遺言を作成したいが、高齢や病気で筆記具がしっかり持てないときには、どうすればいいのでしょうか。自筆証書遺言は、全文を自筆で作成する遺言であり、代筆による遺言は無効です。そのため、口述により遺言を作成したい場合には、公正証書遺言を選択することになります。遺言が自筆できない場合の対処法について紹介していきましょう。
- 自筆証書遺言は、財産目録を除き、すべて自筆で作成しなければならない。
- 代筆や添え手をした自筆証書遺言は無効になる。
- 自筆証書遺言の代筆や添え手をした者は相続人としての地位を失う。
- 自筆が困難な場合は公正証書遺言が適切である。
自筆証書遺言の代筆は有効?無効?
自筆証書遺言は、全文を自筆で作成する遺言書です。いつでも自分の意思で書くことでき、証人もいらないので、簡単で費用もかかりません。
しかし、法律で定められたとおりに作成しないと無効になります。また作成後は遺言者自らが管理するので、保管した場所が分からなかったり、改ざんされたりするリスクがあります。
ただし、これらのリスクは、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで補うことができます。自筆証書遺言書を法務局が保管する制度で、原本を法務局に保管するので紛失したり改ざんされたりすることはありません。また、申請の際には法務局の職員が形式のチェックをするので、形式上で無効になる可能性はほとんどありません。
自筆証書遺言(本文)の代筆はNG
自筆証書遺言は、財産目録を除き、すべて自筆で作成しなければなりません。パソコンで作成したものや遺言者の口述を一言一句正確に書き取ったものも無効です。動画や録音による遺言も法的に効力はありません。
問題になるのは、高齢などの理由でうまく筆記具が扱えないような場合です。他の方が手を添えて書いたものは、たとえ本人の意思によって書かれても原則として無効になります。
財産目録は代筆OK
自筆証書遺言は、すべて自筆で作成しなければなりませんが、2019年1月の法改正により、財産目録については、パソコンによる作成や代筆が可能になりました。
財産目録とは、被相続人の財産の内容を一覧にしたものです。 預貯金や不動産などの財産を記述し、財産の名称だけでなく、種類、数量、所在、価額などでその財産が特定できるように記載します。
ただし、自筆でない財産目録は各ページに自筆の署名と捺印が必要です。署名などがない場合は無効になります。
自筆証書遺言の代筆・添え手が発覚した場合のペナルティ
遺言の書き方は法律で厳格に定められており、違反すれば無効になります。自筆証書遺言は自筆によるとされていますので、代筆や添え手が発覚すれば無効になります。
また、遺言の偽造に関わった方に対しても、ペナルティがあります。民法では遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者は、相続人になれないとしており、代筆や添え手が発覚すれば相続人としての地位を失います。
さらに刑法では、私文書偽造罪・変造罪として罪に問われることになり、3カ月以上5年以下の懲役が科されます。
自筆が困難な場合は「公正証書遺言」がおすすめ
自筆が困難な場合は公正証書遺言が適しています。公正証書遺言は、口頭で述べた遺言を公証人が遺言書として作成します。公正証書遺言はどのようにして作成するのか紹介していきましょう。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証人に遺言の趣旨を口頭で述べ、それに基づき公証人が遺言書を作成します。この場に立ち会う証人が2名以上必要です。証人は遺言者が亡くなったときに相続人や受遺者になる方は外されるため、利害関係のない第三者が選ばれます。証人の目当てがない場合は、公証役場の方から紹介してもらえます。
遺言の原本は公証役場で保管されるので、改ざんや紛失のリスクはありません。また遺言は公証人が記述してくれるため自筆する必要はありません。
公正証書遺言作成の流れ
公正証書遺言は、口述により公証人が遺言書を作成する制度ですが、実務上は口述に至るまでに様々な準備が必要になります。通常、次のような流れで作成します。
- 公証人に遺言の相談をして作成を依頼する
遺言者が直接、公証役場に電話などで予約をして公証役場を訪ねます。その際に、公証人に直接、遺言の相談や遺言書作成の依頼をします。 - 相続内容を記載したメモや必要資料を提出する
遺言書の作成に際しては、貯金や不動産などの相続内容や相続人の配分などを記載したメモを公証人に提出します。提出方法は、メール送信、ファクス送信、郵送などが選択できます。また、合わせて遺言者本人の確認書類などの必要書類を提出します。 - 公正証書遺言(案)の提示と修正をする
提出されたメモや必要資料に基づき作成された、公正証書遺言(案)が、公証人よりメールなどで遺言者に提示されます。
遺言者が確認をして、修正したい箇所を示すと、公証人が公正証書遺言(案)を修正し、その後確定します。 - 公正証書遺言の作成日時を確定する
公正証書遺言(案)が確定すると、公証人と遺言者との間で調整をして、遺言者が公正証書遺言をする日時を確定します。 - 公正証書遺言を作成する
遺言当日は、遺言者本人が公証人に対し遺言の内容を口頭で告げます。これに証人2名が立会います。公証人は公正証書遺言の原本を、遺言者および証人2名に読み聞かせ、遺言の内容に間違いがないことを確認してもらいます。
遺言の内容に間違いがなければ、遺言者および証人2名が、公正証書遺言の原本に署名し、押印をします。
公証人が、遺言公正証書の原本に署名し、職印を押捺すれば、公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言作成に必要な資料・書類
公正証書遺言の作成では、次のような資料が必要となります。
