認知症と聞くと「高齢の方がなりやすいもの」と考えている方が多いかもしれません。しかし、認知症は高齢者だけでなく若い方も発症する可能性があります。ここでは、若年性認知症の原因や症状、利用できる支援制度についてまとめました。ご自身やご家族に気になる症状がある方、すでに診断されてサポートの利用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1.若年性認知症とはどんな病気?
若年性認知症は、何歳で発症する認知症のことを指すのでしょうか。まずは、若年性認知症の特徴やリスクの高い方についてご説明します。
1-1.若年性認知症って何歳から?
若年性認知症は、65歳未満に発症する認知症を指します。若年性認知症は発症年齢により2つに分けられており、18~39歳で発症するものを若年期認知症、40~64歳で発症するものを初老期認知症といいます。つまり、若年性認知症の定義において最年少は18歳。20代や30代の若い方でも発症する可能性があるのです。
厚生労働省が2009年に出した調査結果によると、若年性認知症は女性より男性に多く、平均発症年齢は男女ともに51歳とされています。まさに働き盛りの年代であることが、若年性認知症の大きな特徴です。
参照元:厚生労働省
1-2.若年性認知症の特徴は?
若年性認知症の特徴を以下にまとめました。
【若年性認知症の特徴】
- 体力などの身体機能は正常であることが多い
- 医療機関の受診が遅れてしまい早期発見されにくい
- 症状が重度になり働けなくなると経済的に困窮する可能性がある
- 根本的な治療法がないものや余命を左右するものがある
- 介護の負担が配偶者に集中する
- 高齢の親が介護者となるケースも
一家の生計を支える働き盛りの世代であるため、休職・退職による経済状況への影響が懸念されます。さらに子どもがまだ若い場合も多く、配偶者のみに介護の負担が集中する、高齢の親が介護をするなどのケースも目立ちます。
1-3.若年性認知症になりやすい人は?
他人とコミュニケーションが少ない方が、リスクが高い一因といわれています。他には、細かいことを気にするタイプも注意が必要です。その理由のひとつが、ストレスによる脳の萎縮です。ストレスを感じると、私たちの身体のなかではストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾール(脂肪の分解やタンパク質の代謝などの作用をもつホルモン)が分泌されます。このホルモンの量が瞬間的に増加する分には問題ありません。しかし、ストレスにより長期的にコルチゾールにさらされ続けることで、脳が部分的に萎縮するといわれています。ストレスを感じやすい方はうつ病を発症するリスクもあります。気分が落ち込みコミュニケーションをとる機会が減ってしまった方や、小さなことが気になってしまう方も注意が必要です。
2.65歳未満の若年性認知症の原因疾患
若年性認知症の原因疾患が占める割合を、2017年から2020年にかけて行われた調査結果をもとに見ていきましょう。
診断名 | 65歳未満の発症割合 |
アルツハイマー型認知症 | 52.6% |
血管性認知症 | 17.0% |
前頭側頭型認知症 | 9.4% |
レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症 | 4.2% |
外傷による認知症 | 4.2% |
アルコール関連障害 | 2.8% |
その他 | 9.8% |
若年性認知症の原因疾患で多いのは、アルツハイマー型認知症と血管性認知症です。また、近年では、IT機器の長時間使用により脳の機能が低下するスマホ認知症なども問題視されています。
ここからは、若年性認知症の原因疾患のうち、代表的なものについて見ていきましょう。
2-1.アルツハイマー型認知症
アルツハイマー病は脳の萎縮により起こる病気で、アミロイドβというタンパク質との関係が指摘されています。アミロイドβは通常、短期間で分解・排出されますが、何らかの理由でうまく排出されずに脳に蓄積されるとアルツハイマー型認知症につながります。
