多くの高齢者が賃貸物件を探す際に直面する問題のひとつに、「どうして自分は賃貸住宅の審査に通らないのか」という疑問があります。残念ながら、高齢者が賃貸住宅を借りられない傾向にあるのは事実です。
この記事では、その理由について詳しく解説するとともに、それでも借りる方法を住宅の選び方も交えながら詳しく解説します。「定年後の家はどうしよう」とお思いの方は、ぜひ参考にしてください。
- 高齢者は家賃滞納や事故・孤独死のリスクがあることから賃貸住宅を借りられないことがある
- 借りられるかどうかはケースバイケースだが、ひとつの傾向として70代に突入すると徐々に厳しくなる
- 高齢者が部屋を借りるためには、借りる物件を選ぶ、身内に保証人なってもらうなどの工夫が必要
- 住宅ローン返済中の持ち家があるならリースバックも要検討


高齢者が賃貸を借りにくいのは本当か?

高齢者が賃貸を借りにくい可能性があるのは事実です。「令和5年版高齢社会白書」によれば、65歳以上の高齢者のうち、8.4%がアパート、マンション、公営・公団等の集合住宅に住んでいると答えています。
出典:令和5年版高齢社会白書
このデータを見る限り「高齢者が借りられない」とまでは言い切れない部分もあります。しかし、実際に入居の可否を判断するのはオーナーです。オーナーが何らかの理由で入居させるのがふさわしくないと判断した場合、借りられないことも当然あり得ます。
高齢者が賃貸を借りにくい理由

高齢者が部屋を借りにくい理由を一言でまとめると「トラブルが起きるリスクがある」ためです。この理由をさらに次の3つに分類し、詳しく解説します。
- 家賃を安定して払えるかどうかわからない
- 事故や孤独死の不安がある
- 保証人を立てられない可能性がある
家賃を安定して払えるかどうかわからない
1つ目の理由は「家賃を安定して払えるかどうかわからない」ことです。定年後は仕事をしていないため、収入が不安定になることから、年金頼りの生活になってしまう高齢者は珍しくありません。
何らかの形で仕事を続けている、十分な資産があるなど特殊な理由があるなら別ですが、収入源が年金しかない状態では、家賃滞納のリスクがあるとみなされがちになります。
事故や孤独死の不安がある
2つ目の理由は「事故や孤独死の不安がある」ことです。
高齢者の場合、不慮の事故や突然の体調不良が原因で万が一のことが起きてしまう可能性はやはり高くなります。周囲が気づけばすぐに発見できますが、気づかなかった場合長時間放置されてもおかしくありません。部屋がいわゆる「事故物件(心理的瑕疵物件)」となる点を警戒し、高齢者の入居を断るオーナーは一定数いるのが実情です。
なお、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよいことになっています。ただし、購入・賃貸の希望者が過去にそのような事故があったか聞いてきた場合は答えなくてはいけません。
出典:報道発表資料:「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました – 国土交通省
保証会社をつけられない可能性がある
3つ目の理由は「保証人を立てられない可能性がある」ことです。大半の賃貸物件では、契約する際に保証会社をつけることが求められますが、高齢者の場合この点がネックになります。配偶者がすでに亡くなっていたり、親族との付き合いがほとんどなかったりするなどの理由で保証人を頼めないことがあり得るためです。保証会社を使うなどの代替案も考えられますが、このあたりはオーナーの判断によるので結果として部屋に入居できないこともあり得るでしょう。
賃貸は何歳から借りにくくなる?

実際のところ、賃貸は何歳から借りにくくなるのか公的なデータを使って検証してみましょう。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が家賃債務保証会社に対して実施したアンケートによれば、年代別の審査状況について60代と70代とでは明らかな差がみられます。
「通りやすい」の占める割合が60代では49.1%だったのに対し、70代では22.6%にまで急落しました。なお、まだ現役で働いている世代でもある50代の場合、67.9%とかなりの高水準になっています。
部屋を借りられるかどうかは審査の結果にもよりますが、ひとつの傾向として年齢が高くなればなるほど不利だという点には注意が必要です。
高齢者がスムーズに賃貸を借りるための方法

