高齢者の運転操作ミスによる交通事故、死亡事故の発生率が増加していることが社会問題になっています。昨今は高齢者による交通事故を防ぐために、車の運転免許の返納をすすめる動きが見られます。
そこで今回は、免許返納の目安となる年齢や手続き方法を紹介します。最近ご自身の運転に自信がない方や、家族に免許返納をすすめたいと考えている方必見です。
1.免許返納に年齢制限はある?
まずは免許返納に関しての基礎知識を解説していきます。
1-1.免許証の自主返納には年齢制限はない
免許証の自主返納には、年齢制限はありません。高齢者の方だけが自主返納を行うイメージを抱いている方が多いかもしれませんが、若い世代の方でも自主返納することは可能です。年齢制限はありませんが、運転に不安を抱くようになった高齢ドライバーが自主返納を行う傾向にあります。「〇〇歳になったから免許を返納しなければいけない」という決まりはありません。
1-2.免許証の自主返納の方法
免許証取得や更新の手続きは、時間がかかって煩わしいイメージがありませんか?そのため「免許証の自主返納も時間がかかって面倒くさそう」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。自主返納の手続きの流れを確認してみましょう。
・免許証の自主返納の手続き
最寄りの警察署または運転免許センターで行います。
・申請時に必要な書類と手数料
- 運転免許取り消し申請書(窓口にて取得)
- 運転免許証
- 印鑑(自治体によっては不要の場合あり)
- 手数料は必要なし
・免許証の自主返納の手続きの流れ
警察署または運転免許センターに行き、運転免許取り消し申請書に必要事項を記入し提出します。印鑑が必要な場合は押印をして提出しましょう。運転免許証も一緒に提出して、免許返納の手続きは完了です。
所要時間は20~30分程度なので、あっという間に完了します。免許証の自主返納では手数料はかからないのでお金も必要ありません。このように免許証の自主返納手続きは、時間もお金もかからずに手続きもとても簡単です。
1-3.免許返納で特典もある
免許証を返納すると、特典を受けられる場合があるのはご存知でしょうか?生活が便利になる特典や、割引制度などさまざまな企業が免許返納者に対する特典を設けています。
その特典を受けるために必要なのが、「運転経歴証明書」です。身分証明書として使うために交付するもの、という認識の方が多いかもしれませんね。運転経歴証明書は身分証明書になるのはもちろんですが、特典を受けるために交付申請する方も多いのです。運転経歴証明書の申請方法などの詳細を確認しましょう。
・運転経歴証明書の手続き
運転経歴証明書交付の申請も返納手続きと同様に、警察署または運転免許センターで行います。免許返納(運転免許取り消し申請)と同時に行うことができるので、免許返納の際に運転経歴証明書の交付も受けたい方は事前に準備をしていきましょう。
・申請時に必要な書類と手数料
- 運転経歴証明書交付申請書(窓口にて取得)
- 申請用写真(縦3.0cm×横2.4cm)
- 手数料1,100円(自治体により異なる場合あり)
・運転経歴証明書の手続きの流れ
運転経歴証明書交付申請書に必要事項を記入・提出し、窓口に提出します。免許返納の手続きを同時に行う場合は、前項で紹介した返納の手続き書類も同時に記入し提出が必要です。申請用の写真は6ヵ月以内に撮影したものが必要です。運転免許センターで手続きを行うのであれば、写真の撮影もその場でできる場合もありますので事前に確認しましょう。時間は混雑具合によっては、1~2時間程度かかる場合も。また、運転免許センターでは即日運転経歴証明書が発行されますが、各警察署では1~2週間後の発行となります。郵送での受け取りが可能な場合もあります。
・免許返納から5年以内であれば交付可能
免許証を自主返納する際に運転経歴証明書の交付申請をしなかった、という方でも返納から5年以内であれば交付申請をすることができます。運転経歴証明書の申請のみを行う場合は、免許証の自主返納をした管轄内の運転免許センターでのみ申請が可能です。
1-4.本人ではなく代理人でも免許返納できる?
本人が入院中であるなど、心身の状態により窓口に行くことが困難な場合は代理人が免許返納の手続きを行うことができます。代理人による申請を行う場合は、委任状と代理人の住所や氏名が確認できる身分証明書が必要ですので必ず持参するようにしましょう。
2.免許返納の推奨年齢は?