記憶をつかさどる海馬(かいば)が最初に萎縮することから、アルツハイマー病は早い段階から記憶障害が起こりやすいという特徴も。また、アルツハイマー型認知症では神経伝達物質のアセチルコリンが脳内で不足します。そのアセチルコリンを補う治療薬などにより、病気の進行を遅らせることが可能です。
2-2.血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患により、周辺の脳細胞が死滅して起こる認知症のことをいいます。運動麻痺や嚥下障害など記憶障害以外の症状が起こりやすいことが特徴です。
血管性認知症は、脳血管障害が起こるたびに症状が急激に進行する恐れも。脳血管障害の原因となる高血圧・糖尿病・高脂血症などの予防や治療が重要です。
2-3.前頭側頭型認知症
社会性・言語・人格をつかさどる前頭葉や、記憶・聴覚・言語をつかさどる側頭葉の前方部分の萎縮により起こります。特徴は、著しい性格変化を起こすこと、進行が速いこと、病気であるという自覚がないこと、常同行動(同じ動作を繰り返す)が見られやすいことなどです。
前頭側頭型認知症のうち、脳の神経細胞に「Pick球」と呼ばれる球状物が見られるものをピック病といいます。ピック病は40~60代前半に発症することが多く、前頭側頭型認知症の7~8割を占めます。前頭側頭型認知症は、現時点で有効な薬がありません。症状を一時的に抑える治療が行われます。
参照元:株式会社 学研ココファン
2-4.レビー小体型認知症
タンパク質の一種であるレビー小体が、脳の大脳皮質領域に多く蓄積することで発症します。記憶障害や幻視、パーキンソン病の方と同様の症状などが見られます。パーキンソン病とは、神経伝達物質のドーパミンが減少することで、脳の指令を神経がうまく伝達できなくなる病気のこと。手のふるえや姿勢の不安定さなどが代表的な症状です。
現在のところ、レビー小体を排除する治療法はありません。しかし、アルツハイマー型認知症の方に対して処方される薬が、レビー小体型認知症にも有効であることがわかっています。
2-5.頭部外傷後遺症
事故などによる脳損傷が原因で、認知症の症状が出る場合もあります。具体例としては、脳挫傷や慢性硬膜下血腫などです。慢性硬膜下血腫の場合、頭の血種を取り除くことができれば認知症が治る可能性があります。
2-6.アルコール性認知症
多量の飲酒が原因とされる認知症です。アルコール依存症の方の多くに脳萎縮が認められていることから、アルコールの飲み過ぎは認知症のリスクを高めるといえます。
なかでも多いのが、意識障害やふらつきなどの症状が出るウェルニッケ・コルサコフ症候群です。ビタミンB1不足により、脳幹部で微小な出血が起こり発症するのがウェルニッケ脳症です。大量飲酒によりビタミンB1が不足するのは、アルコールを肝臓で分解する際にビタミンB1が消費されてしまうため。また、ウェルニッケ脳症からコルサコフ症候群に移行する場合があります。コルサコフ症候群は、記銘力障害や失見当識(日時や場所がわからなくなる)、作話(記憶障害を隠すため話を合わせようとする)を認め、一旦移行すると回復は極めて困難な状態です。そのため、ウェルニッケ脳症からコルサコフ症候群に移行させないよう、早期発見・早期治療が極めて重要となります。
3.若年性認知症のチェックリストと代表的な症状
前述のように、若年性認知症は日常生活に大きな影響を及ぼします。しかし、アルツハイマー病やレビー小体型認知症であれば、早期に発見することで進行を遅らせることが可能です。
チェックリストをつくりましたので、ご自身やご家族の様子で心配なところがある方はチェックしてみてください。
【若年性認知症チェックリスト】
- ものをどこに置いたのかわからない
- 数分前に聞いた話の内容が思い出せない
- 何度も同じことを聞いてしまう
- ご飯をどの手順でつくれば良いかわからない
- 自動販売機やATMなどの操作ができない
