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賃貸マンション暮らしの65歳独居老人…「年金だけ」で生活できる?おひとりさま男性が生きていくのに最低限必要な金額

賃貸マンション暮らしの65歳独居老人…「年金だけ」で生活できる?おひとりさま男性が生きていくのに最低限必要な金額
川淵 ゆかり(川淵ゆかり事務所 代表)

執筆者

川淵ゆかり事務所 代表

川淵 ゆかり

1級ファイナンシャル・プランニング技能士。国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。

生涯未婚率が上昇傾向にあります。そこで不安視されているのは老後のお金問題。「1人の力で生きていく」ために必要な金額はいくらなのでしょうか? 本記事では、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏が、Aさんの事例とともに、おひとりさま男性が生きていくのに最低限必要な金額について解説します。

65歳で年金はいくらもらえるのか?

65歳で年金はいくらもらえるのか?

65歳の人は毎月どのくらいの年金をもらっているのでしょうか?

厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の年齢別老齢年金受給権者数及び平均年金月額によると、65歳の平均年金月額は、国民年金で5万8,078円、厚生年金で14万5,372円となっています。なお、この厚生年金の金額には基礎年金(国民年金)も含まれている金額です。

ただし、詳しい調査結果はありませんが、男性のみとなると厚生年金で2~3万円くらいは増えそうです。

そうはいっても、今後の超高齢社会や人口減少のことを考えると、当然ですが年金だけに頼った生活は成り立ちません。

65歳単身世帯男性の生活費

65歳単身世帯男性の生活費

総務省が発表した「家計調査報告(2022年)」によると、65歳以上の男性の「単身世帯」における、毎月の生活費の平均額は次のようになります。

[図表1]65歳以上の男性の単身世帯における毎月の生活費の平均額

※出所:家計調査 家計収支編第2表より筆者作成

当然、平均値なので暮らし方によって支出額は大きく変わってきます。「持ち家」なのか「賃貸」なのかによって住居費は差がありますし、「持ち家」でも老後に住宅ローンの残る方もいらっしゃいます。なお、この「家計調査報告(2022年)」によると、家賃・地代を支払っている65歳男性の単身世帯の割合は18.0%となっています。

定年退職後、毎月の生活費がどのくらい必要なのかを現役時代のうちから計算しておきましょう。

毎月の生活費が年金月額を下回るようであれば、まずは問題ありませんが、もし、年金だけで足りないようであれば預貯金の取り崩しが必要です。

たとえば、毎月5万円の取り崩しが必要だとすると、次の資産が必要になってきます。

  • 65歳~ 80歳までの15年間で、5万円×12ヵ月×15年=900万円
  • 65歳~ 90歳までの25年間で、5万円×12ヵ月×25年=1,500万円
  • 65歳~100歳までの35年間で、5万円×12ヵ月×35年=2,100万円

現役時代のうちから老後の生活費について考えておくと、資産運用の目標利回りがわかりますし、何歳まで働かないといけないか、といった働き方の計画(ジョブプラン)も立てやすいです。

住宅ローンの完済年齢は上昇

「持ち家」だからといって安心ではありません。定年退職後も住宅ローンの返済が続く人は増えています。

2020年10月に日本経済新聞で「住宅ローン完済年齢上昇」という記事がありましたが、2020年度の住宅ローンの完済計画年齢が20年間で5歳も上昇して平均73歳になった、というものでした。要因は「晩婚化」により住まいを取得する時期が遅くなったこと、そして、住宅価格の上昇により融資額が増えたことで返済期間が長期化したことにあります。

定年退職前に「役職定年」や「早期退職」などで思わぬ収入減になってしまう人もいます。退職金で一括返済できたとしてもその後の老後の資産設計に影響が出る場合もありますので、住宅ローンが老後まで残る人は一度確認しておきましょう。

また、せっかく手に入れた持ち家に一生住み続けられるかどうかも重要な課題です。体が不自由になったとき、病院までの距離や買い物ができるスーパーまでの距離は非常に重要です。

過疎化が進んでいる地方であれば、今は生活に問題はなくても、将来はスーパーやコンビニといったお店が突然なくなってしまうことも十分あり得ます。さらに免許返納して車が運転できなくなったときに、引き続き交通機関が利用できる状態かどうかも重要になってきます。

60歳で定年退職したAさんの生活

60歳で定年退職したAさんの生活

Aさん(65歳)は、5年前に定年退職で会社を辞めましたが、退職金や預貯金を合わせて4,000万円ほどあったため、仕事もせずにのんびりとした生活を送ってきました。

Aさんは離婚歴があり、お子さんも1人いたのですが、すでに家庭をもっており現在はほとんど交流がない状態で、東京都下の1LDKの賃貸マンション(家賃:約7万円)に一人暮らしです。