免許返納は年齢制限がないと前述しましたが、何歳で返納する人が多いのでしょうか。推奨年齢が何歳くらいなのか、またその理由を解説します。
2-1.70~80歳までに免許返納を行う人が多い
運転免許証の自主返納を行う人の多くは、70〜80歳です。
70歳を超えると免許証の更新時に高齢者講習を受ける必要があります。この高齢者講習は約2時間の講習時間がかかる上に、受講には手数料が必要です。座学と運転適性検査、さらに実車講習があります。また、75歳以上は高齢者講習に加えて認知機能検査も受ける必要があります。これらの高齢者講習は予約制なので、いつでも自由に受けられるわけではありません。
70歳を超えて免許返納をした方は、このような免許更新時の煩わしさが理由の可能性もあるでしょう。
2-2.免許返納の特典は65歳以上からの場合が多い
免許返納によって受けられる特典には、年齢制限が設けられている場合もあります。年齢制限がある特典は65歳以上の方を対象にしているケースが多いです。特典の年齢制限を超えて、多くの特典が受けられることが免許返納を考えるきっかけになる方もいるでしょう。
具体的にどのような特典があるのかを知りたい方のために、免許返納で受けられる特典の例をいくつか紹介します。
・スーパーでの買い物で受けれられる特典
免許を返納することで、車の運転ができなくなり日常の買い物が困難になってしまう方も少なくありません。そんな方に向けて食品や日用品の買い物に役立つ特典を設けているスーパーが多くあります。例えば、買った商品の配送サービスをお得に利用できたり、ポイントが2倍になったりなど。ネット通販を利用するのが難しいと感じる方にとっては、とても便利なサービスですね。
・食事券の購入割引
全国で使える食事券の購入が割引になるサービスもあります。免許を返納して運転ができなくなり、外出の機会が減らないように食事券をお得にゲットして外出のきっかけを作る素晴らしい取り組みです。
・車の買い取り時の特典
免許を返納して、それと同時に乗っていた車を手放すという方もいるでしょう。その車の査定額に応じて商品券の贈呈や、現金の還元を行っている企業もあります。
・タクシーの乗車割引き
上記で紹介した特典以外にも、都道府県ごとにさまざまな特典を実施しています。具体的にどのような特典があるのか知りたい方は、以下のサイトで確認してみてください。
2-3.免許返納は家族にすすめられて行う人が多い
免許返納を考えたきっかけに関する世論調査で1番多かったのが、「自身の身体能力低下を感じたこと」でした。その次に多い理由は、「家族に運転をやめるようにすすめられたから」です。
自分は大丈夫と思っていても、家族や親族から見て運転に対する不安があり指摘されることもあるでしょう。また、高齢ドライバーによる死亡事故の発生率が増加していることから、70歳を超えた頃に家族から話をされるケースもあります。
家族と話し合い、サイドミラーの確認や車間距離を保てているかなど、運転能力のチェック項目をご自身で考えておくと良いでしょう。そのチェック項目が免許返納を考える目安になり、日頃の安全運転への意識も高めることができます。
3.免許返納の年齢が若い場合のメリットは?
免許の自主返納は高齢者の方が多いイメージですが、若い方が免許返納をするメリットはあるのでしょうか?