- 今日が何月何日かわからない
- 慣れた場所で道に迷う
- 計算を間違えやすくなった
- 買いものをするときにスムーズにお金を払えない
- 言葉がすぐに出てこない
- 処方されたとおりに薬を内服できない
- 身だしなみに興味がなくなった
- 電話をかけたいのに番号を調べてかけることができない
チェックリストで該当する部分が多い場合は、もの忘れ外来や認知症専門医のいる医療機関の受診をおすすめします。
若年性認知症の症状には、中核症状と行動・心理症状があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1.中核症状(認知機能障害)
中核症状とは、脳の病変・損傷などにより見られる症状です。5つの症状があり、どれも原因疾患により直接引き起こされることが特徴です。
記憶障害
記憶力が低下することを記憶障害といいます。「新しいことを覚えられない」「聞いたばかりのことを記憶できずにすぐ忘れてしまう」などの症状が特徴です。また、認知症の進行に伴い、覚えていたことさえも忘れるようになっていきます。
実行機能障害
実行機能障害が起こると、順序立てて効率良く行動することが難しくなります。例えば食事をつくる場面では、ご飯を炊いている間におかずを準備するなど、複数の作業を同時に進めていくことが必要です。しかし、実行機能障害は情報をまとめた上で実行するのが困難になるため、「どのような手順でつくれば良いかわからない」などということが起こります。
理解・判断能力障害
理解力や情報処理能力が低下し、理解が難しい状態を指します。早口や2つ以上の内容が入った会話、目に見えないものなどが理解できません。「自動販売機やATMなどをどう扱ったら良いのかわからない」などの症状が該当します。
見当識障害
季節・日付・時間、場所など、置かれた状況の把握ができなくなります。「今日が何月何日なのかわからない」「慣れた場所で道に迷う」などの症状が特徴です。
計算能力障害
「計算を間違えやすくなった」「スムーズに買いものができない」など、計算能力の低下が見られることもあります。簡単な計算ができるかどうかは、認知症を診断するときのチェック項目にもなっています。
3-2.周辺症状(行動・心理症状)
周辺症状(BPSD)は、中核症状により二次的に発生する行動面・心理面の症状のことです。全ての方に起こるわけではなく、環境やストレスなどの要因がある場合に発症しやすくなります。
焦り・不安
失敗することや周囲の迷惑を気にすることにより現れやすいのが、焦りや不安です。周りが失敗を責めないようにし、褒めたり認めたりすることが重要です。
興奮
イライラして暴言を発するなど、興奮した様子が見られることもあります。暴言だけでなく、暴力を振るうことなども含まれます。
睡眠障害
認知症により昼夜逆転し、睡眠障害が起こることも。また、失敗したことを指摘されたり叱られることにより、不眠になってしまう可能性もあります。
幻視・幻聴
幻視とは、実際には存在していないものが見えることをいいます。「亡くなった家族が現れた」などの発言が特徴的です。また、幻聴は誰もいないのに声が聞こえることをいいます。どちらも本人にとってはリアルに見えたり聞こえたりしているため、否定しないことが大切です。
妄想
妄想は、「訂正困難な間違った認識」のことです。例えば、物がなくなった時、「なくしてしまった」ではなく、「誰かが盗ったに違いない」と思い込む「物盗られ妄想」がアルツハイマー型認知症の特徴的な行動・心理症状として挙げられます。幻視・幻聴などの幻覚と同様、妄想についても頭ごなしに否定しないことが大切です。
うつのような症状
認知症では、うつ病のような症状が見られることもあります。一般的にうつ病では、ふさぎ込んで引きこもりがちになったり、考え方が否定的になったりするなどの症状が見られます。周りから見て表情が暗い、涙もろくなった、自身を責めるようになったなどの変化がある場合は注意が必要です。
3-3.健忘症との違いは?
