自分が亡くなった後の財産を法定相続とは異なる方法で渡したい場合は、遺言の作成が有効です。遺言によって、遺産のすべてあるいは一定割合を受け取る方を包括受遺者といいます。包括受遺者は法定相続人だけでなく、第三者でもなれます。それだけに、遺書を作成する際は、自分の思いが反映できるよう慎重な内容の検討が必要です。この記事では包括受遺者に関する基本情報やメリット・デメリットについて解説します。
- 包括受遺者とは、遺言によって、亡くなった方の財産のすべて、あるいは指定した割合で受け取る方をいう。
- 包括受遺者は、法定相続人との遺産分割協議に参加することができる。
- 包括受遺者は、マイナスの相続分も受け取ることになる。
包括受遺者とは?
包括受遺者とは、遺言によって、亡くなった方の財産のすべて、あるいは指定された割合で受け取る方をいいます。読み方は「ほうかつじゅいしゃ」です。
自分が亡くなった後に遺言によって人に財産を渡すことを遺贈といいます。遺贈を行う方が遺贈者で、受け取る方が受遺者です。包括遺贈とは、特定の財産を指定することなく、相続する割合を遺言によって指定する方法です。
そもそも遺贈とは?
自分が亡くなった後で、財産を人に渡す方法には、「相続」と「遺贈」の2種類があります。
被相続人(亡くなった方)の配偶者や子どもなどの血族は、遺言がない場合には、財産を法定相続にしたがって受取ります。これが相続です。
しかし、被相続人が自分の財産を法定相続の割合とは異なる割合で渡したいときや法定相続人以外の人に渡したい場合は、遺言によってそれを実現させます。これを遺贈といいます。
ここでは、遺贈について解説をします。
遺贈は「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類ある
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。包括遺贈は財産を特定せずに遺贈する方法です。一方特定遺贈は特定した財産のみを遺贈する方法です。
たとえば、遺言に「私の財産のすべてのうち2分の1をA男に遺贈する」とか「私の財産のすべてをB美に遺贈する」とあれば包括遺贈になり、これを受遺する方を包括受遺者といいます。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も譲り受けたことになります。
また「私名義の○○信用金庫の預金をC雄に遺贈する」といったように、遺贈するものが指定されている遺贈を特定遺贈といい、これを受遺する方を特定受遺者といいます。
包括受遺者は法定相続人同様の権利や義務を持ち得る
民法では「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(990条)」と定められています。これにより、包括受遺者は法定相続人との遺産分割協議に参加することができます。しかし、特定遺贈者は指定された財産しか権利がないため、遺産分割協議に参加することはできません。
また、包括遺贈者が遺贈を放棄する場合は、相続放棄と同様に遺贈があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所で放棄手続きを行う必要があります。一方、特定遺贈者は、利害関係人などから催促がない限り、いつでも権利放棄ができます。放棄手続を家庭裁判所で行う必要はなく、「いらない」という意思表示をするだけで遺贈を放棄したことになります。
包括受遺者の種類は細かく分けて4つ
包括受遺者の種類は細かく分けて4種類あります。それぞれの特徴を解説していきましょう。
全部包括受遺者
