「事業の運転資金はどれぐらい必要?」「運転資金を調達するにはどうすればいい?」など、疑問をお持ちの経営者の方は多いでしょう。運転資金は事業運営において非常に重要であり、不足すると黒字でも倒産してしまうことがあります。
このコラムでは、運転資金の種類や必要額の目安、融資をはじめとする資金の調達方法などを解説します。運転資金についてお困りの方はぜひ参考にしてください。
(本記事は2024年9月5日時点の情報です)
- 運転資金は「経常運転資金」「増加運転資金」「減少運転資金」「季節運転資金」の4種類
- 運転資金の計算方法は、大まかな必要額を算出できる「在高方式」と、より正確な金額を把握できる「回転期間方式」の2つ
- 運転資金として必要な金額の目安は3~6カ月分
- 運転資金の調達方法は「融資を受ける」「出資を受ける」「助成金を活用する」の3つ
運転資金とは会社の運営に必要な費用
運転資金とは、会社の運営で恒常的に発生する費用の支払いに充てるためのお金です。まずは、運転資金の種類や考え方について解説します。
運転資金の種類
運転資金には次の4種類があります。
【運転資金の種類】
- 経常運転資金
- 増加運転資金
- 減少運転資金
- 季節運転資金
それぞれどういう資金なのか見ていきましょう。
人件費や仕入費などの「経常運転資金」
経常運転資金とは、事業運営において日常的に必要となる資金です。「正常運転資金」とも呼ばれます。単に「運転資金」という場合、通常はこの経常運転資金のことです。
経常運転資金の主な費用は、以下のとおりです。
- 従業員の給与などの人件費
- 商品や原材料の仕入費
- 家賃などの事務所運営にかかる経費
上記のほかにも、事業活動の維持・継続のために不可欠な費用全般が該当します。
企業活動においては、売上代金が入金されるまでに数カ月程度かかることも珍しくありません。入金前に経常運転資金が足りなくなると仕入費などが払えなくなり、黒字倒産することもあるため注意が必要です。
事業拡大に伴う「増加運転資金」
増加運転資金とは、事業を拡大するときに必要となる資金です。事業拡大局面では、次のような場面で追加費用が発生します。
- 商品や原材料の仕入れ強化
- 新規事業展開
- 新商品の開発
- 新たな人材の獲得
- 事業所の増設
事業拡大に取り組んでも、短期間で売上をアップさせるのは難しいため、通常は投資資金の回収に時間がかかります。自己資金だけで増加運転資金を準備するのが難しい場合は、資金調達が必要になるでしょう。
事業縮小のための「減少運転資金」
減少運転資金とは、事業を縮小するときに必要な資金です。一部の事務所や店舗を閉鎖する場合は、解約費用や在庫・備品などの処分費用、引っ越し代などがかかります。人員削減を実施すれば、退職金の増額が必要になるかもしれません。
業績悪化が原因で事業を縮小するケースでは、仕入費や人件費が売上減少前の水準のままになっていることがあります。現状の売上に対して過大な費用がかかっている場合も、減少運転資金が必要になるでしょう。
ボーナスなどの「季節運転資金」
季節運転資金とは、毎年決まった時期に必要となる資金です。代表的なものとして、従業員に年1~2回支払う賞与が挙げられます。
また、エアコンやおせち料理、ランドセルのような季節商品を扱う事業者が必要な資金も該当します。
こうした季節商品の場合、需要の増加に合わせて商品を提供する必要があるため、仕入や製造量を増やすタイミングでまとまった費用が発生します。代金回収までに資金繰りが悪化しないよう、計画的に資金を準備することが大切です。
運転資金には固定費と変動費がある
運転資金は、費用の発生の仕方によって「固定費」と「変動費」の2つに分けられます。それぞれの意味や特徴について確認していきましょう。
賃貸費用などの固定費
固定費とは、売上の増減に関係なくかかる費用です。例えば、事務所の賃料やリース料などが該当します。これらは売上が変動しても毎月一定額の支払いが発生するため、固定費に分類されます。
固定費は売上が大きく減少したり、赤字になったりしたときも発生するため、事業が不調なときには大きな負担となりかねません。
材料費・賃金などの変動費
変動費とは、売上の増減によって金額が変動する費用です。材料費や仕入費、賃金などが代表的です。
商品が多く売れるときは生産量が増えるため、仕入費や人件費も増えます。反対に、あまり売れないときは生産量が減少するため、仕入費・人件費も減ることになるでしょう。
設備資金は運転資金に含まれないので注意
設備資金とは、事業のための資産購入に必要なお金です。例えば、機械や設備、事業用車両などの購入資金、工場の建築資金などが該当します。
運転資金と混同されがちですが、設備資金は運転資金には含まれません。運転資金として融資を受けたお金を設備資金に充てると資金使途違反となり、一括返済を求められる可能性もあるので注意しましょう。
どれくらいの運転資金が必要?
