子とは同居をしていたとしても血縁関係がないため、養子縁組をしないと相続人にはなりません。再婚により親子関係が自動的に発生すると考えがちですが、養子縁組の手続きをしなければ法律上の親子関係は成立せず、相続人にはならないのです。実子と連れ子が兄弟姉妹になるので、関係性に注意する必要もあります。
子どもの配偶者を養子にする
介護を献身的にしてくれた恩返しとして嫁に財産を渡したいという場合、子どもの配偶者を養子にすることで、法律上確実に相続権が与えられます。
養子縁組をしなくても、生前に介護などで被相続人への貢献があると、特別寄与料として寄与の程度に応じた請求ができます。
しかし、寄与料の算定が難しく、確実に認められるということではないので、財産を渡したいのであれば養子縁組が確実です。
孫を養子にする
通常、孫は法定相続人ではありません。しかし、養子縁組をすることで実子と同じ第1順位の法定相続人になります。孫に財産を渡す場合、生前贈与を活用することもできますが、1年間の非課税枠が110万円までということもあり、孫に確実に相続権を与えるために養子縁組をするケースもあります。
養子縁組はなぜ相続税対策になる?3つのメリット
ここでは養子縁組をするとなぜ節税対策になるのかを3つのメリットから解説します。
基礎控除額が増えるため
1つ目のメリットは相続税の基礎控除額が増えることです。相続が発生して財産を取得した相続人は、取得した相続財産額によって相続税を納める必要があります。この相続税の算定では基礎控除という負担を軽減できる制度があり、課税される相続財産の合計額から一定額を差し引くことが可能です。
相続税は遺産の総額から基礎控除額を差し引いた金額にかかります。遺産総額は被相続人のプラスの財産からマイナスの財産を引いた金額です。
基礎控除額の計算方法 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例えば、配偶者と子ども3人が法定相続人の場合、3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円となり、5,400万円を基礎控除額として課税される相続財産の合計額から差し引くことができます。養子縁組により、法定相続人の数が増えるほど基礎控除額が大きくなり、相続税の課税対象が減少するため、相続税率を低くすることができます。
遺産総額が基礎控除額を超えなければ、相続税の納税や申告は不要です。
生命保険金や死亡退職金の非課税枠が増えるため
2つ目のメリットは生命保険や死亡退職金の非課税枠が増えることです。相続税の計算をする上で、生命保険金と死亡退職金には非課税枠があります。
非課税枠の計算式 500万円×法定相続人の数
例えば法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人である場合、非課税枠は1,500万円となります。こちらも養子縁組により法定相続人の数が増えれば非課税枠が増えます。
1回の課税で孫に相続ができるため
3つ目のメリットは1回の課税で孫に相続ができることです。
本来は親から子、子から孫という2回の相続でそれぞれに相続税が課税されますが、自分の孫を養子にすることで一世代分の相続が不要となり、1回の相続で済ませることができます。
相続税対策で養子縁組する注意点
相続税対策で養子縁組するときにメリットがある側面、注意が必要な点もあります。
孫養子のケースなどは相続税が2割加算になる
上記に記載したように、孫を養子にする場合、本来2回分であった相続が1度になることが考慮され、相続税額に原則として2割加算が適用されます。例外として実子が孫よりも先に亡くなり、孫が代襲相続人になった場合は2割加算の対象外になります。孫と養子縁組をするメリットとどちらが特になるかを事前にシミュレーションする必要があります。
ひとりあたりの相続分が減るのでトラブルになりやすい
養子縁組により法定相続人が増えるため、ひとりあたりの相続分が減少します。
例を挙げて解説します。なお、法定相続分は民法で定められています。(民法第900条)
- 遺産総額3,000万円、法定相続人が4人(配偶者+実子3人)の場合
配偶者:1,500万円(配分比1/2) 実子:500万円(配分比1/6)
- 遺産総額3,000万円、法定相続人が5人(配偶者+実子3人+養子1人)の場合
配偶者:1,500万円(配分比1/2) 実子:375万円(配分比1/8) 養子:375万円(配分比1/8)
相続税の節税の効果はあるものの、自分の取り分が減るので実子からすると養子を快く思わずにトラブルになるケースもあるので注意が必要です。
ごくまれに相続税が増える場合がある
まれなケースではありますが、養子縁組をすることで法定相続の順位が入れ替わり、法定相続人が減り、相続税が増えることがあります。法定相続人にあたる方すべてが相続できるわけではなく、法定相続人の間で優先順位が決められています。(民法887条、889条、890条)
例として、子どもが居ない夫婦の場合の相続順位を考えてみましょう。通常であれば、配偶者と両親、両親が既に亡くなっている場合は配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となります。また、兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合には、その子どもが代襲相続するため、相続人の人数が増えることがあります。甥、しかし、養子縁組をすることで法定相続人は、配偶者と子ども(養子)だけになるため、法定相続人の人数が減り、相続税が増えるケースがあります。
相続税対策のためだけの養子縁組は認められない場合も
節税対策のためだけに養子縁組を行うことは、法的に認められない場合があります。養子縁組は親子関係を法的に成立させる制度であるため、純粋に節税目的で行うことは問題視されることがあります。節税目的での養子縁組は法的な要件を見たしていない場合、無効とされることがあります。
また、被相続人が亡くなる直前に養子縁組したケースなどは相続税を不当に減らす目的で養子縁組を行ったとみなされ、法定相続人として認められないケースがあります。
養子にできる人数には限りがある
相続税上、無制限に非課税枠が増えることを防止するために法定相続人として計算できる養子の数に制限があります。普通養子については、非相続人の実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと決まっています。
特別養子の場合は条件を経て、養子縁組自体に相当の必要性が認められているので、税法上決められている人数に縛りがなく、養子縁組の人数分、法定相続人数として計算できます。
養子縁組するためには?