3-1.若い年齢でも免許返納できる
そもそも若い方でも免許返納はできるのか?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、免許返納には年齢制限がないのでもちろん可能です。若い方が免許証を返納する理由の例をいくつか見ていきましょう。
・車の運転が怖い
「なんとなく周りに合わせて…」「親に言われたから」など免許を取得したけれど、実際に運転をする機会が少ない方もいるでしょう。いざ運転するとなると、久しぶりだったり運転に苦手意識があったりして運転が怖いと感じる方が免許返納をするケースがあるようです。
・車の運転が必要ない
公共交通機関が充実している地域に住んでいて、「そもそも運転をする機会がない」という方も少なくありません。
・車の運転が難しくなった
不慮の事故や病気などが原因で、心身に問題が発生し車の運転が難しくなってしまった方が免許返納をするケースもあります。
高齢者ドライバーほど多くはありませんが、上記のような理由で若い世代でも免許証の返納をすることもあります。しかし若い世代の方は、今は必要なくても将来ライフスタイルが変わって車が必要に…という可能性もあります。今後、生涯にわたって車に乗る可能性がないかどうかを、よく考えてから返納しましょう。
3-2.若いのに免許返納する場合のメリット
若い世代の方が免許証を返納する場合のメリットについて考えてみましょう。
・自動車保険に加入する必要がなくなる
免許証を返納するということは車の運転ができなくなるということです。車の運転ができなければ当然、任意自動車保険に加入する必要もありません。保険料の支払いが不要になり、経済的なメリットがあります。
・運転経歴証明書を身分証明にできる
身分証明書になるからと若い頃に免許を取得したけど、これからも「運転する機会がない」という方は運転経歴証明書の発行を検討しても良いかもしれませんね。運転免許証は運転の有無に関わらず更新手続きをする必要があります。更新の手続きは講習内容によっては半日程度かかる場合もあります。しかし、運転経歴証明書は手続きも簡単で有効期限がないため更新の必要もありません。
4. 免許返納しない理由とする理由
最後に免許の返納に関して、免許を返納しない理由とする理由、それぞれを紹介します。ここで紹介するそれぞれの理由を参考に、自身のライフスタイルと照らし合わせて考えてみてください。
4-1. 免許返納をしない理由
免許返納をしない理由は人それぞれですが、以下のような声が多いです。
・交通が不便で農業で使う場合もあるなど
免許返納をしないという方の約半数が「代わりの交通手段がなく、買い物や外出が難しくなるから」という理由を挙げています。家族や周りの人が車で送迎をしてくれる、という環境下でなければなかなか車を手放すのが難しいと思う方が多いのが現状です。
また、農業を行う高齢者の方は、トラクターや軽トラックを利用するとなると運転免許は必須。仕事のために免許を自主返納するのが難しいというケースもあります。
・運転をやめることで認知症が進まないか不安
免許返納をして運転をしなくなると、「認知症になってしまう」「認知症の症状が進んでしまう」と考える方もいるようです。運転時は、目で見て確認や判断をし、手足を動かして操作する必要があります。このことから、脳をフル回転させることができる運転で、認知症が進むリスクが少なからず軽減されているかもしれません。
しかし、必ずしも「運転をしなくなったから認知症の症状が進む」ということではありません。免許返納が認知症の進行に影響があるとしたら、運転ができなくなったことで外出や人に会う機会が減ってしまうことの方が問題かも。
デイサービスの利用や地域の活動などに参加できる環境を整えておけば、認知症に対する不安を軽減できるかもしれませんね。
4-2. 免許返納をする理由
免許を返納する理由ももちろんいろいろな理由があります。返納することに抵抗があり、悩んでしまう方も多いでしょう。しかし、いざ返納してみると、「返納して良かった」と感じることも日常にあるかもしれません。返納者の声の例を挙げると、特典でお得にタクシーを利用するようになったことで「今までは運転していてしっかり見られなかった街の景色を、移動しながらゆっくり見ることができて楽しい」という意見もあります。
悩んでいる方の参考になるように、高齢者の方が「身体能力の低下を感じたから」「家族からすすめられたから」以外で高齢者、若い世代どちらでも挙げられることのある理由を紹介します。
・車の運転が怖い
運転をあまりしないから運転が怖い、というケースがあると前項でも説明しましたが、それ以外にも運転に恐怖心を感じる場合があります。例えば、「交通事故を起こしてしまって運転するのが怖くなった」「交通違反で取り締まりを受けて運転に自信がなくなってしまった」など。
・車の維持が難しい
車の維持が難しくなり、車を手放すことをきっかけに免許を返納するケースもあります。車の維持には、車検費用やガソリン代、駐車場代などさまざまな費用が必要です。これらを払い続けることが難しくなったことが、免許返納の理由にもなるようです。
おわりに
免許の返納に年齢の制限はありません。ご自身や家族の運転で「危ないかも?」と感じたときには免許の返納を検討してみましょう。
今回紹介したように、手続きは簡単にできて、さらに運転経歴証明書があればお得な特典も多数あります。もう運転はしていないし、今後もする予定がないと思っている方は更新手続きの手間も省ける運転経歴証明書の交付に踏み切ってみてはいかがでしょうか。