土地の相続は、どのように進めれば良いのか不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。2024年4月1日から、法改正により土地の相続登記は義務となり、罰則が発生しますので、放置しているとさまざまなデメリットが生じます。
このコラムでは、土地の相続手続きを放置した場合のデメリットや相続に関する期限、相続登記の手続き方法などについて解説します。相続した遺産に土地がある方や土地を相続する可能性がある方は、ぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 遺産は相続するか放棄するか3ヵ月以内に決定。準確定申告は4ヵ月以内、相続税の申告・納税は10ヵ月以内が期限
- 不動産の遺産相続は放置するほど共有者が増え、手続きが複雑化する
- 相続登記は2024年4月1日から義務化され、3年以内に手続きが必要
不動産の遺産相続手続きについて
遺産相続の手続きは以下の流れで進めていきます。
- 相続人と相続財産を確定する。
- 遺言書の有無を確認。
- 遺言書がある場合は、その内容に沿って相続手続きを進める。遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う。
遺産分割協議では、誰が何を相続するのかを決め、合意した内容で遺産分割協議書を作成します。遺産の承継は、遺産分割協議書に従って行います。
相続する遺産の中に土地などの不動産がある場合は、不動産の名義を変更する相続登記が必要です。これまで相続登記には期限も罰則もありませんでした。
しかし、2024年4月1日から相続登記が義務化されます。相続登記は不動産を取得したことを知った日から計算して3年以内に申請する必要があり、期限を過ぎるとペナルティが科せられますので注意が必要です。
不動産の遺産相続手続きで期限のあるもの
2024年4月1日から土地の相続登記が義務化されることに伴い、その土地を取得したことを知った日から3年以内に相続登記申請を行わなければなりません。期限を過ぎると10万円以下の過料が科されます。
この他、遺産相続の手続きで注意したい期限は、以下のとおりです。
- 相続放棄と限定承認…相続開始を知った日から3ヵ月以内
- 準確定申告…相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内
- 相続税の申告・納税…相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内
まず、相続放棄と限定承認ですが、これは相続を開始したことを知った日から3ヵ月以内に行う必要があります。
遺産には、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、相続人は遺産を承継するのか放棄するのか、次の3つの方法から選ぶことが可能です。
- 単純承認:相続する
- 限定承認:相続財産の範囲内で債務を精算し、残った財産があれば相続する
- 相続放棄:相続しない
単純承認なら特に手続きをする必要はありませんが、限定承認と相続放棄は3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てを行わなければなりません。期間内に手続きをしなかった場合は、単純承認したとみなされます。
準確定申告とは、亡くなった年の所得税の確定申告を、被相続人に代わって相続人が行うことです。被相続人に一定の所得があり確定申告を必要とする場合の手続きであり、被相続人に確定申告の必要がなければ準確定申告は行いません。準確定申告の期限は相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内で、税務署へ申告手続きを行います。
相続税の申告・納税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に税務署へ手続きを行います。
相続税申告の期限を過ぎてしまった場合のデメリット
相続税を申告・納税しないまま期限を過ぎるとどのようなデメリットがあるのでしょうか。
【期限を過ぎてしまった場合のデメリット】
- 相続税が加算される
- 延納や物納が認められなくなる
- 特例が受けられない
それぞれについて詳しく解説します。
相続税が加算される
期限までに相続税の申告を行わないと、「無申告加算税」や「延滞税」が課税されます。
無申告加算税は、税務調査で無申告が判明した場合に加算され、加算割合は納付すべき税額により変わります。50万円までは15%、50万円を超え300万円までの部分は20%、300万円を超える部分は30%です。なお、期限後の税務調査前に自主申告をした場合は、5%に軽減されます。
延滞税は、納付が遅れた日数に応じて発生する利息のようなものと考えて構いません。延滞税の税率は年によって異なりますが、原則としては納期限の翌日から2ヵ月を経過するまでは7.3%、2ヵ月経過以後は14.6%となります。納税が遅れるほど延滞税は増えていきますので、申告・納税は気づき次第、速やかに行うことが重要です。
延納や物納が認められなくなる
相続税は、申請により一定の条件のもとで「延納」や「物納」ができます。延納とは担保を提供して分割で納付する制度、物納は金銭の代わりに一定の相続財産で納付する制度です。相続税が高額になり、金銭で納付することが困難な場合に利用できます。
延納や物納の申請期限は、相続税の申告期限と同じ日です。土地相続では、想像以上の高額な納税額になる場合がありますので、延納や物納の制度を利用するためにも相続税の申告・納税は期限内に行いましょう。
特例が受けられない
