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マイナス金利解除による利上げは私たちの生活にどのような影響を与える?

マイナス金利解除による利上げは私たちの生活にどのような影響を与える?
藤田 春菜

執筆者

金融ライター

藤田 春菜

2級ファイナンシャル・プランニング技能士。金融機関に約7年間勤務したのち、金融専門Webライターとして執筆を開始。カードローンやクレジットカード、資産運用全般に関する記事を執筆。投資歴は約7年で、投資信託をはじめ個別株や暗号資産などに投資をしている。

2024年3月に「マイナス金利政策の解除」が発表され、17年ぶりの利上げが実現しました。金利は私たちの生活に影響を与える一方で、「金利ある世界」になることで自分たちの生活がどうなるかわからない方もいらっしゃるでしょう。

また、2024年7月31日までの金融政策決定会合で政策金利を0.25%程度に引き上げることが決まりました。金利上昇は一過性のものではなく、今後も継続して金利が一定程度上昇する可能性があります。

そこで本記事ではマイナス金利解除のメリット・デメリット、金利上昇への対策について解説します。

本記事は2024年9月時点の情報に基づいて執筆しているため、詳しくは最新情報をご確認ください。

金利引き上げによる生活への影響

金利引き上げによる生活への影響

金利引き上げで起こる影響は、主に以下のようなことが考えられます。

  • 預金金利の上昇
  • 個人向け国債の金利上昇
  • 円高傾向
  • 金融機関の収益改善
  • 住宅ローン金利の上昇
  • 投資への影響
  • 企業の資金調達への影響

ひとつずつ見ていきましょう。

預金金利の上昇

金融機関の預金金利は徐々に上昇しており、以前までは普通預金の金利は0.001%でしたが、2024年9月時点で100倍の0.1%程度です。定期預金は各行によって若干の違いはあるものの、上昇傾向であることは同様です。以下は大手3行の金利水準です。

【大手3行の預金金利】

三菱UFJ銀行三井住友銀行みずほ銀行
普通預金金利0.1%0.1%0.1%
定期預金金利0.125%~0.4%0.125%~0.3%0.125%~0.35%

2024年9月時点
参照元:円預金金利|三菱UFJ銀行
    円預金金利|三井住友銀行
    預金金利・利率|みずほ銀行

預金金利の上昇は、一般消費者にとって良い影響であると言えます。しかし、100倍の金利がついたとしても100万円預けて1,000円程度の利息しかつきません。そのため、金利が上昇しても普通預金や定期預金のみで十分な資産形成をするのは困難です。

個人向け国債の金利上昇

個人向け国債の金利が上昇し、魅力的な投資対象となる可能性があります。2016年1月にマイナス金利を導入してから、変動10年国債の金利は最低保証で0.05%になりました。しかし、2024年3月にマイナス金利の解除が決定してからは、適用利率が0.7%程度に上昇しています。

また、新窓販国債の10年ものは表面利率1.1%と高水準です。このように、金利が上昇すると国債が投資対象として魅力的なものとなります。マイナス金利解除と国債の関係性について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

参照元:変動10年(第70回)の発行条件|財務省
    現在募集中の個人向け国債・新窓販国債|財務省

円高傾向

日本と海外の金利差が縮小して、円高傾向になる可能性があります。2024年7月には1ドル160円を超えていましたが、2024年9月時点で145円程度と円高傾向となっています。

円高になると輸入品の物価が下がりやすくなるため、海外から輸入することが多い事業者にとっては良いでしょう。反対に輸出企業は円高になるとダメージを負います。

そのため、輸出企業へ投資している方は、売上が下がり株価が下落するために損失を被ることになるかもしれません。また、外貨建て資産を保有している方は為替差損が発生します。

金融機関の収益改善

マイナス金利で貸出金利は低下したため、企業や個人が融資を受ける機会が増えても、金利が低いために利ざやは大きく取れません。そのため、金融機関の収益は圧迫されていました。

しかし、マイナス金利が解除されて貸出金利が上がれば、収益が改善しやすくなります。収益が改善するとサービス向上や金融商品開発に資金を回せるようになるため、消費者にとって便利なサービスが生まれるでしょう。