2年前からは年金生活に入り(報酬比例部分のみ受給)ましたが、今年からは基礎年金も併せて受給できるようになり、年金月額は合わせて約17万円です。

贅沢もしない性格なので年金内で支出を収める自信があったのですが、昨今の値上がりもあり、将来の生活に対しての不安も大きくなってきました。

「定年退職した5年前とは生活が一変してしまいました。5年前はコロナなんてなかったし、物価がこんなに上がるなんて思ってもみませんでした。病気に対する不安や住まいやお金に対する心配が急に大きくなってきました」

家賃の値上げと更新に注意

食料品に限らずさまざまなものが値上がりしている現在、当然家賃の値上がりも考えられます。年金生活に入ってからの家賃の値上がりは厳しいですね。

また、高齢を理由に契約解除されることは借地借家法の観点からはないのですが、認知症を発症するとオーナー側にとっては家賃滞納やトラブルの原因になるため、法律上、意思能力がないと判断された場合は契約更新が難しくなります。親族などが借主となったり成年後見人を立てたりする方法での締結を求められる可能性があります。こうした点にも注意が必要です。

賃貸に住み続けるのもいいですが、早めに「老人ホーム」への入居を検討しても良いでしょう。

元気なうちに老人ホームの入居を検討する

老人ホームはさまざまな種類があり、要支援や要介護の状態でなくても入居できるホームがあります。Aさんのようにまだ介護が必要ない、自立した人が入居することができる老人ホームは「自立型老人ホーム」と呼ばれています。

賃貸の方以外にも、ご自宅がバリアフリーになっていない方は、大きなお金を工事にかけるよりも早めに老人ホームに入居したほうが良いケースもあります。

老人ホームは「公的施設」と「民間施設」がありますが、自立型老人ホームで入居しやすいのは「民間施設」です。

民間の老人ホームだと「お金がかかりそう……」というイメージがありますが、立地により金額は大きく変わってきます。当然都心に近くなるほど入居にかかる一時金なども高くなりますので、予算を考えて「全国対応型」のホームなど広い範囲で選んでいきましょう。

特に一人暮らしの男性だと食事の栄養バランスなどが不安なケースも多いですが、老人ホームであればバランスの取れた食事も提供してくれますし、認知症や寝たきりといった介護状態になっても引き続き入居することができます。

ただし、今後は高齢者も増えてきますので、空き部屋を探すのは難しくなってくるかもしれません。早めにネット等で自分に適した老人ホームを探して相談しておくことをお勧めします。

たとえば、Aさんの場合、定年退職時に4,000万円所有していましたが、年金受給までのあいだに約800万円を使ってしまっています。残りの3,000万円ちょっとと年金額以内に収まるような老人ホームを探さないといけません。

Aさんは現在、都心で暮らしていますが、関東地方のある県が生まれ故郷ということで、この地域でホームを探すことにしました。都心からはできるだけ離れたほうが入居費用は安くなります。

月額利用料は年金月額以内に収まるのが理想ですが、今後はインフレや人手不足でアップしてしまう怖れもありますので、余裕を持った資金計画が必要です。Aさんの生まれ故郷だと入居一時金は100万円台、月額利用料は20万円前後という所が多いようで、年金月額以内には収まりませんでしたが、入居一時金が都心のホームに比べかなり安くなったので、資金的には問題がなさそうです。

Aさんは「もう少し時間をかけて、実際に見学もしていろいろ探してみようと思います」と言っています。今後の一人暮らしの不安がなくなったせいか、顔色も少し明るくなったようでした(※ご本人の了解を得て一部脚色して記載しております)。

東京都でも増える一人暮らしの高齢者

東京都でも増える一人暮らしの高齢者

令和5年1月に東京都が作成した「『未来の東京』戦略 附属資料 東京の将来人口」によると、次のように述べています。

・高齢化の進行に伴って、世帯主の年齢が65歳以上の高齢世帯が増加し、65歳以上の単独世帯は、2020年の92万世帯から2050年の126万世帯まで増加を続け、2065年には115万世帯となる見込みである。

・とりわけ、75歳以上の高齢者を世帯主とする単独世帯の増加が顕著であり、2020年の52万世帯から2055年には77万世帯に増加し、単独世帯に占める割合は20.2%となる。

・65歳以上の単独世帯に、世帯主の年齢が65歳以上の夫婦のみの世帯を合わせた世帯数は、2020年の150万世帯から2065年には179万世帯となり、全世帯(668万世帯)の約3割が高齢者の一人暮らしや二人暮らしによって占められる。

[図表2]増加する65歳以上の高齢単独世帯と夫婦のみの世帯

※出所:『未来の東京』戦略 附属資料 東京の将来人口 02東京都の将来人口及び世帯数の推計 7世帯主の年齢階級別単独世帯数の推移

東京でも「独居老人」「老々介護」「高齢者の貧困」といった問題が年々大きくなっていきます。介護施設や福祉サービスの整備が求められ、高齢者にとっての暮らしやすい街づくりの必要性が高まってくるでしょう。

空き家も増えてくる今後、持ち家のある人は売却や相続についても早めに考えておく必要がありますが、現役時代から「終の棲家」を中心に考え、老後の資金計画を立てるようにしておきましょう。

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