今、私たちの家計に大きな打撃を与えているのがインフレです。物やサービスが値上がりしたせいで、節約を余儀なくされている…という方も多いでしょう。そこで今回は、インフレについて詳しく解説するとともに、物価上昇に備えて今からできる対策をご紹介します。まだまだ続きそうなインフレ時代に備えて、しっかり準備をしておきましょう。
この記事を読んでわかること
物価上昇を起こすインフレには、デマンド・プル・インフレとコスト・プッシュ・インフレの2種類があります。その中でも私たちの家計に影響を及ぼすのが、コスト・プッシュ・インフレです。 インフレによる物価上昇の対策として有効なのが、光熱費やガソリン代、食費を節約することです。また、投資信託・株式・金・不動産といったインフレに強い資産を運用しておけば、インフレ状況下でも継続的に資産を増やすことができるでしょう。
1.物価上昇が起こるインフレとはどんな状態?
まずは、インフレ(Inflation(インフレーション)の略語)とはどのような状態のことを指すのか、分かりやすくご説明します。
1-1.消費者物価指数がプラスの状態
インフレとは、物価が継続的に上昇し、お金の価値が下がることです。インフレは良いインフレと呼ばれる「デマンド・プル・インフレ」、悪いインフレと呼ばれる「コスト・プッシュ・インフレ」の2つに分けられます。それぞれなぜ起こるのかを解説しましょう。
デマンド・プル・インフレは、経済が活性化して物の需要が増えることによって品物が不足し、その結果、物の価格が上昇することです。デマンド・プル・インフレの場合は、物価が上がってもその分企業の利益や売り上げも上がるので、従業員の給料も上昇します。給料が上がると消費意欲も高まるのでますます需要が増え、さらにインフレが継続するのです。
一方コスト・プッシュ・インフレは、光熱費や原材料のコストが上がったために物価上昇するインフレです。例え企業の売り上げが上がったとしてもコストがかかるので利益が上がることはありません。そのため、物価が上昇しても給料はなかなか上がらない…という状態になります。現在起こっているのは、このコスト・プッシュ・インフレである、といわれています。
1-2.通貨の価値が下がる
もうひとつ、知っておきたいインフレの種類があります。それが「ハイパーインフレ」です。
ハイパーインフレとは、お金の供給量が増えすぎたせいでお金の価値が下がったり、国が財政悪化したりすることで、物を買うために必要なお金の量が増えすぎてしまう状態です。
このハイパーインフレは、先ほどご紹介したインフレとはレベルが違います。例えば、2008年ごろにジンバブエで発生したハイパーインフレでは、インフレ率が2億3,000万%と公表されました。日本の政策では毎年2%のインフレを目標にしているので、桁の違いがご理解いただけるでしょう。ジンバブエでは、自国通貨であるジンバブエ・ドルは、約300兆ドルで日本円にして1円程度の価値に下がってしまったのです。
また、エクアドルは1990年代終盤に、ハイパーインフレに陥ります。そこで、自国通貨であるスクレを廃止し、米ドルを国の通貨として使用することに踏み切りました。その結果、インフレが抑制されるようになりました。
現代の日本では、ハイパーインフレが起こる可能性は低いとされています。しかし、新型コロナウイルスの対策で、企業への税制優遇や国民1人当たり100,000円給付など、景気の安定・底上げを図る政策が盛んに行われてきました。
その結果、国の財政が悪化して借金が膨らみ、日本の信用力が低下してしまうと、日本円の価値が低くなることも考えられます。そうなると日本がハイパーインフレになってしまう可能性もゼロではありません。
2.インフレの反対であるデフレとは?