相続税の申告期限までに遺産分割ができなければ、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地の特例」といった税金の軽減制度が利用できなくなります。
配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者の遺産額が、次の2つのどちらか大きい金額まで相続税が課税されないという制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
小規模宅地の特例とは、被相続人が居住用や事業用としていた土地で一定の条件を満たす場合に適用され、相続税が最大80%減額されます。
いずれも大きな節税効果が望めますので、軽減制度を利用するためにも申告期限を過ぎないよう、相続手続きには早めに取り組むことが重要です。
2024年4月から相続登記も義務化へ
不動産の名義を相続人など権利取得者へ変更する登記を「相続登記」と呼びます。現在、相続登記には期限はなく、手続きをしなくても罰則はありません。しかし、2024年4月1日から相続登記が義務化されます。
義務化の理由に、期限や罰則がないことから相続登記をせずに土地を放置し、所有者不明土地が増えていることがあります。
義務化されると、相続登記の期限は不動産を相続したことを知った日あるいは遺産分割が成立した日から3年以内になります。相続登記をしなかった場合は10万円以下の過料が科されるため注意しなければなりません。また、2024年4月1日より前に相続した不動産も、3年間の猶予期間付きで相続登記の義務対象です。
「亡くなった親の土地の名義変更をしていない」という方は、相続登記を検討しましょう。
相続登記を放置した場合のデメリット
相続登記を放置することで生じるデメリットについてさらに詳しく見ていきましょう。
【相続登記を放置した場合のデメリット】
- 売却したいのにできない
- 土地の共有者がわかりにくくなる
- 相続人が認知症になった場合は手続きが難航する
- 必要な書類が取得できない
- 不動産が差し押さえられる場合もある
売却したいのにできない
不動産は、亡くなった方の名義のままでは売却することができません。売却するためには相続登記で名義を変更する必要があります。
遺産は相続人全員の共有となるため、売却するには全員の同意を得なければなりません。そのため、共有者に所在不明の方がいると手続きはより難しくなります。
土地の共有者がわかりにくくなる
相続登記を長期間放置していると、相続が繰り返されることで土地共有者がねずみ算式に増えていくことがあります。
例えば、被相続人(配偶者は先に死亡)の土地は3人の子A、B、Cへ相続されます。亡くなった親の土地を名義変更しないと子A、B、Cの共有となり、Aが亡くなるとAの持分は配偶者DとAの子Eが相続します。同様にBやCが亡くなれば、それぞれの配偶者及び子へと持分が承継され、さらにAの子Eが亡くなればその配偶者や子へと、世代を超えて引き継がれていきます。
遺産相続が終わらないうちに次の相続が発生することを「数次相続」と呼びます。放置期間が長くなるほど相続人が増えるため、相続人同士の関係も希薄となり、連絡先さえわからない土地共有者が出てきてしまいかねません。
相続人が認知症になった場合は手続きが難航する
相続登記を放置するうちに相続人が高齢となり、認知症になるケースも出てきます。相続人が認知症になると、意思能力が無いとされ遺産分割協議をしても無効です。
そのため、遺産分割を行う前に、まず認知症になった相続人のために成年後見人を選任しなければなりません。相続登記をする前段階で多くの手続きが発生してしまうわけです。
必要な書類が取得できない
相続登記には、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍はもちろん、相続人全員の印鑑証明や戸籍謄本が必要です。しかし、役所の書類には保存期限が設けられているものもあります。
現在、住民基本台帳法施行令の一部改正により、2019年6月20日以降、住民票の除票及び戸籍附票の除票の保存期間は150年になりました。しかし、2014年6月19日以前に消除又は改製された住民票の除票については、すでに5年の保存期間が経過しているため発行されません。また、震災や戦災等による消失や法改正前の保存期間の経過等で、戸籍謄本等の証明の発行ができない場合もあります。
このように相続登記を長期間放置すると、登記に必要な書類の取得が困難になる可能性があるため、できるだけ速やかに手続きを行う必要があります。
不動産が差し押さえられる場合もある
相続人の中に借金をしている方がいる場合、その方の財産である土地の共有持分を差し押さえられる可能性があります。差し押さえられるのはあくまでも共有持分に限られ、その時点では他の共有者に影響はありません。しかし、今後、共有不動産の処分が複雑になる可能性があるでしょう。
土地の遺産分割方法について
土地の遺産分割には、以下3つの方法があります。
【土地の遺産分割方法】
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
なお、土地を複数の相続人の共有名義のまま分割する「共有分割」もあります。しかし、共有分割は、土地売却の際に共有者全員の同意を必要とするなど後のトラブルへ発展しやすいため、ここでは共有分割以外の分割方法について解説します。
現物分割
現物分割とは、土地をそのまま相続する方法です。ひとつの土地を相続人のひとりに、あるいは分筆してそれぞれの相続人に分けます。複数の土地があればそれぞれの土地を相続人に分けます。
最も一般的な分割方法であり、土地の形態を変えることなく各相続人に分配できるメリットがある反面、立地などによって公平な分割が難しい点がデメリットです。
代償分割
