人生100年時代になり認知症が身近な病になった昨今、ご自身の将来について不安に感じる方も多いでしょう。そんな不安を払拭してくれるのが成年後見人です。成年後見人は成年後見制度に基づいて選任され、財産の管理など重要な法律行為を行うサポートをしてくれます。今回の記事では成年後見人を利用するための手続きについて解説していきます。将来の財産管理に不安がある方は参考にしてみてください。
(本記事は2024年2月1日時点の情報です。)
- 成年後見制度は判断能力が低下した方が重要な法律行為を行うためのサポート
- 成年後見制度には家庭裁判所によって後見人等が選ばれる「法定後見制度」とご自身で後見人を選ぶ「任意後見制度」がある
- 成年後見制度利用の手続きは時間と手間がかかり、一旦後見開始してしまうと判断能力が回復しない限りやめることはできない
- 家族信託であれば、成年後見制度よりも柔軟に財産を管理することが可能
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、精神障害や認知症、加齢などによって判断能力が不充分となり、財産の管理や介護サービスの契約締結など、ひとりで法律行為を行うのが難しい方を支援する制度です。成年後見制度には家庭裁判所によって後見人が選ばれる「法定後見制度」と本人が後見人を選ぶ「任意後見制度」があります。
法定後見制度
法定後見制度とは、家庭裁判所によって成年後見人が選ばれる制度です。法定後見制度では、判断能力の程度に応じて権限の範囲が異なる3つの類型が設けられています。
【法定後見制度】
補助 | 保佐 | 後見 | |
対象となる方 | 日常生活に支障はないが法的な契約の判断に不安のある方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 日常的に判断能力が不充分である方 |
同意・取り消しができる行為 | 申し立てによって裁判所が定める行為 | 民法13条1項所定の行為 | すべての法律行為 |
代理することができる行為 | 申し立てによって裁判所が定める行為 | 申し立てによって裁判所が定める行為 | すべての法律行為 |
補助人に選任された場合は、裁判所から所定の法律行為に権限が与えられます。保佐人の場合、民法13条1項の所定行為とされている借金や訴訟行為、相続の承認・放棄、建物の新築・改築といった法律行為に対して同意・取り消しが可能です。
後見人はすべての法律行為を代行します。財産管理や身上監護も関わるため、日用品購入費の管理や治療・入院の契約締結といった職務も果たします。
任意後見制度
一方任意後見制度は判断能力があるうちから、本人自らが後見人となる方やその権限の範囲を決めておく制度です。あらかじめ決めた内容を任意後見契約として結んでおくことによって、判断能力が低下してしまっても任意後見人を法的な立場として頼れるので安心です。
成年後見制度のメリット・デメリット
成年後見人の制度は、判断能力に不安がある方やご家族にとって、財産管理や介護サービスの契約など意思決定が重要な場面で安心材料となる制度ですが、デメリットもあります。それは、すぐに制度が利用できるわけではないという点です。
すでに本人の判断能力に対して不安がある状態であっても、制度を利用するためには家庭裁判所へ申し立てが必要になります。家庭裁判所への申し立てには、多くの書類が必要になり、時間も費用もかかってしまうのです。
また成年後見制度を開始すると、被後見人の判断能力が回復しない限り、制度利用をやめることはできません。親族が成年後見人となる場合は後見人への報酬は不要ですが、弁護士や司法書士といった第三者が後見人となる場合は報酬が必要です。後見制度が続く限り、成年後見人への報酬を支払い続けなくてはならないので注意が必要です。
成年後見人について
実際に成年後見人にはどういった人が選ばれるのでしょうか。成年後見人になれる人となれない人の条件を見ていきましょう。
成年後見人になれる人
最高裁判所は親族など身近な支援者を後見人にするのが望ましいという考えを示しています。しかし、身近に支援できる方がいるケースばかりではありません。例えば、唯一の親族が遠方に住んでいたり、病気で支援できなかったりといった場合もあります。
このような事情を加味して、家庭裁判所が被後見人にとって適任だと思われる方を成年後見人に選任します。
成年後見人になるためには、特定の資格などは必要ありません。司法書士や弁護士など専門職の方が選ばれる場合もありますが、研修を経た一般の方が成年後見人となる場合もあります。
ブログカード>成年後見人になれる人は誰?職務内容や権限を解説(c2212)
成年後見人になれない人