インフレとは反対に、物価が継続的に下落する状態を「デフレ」といいます。ここでは、デフレ(Deflation(デフレーション)の略語)についてご紹介しましょう。
2-1.物価が継続的に下落する状態
デフレとは、不況のせいで物やサービスへの需要が減り、供給を下回ってしまったせいで物の価格が安くなってしまうことです。
例えると、1個100円のみかんが翌日には70円に、またその翌日には50円…とどんどん値下がりしてしまう状態です。
デフレが起きる主な原因は、お金の流れが少なくなってしまうことにあります。分かりやすくいうと、企業や個人が節約志向になり、お金をできるだけ使わないでおこうとするため、お金が回らなくなってしまうのです。
2-2.通貨の価値が上がる
物価が下がると聞くと「デフレとは良いことなのでは?」と思ってしまいがちですが、実はそうではありません。
物価が安くなると、消費者は「もう少し待てばさらに安くなるかも」と買い控えの心理が働きます。そのため、物が売れなくなってしまうのです。売り上げが上がらないと、企業は従業員の給料をカットしたり、設備投資を控えたりする対策を講じます。
また、景気の悪化が長引けば、雇用も不安定になってしまうでしょう。最悪の場合、企業が倒産してしまうこともあります。そのような状態では、人々は購買意欲を失ってしまいます。そうするとますます企業の売り上げが下がり、社会にお金が回らなくなって、景気が悪化してしまうのです。これを「デフレスパイラル」といいます。
また、物価が下がると通貨の価値が上がります。貯蓄をしている人にとっては嬉しいことですが、住宅ローンなどで借り入れをしている人は、1円の価値が上昇するので、返済に苦労する辛い状況に陥ってしまうでしょう。
3.円相場とインフレの関係を整理しよう
インフレと円相場には深い関係があります。一体どういうことなのか、分かりやすく解説しましょう。
3-1.円安が続くと物価上昇となる
円安になると、海外では日本の製品が安くなり、購入しやすくなります。そうすると需要も増えるので、その分輸出量も増えるでしょう。日本では、海外へと輸出する自動車メーカーなどが経済的な割合を大きく占めています。輸出が増えることによって企業の業績が上がると、その分景気も良くなるでしょう。景気が良くなると従業員の給料も上がり、さらに物が売れてインフレが起こりやすくなるのです。
逆に、インフレが進み物価上昇が続くことで、円安になることもあります。その理由は、物の値段が上がったために、お金の価値が下がるからです。
例えば、これまで500円で買えたものが700円に値上がりしたとします。すると、同じものを買うために200円多く払わなければならなくなるので、その分円の価値が下がった、ということになるのです。そうなると、円を外貨と交換する際の比率となる為替レートにおいても、円の価値が下がってしまいます。
3-2.円安でなくても物価上昇が起こるケースもある
たとえ円安でなくても、他国の物価が上昇することで、輸入する品の価格が上がります。
例えば、イギリス国内の物価が上昇し、1ドルだったジュースが1.5ドルになったとしましょう。そうすると、円相場が変わっていなくても、今まで1ドルで輸入していたものを、1.5ドルで輸入しなければならなくなります。その分販売価格も上がってしまうのです。
4.物価上昇に備えてインフレ時に家庭でできること
インフレで、日用品や食料品の物価が上がると、私たちの家計がダメージを受けてしまいます。ここからは、インフレに備えて家庭で準備できることをご紹介します。
4-1.光熱費を削減する
節電、節水で光熱費を節約することも、有効なインフレ対策のひとつです。
例えば、冬場は毛布を羽織ったり重ね着をしたりする、夏は冷感素材の衣類を着るなどしてできるだけエアコンを使う時間を短くすれば、電気代の削減につながります。エアコンのフィルターをこまめに掃除するのも効果的です。
とはいえ、暑さ・寒さを我慢しすぎてしまうと、体調不良の原因になります。あまり無理はしないようにしましょう。
4-2.ガソリン代を削減する
原油高によってガソリン代が上昇したときに備えて、極力車に頼らない生活を心がけるのも効果的です。近距離の移動を徒歩や自転車にするとガソリン代の節約にもなり、健康にも良いでしょう。
家族や友人とのドライブや送り迎えなどは、可能な限り複数で乗り合わせるようにするのもひとつの方法です。
4-3.食費を節約する
インフレになると、食料品も値上がりします。2022年10月以降値上がりした主な品目と値上げ率は以下のとおりです。
品目 | 値上げ幅 |
ビール類 | 4~12% |
マヨネーズ・ドレッシング | 1~30% |
ジャム | 4~12% |
ハム・ソーセージなど | 2~34% |
レトルト食品 | 4~13% |
スナック・チョコレートなどの菓子類 | 3~12% |
参照元:日本食糧新聞
このように、さまざまな品目が値上がりしています。そこで、食材や調味料などは、価格が上がりやすいものを避け、価格変動が小さいものを選ぶようにしましょう。また、インフレ時には国産品と輸入品の価格の違いを把握しておくと、どちらを選べば良いかが分かりやすくなります。