住宅ローン金利の上昇

一般消費者にとって最も気になる点といえる住宅ローンの金利は、上昇傾向にあります。住宅ローンは固定金利と変動金利に分かれていて、固定金利は日銀の長期金利政策の影響を、変動金利は短期金利政策の影響を受けます。そのため、同じ住宅ローンでも固定金利か変動金利かで金利の動向は異なるのです。

大手3行のうち三菱UFJ銀行は、2024年10月1日より変動金利の基準金利を見直すことを発表しました。10年固定は0.22%下げて1.05%となります。

三井住友銀行の変動金利は変更がない一方、10年固定は0.1%下げて1.75%としました。みずほ銀行も三菱UFJ銀行同様、10月1日に変動金利を見直します。2024年9月時点では変動金利は0.375%、10年固定は0.1%下げて1.35%です。

金利が変わるとすぐに返済額が増えるのかと不安を抱いている方もいらっしゃるでしょう。しかし、住宅ローンには「5年ルール」と「125%ルール」があり、変動金利が上昇しても返済額がすぐに増えないようになっています。

【5年ルールと125%ルール】

5年ルール金利が上昇しても毎月の返済額は5年間変わらない
125%ルール6年目からの毎月の返済額は今までの返済額に対して125%までしか増えない

上記2つのルールが適用されると、毎月の返済額が100,000円の場合、5年間は100,000円のまま返済額は変わらず、6年目以降は125,000円が最大の返済額になるというわけです。

ただし、2つのルールで急激な返済額の上昇は抑えられる一方で、総返済額の増加は免れません。そのうえ、金利が上昇すると返済額に占める利息の割合が大きくなるため、元本の減りが金利上昇前より遅くなります。返済額を超える未払利息が発生した場合、完済時に未払利息と元金を全額返済しないといけません。

このとき、資産の大部分を失ったり自宅を売却したりしないといけなくなったりする恐れがあります。このように「5年ルール」と「125%ルール」は急激に返済額が増えることを防ぐルールではあるものの、後になって返済額が増大する可能性を考慮すべきです。

なお、金利が0.5%ずつ異なると以下のように返済額は上昇します。

【借入額4,000万円・元利均等返済(ボーナス返済なし)・返済期間35年・全期間固定】

毎月の返済額総返済額
0.5%10.4万円4,362万円
1.0%11.3万円4,743万円
1.5%12.3万円5,144万円
2.0%13.3万円5,566万円
2.5%14.3万円6,006万円
3.0%15.4万円6,466万円

※表中の数字は概算です
参照元:返済プラン比較シミュレーション|住宅金融支援機構

0.5%の上昇で毎月の支払いは+10,000円程度に収まるため、総返済額が大きく増えていることは意識しづらいかもしれません。しかし、金利が0.5%から1.0%に上がるだけでも総返済額で約400万円の違いが生じます。

参照元:住宅ローン金利|三菱UFJ銀行
    金利-住宅ローン|三井住友銀行
    住宅ローンの金利一覧|みずほ銀行

投資への影響

日米の金利差が縮むと円高に進む傾向があります。日本株に投資している外国人投資家は資金を引き上げる方向性となり、株安になるのが一般的です。さらに、海外の機関投資家や年金基金などは、円高に振れると運用資産に占める円の割合が大きくなるため、バランスを調整するために日本株を売る傾向にもなります。

また、貸出金利が上がると企業が資金調達しにくくなるため、設備投資や新商品の開発・研究が進みません。その結果、個人の消費と売上が減って企業の業績が悪化し株価が下落しやすくなるのです。

企業の資金調達への影響

貸出金利が上がると企業の投資活動に影響を及ぼします。企業が資金調達するときの主な手段は、銀行や信用金庫などの民間金融機関でしょう。しかし、マイナス金利が解除されたことで貸出金利が上がり、多額の借入に躊躇する企業が増えると予想されます。