今までの話の裏を返せば、高齢者であっても、オーナーの「トラブルが起きるかもしれない」という懸念点を解消できれば、スムーズに借りられる可能性は出てきます。この点を踏まえて、高齢者がスムーズに賃貸住宅を借りるための方法として、以下の4つについて解説しましょう。
- 身内に協力してもらう
- 健康面や金銭面にリスクがないことを示す
- 連帯保証人を立てずに済む物件を探す
- 保証会社や自治体の居住支援制度を活用する
身内に協力してもらう
1つ目の方法は「身内に協力してもらう」ことです。身内に連帯保証人になってもらえば、万が一家賃が払えなくなった場合でも、代わりに払ってもらえます。
また、身内の住まいと距離が近い物件を選び、普段から行き来を頻繁にしていれば、急な体調不良が起きてもすぐに駆け付けてもらえるはずです。不慮の事故が起きても迅速かつ適切な対応を進められるため、孤独死して長期間発見されないリスクを低減できます。
健康面や金銭面にリスクがないことを示す
2つ目の方法は「健康面や金銭面にリスクがないことを示す」ことです。オーナーが高齢者の入居に消極的になるのは、突然死や家賃の滞納などのトラブルを懸念しているためである以上、その懸念を解消できれば前向きに検討してもらう余地は出てきます。具体例として、以下の点を伝えてみましょう。
- 健康診断の結果を見せる
- 家族やケアマネジャーのサポートが受けられると伝える
- 年金額・預貯金通帳のコピーを提示する
連帯保証人を立てずに済む物件を探す
3つ目の方法は「連帯保証人を立てずに済む物件を探す」ことです。オーナーが物件を賃貸に出したものの、なかなか入居者が決まらない場合、条件の変更を行うのは珍しくありません。その一環として連帯保証人を不要にしていることが多いですが、裏を返せば「入居者が決まらない事情がある」という意味にもなります。
いわゆる築古物件である、設備や内装が古い、過去に事故が起きたなどさまざまな理由がありますが、抵抗がなければ検討する余地はありそうです。まずは不動産会社の担当者からしっかりと話を聞いてから考えるのをおすすめいたします。
保証会社や自治体の居住支援制度を活用する
保証人を頼める親戚がいない場合は、保証会社や地方自治体の居住支援制度も活用しましょう。地方自治体の居住支援制度の代表例には「終身建物賃貸借制度」がありますが、利用したい場合は担当部署に問い合わせるのをおすすめいたします。
制度の概要 | |
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家賃債務保証制度 | 保証会社が連帯保証人の立場となり、家賃の滞納が起きた際に、 借主に代わって立て替えて払う |
終身建物賃貸借制度 | 高齢者が亡くなるまで住み続けられ、かつ、亡くなった時点で 賃貸借契約が終了する一代限定の契約。 「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が根拠法 |
高齢者が住みやすい賃貸物件を選ぶためのポイント

高齢になると収入が減る、ちょっとした段差でも移動しづらくなる、車を使って買い物や病院に行きづらいなどさまざまな問題点が出てきます。この点を踏まえて、高齢者が住みやすい賃貸物件を選ぶためのポイントについて解説しましょう。
- 無理なく家賃が払えるか
- バリアフリーに対応しているか
- 周辺環境の利便性が良いか
無理なく家賃が払えるか
1つ目のポイントは「無理なく家賃が払えるか」です。老後も仕事を続けるなら別ですが、年金と貯蓄だけで暮らす予定なら、無理なく払い続けられる家賃の範囲内で家を探しましょう。
保証人や保証会社を使えば自分が家賃を払えなくなったとしても代わりに払ってもらえますが、あくまでそれは最終手段に過ぎません。まずは自分が払い続けることが前提です。
バリアフリーに対応しているか
2つ目のポイントは「バリアフリーに対応しているか」です。ケガをしないためにも、できるだけバリアフリーに対応している物件を選ぶと良いでしょう。バリアフリー物件の特徴を列挙します。
- エレベーターがある
- 段差が少ない
- 手すりやスロープがついている
- 滑りにくい床材を使用している
周辺環境の利便性が良いか
3つ目のポイントは「周辺環境の利便性が良いか」です。高齢になると、車を運転して遠方の商業施設に買い物に行くのが難しくなることは十分に考えられます。
また、体調を崩した場合はすぐに医療機関にかかれるようにしておくほうが何かと安心です。近隣に商業施設や医療機関があるかは確認しておくことをおすすめします。
高齢者におすすめの賃貸物件

