親を亡くした後の悲しみや喪失感は誰しもが経験する自然な感情です。しかし、その乗り越え方や回復のプロセスには個人差があります。この記事では、ご家族を亡くされた方の体験談も交えつつ、悲しみと向き合いながら心の平穏を取り戻すための実践的なアドバイスや必要な手続き、立ち直るための道筋についてお伝えします。
- 親の死から立ち直る期間には個人差があり、無理に合わせる必要はない
- 悲しい気持ちを抑え込まずに吐き出すことで心の整理がつきやすくなる
- 親の死後は死亡届など期限のある手続きが多いため計画的な対応が必要
親の死から立ち直るまでどのくらいの期間がかかる?

親の死から立ち直るために必要な期間は、人によって違います。ある人は比較的早く前を向くことができる一方で、悲しみと向き合うための長い時間が必要な方もいるでしょう。
気持ちの整理や切り替えが早い方もいれば、親が亡くなったことを1年以上受け入れられない方など、その過程はさまざまです。
大切なのは、立ち直りの早さと感情の深さは必ずしも比例しないということを理解することです。周囲と比べて立ち直りが早くても「薄情な人間」ではありません。反対に、どんなに遅くても焦る必要はないのです。悲しみのプロセスは極めて個人的なものであり、自分のペースで乗り越えていくことが重要です。
親の死を乗り越える方法4選

親を亡くした悲しみは、人生の中でも特に大きな喪失感を伴うものです。突然訪れる悲しみに対処する方法は人それぞれですが、少しでも前向きに進むための助けになる方法をご紹介します。
ここでは、親の死を乗り越えるための4つの方法について解説します。
時間が過ぎるのを待つ
多くの悲しみや痛みは、時間とともに形を変えていくものです。親の死という大きな喪失感から立ち直るには、十分な時間が必要です。「時間は薬」という言葉があるように、悲しみの渦中にいる間はその効果を実感することは難しいものですが、回復期に差し掛かった時に「あの時に時間をおいて良かった」と振り返ることができるでしょう。
無理に早く立ち直ろうとする必要はありません。親の死を受け入れ、前を向くまでに必要な時間は人それぞれです。自分のペースで気持ちの整理をつけていくことが大切です。時間の経過とともに、少しずつ心の傷も癒えていくでしょう。
感情を抑えない
親を亡くした時に「悲しい」「寂しい」といった感情があふれるのは自然なことです。しかし、喪主や小さな子どもがいる方は「自分がしっかりしなければ」と考え、無理に感情を抑え込んでしまうことがあります。
感情に蓋をしてしまうと、逆に親の死をなかなか受け入れることができず、いびつな形で悲しみを引きずってしまう可能性もあります。悲しみを我慢していると、体調を崩したり精神が不安定になったりする危険性もあります。まずは「しっかり悲しむ時間」や「自分の感情を吐露できる場所」を作り、気持ちをため込まないようにしましょう。
趣味に没頭する
親の死と向き合うことも大切ですが、常に悲しみの中にいることは心身ともに負担となります。時には趣味やスポーツに没頭して、一時的に気持ちを切り替えることも有効な方法です。時間を忘れるほど夢中になることで、悲しみから少し距離を置くことができます。
亡くなった親も、子どもがずっと悲しみに暮れていることを望んではいないでしょう。もちろん、時折手を止めて悲しむことは自然なことです。しかし、趣味などに打ち込むことで時間の経過を促し、徐々に前向きな気持ちを取り戻していけます。自分の心を落ち着かせる活動を見つけて、悲しみを少しずつ遠ざけていきましょう。
病院やカウンセリングを頼る
親の死後、全く眠れなくなったり、食欲がなくなったりする場合は注意が必要です。親の死は非常に大きなショックであり、心の健康に影響を与えることがあります。このような症状が続く場合は、専門家に相談することも検討しましょう。
精神科医やカウンセラーにご自分の心の中にある悩みを吐露し、必要に応じて薬を処方してもらうこともひとつの選択肢です。近年は副作用の少ない睡眠薬なども開発されています。大切な人を亡くした方が心の不調を抱えることは決して珍しくなく、多くの方が「喪失」から来る不調と向き合い、それを克服しようとしています。ひとりで抱え込まず、適切な支援を求めることも大切です。
親の死と向き合い、乗り越えた事例

親の死という大きな喪失を経験した方々の実例をご紹介します。一人ひとり状況は異なりますが、それぞれの方法で悲しみと向き合い、少しずつ前に進んできた過程には共通点もあります。どの方も最初は深い悲しみに包まれましたが、時間とともに新しい生活を築いていきました。
70代母親を亡くした50代女性
