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家督相続とは?遺産相続との違いや現代で実現させる方法を紹介

家督相続とは?遺産相続との違いや現代で実現させる方法を紹介
セゾンのくらし大研究 編集部

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歴史に興味のある方なら、家督相続という言葉を聞いたことがあるでしょう。簡単にいうと、長男などその家の「あとつぎ」が権利・義務の一切を承継する制度です。

自営業を営んでいらっしゃる場合「あとつぎは長男にする予定だから家督相続みたいに一切を相続させたいけどどうすれば?」とお考えかもしれません。今回はそのような方のために、家督相続の意味と、現在の法制度の中で家督相続と同じ効果を得る方法について解説します。
(本記事は2024年2月1日時点の情報です。)

この記事を読んでわかること
  • 家督相続とは長男を一家の戸主として扱い、その権利・義務および一家の財産を引き継ぐ制度
  • 旧民法における制度であり、現在では行われていないが、相続登記が未了だった場合適用されることもある
  • 現在の遺産相続とは、配偶者が相続人になるか否かなど扱いが大きく異なる
  • 遺言書、生前相続、家族信託の活用により家督相続と似た効果を得ることは可能
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家督相続とはどういう制度?

家督相続とはどういう制度?

家督相続という言葉を聞いたことがあっても、正確な意味はわからないという方も多いかもしれません。ここでは、家督相続の意味と現代で適用されるケースについて解説します。

家督相続とは

家督相続とは、長男を一家の戸主として扱い、その権利・義務および一家の財産を引き継ぐ制度です。家督とはいわゆる「あとつぎ」を指します。

家督相続の背景には、江戸時代以前の「一家の主が家の財産を相続し、家族を養う」という考え方があります。明治以前に制定された旧民法でもこの考え方は踏襲され、家督相続という制度として盛り込まれました。

なお、家督相続は以下の3つの事由により開始する仕組みです。

  • 戸主の死亡
  • 戸主の隠居(※1)
  • 戸主の戸籍喪失等(国籍の喪失、婚姻・養子縁組の解消、女戸主の入夫婚姻※2、入夫の離婚)

※1:民法旧規定では、生前に家督を譲ること。
※2:夫が女戸主(にょこしゅ)である妻の家に入る婚姻。夫が妻の家に入り妻の氏を称する。

また、現行法とは違い、同順位に複数の該当者がいる場合でも、複数で相続することはありません。つまり、長男・次男・三男など子どもが複数人いたとしても、家督相続をするのは1人に絞られます。基本的に、より上の順位にあたる人がいた場合、その人が相続する仕組みです。

第一順位第一種法定推定家督相続人:前戸主(例:父親)と同じ戸籍の直系卑属(例:長男)
第二順位前戸主が生前に指定もしくは遺言で指定した者
第三順位第一種選定家督相続人:父母、親族会により家族の中から選定された者

家督相続自体は、昭和22年(1947年)5月3日に現在の日本国憲法が施行されたことで廃止されました。そのため、現在は新たに相続が発生したとしても、家督相続が行われることはあり得ません。

現代で家督相続が適用されるケース

新たに相続が発生しても家督相続は適用されないものの、ごく一部ですが適用されるケースもあるので解説しましょう。法の時代=昭和22年の民法改正より前に発生した相続に対しては、家督相続が適用されます。

仮にずっと相続登記がなされていないままになっていた土地などがあった場合、家督相続に基づいて相続人を決定したうえで、現行民法に基づく相続人名義とする登記が必要です。

詳しくは後述しますが、事業承継があるために特定の後継者に単独で相続させる「家督相続に似た相続」も行われています。

家督相続と遺産相続の違いは

家督相続と遺産相続の違いは

旧民法における家督相続と、現在の民法における遺産相続はまったく異なる制度です。ここでは、両者がどのように異なるのかについて、以下の4点から解説します。

  • 相続する人
  • 相続のタイミング
  • 相続放棄できるかどうか
  • 相続の順位

相続する人

まず、家督相続においては、相続するのは長男が基本です。場合によっては長女が家督相続することもありました。

現在の遺産相続とは違い、配偶者は相続できません。また、男子が優先されるため、年長の長女がいたとしても、実際に相続できるのは年下の長男になります。

一方、遺産相続では家族構成によって異なります。配偶者は常に相続人になりますが、子どもや両親・祖父母、兄弟姉妹も場合によっては相続人になりうるのが大きな違いです。

相続のタイミング

相続のタイミングも異なります。家督相続の場合、戸主が亡くなった時だけでなく、生前に家督を長男に譲ったり(隠居)、何らかの理由で戸籍を喪失したりした場合に相続が発生する仕組みです。