運転資金はどれくらい確保しておけば良いのでしょうか。ここでは、運転資金不足になる理由と必要額の計算方法をご紹介します。
そもそもなぜ運転資金不足になるのか?
運転資金不足になる原因として、例えば以下のことが挙げられます。
- 売上の増減
- 急なプロジェクト
- 棚卸資産の長期保有
売上が増えると連動して仕入費や人件費も増えますが、売上が減ると固定費の負担が大きくなります。特に売上が急激に増減したときは、運転資金が不足しやすいため注意が必要です。
急にプロジェクトが立ち上がると、予定外の支出が増えることがあります。計画的に資金を準備しておかないと、運転資金不足に陥る可能性があるでしょう。
また、棚卸資産の長期保有は、仕入れた商品を出荷して代金を回収するまでに時間がかかります。倉庫の保管料など、在庫を維持するための費用も増えるため、資金繰りを悪化させる要因となりかねません。
運転資金不足を回避するには、融資の検討や固定費の見直し、資金計画を立てるなど、早めの資金調達が必要です。
運転資金の計算方法は2種類
運転資金の計算方法は、以下の2種類です。
- 在高(ありだか)方式
- 回転期間方式
運転資金が底をつくことがないように、必要額の計算方法を理解しておきましょう。
手元にある資産を算出する「在高方式」
在高方式とは、現在保有している資産や負債から必要な運転資金を計算する方法です。計算式は以下のとおりです。
運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
- 売上債権:商品・サービスの販売によって生じる債権(売掛金、受取手形など)
- 棚卸資産:販売目的で保有している在庫(商品、原材料など)
- 買入債務:支払義務のある債務(買掛金、支払手形など)
現金化される予定の資産(売上債権と棚卸資産)から、これから支払う負債(買入債務)を差し引くことによって、経常運転資金の大まかな必要額を把握できます。
【計算例:売上債権600万円、棚卸資産300万円、仕入債務400万円の場合】
売上債権600万円+棚卸資産300万円-買入債務400万円=運転資金500万円
業種や財務状況などによって異なりますが、運転資金の必要額は3~6カ月分が目安です。
何日間にいくら必要か算出する「回転期間方式」
回転期間方式とは、何日間に運転資金がいくら必要か算出する方法です。
回転期間とは、資産や負債が1回転して元の状態に戻るまでの期間です。売上は商品を販売して代金を回収するまで、棚卸資産は在庫を出荷して代金を回収するまで、仕入は商品を仕入れてから代金を支払うまでの期間を指します。
計算式は以下のとおりです。
運転資金=平均月商×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)
- 平均月商:1年間の売上高÷12カ月
- 売上債権回転期間:(売上金+受取手形)÷1カ月あたりの売上高
- 棚卸資産回転期間:棚卸資産÷1カ月あたりの売上原価
- 買入債務回転期間:(買掛金+支払手形)÷1カ月あたりの売上原価
より正確に運転資金の必要額を把握したい場合は、回転期間方式で計算すると良いでしょう。
運転資金の調達方法【1】融資を受ける
運転資金の融資を受ける場合、調達先として考えられるのは以下の4つです。
【運転資金の調達先】
- 日本政策金融公庫
- 自治体の制度
- 銀行や信用金庫・政府系金融機関
- ビジネスローン
それぞれ詳しく解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、政府が100%出資している政府系金融機関です。
一般的な金融機関では、実績がない事業者への融資は審査が厳しく、希望通りの金額を借りるのは容易ではありません。
日本政策金融公庫であれば、創業・スタートアップを支援するための「新創業融資制度」を取り扱っています。新たに開業する方、事業開始後2期以内の方を対象としており、無担保・無保証で最高3,000万円(うち運転資金は1,500万円)まで融資を受けることが可能です。
自治体の制度
都道府県や市区町村の融資制度を利用して、運転資金を調達する方法です。自治体と金融機関、信用保証協会の3社が連携して融資を行っており、無担保・無保証で借り入れができます。
例えば、東京都では、都内の中小企業や個人事業主を対象に創業融資を実施。一定の要件を満たせば、融資利率の優遇を受けられる「創業支援特例」も用意されています。
自治体の融資制度を検討する場合は、事務所が所在する都道府県や市区町村の窓口に問い合わせ、制度の有無を確認すると良いでしょう。
銀行や信用金庫・政府系金融機関
銀行や信用金庫などの民間金融機関、商工組合中央金庫などの政府系金融機関から融資を受ける方法です。一般的な資金調達方法であり、多くの中小企業が銀行から融資を受けています。銀行からの融資は金利が低く、まとまった金額を借りられるのがメリットです。