普通養子縁組の場合
【手続き】
基本的に当事者(養親と養子)の合意を経て、養子縁組届を提出することで完了します。ただし、養子が18歳未満の場合には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。また、養子が15歳未満の場合、養親は養子の法定代理人との間で合意します。養親または養子に配偶者がいる場合は、原則として配偶者の同意も必要です。
18歳未満の未成年者を養子にする場合、家庭裁判所で養子縁組の許可審判を得る必要があります。家庭裁判所は養子を保護するため、養子縁組の目的や養子縁後の生活基盤等を調べ、養子となる未成年者にとって問題が起きないかを判断しています。
なお、養子が配偶者の連れ子や養親の孫である場合、家庭裁判所の許可は不要です。養子縁組に必要な書類をそろえて、必要事項を記入し養親と養子の本籍地か所在地の役所へ提出することで普通養子縁組が成立します。
【費用】
普通養子縁組にかかる費用は0円から数千円程度です。成人を養子にする場合は、役所に提出するための戸籍謄本の手数料程度です。養親、養子の本籍地の役所に届出をする場合には戸籍謄本の提出が不要になる場合もあり、この場合の費用は発生しません。未成年を養子にする場合は家庭裁判所の審判を受けるために収入印紙代、郵便切手代などがかかります。
参照元:裁判所|養子縁組許可
特別養子縁組の場合
【手続き】
特別養子縁組は子どもの福祉を目的として実親と養子との親子関係を終了させるという強い効果があるため、裁判所の審判をうける必要があります。特別養子縁組の手続きでは、家庭裁判所による審判は2段階あります。
まず、養親は家庭裁判所に対して①特別養子連絡確認の審判、②特別養子縁組成立の審判を同時に申し立てます。次に家庭裁判所により養親への意思確認や調査、養子縁組を斡旋した機関に対する調査や意見の聞き取りなどを行います。そして家庭裁判所は調査結果をもとに、申し立てられた養子縁組が監護期間以外の条件を満たしているかを判断します。
条件を満たしていると判断された場合、特別養子適格が認められ、養親となるものが養子となるものを6か月以上試験養育する必要があります。この期間で養親となるものの能力や養子となるものの相性などが判断されます。家庭裁判所が特別養子縁組の成立を認める審判をした場合、特別養子縁組が成立します。
最後に養父母は、特別養子縁組成立の審判がされてから10日以内に養親と養子の本籍地または所在地の役所に特別養子縁組の養子縁組届を提出します。
【費用】
特別養子縁組の場合、家庭裁判所に審判の申し立てを行う必要があり、1万数千円程度の費用が必要です。費用の内訳は戸籍謄本(450円)、審判申し立ての収入印紙代(800円/養子1人あたり)、連絡用の郵便切手代(5,000円〜1万円程度)です。郵便切手はあらかじめ一定金額分を家庭裁判所に納める必要があります。手続き完了後、余った郵便切手は返されます。
参考:政府広報オンライン|特別養子縁組や里親制度をご存知ですか?すべてのこどもが健やかに育つ環境を 裁判所|特別養子適格の確認・特別養子縁組成立
相続税対策のお悩みはプロへの相談がおすすめ
このように養子縁組による相続税対策は、節税効果もありますが、デメリットも多くあります。養子縁組でメリットのある相続をしたいなら専門家に相談するのがおすすめです。相続に際して最大限の節税をするにはどのようにしたらいいのか、トラブル回避のためにどのような対策をしておく必要があるのかとなどの疑問にもプロならではのアドバイスが期待できるでしょう。
セゾンの相続対策サポートでは、相続に強い専門家との提携により、相続前だけでなく、相続時、相続後のサポートも可能です。相続される方、相続を受ける方も安心出来る、相続対策にはセゾンの相続対策サポートが大変オススメです。
おわりに
養子縁組で節税できるとよく聞くけれど具体的にはどうなの?と考えている方も多いはず。養子縁組を活用して、節税できる相続は可能です。注意点はもちろんありますが、本記事を参照して、よりよい相続の準備をしましょう。