「マネーリテラシーを上げよう(その1):マネーリテラシーについて」でお伝えしたことは理解していただけたでしょうか。概念的な話が多くなってしまいましたが、お金と末永くお付き合いしていく以上、大切なことだとご認識いただければと思います。
さて、今回からは、マネーリテラシーを上げていただくために、具体的なことを説明していきます。
1.リスクとは
最近、様々なところで「リスク」という言葉を聞いたり目にしたりする機会が多くなったように思います。○○リスク、リスク対策、リスク削減、などもしかしたら、聞いたり目にしたりしない日がないくらい頻繁に使われているかもしれません。「世の中は様々なリスクであふれています。」などというときの「リスク」とはどういう意味で使われているでしょうか。あなたは「リスク」と聞いて何を連想するでしょうか。
英語の「risk(リスク)」は、「危険」、「危険性」と訳されます。世の中一般で使われるリスクの意味は、まさにこの和訳に則り、「危険」、「危険が生じる可能性」、「将来のいずれかにおいて何か悪い事象が起こる可能性」でしょう。
ところが、金融の世界で「リスク」というときには、少し意味合いが異なります。金融業界でのリスクの定義は、「予想通りにいかない可能性(=不確実性)」となります。「(リターンの)振れ幅」という方もいます。ここで注意していただきたいのは、世間一般のリスクが(ゼロまたは)マイナスの結果をもたらすことしか想定していませんが、金融業界でのリスクは「プラスの結果をもたらす」ことも含めているという点です。結果がプラス(利益)になるのかマイナス(損失)になるのかわからない、結果が確定しないことを「リスク」というのです。マイナスに振れることだけをいっているのではないことをご理解ください。
2.リスクとリターンの関係
金融商品の購入にあたっては、どれだけ「リスクを取れるか」というリスク許容度が1つの判断材料になります。リスクを取るといってもイメージしにくい方もいらっしゃると思いますので、例を挙げてご説明します。
ジャンプをして高く飛ぼうとするときに何をするかというとまずしゃがみます。上に行きたいのに、逆方向に行って低くなるという行動をとります。なぜわざわざしゃがむというマイナスをとるのかというと、感覚的に知っているからではありますが、より高く飛ぶためにはしゃがむという行為が必要だからです。このしゃがむという行為が「リスクを取る」行為にあたります。しゃがむときにはどこを見ているでしょうか。しゃがんだ姿勢をとっている膝を見ているのではありませんね。飛ぶ方向を見ているはずです。そして、高くジャンプしようとすればするほど、低くしゃがみます。
これを金融業界にあてはめると、これだけリスクを取ったらこれだけ飛べる(利益が得られる)という感覚をもって飛びますが、しゃがめばしゃがむほど高く飛べる可能性が高くなる、すなわちリスクを取れば取るほどリターン(=利益)を多く得られる可能性が高まることになります。これがリスクとリターンの関係です。
銀行預金と株式投資それぞれのリスクとリターンの関係について比較して考えてみましょう。現在の銀行の定期預金金利は、ネット銀行の高いところでも0.2%です。その代わり元本は(1000万円まで)保証されています。一方株式投資の利回りはわかりません。というのも日々値段が変わるからです。株式は日々取引され、その日の需給バランスによって株価が決まる仕組みになるため、値段が変わるのです。ニュースで「日経平均が前日比〇円値上がりした」、「〇円値下がりした」といっているのを見たり聞いたりされたことがあると思いますが、これは、日々の値動きを伝えていることになります。さて、今日は100万円だったものが翌日には105万円となり、そこで売ってしまうと利益は5万円ですね。この利回りを計算すると、日利5%、年利換算すると1500%を超えます。一方今日100万円だったものが翌日に95万円となれば損失5万円で、利回りはマイナスとなります。このように日々値段が変わるため、自身が売るときまで利回りが分からないのです。
また株式投資は銀行預金と異なり元本は保証されていません。投資した(購入した株式を発行した)企業が倒産すれば、投資したお金は戻ってこないのです。つまり、株式投資の元本は保証されておらず損失を被る可能性がある一方高いリターンを得る可能性もありますが、銀行預金の場合は元本が保証されている分得られるリターンは株式投資に比べて少なくなりますので、株式投資の方が銀行預金よりリスクが高いということがいえます。金融商品それぞれによってリスク(とリターン)が異なりますので、しっかりと金融商品の内容を理解する必要があります。
