更新日

相続不動産、税務署はどこを見る?相続税申告と税務調査対策【国税OB税理士が解説】

相続不動産、税務署はどこを見る?相続税申告と税務調査対策【国税OB税理士が解説】
川口 誠 (MK Real Estate 税理士事務所/税理士)

執筆者

MK Real Estate 税理士事務所/税理士

川口 誠

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。 国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。 そのなかで、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。

相続税の税務調査において、最も重点的に精査されるのが「不動産の評価」です。申告した評価額が適切でないと判断された場合、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されることもあります。

本記事では、国税OB税理士の川口誠氏が、不動産相続の基本とともに、不動産評価に関する税務調査のポイントと、その対策方法について詳しく解説します。

そもそも相続税とは?申告の基本と流れ

そもそも相続税とは?申告の基本と流れ

相続税の申告は、被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に、最後の住所地を所轄する税務署へ行う必要があります。この期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。

申告にあたっては、被相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、住民票、戸籍謄本など、多くの書類の確認が求められます。

不動産を相続した場合は、土地・建物の登記事項証明書や固定資産税評価証明書など、不動産関連の証明書もそろえる必要があります。これらの書類は多岐にわたるため、不足がないよう早めに準備を始めることが大切です。

相続税の計算方法では、まず相続財産の総額を算出します。この際、預貯金、有価証券、不動産といったすべての財産を漏れなく洗い出す必要があります。不動産の評価額は、土地と建物で計算方法が異なります。土地は路線価方式(路線価が定められている地域)または倍率方式(路線価が定められていない地域)で、建物は固定資産税評価額で評価します。これらの評価額を合算して相続財産の総額を算出し、そこから、葬式費用や債務を控除。

さらに基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた金額が課税対象となります。この課税対象額をもとに、各相続人の取得分に応じた相続税が計算されるのです。

税理士は、申告書の作成はもちろん、相続財産の洗い出しや税務調査を見据えた不動産評価の妥当性確認など、専門的な視点からサポートします。特に不動産は評価方法に幅があり、税理士のノウハウによって評価額を下げられるケースも少なくありません。

税務署は「土地の評価」をこう見る!3つの指摘事例

税務署は「土地の評価」をこう見る!3つの指摘事例

相続税の税務調査で最も重点的に精査されるのが、不動産の評価です。特に、評価額の根拠が曖昧な場合や、不自然に評価額が低いと判断された場合、調査の対象になりやすいです。税務署は申告された評価額が適正かどうかを厳しくチェックします。

事例①補正率の不適切な適用

【状況】

Aさんは、都心部に位置する不整形地を相続。土地の評価に際し、整形地として計算できる部分のみを路線価で評価し、残りの不整形な部分は過小に評価して申告しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、Aさんの申告書から土地の形状が不整形であることを把握したうえで、不整形地評価減の適用方法に誤りがあると指摘しました。不整形地の場合、不整形地補正率などを適切に適用して評価する必要があります。

Aさんは不整形地補正率を過大に適用していたため、実際よりも低い評価額で申告していました。結果、税務署は適正な評価額を算出し、過少申告加算税と延滞税を課しました。

事例②小規模宅地等の特例の誤った適用

【状況】

Bさんは、被相続人と同居していた自宅の土地を相続。小規模宅地等の特例を適用し、土地の評価額を80%減額して申告しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、Bさんは一時的に別世帯となり家計も独立していた期間があったため、税務署は「生計一体」と認めず、特例要件を満たさないと判断しました。

住民票の移動履歴だけでなく、水道光熱費の支払いや郵便物の宛先など、生活実態を詳細に調査した結果、Bさんが一時的に被相続人と別居していたことが明らかになりました。

小規模宅地等の特例は、相続開始直前まで同居し、かつ生計をともにしていることが要件の一つです。税務署は特例の適用を否認しました。

事例③私道の評価と申告漏れ

【状況】

相続財産である土地は、公道から直接アクセスできず、近隣住民が共同で利用している私道に接しています。Cさんは申告にあたり、この私道は相続財産ではないと判断し、評価額に含めずに申告しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、登記簿謄本で私道が被相続人の所有であることを確認。私道は公共性が高いため、一定の評価減は認められる場合がありますが、所有・利用状況によっては評価対象となります。

その結果、Cさんは私道の評価額が申告漏れとなり、追徴課税が課されることに。たとえ私道であっても、被相続人の所有物であれば相続財産として評価し、申告する必要があるのです。

