花粉症は今や国民の2人に1人ともいわれるほど多くの方を悩ませるものです。多くの方は「花粉症を発症するともう治らないものだ」と思っているかもしれません。しかし、花粉症は治るものです。気が付いたら症状が改善した、治ったという経験をお持ちの方もいるでしょう。
実際、治療院でもきちんと食事や生活の養生をすれば、症状が改善したり、治ったりすることが多いのが花粉症です。中でも食養生は最も取り入れやすく、しかもほとんど治療に対してお金がかからない花粉症対策です。今年は発症してしまったからもう来年まで諦めるしかない、と思う方もいるかもしれませんが、今からでも遅くはありません。少しでも症状が軽くなるように、今日からでもできる花粉症対策の薬膳を取り入れてみてください。
花粉症対策には「肝の解毒力」がカギ
東洋医学でよく聞く「五臓(ごぞう)」というのがあります。「五臓」とは肺・心・脾(ひ)・肝・腎(じん)の五つの内臓のことを指します。このひとつに「肝」という臓器があります。(大まかには肝臓と同じだと思っていただければ結構です。)
春はこの「肝」が大活躍し、とても忙しく働いています。気温の上昇とともに私たちの身体も代謝が上がりますが、その原動力はこの「肝」の働きです。また、暖かくなれば地中から虫が出てきます。あらゆるものが活発になるので、例えばウイルスや菌なども気温の上昇とともに活発になるため、その解毒も「肝」が担っています。そして、花粉症を始めとしたアレルギーもこの「肝」が解毒してくれています。
「肝」が疲れる原因
「肝」が元気であれば、花粉症の症状も軽くてすみますが、実は現代の生活は「肝」を疲れさせることが非常に多いのです。過労、寝不足、ストレス、目の酷使、こういったものは「肝」を疲れさせてしまって、花粉症などのアレルギーを解毒するだけの余力を減らしてしまうのです。
また、食事の面でも「肝」を疲れさせるものがたくさんあります。代表的なものは、アルコール、カフェイン、揚げ物、乳製品、肉の脂、添加物の多いものなどです。例えば、おやつに甘いカフェオレとチーズケーキ、焼肉にビール、クロワッサンにチーズ、といった組み合わせは非常に「肝」が疲れてしまうものと東洋医学では考えています。できるだけこれらのものを避ける食事を選ぶと、肝の解毒力は損なわれずに済むでしょう。
「花粉症には〇〇が良い!」と効果のあるものを食べているはずなのに症状が一向に改善しない、という方は、「肝」を疲れさせて、解毒力を落とす生活を送っている可能性が高いです。花粉症のシーズンだけでも(特に症状がひどい時だけでも)、「肝」を疲れさせる食材をできるだけ避けてみてください。
実際、例年花粉症に悩まれていた患者様で、毎晩の晩酌をある年やめてみたら、すっかり花粉症の症状が治った、ということがありました。
お酒も乳製品も揚げ物も全くダメ!ということではありません。頻度や量をいつもより減らすだけでも違うはずです。毎日朝は、バターがたくさん入った高級食パンにバターを塗ってカフェラテを飲んで、お昼は天ぷらそば、おやつにクッキー、夕食はビールと唐揚げ、お風呂上がりにアイス、という生活はさすがに肝臓も辟易してしまうでしょう。カフェラテにするならパンはバケットにしてチーズは食べない、お昼に揚げ物を食べるなら夜は蒸し鶏にするなど、1日の中で重なりすぎないように心掛けてみてください。
「あまり脂っこいものは食べていない」という方も大体は乳製品をかなり取っていることが多いです。骨粗しょう症対策のために、牛乳やチーズをたくさん食べている方もいるかと思いますが、もし花粉症がひどい場合は、この時期だけでも煮干しやじゃこなど小魚で代用することをおすすめします。
「肝」の解毒力をアップさせる緑の食材
