ノルディックウォーキングは誰でも簡単に取り組めるフィットネスウォーキングです。効率のいい有酸素運動としてはもちろん、ポールの使い方次第でリハビリや歩行補助からトレーニングまで、幅広く活用することが可能なため、運動が苦手な方や高齢者の方にもおすすめのスポーツとして注目を集めています。本記事ではノルディックウォーキングの効果や始め方についてご紹介します。
ノルディックウォーキングとは?
ノルディックウォークは、フィンランドでスタートした2本のポールを使ったウォーキングです。クロスカントリースキーの選手たちが、夏の間の体力維持・強化トレーニングとしてポールを持って野山を歩いていたトレーニングを行なっていたものをベースに、誰でもできるポールを使った簡単な歩行運動としてアレンジされ、1997年にポールを持って歩くエクササイズを「ノルディックウォーキング」と定義されました。
季節を問わず誰でも簡単に始められ、しかも5~10分程度の運動でエクササイズ効果を実感できることが魅力のひとつ。専用ポールを使用して上下肢を十分に動かすノルディックウォーキングは、通常のウォーキングに比べて、下半身だけでなく腕や背中など上半身の筋肉、体幹も使用する全身運動のため、身体にある90%以上の筋肉を意識して使うことができると言われています。
フィンランド企業が専用ポールの販売を始めたことを機に、ヨーロッパを中心に新しいウォーキングスタイルとして人気を集め、現在では日本にも多くのノルディックウォーカーがいると言われています。
インストラクターに聞く、ノルディックウォーキングが高齢者におすすめな理由
気軽にマイペースで楽しむことができることから、近年、日本ではノルディックウォーキングを楽しむ高齢者が増えています。ノルディックウォーキングが、高齢者に適した運動とされる理由を、インストラクターの黒木公美さんに教えてもらいました。
下半身の負担を軽減しながら運動ができる
高齢者が要支援・要介護になる原因として、最も多いのは変形性関節症です。変形性関節症の予防を始め、歳を重ねるうえで気を付けるべきなのは、いかに関節を痛めずに歩き、暮らしていくかということです。ノルディックウォーキングであれば、ポールを使うことで膝や股関節、腰の関節にかかる負担が軽減されるため、高齢者でも無理なく全身運動が叶います。
転倒のリスクが低い
専用ポールを使って歩くノルディックウォーキングは、一般的なウォーキングに比べて転倒のリスク低減につながります。自分の足と合わせて4本の支柱で身体を支えることから、四足歩行に近くなり、バランスを取りやすくなるためです。
骨密度が低下傾向にある高齢者は転倒して骨折すると、なかなか回復できずに寝たきりになる可能性もあるため、転倒リスクを抑えた上で安全に運動を行えるノルディックウォーキングは高齢者に安心です。
ロコモ(移動機能の低下)予防になる
健康寿命を伸ばすためにも、ノルディックウォーキングは有効です。運動機能が衰えることにより、要介護や寝たきり状態になることを「ロコモティブシンドローム」と呼びますが、ノルディック・ウォークで日常的に運動し、足腰の筋力の衰えを防ぐことは、ロコモティブシンドローム予防につながると言われています。
また、通常のウォーキングに比べ上半身を使うという動作が加わるノルディックウォーキングは、脳に対する刺激が強まるため、認知症の予防も期待されています。
筋力アップも期待できる
ノルディックウォーキングでは、ポールのサポートがある分、よりダイナミックなフォームで歩けるため、全身の90%の筋力を使うとされており、有酸素運動でもありながら筋力アップのトレーニングにもなるのが魅力です。体幹や下半身の筋力をつけて良い姿勢をつくることは、ポールに体重を分散させ関節に負荷をかけないためにも重要です。
運動強度の調節ができる
ノルディックウォーキングでは、ポールの使い方や歩行速度などを調節することにより運動強度を変えることができます。その日の体調や気分に合わせてカスタマイズできるので、体力に自信のない方でも無理なく続けることができます。
正しい歩行姿勢が習慣づく
ノルディックウォーキングはポールで地面をグッと押して歩くので背筋がスッと上に伸び、歩行姿勢が良くなります。継続することで背筋も伸びるため若々しいスタイルを手に入れることができます。上半身が起きると自然と歩幅も広がり、呼吸もしやすくなるので、日常でも楽に長く歩けるようになります。
心と身体のリフレッシュになる
ノルディックウォーキングは、普通に歩くよりもスピードが出て、爽快感が得られます。能力の優劣や勝ち負けもない、朗らかに楽しめるスポーツなので、心にも身体にも優しく、高齢者の方にぴったりです。自然の中を歩いていると、心もリフレッシュされ、発する言葉も自ずとポジティブになるのではないでしょうか。
高齢者が始める際の注意点
歩き方には人それぞれの癖があるので、専用ポールを持って思うままに歩いてもなかなか効果は得られません。大体の方が二の腕を動かしていなかったり、腰が反ったままのことが多いので、せっかくポールを使っているのに負担をかけてしまうことも。理想は一度、インストラクターのもとで正しいフォームを学ぶことですが、それが難しい場合は複数名で互いのフォームをチェックすることをおすすめします。動画を撮ってもらうと、より改善点が明確になるでしょう。
ノルディックウォーキングの始め方
ポールの選び方