なお、リスクが低くリターンが高いという金融商品はありません。高い利回りをうたう金融商品はたくさんありますが、それらは過去の実績をいっているだけで、将来的な利益を確約しているものではないのです。もし「絶対儲かる」などといわれて高利回りの金融商品をすすめられたら、それは詐欺です。欲に駆られて手を出すのではなく、そのときは「リスクが低くリターンが高いという金融商品はない」ことを思い出してください。あとで泣きを見る、痛い目に遭う、ということを防ぐためには、このことをしっかり理解することが大切です。
3.リスクの種類
金融商品のリスクには、以下のものがあります。金融商品によって該当するリスクは異なります。
・価格変動リスク
売却時の価格が購入時の価格より値上がりしているか値下がりしているか確実ではないということです。わかりやすいのは先程述べた株式ですが、債券を満期前に売却する場合は市場価格により価格は変動しますし、投資信託でも組み入れている株式や債券などの価格変動の影響を受けるため、価格変動リスクがあります。
・信用リスク(デフォルトリスク)
投資した先が将来も存続しているか確実ではないということです。また商品の元本や利息が将来にわたって支払われるかが確実ではないこともいいます。
・為替リスク
外国の金融商品に投資した場合、換金時に為替レートの変動により生じる為替差損益が確実ではないということです。購入時より換金時に円高になると円での手取り額が減り為替差損を被りますし、円安になると為替差益を得ることができます。
・流動性リスク
金融商品を売ろうと思った時に、その商品がマーケットでの取引量が少ないこと等によって希望した価格で売りたくても売れないということです。例えば株式の場合、人気がなく知名度も低い銘柄ですと市場に出回っている取引量が少ないため売りたくても売れないということが起こりえます。また企業の不祥事などで金融市場が急変した場合に取引量が激減し、売りたくても売れないということが起こる可能性があります。さらに、取引所でシステム障害が起きた、ネット証券での取引でネットが不通になってしまった、などによって売りたくても売れないということも起こりえます。これら全てが流動性リスクになります。
・カントリーリスク
投資した国や地域において、政治・経済、紛争等によって証券市場や為替市場に混乱が生じた場合、そこに投資した資産の価値が変動する可能性があることです。
4.リスク許容度
リスクの内容やリスクとリターンの関係などについて見てきましたが、ご自身がどこまでリスクを取れるかを知ることはとても大切です(「どこまでリスクを取れるか」のことを「リスク許容度」といいます。)。ここでのポイントは、どこまでリスクを取るかの判断は、自身の精神的な許容力とともに、現状の資産のバランスや何のためにお金を増やすかを考えることが大事だということです。
精神的な許容力とは、例えば、100万円を貯めて、それを全部なくす覚悟があるかどうかということです。仮に1年で倍になる可能性もあるが全てなくなる可能性もある、という金融商品があった時、あなたはどうしますか?全部なくす覚悟があるということはリスク許容度が高い、ということになります。ただし、リスク許容度が高いから良いというものではありません。良い悪いでは判断できないのです。
いくら本人の精神的なリスク許容度が高くても、貯めた100万円というのが全財産だった場合はどうでしょうか。しかもその100万円は毎月の給料から2万円を積み立てて貯めたものだった場合どうでしょうか。おなじ100万円を貯めたといっても、別にお金が1億円もあれば100万円を失ってもすぐに生活には影響しないですが、それが全財産だった場合は慎重にならざるを得ないですよね。また、100万円を失ってもすぐにまた100万円を稼ぐことができる場合と、挙げた例のようにコツコツと積み立てた場合でもリスクの取り方は違うはずです。さらに、老後資金のためにお金を増やすのか、例えば車を買うためにお金を増やすのか、つまり、どのくらいの期間でどのくらい増やしたいのかによってもリスクの取り方は異なります。
あなたのリスク許与度はどのくらいでしょうか?
おわりに
とにかく確実にお金が増えれば良いと思っている方もいますが、それなら銀行に預けても増えます。ただし、この低金利が続けば、お金を増やすには相当の年数が必要でしょう。それは求めていることとは違うという話になるでしょう。
お金を増やすことを考えるにあたっては、まずは、金融商品にはリスクはつきもので「絶対的に確実」ということはないことを認識し、理解しましょう。3章でお伝えしていますが、おいしい話はありません。そしてそれぞれの商品のリスクの所在を知り、またご自身がどこまでリスクを取れるのかを把握してください。
次のコラムでは、マネーリテラシーを上げよう(その3):預貯金についてをご紹介いたします