健忘症とは、覚えていたことを思い出すのに時間がかかる状態、つまり「もの忘れ」のことです。「もの忘れ」することが加齢により増えるのは自然なこと。しかし、忘れた自覚がある健忘症とは異なり、忘れたという事実についても忘れてしまうのが認知症の特徴です。
4.若年性認知症と診断されたら~利用できる制度・サポート・機関~
若年性認知症と診断された場合に利用できる、制度やサポートをご紹介します。相談先についても最後に記載していますので、参考にしてください。
4-1.自立支援医療(精神通院医療)
身体・精神障害を持つ方の医療費負担を軽減する公費負担医療制度。医療機関や薬局で支払う自己負担額が3割から1割に軽減されます。また、世帯の所得によっては、負担額がさらに軽減されることもあります。制度が利用できるかどうかは、通院中の医療機関やお住まいの自治体に確認してみましょう。
参照元:厚生労働省
4-2.介護保険制度
市町村で要介護認定を受けることにより、さまざまな介護サービスを利用できます。介護保険制度の対象は高齢者だけでなく、老化が原因とされる病気によって要支援・要介護状態となった、40~65歳未満の方も含まれます。
参考元:厚生労働省
4-3.精神障害者保健福祉手帳によるサービス
日常生活に支障をきたしている場合は、精神障害者保健福祉手帳を申請できます。受けられるサービスは、所得税・住民税の控除や公共料金の割引など。また、障害者雇用枠で働くことが可能となる場合もあります。通院中の医療機関やお住まいの市町村窓口に相談してみましょう。
4-4.障害年金
病気などにより仕事を続けるのが困難になった方や、その家族の生活をサポートするための公的年金です。加入しているのが国民年金であれば障害基礎年金、厚生年金であれば障害厚生年金を受け取れる仕組みになっており、双方を併用することも可能です。障害年金の請求先は以下のとおりです。
【障害基礎年金の請求先】
- 市町村役場
- 年金事務所
【障害厚生年金の請求先】
- 年金事務所
- 各共済組合(公務員の場合)
原則として、初診日から年6か月経過後に年金の支払いなど特定の条件を満たした場合請求できる決まりになっています。
参照元:厚生労働省
4-5.特別障害者手当
重度の障害により常時介護を必要とする方に対して支給される手当で、重度の認知症も対象です。要件は20歳以上であること、在宅で常時特別な介護を必要としていることです。月額27,300円が支給される仕組みになっています。ただし、本人や民法第877条が定める直系血族などの扶養義務者の所得によっては支給されないことも。市町村に確認してみましょう。
参照元:厚生労働省
参照元:民法
4-6.成年後見制度
充分な判断ができなくなったときに、権利を守ったり意思決定を支援する制度です。法定後見制度と任意後見制度があり、法定後見制度は家庭裁判所が決めた成年後見人が支援を行います。一方で任意後見人制度は、本人があらかじめ決めた任意後見人が、財産管理などの事務的なサポートを行う制度です。成年後見制度の相談窓口も、各市町村となっています。
4-7.若年性認知症についての相談ができる機関
最後に、若年性認知症についての相談先をご紹介します。
地域包括支援センター
住み慣れた場所で安心して生活していくための、総合的な支援窓口です。ケアマネージャー、保健師、社会福祉士などが対応しています。
若年性認知症コールセンター
認知症患者の医療や生活の質を高めるため、厚生労働省のプロジェクトにより設置されました。認知症の教育を受けた相談員が対応しています。
各都道府県の相談窓口
各都道府県の相談窓口を利用することも可能です。医療機関やNPO法人などが窓口に指定されており、若年性認知症支援コーディネーターが若年性認知症の方の視点に立って、相談に乗ったりサポートを行ったりしています。
おわりに
若年性認知症の大きな特徴は、仕事や家計などへの影響が大きいことや発見が遅れやすい点です。しかし、早期に発見して内服治療をすれば、進行を遅らせることが可能なケースもあります。若年性認知症のチェックリストを参考にして、ご自身やご家族に気になる症状がある場合はできるだけ早く医療機関を受診しましょう。国の制度やサポート情報についてもご紹介しましたので、ぜひご活用ください。