Aさん(53歳)は、2年前にお母様を亡くしました。長年の持病があったものの、最期は突然でした。「最初の数ヶ月は何も手につかず、ただ時間が過ぎるのを待つしかありませんでした」と振り返るAさん。彼女が立ち直るきっかけとなったのは、感情を素直に表現すること。友人に話を聞いてもらったり、時には大声で泣いたりすることで、少しずつ気持ちが軽くなっていきました。
半年後には、お母様と共通の趣味だった園芸に再び取り組み始め、それが心の支えになりました。「花を育てることで母とつながっている気がして、癒されました」とAさんは笑顔で語ってくれました。
突然の事故で父親を失った30代男性の体験
Bさん(34歳)は、3年前に交通事故でお父様を突然失いました。「何の準備もなく、あまりにも急だったので、現実を受け入れられませんでした」と当時を振り返るBさん。彼は、悲しみを抱えながらも日常生活を続けようとしましたが、次第に不眠や集中力の低下に悩まされるようになりました。
そうした状況のなか、友人から紹介されたカウンセリングを受け始めたことが転機となります。「専門家に話を聞いてもらうことで、自分の感情と正しく向き合えるようになりました」と話すBさん。また、お父様と楽しんでいたマラソンを再開したことも心の支えとなり、今ではお父様の分も走るつもりで大会に参加しています。
長期介護後に両親を見送った40代夫婦のストーリー
Cさん・Dさん夫妻(45歳と43歳)は、3年間の介護の末に相次いでご両親を見送りました。「長い介護生活で疲れ切っていたため、悲しみより先に虚脱感がありました」と妻のDさんは話します。二人が心の平穏を取り戻すことができたのは、しっかりと時間をかけて感情と向き合ったからです。
「無理に元気を装わず、悲しい時は悲しいと認めることが大切でした」と夫のCさんは振り返ります。また、同じ経験をした人が集まる遺族会に参加したことも大きな助けになったとのこと。「同じ気持ちを共有できる仲間がいることで、孤独感が和らぎました」と二人は口を揃えて話してくれました。
親が亡くなった後にする手続き一覧

親が亡くなった後は、悲しみに暮れる間もなく、さまざまな手続きが必要になります。これらの手続きは期限が定められているものが多く、対応が遅れると不利益を被ることもあります。
ここでは、親が亡くなった後に必要な主な手続きとその期限をまとめました。
手続き | 期間 |
---|---|
死亡届 | 7日以内 |
埋葬・火葬許可証交付申請書 | 死亡届と同時 |
国民健康保険資格喪失届 | 14日以内 |
介護保険資格喪失届 | 14日以内 |
年金受給停止 | 14日以内 |
遺族基礎年金請求 | 5年以内 |
死亡一時金請求 | 2年以内 |
葬祭費の申請 | 2年以内 |
世帯主の名義変更 | 14日以内 |
死亡届
死亡届は親が亡くなってから7日以内に提出しなければなりません。火葬の手続きをするためには死亡届が必要となるため、最初に行うべき手続きです。死亡診断書と死亡届は一体となった用紙で、医師によって死亡診断書が記入された状態で受け取るのが一般的です。死亡診断書がないと死亡届は出せません。
記入内容は、亡くなった方の「生年月日・住所・世帯主・本籍・職業、亡くなった時間・場所」、そして届出人自身の「住所・本籍」が必要です。また、届出人の捺印も求められます。届出人は本来であれば親族などに限定されますが、葬儀社が代行することも可能で、24時間365日いつでも受け付けてもらえます。不明な点があれば相談しながら記入しましょう。
埋葬・火葬許可証交付申請書
日本では火葬が一般的であり、そのためには火葬許可証が必要になります。通常、死亡から24時間以内に申請することが望ましいとされています。多くの場合、死亡届を提出した際に同時に火葬許可証の申請も行います。自治体によっては、死亡届提出と同時に火葬許可証が発行されることもあります。
火葬許可証は故人が火葬されるまで大切に保管し、火葬場に持参して提出します。火葬が済むと「執行済み」のハンコが押されて返却され、これが埋葬許可証となります。この書類も大切に保管しておきましょう。
国民健康保険資格喪失届
親が国民健康保険に加入していた場合、死亡から14日以内に国民健康保険資格喪失届を市区町村役場に提出する必要があります。特に注意すべき点は、亡くなった親が世帯主であった場合、世帯全員分の保険証を返却しなければならないことです。
提出先は自治体の役所で、喪失届と保険証を提出します。高齢受給者証などがあれば同時に返却しましょう。死亡したことを証明する死亡届のコピーや、手続きする人の身分証明書と印鑑が必要となる場合もあります。
介護保険資格喪失届