一方で、最高裁判所によって以下のような方は成年後見人になれないとされています。
【成年後見人の欠格事由】
- 未成年
- 過去に成年後見人等を解任されている
- 破産して復権していない
- 本人に対して訴訟したことがある人やその家族
- 行方不明になっている
その他、被後見人の親族間で対立がある場合、親族は成年後見人として選任されないことが多いです。
法定後見制度の手続きの流れ
実際に成年後見人になるにはどのような手続きを行えば良いのか、ここからは法定後見制度申し立ての流れについて見ていきましょう。
家庭裁判所へ申し立て
申し立てを行えるのは被後見人本人、もしくは配偶者や四親等内の親族などに限られます。必要書類を用意して被後見人の住んでいる地域の家庭裁判所に提出しましょう。
必要書類がそろったら申し立て先の家庭裁判所へ提出します。この時、家庭裁判所によっては受付予約が必要な場合もありますので、各家庭裁判所へ確認してください。
家庭裁判所で審理が始まる
申し立てが終わったら家庭裁判所で審理が開始されます。被後見人の意思を尊重するため、家庭裁判所の担当者による本人の面接が必要です。本人が外出困難な場合は、入院先や入所施設などに直接担当者が面接に来ます。また、被後見人の親族の意向を確認する場合もあります。その他、判断能力を医学的に裏付けるため、本人の状態によっては医師による診断が必要です。
審判が行われる
家庭裁判所で審理した後、後見開始の審判と成年後見人等の選任を行います。申し立て人や本人、成年後見人に選ばれた方に審判の内容が書面で送られます。審判の内容に対して不服申し立てがない場合は2週間後から後見開始です。ただし、成年後見人選任に対しての不服申し立てはできません。
後見人の登記が依頼される
審判が確定したら、家庭裁判所によって法務局・地方法務局に審判内容の登記が依頼され、これにより成年後見人は、後見人である証明書として登記事項証明書を発行することできます。成年後見人には、家庭裁判所から職務に関する書類が送られます。
後見事務がスタート
後見事務が始まったら、1ヵ月以内に必要な書類を提出しなくてはなりません。後見予算表や財産目録、後見事務報告書を作成して年間収支の予定を立てます。申し立て人が成年後見人となった場合、申請時にも財産目録を提出しますが、選任後にも再度提出する必要があります。
法定後見制度の申し立てに必要な書類
法定後見制度の申し立てには以下の書類が必要です。
【法定後見制度申し立てに必要な書類】
- 申し立て書(裁判所のホームページからダウンロード可)
- 戸籍謄本や住民票
- 成年後見制度の利用登記がされていない証明書
- 被後見人の財産に関する資料
- 医師による診断書
- 福祉担当者が作成した本人情報シートの写し など
法定後見制度にかかる費用目安
成年後見制度の申し立ての際には費用がかかります。申し立て手数料800円と登記手数料2,600円、それぞれ収入印紙で用意が必要です。審判書の送付や登記依頼のために郵便切手も必要です。
後見申し立ての場合は3,270円、補佐・補助申し立ての場合は4,210円がかかります。医師による診断が必要な場合は鑑定料が10~20万円ほど必要になることもありますが、審理の際に不要と判断されれば必要ありません。
第三者が成年後見人になった場合は、後見開始後に報酬の支払いも必要になります。成年後見人の基本報酬は月額2万円が目安です。管理財産額が高額な場合は管理事務が複雑になるため、基本報酬が月額5~6万円ほどになる可能性もあります。
任意後見制度の手続きの流れ
ここからは任意後見制度の手続きの流れを確認していきましょう。
任意後見人の決定
任意後見制度を利用する場合、被後見人が後見人となる人をあらかじめ選ぶ必要があります。将来任意後見人となる人は「任意後見受任者」と呼ばれます。任意後見受任者は、将来本人の判断能力が低下した時に財産の管理など重要な手続きを行うため、信頼できる人を選ばなくてはなりません。
任意後見契約の締結
任意後見受任者を選んだら、代理で行うことと行わないことといった権利の範囲を決めていきます。任意後見が始まってからの生活方法や介護の希望、不動産や財産の使い方といった権威の範囲を決めましょう。その後、公証人を介して公正証書を作成し、任意後見契約の締結となります。
法務局に登記を申請する
その後、公証人から東京法務局へ任意後見人の登記申請をします。登記は2~3週間で完了となりますが、完了するまでは任意後見契約を公的に証明できません。
任意後見監督人選任の申し立て
被後見人の判断能力が低下した際には速やかに任意後見監督人を選任してもらう申し立てが必要です。任意後見監督人の申し立ては、本人もしくは配偶者、四親等内の親族か任意後見受任者によって手続き可能です。本人が居住している住所のある家庭裁判所へ必要書類をそろえて申請してください。