一方で、銀行は融資審査が比較的厳しく、銀行との取引実績がない企業や創業間もない企業だと融資を受けられないケースもあります。審査基準は金融機関によって異なるため、まずは相談してみると良いでしょう。
信用金庫は中小企業や個人事業主を中心に取引を行っているため、銀行よりも審査に通りやすいのが特徴です。
ビジネスローン
ビジネスローンとは、ノンバンクが提供している事業者向けの融資です。銀行ほど審査が厳しくなく、スピーディーに資金調達できる特徴があります。「売上代金が入金される前に仕入費や外注費を支払わなくてはならない」など、急ぎで運転資金が必要な場合に適した融資方法です。
所有している不動産があれば、不動産担保ローンがおすすめです。不動産担保ローンとは、不動産を担保に融資を受けるローンのこと。通常は、不動産の担保価値と申込者の返済能力によって融資限度額が決定されます。
「セゾンファンデックス 事業者向け不動産担保ローン」では、法人・代表者が所有する不動産に加えて、そのご親族の所有不動産も担保にできます。抵当権は二番抵当にも対応可能で、全国に対応。年間4,000件以上の申込実績があります(2023年度実績)。運転資金でお困りの場合は、お気軽にご相談ください。
運転資金の調達方法【2】出資を受ける
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資も運転資金調達の選択肢のひとつです。VCは主に成長性の高い新興企業に投資する機関で、資金提供だけでなく経営支援も行います。
VCからの投資の特徴
- 大規模な資金調達が可能:VCは通常、数千万円から数億円規模の投資を行います。
- 成長支援:経営アドバイスや事業戦略の策定支援、業界ネットワークの提供などが受けられます。
- 株式による資金調達:借入とは異なり、返済義務がありません。
- 迅速な意思決定:銀行融資と比べて、審査から資金提供までのスピードが速い傾向にあります。
一方で、以下のようなリスクや注意点もあります。
- 経営権の一部譲渡:VCは株式を取得するため、経営の自由度が制限される可能性があります。
- 高い期待値:急成長や早期のExit(株式公開や売却)を求められることがあります。
- デューデリジェンス:詳細な事業計画や財務情報の開示が必要です。
- 評価額の変動:業績により企業価値が下がると、次回の資金調達が難しくなる可能性があります。
VCからの出資を検討する場合は、自社の成長戦略とVCの投資方針が合致しているか、慎重に見極める必要があります。また、複数のVCと交渉し、最適な条件を引き出すことも重要です。
運転資金の調達方法【3】助成金を活用する
新規開業者や地域を盛り上げるための事業を対象に、国や自治体が補助金・助成金を用意していることがあります。一定の要件を満たせば、補助金や助成金を受給できる可能性があります。
国や自治体の補助金・助成金のメリットは、原則として返済が不要である点です。融資には返済義務があり、利払いも生じるため、返済不要は大きなメリットといえるでしょう。
具体的な助成金の例としては、以下のようなものがあります。
- 小規模事業者持続化補助金 目的:小規模事業者の販路開拓等の取り組みを支援 補助額:上限50万円(補助率2/3)
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 目的:中小企業の設備投資等を支援 補助額:100万円~1,000万円(補助率1/2または2/3)
- IT導入補助金 目的:IT導入による業務効率化を支援 補助額:上限450万円(補助率1/2)
これらの助成金の一般的な申請方法は以下の通りです:
- 事業計画書を作成する
- 必要に応じて最寄りの商工会・商工会議所に相談し、アドバイスを受ける
- 各助成金の事務局のウェブサイトから電子申請または郵送で申請する
一方、補助金・助成金は、入金に時間がかかる点がデメリットです。先に経費の支払いが発生し、その内容を報告して承認された後に入金されるため、急ぎで運転資金が必要な場合は向いていません。
また、助成金は競争率が高く、審査も厳しいため、申請にあたっては十分な準備と戦略が必要です。ただし、採択されれば大きな資金的メリットがあるため、積極的に活用を検討しましょう。
地方自治体独自の助成金制度もあるため、事業所がある地域の産業振興課や商工会議所に相談するのも効果的です。
おわりに
運転資金は日常的に必要な「経常運転資金」のほか、事業拡大・縮小局面や毎月決まった時期にかかるものもあります。業種などによって異なりますが、運転資金の必要額の目安は3~6カ月分です。運転資金が不足しないように、必要額の計算方法を理解して資金計画を立てておきましょう。融資や出資、助成金などの資金調達方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、状況に応じて柔軟に対応することが大切です。