ノルディックウォーキングでは専用のポールを用います。トレッキング用、ポールウォーキング用と似たようなものがあるので、要注意。ストラップがマジックテープで手にフィットさせることができ、先端ゴムが斜めにカットされているものが、ノルディックウォーキング用ポールの特徴です。
このような構造により、ポールで地面を後方にしっかり押すという歩き方ができます。ポールには長さ固定タイプと、調整できるタイプがありますが、目的やライフスタイルに合わせて選んでみてください。
長さ固定タイプ
〈メリット〉
- 地面からの衝撃を吸収してくれるので、使い心地が断然良い
- カタカタ音がしない
〈デメリット〉
- 持ち運びの際に少々かさばる
長さ調整タイプ
〈メリット〉
- 持ち運びの際にコンパクトになるので邪魔にならない
- 複数人で兼用することができる
〈デメリット〉
- 使い心地は長さ固定式と比べると劣る
- 締めるところが緩んでカタカタ音がしたりする
- 故障しやすい
シューズの選び方
ノルディックウォーキングでは、シューズ選びも重要です。年齢を重ねると足裏のお肉が減ってくるものなので、ソールが薄いと足を痛めてしまいます。おすすめはジョギング程度のランニングシューズで、適度なクッション性があって、ソールの横幅がしっかりとあるもの。同じランニングシューズでもレース用や上級者向きのものは前が反り上がっているため、スピードが出過ぎてしまい、ノルディックウォーキングには向きません。
私自身いろいろ履き比べた結果、生徒さんにはHOKAというシューズメーカーの「CLIFTON」というモデルをおすすめしています。ソールに程よい厚みがあり、横幅もあるので、長時間歩いても足裏が疲れることなく、転倒のリスクも低減できる一足です。「疲れないので日常生活でも愛用しています」という生徒さんもいらっしゃいますよ。
HOKA® 公式サイト【CLIFTON|クリフトン 】ホカオネオネ™・ホカ公式
また、紐の結び方も重要で、ヒールロックやダブルアイレットと呼ばれる方法で足首をしっかり固定するようにしてください。詳しいやり方は、YouTubeなどでも紹介されています。
基本の歩き方
- ポールは開いた脚の中間に斜めに突き、肘を曲げ伸ばしせず肩を中心にして腕を振ります。
- ストラップを手の平で押すようにして体を前方に押し出して歩きます。その際に少しずつ手を開きグリップから離していきます。
- 肘は曲げ伸ばしせず、肩を中心に後方に腕を振ります。腕が後方に行くにつれ、少しずつ手を放し、後方ではグリップから手を放します。腕が後ろから前に来るときはグリップを握ります。
上半身は、鎖骨や肩甲骨から腕だと思って大きく動かしましょう。そうすることで自然と胸が開いて背筋もぴっと伸び、腕振りに伴って肩甲骨が動くと連動している骨盤も動きます。その結果、足が前に出て行くので歩幅も大きくなります。足を地面に着地させるところまで意識するようになると腹筋もつき、腰痛がなくなるという方が多いです。
初心者・高齢者向け歩行時間、コースの選び方
ノルディックウォーキングで心身の充実を得るには、1ヶ月に100kmから120kmが目安とされ、それ以上だと怪我のリスクが高まるといわれています。また、60分のウォーキングを週4回、半年続けると、体力は10%上がるというデータも出ています。
体力に自信のない方や高齢者の方であれば、まずは1回30〜45分間、1週間に2,3回くらいのペースで始めてみてください。大切なのは、内15分は心拍数が上がるくらいのスピードで歩くよう意識すること。メリハリをつけて歩くことでエクササイズ効果も高まります。
初心者、高齢者の方であれば、コース選びは、理想としては信号や横断歩道で止まる必要のない、比較的フラットな道が良いでしょう。季節の変化が感じられる緑豊かな環境であればリフレッシュ効果も得られるのでベストです。舗装道路、土の道どちらでも問題ありません。ご近所の散歩道、近くの公園、避暑地、都会などどこでも出来るのがノルディックウォーキングの魅力です。
前後には準備運動とストレッチを
ノルディックウォーキングはフィットネス効果の高いスポーツです。始める前には、ストレッチで肩甲骨と股関節をほぐし、ウォーミングアップとして腹筋とお尻の筋肉を動かすようにします。体にスイッチを入れることで、ただの散歩ではなく、体幹で歩くことができるようになり、筋肉の始点から大きく動かすことができれば消費カロリーもアップします。
まとめ ノルディックウォーキングで楽しみながら健康寿命を延ばそう
リハビリにも採用されているノルディックウォーキングは、体力に自信のない方や高齢者にも始めやすいスポーツ。必要なアイテムも専用ポールとスニーカーのみなので、始めるためのハードルが低く、自分の体力や目標に合わせて自由にカスタマイズすることができます。また、高齢者であれば歩くことへの自信がつくことで、行動範囲が広げられることもノルディックウォーキングの魅力のひとつではないでしょうか。
慣れてきたら、紅葉や桜の名所を散策したりと、季節によって楽しみを広げてみてください。ノルディックウォーキングの楽しみ方は人それぞれなので、自分のペースやライフスタイルに合った楽しみ方を見つけることが長続きの秘訣です。心身に喜びをもたらしてくれるノルディックスポーツを味方に、健康寿命を延ばしましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。