では「肝」の解毒力を高めてくれる食材は、というと緑の葉物野菜です。東洋医学では、季節ごとに色が当てはめられており、その時期にその色のものを食べると、季節の体調を整えることができると考えます。春は青です。青春という言葉はここからきているのですが、この青とは緑のことです。
代表的なものとしては、セリ、菜の花、キャベツなどです。これらのものは春の肝臓の解毒力を助けてくれるものなので、できるだけ毎日たくさん食べるのがおすすめです。もちろん、花粉症の方に限らず春の時期の食養生として皆さんに取り入れて欲しいことです。
せり
春の七草のひとつです。人日の節句は本来2月中旬くらいを指しますから、早春の時期に取れる葉物野菜の代表になります。すでにシーズンは過ぎてしまっていますが、花粉症予防としてせりは、ぜひ取ってもらいたい食材のひとつです。薬膳的な効能としては、「清熱利湿(せいねつりしつ)」といい、身体にこもった余分な熱をとり、水分代謝を良くするもので、目が痒くなって涙や鼻水がたくさん出てくるような花粉症の予防に最適です。もともと七草は旧暦の正月で考えますので、立春を迎えてから食べるものです。お正月で疲れた胃を休める効果もありますが、せりやなずななどは、解毒作用があるもので、他の七草も春に食べたい食材です。またセロリにも似たような効能があるので、セロリで代用しても良いでしょう。
菜の花
春を感じる食材のひとつです。アブラナ科の黄色い花の総称なので、一種だけではありませんが、菜の花全体の薬膳的な効能としては、「解毒(げどく)、消腫(しょうしゅ)、通便(つうべん)」といったものがあります。腫れ物を解毒したり、お通じを良くしたりするものです。また、瘀血(おけつ)といって血流の滞りを解消する作用もあります。どれも花粉症に必要な要素ですので、こちらも旬になったらたくさん食べて欲しいです。
キャベツ
せりや菜の花はどうしても季節が短いもので、身近なスーパーには置いていない、という方も多いかもしれません。そういうときに便利なのがキャベツです。せりや菜の花ほどは解毒する作用は及びませんが、胃腸の調子を整える作用に優れたものです。胃腸の調子を整えることは免疫力と関係するので、花粉症対策でとても重要なことです。生ではなく、加熱して量をたくさん食べると良いでしょう。
他にも薬膳的に花粉症対策におすすめの食材をいくつか紹介します。
ごぼう
解毒作用があり、炎症を取る効果があります。また、便通を良くします。花粉症対策には、アレルギーの炎症を身体の外に出せることが大切なのですが、そのひとつである便からの花粉のデトックスにとても良い食材です。
きのこ
きのこ類は補気といって免疫力を高めてくれる食材です。便通も良くしてくれるのでごぼうと同じく、便からの花粉のデトックスにも役立ちます。
みそ
「発酵食品が花粉症に良い」というのは皆さんもよくご存知のことと思いますが、特におすすめなのがみそです。みそには免疫と関係する胃腸の機能を整える作用だけでなく、解毒作用もあります。毎日必ず1杯のみそ汁を飲むと良いでしょう。なお、みそはできれば本醸造のものを選ぶと発酵食品の良さを享受できます。
緑豆もやし
もやしには栄養がないものだと思っている方も多いのですが、薬膳的にはとても有効に使える身近な食材のひとつです。緑豆は解毒力が非常に高い食材で、その発芽した緑豆もやしも同じく解毒力の優れたものです。できれば豆の皮が付いたままのものがおすすめです。
「肝」を疲れさせるものを避け、解毒力をアップさせるものを取る、その両方を簡単に満たす方法としては、葉物の野菜をたっぷり使ったみそ汁を中心に食事をすることです。おみそ汁のおともといえばご飯です。そして和食です。伝統的な和食ですと、脂っこいものや乳製品は少なくなります。たまの楽しみは別として、花粉症のシーズンだけでもいつもの食事をみそ汁中心の和食にするのが、一番簡単な花粉症対策の薬膳です。残りの春の期間、ぜひ取り入れてみてください。