これらの事例からわかるように、税務署は、申告内容の整合性を徹底的に確認します。時には、地図や航空写真なども用いて、申告内容と現地の状況を比較検証することも。

こうした指摘を受けないためには、不動産評価額の根拠を明確にし、税理士の書面添付を活用することで、有効な税務調査対策となり得るでしょう。

不動産の次に狙われる「名義預金」の罠と3つの事例

不動産の次に狙われる「名義預金」の罠と3つの事例

相続税の税務調査で不動産と並んで厳しくチェックされるのが、預貯金です。なかでも注意すべきは「名義預金」です。名義と実際の管理者が異なる預金であり、税務署は資金の出所と利用実態を重点的に確認します。

名義預金とは、名義人以外の人物が実質的に管理・運用している預金を指します。税務署は、この名義預金が、相続財産であるにもかかわらず申告から漏れている、あるいは生前贈与と装われているのではないかと疑うのです。

事例①子や孫名義の預金

【状況】

Dさんは、被相続人の死亡後、被相続人の自宅から子や孫名義の預金通帳を発見。これらの通帳には、Dさん自身も知らないうちに多額の資金が振り込まれており、Dさんはこれらの預金が被相続人のものだと判断し、相続財産に含めて申告しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、この子や孫名義の預金について、資金の流れを詳細に追跡調査しました。その結果、被相続人には生前から贈与の意思があり、受贈者(子や孫)もその事実を認識していたことが判明します。

しかし、受贈者側で贈与税の申告をしていなかったため、税務署は贈与税の申告漏れを指摘しました。このケースでは、相続財産として申告した金額は減額となり、相続税の追徴課税はありませんでしたが、代わりに受贈者に贈与税を課しました。

事例②妻名義の預金

【状況】

Eさんは、被相続人の死亡後、妻名義の預金が多額に残されていることを知りました。この預金は、被相続人の事業所得の一部を、妻名義の口座に振り込んでいたもので、Eさんはこの預金が実質的に被相続人のものであり、相続財産であるとして申告しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、妻名義の預金の資金の出所を徹底的に調査しました。調査により、被相続人の事業所得が直接振り込まれていること、そして妻がその預金を自由に利用していなかったことが判明します。

これらの預金は、形式的には妻名義であるものの、実質的には被相続人の財産であると認定したのです。しかし、Eさんが正しく申告していたため追徴課税はなく、むしろ申告の正しさが証明される形となりました。

事例③親族間の資金移動と名義預金

【状況】

Fさんは、亡くなった父親の遺産を相続しました。父親の預金口座から、生前に親族の口座へ多額の資金が送金されていたことがわかりました。Fさんは、これらの資金移動は父親が親族に対して行った生前贈与であると考え、相続税の申告からは除外しました。

【税務調査での指摘】

税務署は、父親の口座から親族の口座への資金移動に注目し、その資金が実質的に誰によって管理されていたかを調査しました。その結果、資金を受け取った親族は自分の生活費として使っておらず、父親の指示に従って株式投資や不動産購入に充てていたことが明らかに。

税務署は、これらの資金移動は形式的には贈与の形をとっているものの、実態は被相続人が管理・運用していた「名義預金」と判断しました。実質的な管理権が父親にあったためです。

贈与契約は成立せず、その資金は相続財産とみなしたことで、結果として、申告漏れとなり、追徴課税を課しました。

これらの事例のように、名義預金であるかどうかの判断は、資金の出所、名義人による利用の実態、贈与契約の有無など、さまざまな要素を総合的に考慮して行われます。安易に「家族名義だから大丈夫」と判断せず、税理士に相談し、適切な申告を行うことが重要です。

特に、生前贈与をしていた場合は、贈与契約書を作成し、贈与された資金が名義人によって自由に利用されていた証拠を残しておくことが、税務調査対策となります。

おわりに…税務調査で後悔しないための鉄則

おわりに…税務調査で後悔しないための鉄則

相続税の申告と税務調査対策には、正確な知識と周到な準備が欠かせません。特に、不動産と預貯金は、税務署が最も注力して調査するポイントです。

不動産の評価については、不整形地補正や地積規模の大きな宅地、小規模宅地等の特例などを活用することで、評価額を軽減することができる場合があります。

そのためには、土地の形状や利用状況を詳細に確認し、評価減となる要素を漏れなく洗い出すことが求められます。

名義預金については、資金の出所や利用状況を明確にし、それが相続財産に該当するのか、生前贈与として扱われるのかを正しく見極めることが重要です。

生前贈与を行う場合は、贈与契約書を作成し、贈与された資金が受贈者によって管理・運用されている証拠を残しておきましょう。

これらの対策を講じるためには、相続税に精通した税理士のサポートが不可欠です。税理士は、申告書の作成はもちろん、税務調査で指摘されやすいポイントを事前に把握し、適切な申告と節税対策を提案してくれます。

相続は一生に一度あるかないかの出来事です。安易な自己判断は禁物です。税務調査の経験をもつ専門家に相談し、正確な評価・申告を行うことが、家族を守る最善の備えです。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

よく読まれている記事

みんなに記事をシェアする