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相続対策に重要な生命保険、受け取った時の税金はどうなるの?

北岡 修一(東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士)

監修者

東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士

北岡 修一

西新宿にオフィスを構え、法人顧問の他、相続・相続税対策、事業承継、不動産に関する税務等に力を入れている。グループの不動産コンサル会社と連携し、具体的な対策から税務まで一貫したサービスを行っている。

死亡保険金には相続税がかかるのか?

自分の死後、家族の生活が困らないように生命保険に入っている方は多いと思います。ただ、その生命保険金に税金がかかるとしたら、ちょっと理不尽な思いを感じるのではないでしょうか?

死亡保険金は、法律的には相続財産に該当しません。契約により受取人に指定された方の固有の財産となります。したがって、相続人全員による遺産分割の対象とはされず、受取人が単独で保険会社に保険金を請求することができます。また、負債が多く相続を放棄した場合であっても、保険金を請求することができます。

相続財産に該当しないのであれば、相続税がかからないと思いきや、死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象に含まれることになっています。財産的な利益を受けるわけですので、何らかの課税対象となってくるのです。ただし、死亡保険金の趣旨をくみ取って、次の金額までは相続税が非課税となります。

●死亡保険金の非課税限度額 = 500万円×法定相続人の数

法定相続人が配偶者と子2人の3人であれば、1,500万円までの保険金は非課税となります。それを超える保険金は相続税の計算に含めることになります。この非課税枠は、たとえ配偶者が1人で1,500万円を受け取ったとしても、全額が非課税となります。

また、死亡保険金が非課税となるのは相続人が受け取った場合のみです。相続人以外の方(相続を放棄した人も含む)が保険金を受け取った場合は、非課税にはなりません。

なお、非課税限度額の計算において、法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までとなります。ただし、被相続人の配偶者の連れ子で、被相続人の養子となっている方は、実の子と扱われますので、養子の数にはカウントしません。

契約内容等によって、かかる税金が変わってくる

さて、死亡保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になると述べましたが、契約内容等によっては、相続税ではなく他の税金の対象になることもあります。その関係は次のとおりです。

<例> 被相続人(亡くなった方):父 

①契約者:父 保険料支払者:父 被保険者:父 受取人:母 → 相続税

②契約者:父 保険料支払者:母 被保険者:父 受取人:子 → 贈与税

③契約者:子 保険料支払者:子 被保険者:父 受取人:子 → 所得税

 

この場合は、契約者はあまり関係ありません。保険料は誰が負担していたのか、受取人は誰かが重要となってきます。

①は、父が保険料を負担していた保険、すなわち父が作った財産を、父の死亡により母が受け取りますので、相続税の対象となります。

②は、母が保険料を負担していた保険、すなわち母が作った財産を、子が受け取りますので、母から子への贈与となり、贈与税の対象となります。

③は、子が保険料を負担していた保険、すなわち子が作った財産を、子が受け取りますので、自分が作った財産ですから所得税の対象となります。

①については、前項で述べた非課税枠を使うことができます。ただし、②については死亡保険金の非課税枠は使えず、贈与税の基礎控除額110万円を超える部分は税率の高い贈与税の対象となってきますので、注意が必要です。

③については、所得税の一時所得となり、次のように計算されます。

●一時所得の金額 =(死亡保険金-既払込保険料の総額-50万円)× 1/2

この一時所得の金額は、他の所得と合算されて総合課税により所得税が計算されます。既払込保険料の総額および一時所得の特別控除額50万円を控除した上で、1/2課税となりますので、税金的には優遇されていると考えられます。

以上、加入している生命保険がどのような状況になっているのか、よく確認しておく必要がありますね。

生命保険を相続対策に活用するには?

非課税枠の活用

まずは、非課税枠をしっかり活用することです。現在入っている保険を見直してみて、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が有効に活用されているかどうか、確かめてみてください。定期保険などは、ある年齢までで切れてしまいますので、今は十分な保険であっても非課税枠に満たないことになってしまう場合もあります。それらも考えてどのような保険に入れば良いのか、検討してみることをおすすめします。

高齢になってくると、支払う保険料と支払われる保険金に差がなくなってくるケースも多いです。どうせ変わらないなら預金で持っていても同じ、と考えるかも知れません。この場合でも、非課税枠が残っていて、かつ預金に余裕があるのであれば、預金を生命保険に振り替えるだけで非課税となり、相続税対策になります。昨今はかなり高齢であっても入れる保険もありますので、検討の価値はあると思います。