- 遺言者本人の3カ月以内に発行された印鑑登録証明書
- 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
- 預貯金通帳等またはその通帳のコピー
- 遺言者が証人を用意する場合は、証人予定者の氏名、住所、生年月日および職業を書いたメモ
公正証書遺言作成にかかる手数料
公正証書遺言の作成にかかる手数料は、遺言の目的である財産の価額に対応する形で定められています。ただし、相談は、すべて無料です。
手数料は次のとおりです。
財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え10000万円以下 | 17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
番外編|秘密証書遺言も自筆不要
秘密証書遺言は、内容を秘密にする遺言書です。
秘密証書遺言は、パソコンや代筆でも作成できますが、証書に遺言者の署名・捺印が必要です。証書に捺印したものと同じ印で封印した封筒の中に、遺言書が入っていることを公正証書の手続きで証明します。この場合、2名の証人が必要です。
秘密性の高い遺言ですが、公証人が作成するのは遺言書の封紙面だけなので、内容が無効になることがあります。公証役場には、遺言書の封紙の控えだけが保管されるため、隠とくや破棄などのリスクがあります。開封に際しては、家庭裁判所の検認をうける必要があります。
公証役場で手続きをすることや証人が2名以上必要な点は公正証書遺言と変わらないため、公正証書遺言を作成する方が効率的だと考える方が多数です。そのため。秘密証書遺言を選択される方はほとんどいません。
遺言書作成や代筆に関するQ&A
遺言書の作成に際しては、法律に厳格に定められています。せっかく作成した遺言書が無効にならないよう、遺言書作成の代筆や読めない場合の対応についてQ&A形式で解説していきましょう。
本当に手を添える程度のサポートもしてはいけない?
添え手による遺言書作成の補助については判例があります。最高裁判例(昭和62年10月8日)では、次のような見解が示されています。
- 遺言者が証書作成時に自書能力を有すること
- 他人の添え手が、単に始筆、改行、字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、または遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること
- 添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡の上で判定できること
これらのすべての要件に該当すると認められる場合に、有効な自筆証書遺言となるとされています。しかし、遺言者の手の動きが本当に遺言者の望みにまかされているか否かの判断は大変難しいものであり、有効だとの思い込みだけで遺言書を作成しても、他の相続人から無効を主張されるリスクがあります。
遺言者の自筆が困難であれば、公正証書遺言を選択した方が安心です。
遺言書の文字が読めない場合はどうなる?
遺言書が判読できない理由として、遺言書の摩滅・汚損により文字が読めないケースがあります。あるいは、あまりにも乱筆で文字自体が判読できないというケースが考えられます。
摩滅・汚損している文字については、科学鑑定に委ねる方法があります。また、崩れた字で判読困難であっても、草書体や慣用の崩しであれば専門家による鑑定で判読は可能です。さらに筆跡鑑定により判読する方法もあります。しかし、あまりにも乱筆でまったく判読できない場合は、遺言者の意思表示が未完であるとして無効になります。
せっかくの遺言書が無効にならないためにも、遺言書の保管状態や遺言者の筆跡に不安がある場合には、公正証書遺言が安心です。
病気で動けないときは公正証書遺言は作成できない?
公正証書遺言は、遺言者が公証役場に出向き、公証人の前で遺言を口述し、それをもとに作成してもらう遺言書です。それでは、遺言者が病気などの理由で公証役場に行けないときはどうなるのでしょうか。
その場合、公証人に出張をしてもらう方法があります。自宅や入院先の病院にも出張してもらえますから、相談の際に公証役場に行けない旨を伝えてください。
公証人に出張してもらう場合は、公証人の旅費や日当がかかります。また公正証書遺言作成にかかる費用も加算されます。
遺言書作成を考えたらセゾンの相続「遺言サポート」へ
遺言者が高齢や病気が原因で自筆が困難な場合は、公正証書遺言を選択する方法があります。公正証書遺言は、遺言者自らが公証役場に出向き、公証人と相談をしながら作成をすることができます。
しかし、公証人への相談の際には、貯金や不動産などの相続内容や相続人の配分などを記載したメモを公証人に提示する必要があります。自分の財産がどれだけあるのかを正しく記載するためには、専門的な知識を要することもあり、想定以上に困難な作業になることがあります。
セゾンの相続では、遺言書作成を得意とする司法書士と提携しているため、信頼できる専門家から最適なプランの提案を受けることができます。無料相談から開始できますのでお気軽にご利用ください。
おわりに
自筆証書遺言は、全文を自筆で作成する遺言書です。いつでも自分の意思で書くことでき、証人もいらないので、簡単で費用もかからないことから、この方法を選択される方は少なくありません。しかし、高齢や病気で自筆が困難な場合は、代筆が認められないため作成が極めて困難になります。
自筆が困難な場合は、公正証書遺言が適しています。遺言者の口述から遺言書を作成してもらえるので、自筆が困難になった場合でも法的に有効な遺言書が作成できます。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。