親が介護を受けていた場合は、介護保険資格喪失届も提出しなければなりません。この手続きが必要なのは、「65歳以上の方」または「40歳以上65歳未満で要介護・要支援認定を受けていた方」です。65歳以上でも要介護・要支援認定を受けていなければ届出は不要です。
喪失の手続きは親の住民票のある自治体の役所で行います。届出には介護保険資格喪失届と保険証の返却が必要です。死亡届の提出と同時に役所内で連携手続きが行われている場合もありますが、念のため14日以内に喪失届を提出しましょう。
年金受給停止
親が国民年金を受給していた場合、14日以内に年金の停止手続きを行わなければなりません。この手続きは年金事務所や相談センターで行います。意図的に隠して金銭を受け取っていると犯罪になる可能性もあるため、必ず期限内に届け出るようにしましょう。
提出書類は日本年金機構のホームページからダウンロードできる「年金受給者死亡届」です。この届出には親の年金証書と死亡の事実を証明する死亡届のコピーも必要になります。年金コードや生年月日、死亡日時に加え、届出人の氏名と住所も記入する必要があります。
遺族基礎年金請求(国民年金)
親が家計を支えていた場合、遺族のための基礎年金が支払われることがあります。遺族基礎年金が支給されるのは、亡くなった親に生計を維持されていた「子どものある配偶者」または「その子ども」です。ここでいう「子ども」とは、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方を指します。また、親が保険料を支払うべき期日の3分の2以上納めていることも条件になります。請求先は年金事務所または年金相談センターで、年金請求書や年金手帳加入番号、死亡届のコピーなどが必要です。手続きが複雑な場合は、年金相談ダイヤルなどに相談しながら進めるとよいでしょう。この請求は親が亡くなってから5年以内であれば可能です。
参考:日本年金機構|遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
死亡一時金請求(国民年金)
親が国民年金に加入していた場合、条件によっては死亡一時金を受け取れることがあります。受給条件は、親が「第1号被保険者」かつ「保険料納付期間が36か月以上」であり、「年金を受け取っていなかった」ことです。受け取ることができるのは、親と生計を共にしていた遺族です。
必要な書類は死亡一時金請求書、親の年金手帳、住民票、戸籍謄本などで、自治体の役所または年金事務所に申請します。手続きは複雑なため、年金相談ダイヤルなどの相談窓口を利用するとスムーズです。親の死亡から2年以内に申請する必要があります。
葬祭費(国民年金保険被保険者)
親が国民健康保険に加入していた場合、葬儀を執り行った喪主に対して葬祭費が給付されます。これは葬儀や埋葬を行ったことを補助するための費用であり、親の死亡による補助金とは異なります。喪主と親の住民票が異なる場合は、どちらかの役所に相談するとよいでしょう。
申請に必要なものは葬儀のために発行された領収書や印鑑などです。市区町村役場で手続きを行い、親が亡くなってから2年以内に申請すれば葬祭費の給付を受けることができます。親が会社などの健康保険に加入していた場合は、そちらから「埋葬費」が支払われます。両方を申請することはできません。
世帯主の名義変更
亡くなった親が世帯主だった場合、14日以内に世帯主の変更手続きを行う必要があります。新しく世帯主になる人は、親と同居していた人が望ましいです。死亡届を提出しても世帯主の変更までは自動的に行われないため、別途手続きが必要です。
役所で世帯主変更届を提出する際には、新しい世帯主の本人確認書類と印鑑が必要です。親がひとり暮らしだった場合や、残された家族が15歳未満の子どもだけの場合は、世帯主になれないなどの制限があります。不明な点は役所の窓口で相談しましょう。
おわりに
親との死別は、誰もがいつか経験する可能性のある大きな喪失体験です。その悲しみから立ち直る時間は人それぞれであり、早さを競うものではありません。大切なのは、自分のペースで感情に向き合いながら、少しずつ前に進むことです。時には感情を素直に表現したり、趣味に没頭したり、必要なら専門家の助けを借りることも回復への道筋となります。
同時に、親の死後には様々な手続きも発生します。悲しみの中でも期限を把握し、計画的に進めることが大切です。いつの日か、あなたも悲しみを抱えながらも、新たな一歩を踏み出せる日が必ず来るでしょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。