高齢者の場合、オーナーの考え方次第では賃貸物件に入居できないことは十分に考えられます。しかし、比較的高齢者でも入居しやすい賃貸物件はあるので、詳しく解説しましょう。
- 公営住宅
- サービス付き高齢者住宅
- UR都市機構
公営住宅
地方自治体によっては、市営住宅などの公営住宅の一部を高齢者住宅として貸し出していることがあります。一定の要件を満たせば国や自治体から家賃補助を受けられたり、以下のように高齢者に配慮した設備が備わっていたりすることから、人気が高いのも大きな特徴です。
- 住居内に段差があまりない
- 浴室、トイレ、玄関に手すりが設けられている
- 高齢者でも使いやすい床下収納がある
- 掘りごたつを置ける設計になっている
サービス付き高齢者住宅
サービス付き高齢者向け住宅とは、高齢者でも安心して暮らせるよう環境が整えられた賃貸住宅です。略称の「サ高住」が使われることもあります。
有料老人ホームとは異なり、要介護度が低い、もしくは要支援の高齢者が入居することを予定している住宅です。具体的な内容は個々の住宅によって異なりますが、安否確認や生活相談、食事や家事代行などさまざまなサービスを受けられるので、快適に暮らせます。
ただし、医療法人や社会福祉法人、民間企業が運営しているため、公営住宅に比べると家賃はやや高めです。
UR都市機構の賃貸住宅
UR都市機構とは、正式名称を独立行政法人都市再生機構といい、主に大都市や地方都市において市街地の開発や整備改善、賃貸住宅の供給・管理を行う半官半民の会社です。
UR賃貸住宅とはUR都市機構が手掛ける賃貸住宅のことで、昔の「公団住宅」をイメージするとわかりやすいかもしれません。UR賃貸住宅の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 入居時は敷金(家賃2ヵ月分)と日割家賃、共益費を用意すればよい
- 仲介手数料・更新料・保証人は不要
UR賃貸住宅の中でも、特に高齢者向けの住宅として挙げられるものは以下のとおりです。
高齢者向け優良賃貸住宅
高齢者向け優良賃貸住宅とは、部屋の各所に手すりを設置するなど高齢者が使いやすいよう配慮された賃貸住宅です。主に団地の1階にある部屋が高齢者向け優良賃貸住宅として貸し出されることが多くなっています。
なお、所得が一定額であれば、国とUR都市機構がそれぞれ負担する形で家賃の軽減を図ることが可能です。加えて、事故・病・ケガなどの場合、提携事業者に通報がいく緊急時対応サービスが有料で使えます。
健康寿命サポート住宅
健康寿命サポート住宅とは、部屋の中で事故が起きにくいよう改修を施した住宅を貸し出す一方で、落語や体操を取り入れたものなどさまざまなプログラムを実施し、入居者の健康増進を図る住宅のことです。具体的には、以下の改修が施されています。
- 玄関・浴室・トイレへの手すりの設置
- モニター付きインターホンや多機能便座、浴室ヒーターの設置
- トイレの入り口、浴室などの段差の解消
高齢者等向け特別設備改善住宅
高齢者等向け特別設備改善住宅とは、高齢者および障がい者向けに、浴室の段差を改善したり、連絡通報用装置など安全かつ快適に暮らせる設備の設置を施したりした賃貸住宅のことです。実際に設置されている設備は住宅によっても異なるため、検討する際は現地に出向いて確認しましょう。
持ち家がある場合はリースバックで住み続ける方法も

持ち家があるものの、住宅ローンの返済が負担になっている場合はリースバックも検討しましょう。リースバックとは「セールス・アンド・リースバック」のことで、自宅などの不動産を売却して代金を一括で受け取る一方で、賃貸物件として借りる契約を結ぶ取引形態を指します。
自宅の売却によりまとまった資金を確保できる一方で、賃貸住宅として借りて住み続けられるので、引っ越しのストレスもかかりません。
セゾンファンデックスでもリースバックの扱いがございます。日本全国対応で、最短2週間でご契約が可能なので、お急ぎの場合にもまずは一度ご相談ください。簡易査定は最短即日で実施し、買取額・家賃・初期費用もお見積もりいたします。


おわりに
高齢者は収入が不安定になりがちで、病気やケガ、突然死のリスクもあることから、賃貸住宅を借りる際に断られるのは珍しくありません。オーナーのトラブルを回避したいという意向が背景にありますが、保証人を用意したり、健康・財政上のリスクがないことを説明したりすることで、ある程度解決は可能です。
それでも借りられない場合は高齢者向けであることを打ち出している住宅も視野に入れましょう。ただし、公営住宅やUR賃貸住宅は家賃がお手頃であることから人気が高く、希望どおりに入居できるとは限りません。資金面で余裕があるならサービス付き高齢者向け住宅も選択肢に入るでしょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。