そのため、企業は資金繰りや事業計画を見直す必要があり、企業としての資産運用や投資戦略なども再考しないといけません。マイナス金利解除で消費者の支出が抑制されることが予想されるため、商品・サービスの戦略や価格の見直しもする必要があります。

とはいえ、新しいビジネスチャンスを発掘したり変革をもたらしたりする動機となり、企業の成長につながるかもしれません。

また、不動産投資をしている個人にも金利上昇の影響があります。貸出金利が上がって利息負担が増えるからといって家賃を上げることはできないでしょう。そのため、利息負担は大きくなり家賃収入が変わらない状況では利益が少なくなります。

金利引き上げに対応するには

金利引き上げに対応するには

ここまで解説したように、マイナス金利解除が私たちの生活に与える影響はメリット・デメリットともにあります。場合によっては、生活を圧迫することもあるでしょう。

しかし、金利引き上げに備えて以下の対策を事前に取れば、今と同じくらいの負担感で生活を遅れる可能性があります。

  • 資産運用を検討する
  • 住宅ローンの借り換えを検討する

ひとつずつ解説します。

資産運用を検討する

金利上昇に対応するには、資産運用を検討しましょう。金利が上昇すると預金金利も上がります。しかし、受け取れる利子が10円から1,000円になる程度の上昇です。とくに、住宅ローン契約者は預貯金の利子よりも住宅ローンの利息のほうが上回り、返済時の負担も大きくなります。

そのため、預貯金以外の資産形成を行わないといけません。また、金利上昇だけでなく物価を上げようという動きからも、資産運用を行うことが重要です。

物価の総合指数は2020年を100として2024年8月は109.1%です。また、2024年1~8月まで総合指数の前年同月比は2%以上となっており、継続して物価が上がっていることがわかります。

物価が上がれば、普通預金や定期預金で預けている現金の価値は目減りします。以前は100万円で100万円の物が買えたため、預貯金内の現金には100万円の価値がありました。しかし、100万円の物が110万円に値上がりすれば、当然100万円では買えなくなります。これが現金の価値が目減りするということです。

金利や物価の上昇は、預貯金だけでは対応できなくなりつつあります。そのため、資産運用で資産を増やす行動を取ることが必須となるのです。

参照元:2020年基準消費者物価指数 全国2024年(令和6年)8月分|総務省

住宅ローンの借り換えを検討する

住宅ローンを返済中の方は、借り換えを検討してください。「住宅ローン金利の上昇」で解説したように、5年ルールと125%ルールで返済額の急激な増加を防ぐことが可能です。しかし、元本の減りが遅くなるため完済時に資産を取り崩したり、最悪の場合自宅を手放したりしないといけなくなる恐れがあります。

他の金融機関や住宅金融支援機構が提供するフラット35などが、借り換え先の選択肢として挙げられます。フラット35の子育てプラスを契約できれば、当初5年間の金利を抑えることが可能です。

現時点では、まだ変動金利のほうが有利な金利水準です。とはいえ、金利の上昇幅次第では固定金利を視野に入れたほうが良い可能性があります。

ただし、借り換えには諸費用がかかるため、諸費用も加味して全体として借り換えにメリットがあるかどうかを検討しないといけません。実際に、借り換え時には金融機関の手数料を含め100万円近くかかることもあります。

借り換え後に抑えられる利息と、借り換え時に発生する手数料を比較したうえで、借り換えをするか否か決めましょう。

金利引き上げに対応するには金融リテラシーを高めることが重要

預金金利や住宅ローン金利の引き上げなど、マイナス金利の解除は私たちの生活に大きな影響を及ぼします。とくに住宅ローン金利の引き上げや投資への影響など、マイナス面の影響についてはよく把握しておくべきでしょう。

また、金利や物価が上がることで、今まで10,000円で買えていた物が10,000円以上出さないと買えなくなる場合があります。この場合、預貯金に10,000円預けておくだけでは物価上昇に対応できません。

このように、今までの過ごし方では家計の負担が増えることが予想されます。そのため、金融リテラシーを高め、資産運用や住宅ローンの借り換えなどを検討して、今からできる対策をしておくべきです。

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