また、「特売」などのうたい文句につられてむやみにまとめ買いをしないことも大切です。特に、消費期限の短い食材は、まとめ買いをすると「早く食べないと傷んでしまう」と考えてしまい、消費のスピードが上がってしまいます。これでは節約どころか無駄遣いになりかねません。買い物をする際は自身やその家族が食べる量に合わせて、コントロールすることが大切です。
4-4.家電などの買い替えは控える
家電製品やパソコン、スマートフォンなどの電子機器はインフレ時に値上がりしやすくなります。必要に迫られていない場合は、買い替えを控えると良いでしょう。
どうしても必要になったときは、リースや中古品を検討すると効果的です。最近では、料金を支払うことで製品を一定期間利用できる「サブスクリプション型」のサービスも増えているので、そちらを検討してみるのもおすすめです。
5.インフレ対策には資産運用も有効
インフレ対策には資産運用も効果的です。ここからは、なぜ資産運用が有効なのか、またどのような方法がおすすめなのかを解説します。
5-1.インフレのときは銀行預金だけでは心もとない
インフレ時には、お金の価値が下がってしまうため、現金や預金のみで資産を保有していると、資産が目減りしてしまう可能性があります。また、現在の日本は歴史的な超低金利状態です。利息で預金額が増えることは、到底期待できないでしょう。
インフレでも継続的に資産を増やしていきたい、と思っている方は、資産運用を積極的に行うと良いでしょう。
5-2.インフレに強い資産の運用で対策を
ひとくちに資産運用といっても、インフレに弱い資産と強い資産があるので注意が必要です。もしインフレに弱い資産を運用してしまうと、資産が目減りする恐れがあります。ここからは、インフレに弱い資産と強い資産を、それぞれご紹介します。
・インフレに弱い資産とは
インフレに弱い資産は以下の3つです。
- 現金・預金…現金や預金は、インフレに弱い資産のひとつです。インフレが起こると日本円の価値が下がってしまいます。また、インフレ時には預金金利が上がるものですが、預金金利上昇のスピードは、インフレが進行するスピードよりも遅いケースがほとんどです。
- 保険商品…保険は、契約時に将来受け取る保険金の金額を定めます。保険料と保険金は、契約時の経済状況に応じて決定するので、決定後にインフレが起こると、価値が下がってしまう可能性が高くなります。
- 年金…2022年11月現在、日本の年金制度は「マクロ経済スライド」を採用しています。マクロ経済スライドとは、社会情勢に合わせて年金の給付水準を調整する仕組みです。しかし、インフレによる物価上昇に対応できるほど、年金額は増えません。そのため、年金もインフレに弱い資産、といえるでしょう。
・インフレに強い資産とは
続いて、インフレに強い資産をご紹介しましょう。
- 投資信託…投資家が出資した資金を信託財産としてひとまとめにして株式や債券などに投資する金融商品が、投資信託です。運用は専門家が行います。インフレで成長が期待できるファンドを選択して投資すれば、資産増加が見込めるため、インフレ対策に有効といえます。ただし、すべての投資信託がインフレに強いわけではないので注意が必要です。
- 株…株は、インフレに強い資産の代表といえます。インフレの状況下では、物やサービスの価格が上がります。そのため、企業の収益も伸び、株価も上昇するのです。しかし、インフレが生じた時点ですでに株価は上昇しているので、インフレ後に株を購入しても効果はありません。インフレに備えてあらかじめ購入しておくことが大切です。
- 金…金は、どれだけ経済や国際情勢が悪化しても価値は変わりません。そのため、通貨への不信やインフレへの懸念が高まると、金は値上がりする傾向にあります。金は、現物資産の中でもインフレや景気に強い「守りの資産」のひとつなのです。
- 不動産…不動産も金と同じ現物資産なので、インフレや不景気に強いという特徴があります。また、不動産投資では家賃収入という収益を得ることも可能です。不動産は、インフレリスクに対応しつつ、定期収入を生み出すことができる資産といえます。
5-3.運用は分散投資と長期投資を心がけよう
インフレ対策として資産運用を始める際に重要なのが、分散投資と長期投資です。
一点集中で資産運用すると、なんらかのきっかけで商品の価値が下がってしまった場合に資産全体が減ってしまいます。このようなリスクを最小限に抑えるためには、分散投資を行うことが有効です。
また、資産の目減りリスクを軽減するためには、長期間継続することも大切です。1~2年の短期運用では、タイミングによって複利の効果がなかなか得られなかったり、リターンにばらつきが出たりしてしまいます。その点5~10年の長期運用では、徐々にリターンが安定してくるのです。
おわりに
コスト・プッシュ・インフレは、家計に大きな影響を与えてしまいます。そのときになって慌ててしまわないように、普段からしっかりと準備と対策をしておくことが大切です。また、資産運用を行うことで、インフレ時でも継続して資産を増やすことができるでしょう。資産運用をする際は、インフレに強い資産を選んで分散投資と長期投資を心がけることがポイントです。