全部包括受遺者とは、遺産のすべてを遺贈される受遺者のことです。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も合わせて遺贈されます。遺贈者(亡くなった方)に借金などの債務があった場合は、その債務も引き受けることになります。
そのため、全部包括受遺者は、遺贈者に借金がないことを慎重に調査することが大変重要です。プラスの財産よりも債務のほうが大きいなどの理由で、包括遺贈を受けたくない場合は、遺贈があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に申し出れば、放棄することができます。
割合的包括受遺者
割合的包括受遺者とは、遺産を一定の割合で包括的な遺贈を受ける者のことをいいます。たとえば遺言に「私の財産すべてのうち2分の1をD夫に遺贈する」とあれば、D夫は割合的包括受遺者となります。債務などのマイナス財産についても、その割合に応じて引き受けることになります。
特定財産を除く財産に関する包括受遺者
特定財産を除く財産に関する包括受遺者とは、特定財産を除いた他の財産について、包括的に遺贈を受ける者のことをいいます。
たとえば遺言で「私の財産のうち土地XはF子に遺贈し、その余はG男に遺贈する」ととあれば、F子は土地Xという不動産のみを遺贈された特定受遺者であり、G男は土地X以外の遺産についての包括受遺者となります。
この場合にG男は、遺産に負債があればそれらもすべて引き継ぐことになります。全部包括受遺者同様、遺贈を受けることについては、慎重に調査したうえで判断してください。
清算型包括受遺者
清算型包括受遺者は、遺産をすべて売却、換金して、その代金の割合を譲り受ける方をいいます。
遺言で「私が所有する土地と家屋を処分し、そのすべての4分の1をJ子に、その4分の3をK男に遺贈する」とあれば、J子とK男は遺言者の土地と建物を売却して、その対価である金銭を4分の1と4分の3ずつ受け取ります。
清算型包括受遺者は、遺産を処分することでプラスになるかの調査が重要です。
たとえば、対象の土地が地滑りにより隣地に被害を及ぼし、隣地所有者から損害賠償請求をされている状況であれば、処分が困難なばかりか、隣地所有者に賠償しなければならない事態も想定できます。
清算型包括受遺者では、対象の物件を慎重に調査して、清算後にマイナスになる要因がないことを確認する必要があります。
受遺者と相続人の相違点は?
受遺者と相続人は亡くなった方の財産を受け取るという共通点がありますが、いくつかの相違点もあります。それぞれの特徴を比較して相違点を明らかにしていきます。
受遺者の代襲は不可能
被相続人より先に本来の法定相続人が亡くなっている場合は、相続人としての権利義務はその人の子に移ります。これを「代襲相続」といいます。
受遺者の場合は、代襲という制度はありません。一代限りとなるので、遺贈者(亡くなった方)より先に受遺者が亡くなっていた場合に、その受遺者の子に遺贈を受ける権利義務はありません。
受遺者が生存していないという状況において、その子や孫に遺贈したいのであれば、受遺する方が先に亡くなった場合に備えて、予備的遺言でその旨を記載する必要があります。
相続放棄による受遺分の増加はない
相続では相続人のひとりが相続放棄をすることで、他の相続人の相続分が増加します。しかし、受遺者は、ひとりが相続放棄をしても、受遺者の受遺分が増加することはありません。
受遺者が受遺できるのは、遺言に記載されていることに限られます。
法人も対象になる
遺言書で指定をすれば、個人にかぎらず法人などの団体も受遺者になることができます。
しかし、相続人は民法で定められた者しかなれません。つまり配偶者、子や孫等の直系卑属、父母や祖父母等の直系尊属、兄弟姉妹等の傍系尊属のみであり、法人や団体は相続人にはなれません。
包括受遺者のメリット・デメリットは?