代償分割とは、相続人のうち特定のひとりまたは複数の相続人が土地を取得する代わりに、取得しなかった他の相続人に代償金を支払う方法です。相続財産が不動産のみで、被相続人と同居していた相続人がそのまま住み続ける場合などに選択されます。
権利が分散せず節税も望めるメリットがありますが、土地を所有する相続人に相応の資力が必要になる点がデメリットです。
換価分割
換価分割とは、土地を売却して得られた現金を相続人で分割する方法です。現物分割や代償分割が難しい時に選択されることがあります。
現金で分けるため公平で不満が出にくい点がメリットですが、現金化に手間がかかることや売却により譲渡所得税がかかることがデメリットです。
土地の相続登記の手続きについて
土地は、相続によって自動的に名義が変わるわけではありません。必ず土地の名義変更の手続きが必要です。
相続によって不動産の名義を変更登記することを、相続登記と呼びます。相続登記は、登記申請書を作成し、必要書類を添付して管轄の法務局に申請しなければなりません。
遺産分割方法に従う
土地の相続登記を行う場合、まずは相続人全員で協議して遺産分割の方法を決める必要があります。原則として、遺産は法律で定められた割合(法定相続分)で複数の相続人が共有することになるからです。相続登記はこの遺産分割で決めた方法に従って行います。
現物分割を選択し、一筆の土地を分割してそれぞれ相続人が単独で所有することにした場合は、土地を測量し分筆登記を行わなければなりません。分筆とは、ひとつの土地を複数に分割することで、分筆登記は相続人全員で行います。分筆登記後、共有物分割による持分移転登記を申請して、分割された土地がそれぞれの相続人の所有となる仕組みです。
代償分割の場合は、土地をそのままの形でひとりの相続人が引き継ぐことができますが、土地を引き継ぐ相続人は、他の相続人に持分に応じた代償金を支払わなければなりません。それなりに高額になるので、土地を引き継ぐ相続人に十分な資力がなければ代償金を支払えなくなってしまいます。他の相続人は、代償金をきちんともらえるのか十分考慮した上で判断することが必要です。
相続登記に必要な添付書類
相続登記に必要な添付書類は遺産分割協議書以外にも複数あります。主な書類は以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票等
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 法定相続人全員の住民票または戸籍の附票
- 固定資産税評価証明書
- 遺産分割協議書
- 法定相続人全員の印鑑証明書
戸籍謄本は法定相続人の確認のため、被相続人の出生から死亡まで、および相続人全員分が求められます。
遺産分割協議書は法定相続人全員の同意で作成するもので、全員が実印を押します。そのため、添付書類として法定相続人全員の印鑑証明書が必要です。
なお、相続登記を司法書士などの専門家に依頼する場合は委任状も必要です。
相続登記に必要な費用
相続登記にかかる登録免許税は、固定資産評価額の1,000分の4です。登録免許税は登記申請時に法務局へ、現金または収入印紙で支払います。
さらに、司法書士など専門家に登記申請を依頼した場合は、別途専門家への報酬が発生します。
土地の遺産相続にかかる期間
土地の遺産相続の手続きの流れは以下のとおりです。
- 遺言書の確認
- 遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議書を作成
- 遺産分割協議書に従って土地の名義を変更する
手続きにかかる期間はケースバイケースなので一概にはいえませんが、目安を見ていきましょう。
遺産分割協議書の作成にかかる期間
遺産分割協議書の作成は、相続人が誰か明確でかつ相続人の間でもめることなく遺産分割方法が決められれば、作成次第にはそれほど時間を要しません。
遺産分割協議書の作成そのものよりも、作成に入る前段階の、相続人の確定作業のための戸籍収集や相続財産の調査にどれだけ時間がかかるかによって期間が左右されます。
相続人の人数が多い、遠方に住んでいるなどの事情があると、書類収集や同意の取りまとめに時間がかかるでしょう。
名義変更にかかる期間
土地の名義変更は、申請書と必要書類を揃えて法務局へ提出して行います。提出後、1週間程度で登記が完了しますが、申請が集中している場合は数週間かかるケースも少なくありません。
ただし、これはあくまで書類に不備がなかった場合の話です。書類の補正や必要書類の追加提出を求められると、さらに時間がかかります。書類の補正とは、書類に不備があり修正等を求められることです。
その点、司法書士など専門家に依頼すると、スムーズに手続きを進めてもらえるため、期間の短縮が可能です。
遺産相続に関する手続きなどのサポートはプロに任せよう
遺産相続は、相続人全員による遺産分割協議をはじめ、難しい書類作成や複数の役所から書類を取り寄せるなど、時間と労力を要します。そのため、遺産相続に必要な書類の作成、手続きなどのサポートを専門家に任せることもひとつの方法です。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、スムーズな相続手続きをサポートします。仕事が忙しく相続手続きができない、あるいは行方不明の相続人がいて進め方がわからない、といった場合には、一度相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
相続登記を放置することによるデメリットは大きく、後の世代へ負担を残す結果になってしまいます。2024年4月1日からは土地の相続登記が義務となり、土地を相続登記せずに放置すると罰則が科せられますので注意が必要です。相続登記を忘れている土地がないか、亡くなった親が他に土地を持っていなかったか今一度確認し、早めに相続手続きに取り組みましょう。