代償金用の保険

たとえば、相続財産が自宅と多少の預金で、相続人が子2人の場合、1人に自宅を、もう1人に預金を相続させてもバランスが取れないケースがよくあります。自宅の評価額が高く、預金の額と相当の差が出てしまうような場合です。

このような場合には、生命保険を活用することが考えられます。具体的には、自宅を相続させる子を受取人とした生命保険に入っておくことにより、相続が起こったときにはその子に保険金が入ってきます。生命保険金は受取人固有の財産になりますから、自宅を相続した子は自分の判断でその保険金を使って、預金を相続する子に代償金を支払うことができます。これにより、相続財産のバランスが取れ、円満な相続にしていくことが可能になってきます。

また、遺言により片寄った財産分けになってしまうケースでも、生命保険を活用することにより、遺留分侵害額請求の支払いにあてる資金を確保することも可能です。このようにバランスが取れない遺産分割になりそうな場合は、生命保険の活用を考えてみてはいかがでしょうか?

保険料贈与

相続税対策において、生前贈与はよく使われる方法です。贈与税の基礎控除額年間110万円の範囲、あるいは想定される相続税率よりも低い贈与税率の範囲で贈与を行い、生前に財産を子孫に移していこうというものです。

この生前贈与を複数人に、さらに複数年にわたって時間をかけて行っていくことにより、相続財産を大きく減らしていくことが可能になります。

ただ、相続税対策だけのために多額の財産を贈与することは、子どもたちの働く意欲や頑張ろうという気持ちを減退させてしまう可能性があり、必ずしも子どもたちのためにならない場合もあると思います。

そこで提案したいのは、保険料贈与です。毎年の保険料分のお金を贈与することにより、子どもたちに次のような生命保険に入ってもらうのです。

 ●終身保険 契約者:子 保険料支払者:子 被保険者:親 受取人:子

たとえば、最低税率の範囲で保険料贈与を行おうとすれば、次のようになります。

 (贈与額310万円-基礎控除額110万円)×10% = 贈与税20万円

  年払い保険料 = 310万円-20万円 = 290万円

これを10年間行えば、3,100万円の相続財産を減らすことができます。この場合の贈与税はトータル200万円となり、税率は6.45%です。相続税率がこれよりも高ければ、相続税の削減効果があったということになります。

贈与をしても子どもたちの手元にはお金は残らないため、上記のような悪い影響はありません。さらに、子どもたちにお金が入るのは親が亡くなったときですから、相続でもらったのと同じような結果になります。その時は親に対する感謝の気持ちも湧いてくるのではないでしょうか。

また、前述したように上記のような保険は所得税の対象となり、優遇された一時所得での課税になります。税金的にも有利です。相続税における死亡保険金の非課税枠は、別途の保険で活用しておけば、生命保険を効果的に活用することができます。

なお、保険料を毎年贈与することは連年贈与として一括贈与にならないのかと、心配するかも知れません。これに関しては、毎年贈与契約を交わすこと、親から子の口座に振り込むこと、通帳は子が管理すること、贈与税の申告が必要な場合(年110万円超)はしっかり申告を行うこと、生命保険料控除を子が行うこと、などを行っておけば問題はないと考えます。

死亡保険金が出なくても相続税が課される場合もある

相続が起こったときは、死亡保険金が支払われないにもかかわらず、相続税が課される場合があります。このようなケースでは、相続税申告の際に計上漏れしてしまうこともありますので、注意しておかなければなりません。では、一体どのような場合に課税されるのでしょうか?

それは被相続人が他の者を被保険者として契約していた保険、保険料を支払っていた保険です。たとえば、次のような保険です。

<例> 被相続人(亡くなった人):父 

①契約者:父 保険料支払者:父 被保険者:母 受取人:子 → 通常の相続財産

②契約者:母 保険料支払者:父 被保険者:母 受取人:子 → みなし相続財産

①の場合は、父が母を被保険者として契約し、保険料も支払っていました。この場合に、契約者である父が亡くなったときは、被保険者は母ですので死亡保険金は出ませんが、解約返戻金を受け取る権利は父にあります。したがって、この解約返戻金相当額が通常の相続財産となり、相続税の課税対象になります。

②の場合は、父が母の名前で契約し、保険料を支払っていました。このケースで父が亡くなったときは、被保険者は母ですので死亡保険金は出ませんが、契約者である母が保険契約の権利を引き継いだものと判断されます。この権利の額は解約返戻金相当額となり、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。

以上、生命保険は様々な相続対策に活用することができますが、その契約内容等によっては思わぬ課税をされることもありますので、十分内容を把握しておくことが大事ですね。

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