包括受遺者にはどのようなメリットやデメリットがあるのか紹介していきましょう。
包括受遺のメリット
包括受遺のメリットは、法定相続とは異なる割合や個別に指定して財産を渡せる点にあります。あるいは、法定相続人以外の方に財産を渡すこともできます。
また、包括遺贈の場合であれば、財産内容に変更があった場合でも、遺言では全部または割合が記載されているので、基本的に遺贈に影響を及ぼしません。さらに、包括受遺者も遺産分割協議に参加できる点もメリットです。
財産を誰にどのように渡すかは、遺言者の意思が優先されます。法定相続人がいた場合でも、受遺者は、遺言書どおりに財産を受けることができます。
ただし、法定相続人には遺留分が定められているので、遺言による包括遺贈の内容が、法定相続人の遺留分を侵害している場合に、遺留分侵害額を請求されれば、包括受遺者は原則これを拒むことはできません。
包括受遺のデメリット
包括遺贈は、プラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐデメリットがあります。
もし、遺言者の財産がマイナスの方が大きい場合は、その負債を背負うことになります。しかも、包括受遺者が遺贈を拒否するには、家庭裁判所で遺贈放棄の手続きを取る必要があります。
また相続税や登録免許税が、相続よりも遺贈の方が高く設定されている点もデメリットです。
包括受遺者は、相続した財産に応じて相続税を負担することになりますが、包括受遺者が遺贈者の一親等の親族(子、父母、および被相続人と養子縁組した方、代襲相続人となった孫を含む)および配偶者以外の者である場合は、相続税額が2割加算されます。
さらに、法定相続人以外の方が包括受遺者であれば、不動産を相続する場合にかかる登録免許税の税率も高くなります。
包括遺贈をする際の注意点
不動産を遺贈するときは不動産取得税や登録免許税に注意
不動産取得税は、不動産を取得したときにかかる税金ですが、相続で不動産を取得した場合には非課税になります。これには包括遺贈による取得も含まれます。包括遺贈で財産を取得することは、相続人になることと同等との考えから、不動産取得税が課税されないのです。
しかし、特定遺贈の場合は課税対象になります。不動産取得税は、土地と住宅は固定資産税評価額の3%、それ以外の建物は4%の税率です。
遺言の作成に際しては、遺贈の方法によって不動産取得税に大きな差があることを考慮する必要があります。
登録免許税は、不動産の所有権の移転登記をするためにかかる手数料です。相続や遺贈で移転登記をする場合、相続人か受遺者かによって税率が異なります。
法定相続人が相続や遺贈によって不動産を取得した場合の税率は固定資産税評価額の0.4%です。法定相続人以外の者が遺贈によって不動産を取得した場合の税率は2%です。
仮に不動産の価格が1千万円の場合、法定相続人であれば4万円ですが、法定相続人ではない受遺者だと20万円になります。
表にまとめると次のようになります。
(数字は固定資産税評価額に対する割合を示す)
相続人 特定遺贈 | 相続人 包括遺贈 | 相続人以外 特定遺贈 | 相続人以外 包括遺贈 | |
---|---|---|---|---|
不動産取得税 | 非課税 | 非課税 | 課税対象 土地と住宅は3% | 非課税 |
登録免許税 | 0.4% | 0.4% | 2% | 2% |
受遺者と法定相続人との間でトラブルが起こる可能性がある
複数の法定相続人がいるのに、その中からひとりが包括受遺者になるケースや法定相続人以外の方が包括受遺者になるケースでは、トラブルが発生する可能性が高くなります。
たとえば、長年遺言者の介護をしてくれた長女に財産のすべてを遺贈するようなケースだと、他の兄弟姉妹にまったく財産が渡らないため、不満を抱えることは十分に想定できます。状況によっては、遺留分侵害額の請求調停手続が行われることもあります。
このようなケースでは、長女の分割割合を高く設定しても、ほかの兄弟姉妹にも配慮した分割内容の遺言書を作成した方がトラブルを回避できます。そのうえで、遺言者の長女に対する感謝の思いを遺言書の付言事項に記載しておくことで、他の相続人の理解を得ることができます。
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包括遺贈は、遺言者の思いを実現できるというメリットがありますが、一方で、受遺者以外の法定相続人からの不満が噴出する可能性があります。そのため、包括遺贈の場合でも、遺言書の作成に際しては法定相続人への一定の配慮が求められます。
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おわりに
包括受遺者とは、遺言によって、亡くなった方の財産のすべてや指定した割合で受け取る方のことです。包括受遺者は、他の相続人との遺産分割協議に参加することができますが、マイナスの相続も受け取ることになるので、遺言者の負債に関して慎重な調査を行う必要があります。
遺産がマイナスになるのが明らかなどの理由で、遺産を受取りたくない場合は、相続人の相続放棄と同様に、遺贈があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に申し出れば、放棄の手続きを取ることができます。
相続との大きな違いに、相続人は常に個人ですが、遺贈は法人などの団体にもできる点にあります。そのため、賛同する団体などに遺贈することも可能です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。