任意後見監督人の選任
申し立てを受けた家庭裁判所は任意後見監督人を選任します。これによって、任意後見契約が開始となります。任意後見監督人の役割はその名のとおり任意後見人が正しく職務を全うしているか監督することです。多くは弁護士や司法書士など専門職の方が選任されます。
任意後見制度申し立てに必要な書類
任意後見制度を利用するためには、任意後見の契約時と任意後見監督人を選任する時にそれぞれ異なる書類が必要です。
【任意後見契約時に必要な書類】
- 【本人】住民票
- 【本人】印鑑証明書・実印
- 【本人】戸籍謄本(抄本)
- 【任意後見受任者】住民票
- 【任意後見受任者】印鑑証明・実印
これらはすべて3ヵ月以内に発行されたものに限られているので注意しましょう。
また、任意後見監督人の申し立てには以下が必要になります。
【任意後見監督人選任時に必要な書類】
- 申し立て書
- 収入印紙・郵便切手
- 申し立て事情説明書
- 親族関係図
- 任意後見受任者事情説明書
- 診断書など本人の健康状態に関する資料
- 【申し立て人・本人】それぞれの戸籍謄本
- 【任意後見受任者】住民票または戸籍附票
- 任意後見契約公正証書写し
- 成年後見登記事項証明書
- 本人の財産に関する資料
- 本人の収支に関する資料 など
こちらも契約時と同様に、発行から3ヵ月以内の書類であることが条件です。
任意後見制度申し立てにかかる費用目安
まずは、任意後見契約を結ぶ時に費用がかかります。任意後見契約公正証書を作成するためには、以下の費用が必要です。
内容 | 金額 |
公正証書作成の基本手数料 | 11,000円 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
法務局へ納める収入印紙代 | 2,600円 |
本人が直接公証役場に行くことができず、公証人が出張する場合は病床執務加算として5,500円が追加となります。その他、登記申請のために法務局へ公正証書謄本を郵送するための書留料金や正本謄本を作成するためにも費用が発生します。
認知症の進行などにより判断能力が低下し、任意後見監督人選任の申し立てにかかる費用は法定後見制度の申し立て費用と同額です。その他、任意後見制度の場合は後見監督人が必ず選任されるため、後見が終了するまで月1~3万円ほどの報酬が発生します。
家族信託という選択肢も
このように、成年後見制度は申し立てに必要な書類を数多く準備したり、成年後見人への報酬を払い続ける必要があったりと、利用しにくいと感じる点も少なくありません。判断能力に不安のある家族の財産を管理するのであれば、より柔軟性の高い家族信託という方法もおすすめです。
家族信託とは、本人が元気なうちから資産の管理や処分を家族に託すため、本人の判断能力が低下してしまっても本人の意向に沿った財産管理ができるというメリットがあります。遺言の場合はご自身が亡くなった後の財産の管理方法までは指定できません。
しかし家族信託であれば、あらかじめ契約しておくことで、本人に判断能力がなくなっても財産が引き出せないという事態を防ぐこともでき、生前贈与の代わりとしても活用できます。
認知症に備えた財産管理に悩んだらプロに相談してみよう
成年後見制度や家族信託といった財産管理について、なじみのない方からすると何を選べば良いのか迷ってしまうことも多いでしょう。認知症などにより将来の財産管理に不安があるのであれば、プロへ相談するのが安心です。家族信託を扱うファミトラでは「人生100年時代のコンシェルジュ」として、老後の悩みをサポートします。家族信託に精通した弁護士のネットワークを駆使し、悩みに最適なサービスを提供してくれます。
ファミトラでは弁護士監修のシステムと家族信託コーディネーターの導入により、お手頃な価格で家族信託が利用できるようになっています。「家族信託の相談を弁護士さんにしたけど、費用が高くて」とお悩みの方は、ぜひ1度ファミトラにご相談してみてください。無料相談も受け付けているため、相談費用面も安心してご相談いただけます。
おわりに
成年後見制度は、認知症や加齢により判断能力が低下した方を助けてくれる、心強い制度といえるでしょう。しかし、家庭裁判所や公証役場への申し立て、必要な書類の準備など、専門でない方がひとりで手続きをするには少し難しいと感じてしまうかもしれません。将来の財産管理対策は成年後見制度以外にも家族信託などが考えられますが、何を選べば良いのかわからないという方は、まずプロに相談してみると良いでしょう。この記事を参考に、将来の不安に対して納得して安心できる準備を検討してみてください。