一方、遺産相続では、相続人にあたる者が亡くなったときを相続の発生とします。生前に相続人になりうる者に財産を贈与すること(生前贈与)はありますが、生きているうちから相続が発生するわけではありません。

相続放棄できるかどうか

相続放棄できるかどうか

家督相続では、原則として相続放棄できません。例え、借金など負の遺産があった場合でも長男が相続し、責任を一手に引き受ける制度でした。

一方、現代の遺産相続では、相続放棄が認められています。負の遺産が大きく、相続をすると負担が大きくなりそうな場合は、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内であれば、裁判所で手続き(相続の放棄の申述)を行うことで相続放棄が可能です。

相続の順位

まず、現在の遺産相続の場合、配偶者がいれば常に相続人になります。それ以外の相続人に関する順位と法定相続分の関係は以下のとおりです。

第一順位配偶者:1/2
子ども:1/2
第二順位配偶者:2/3
両親、祖父母:1/3
第三順位配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4

同じ順位の者が複数人いる場合は、頭数で割ることになります。また、本来相続人となる立場の者が既に死亡していた場合は、その者の子が代わって相続する仕組みです(代襲相続)。例えば、被相続人の子どもが既に亡くなっていたとしても、孫が生きているなら代わりに相続します。

一方、家督相続の順位は以下のとおりです。

第一順位第一種法定推定家督相続人:被相続人の直系卑属。複数いる場合は、被相続人と親等が近い者。
第二順位指定家督相続人:被相続人が生前、または遺言によって指定した者。
第三順位第一種選定家督相続人:被相続人の父。父が死亡している場合は母。父母が死亡している場合は親族会が選定した者。
第四順位第二種法定推定家督相続人:被相続人の直系尊属。(直系尊属とは、父母や祖父母など、本人より前の世代のうち、血がつながっている直系の親族のこと)
第五順位第二種選定家督相続人:被相続人の親族会が選定した者。

例え同じ立場の者が複数人いたとしても、頭数で割るわけではなく、誰かひとりに相続させるのが基本です。

なお、親族会とは「親族会議」の略で、民法旧規定のもとで、家督相続人の選定や無能力者の保護など、親族関係にある人々にとって重要な事柄を決定するために開かれた親族の合議体を指します。本人・戸主・検事などの請求により裁判所が収集し、3人以上の親族が合議するのが特徴です。

家督相続に似た相続を行う方法

家督相続に似た相続を行う方法

家督相続は旧民法における制度であり、現在は相続が発生しても行われることはありません。しかし、事業を行っている場合、事業用の資産や土地を複数の相続人で分け合うのが難しい場合もあります。権利が分散されることになり、事業や土地の利用に悪い影響を及ぼすからです。

そのため、特定の後継者に単独で相続するのもやむを得ない場合がありますが、このような場合に利用できる「家督相続に似た方法」として、以下の4つを解説します。

  • 遺言書の作成 
  • 遺産分割協議
  • 生前贈与
  • 家族信託の活用

遺言書の作成 

生前に遺言書を作成してもらい、例えば「長男にすべての財産を相続させる」と書いておけば、家督制度と同様、長男にあたる方がすべて財産を相続できます。

ただし、遺言書の内容が遺留分(法律で認められた最低限の遺産の取り分)を無視したものだった場合、遺留分侵害額請求が行われることがあります。各人の遺留分は以下のとおりです。

【遺留分の割合】

相続人の組み合わせ遺留分各人の遺留分
配偶者と子1/2配偶者 1/4、子 1/4
配偶者と直系尊属1/2配偶者 2/6、直系尊属 1/6
配偶者と兄弟姉妹1/2配偶者 1/2、兄弟姉妹 なし
配偶者のみ1/2配偶者 1/2
子のみ1/2子 1/2
直系尊属のみ1/3直系尊属 1/3
兄弟姉妹のみなしなし

※子や直系尊属が複数人いる場合は、「各人の遺留分の割合」をその人数で均等に分けます。

また、遺言書が法的に無効なものにならないよう、最低限以下のルールは守りましょう。

  • 遺言者本人が自筆で全文を書く(※)
  • 作成した日付を正確に自筆で書く
  • 氏名を自筆で書き、印鑑を押す
  • 訂正は印を押し、欄外にどこを訂正したかを書いて署名する
  • ご家族へのメッセージなどは、「付言事項」として最後に書く

※添付の財産目録はパソコンで作成可能、ただし条件あり

遺産分割協議

生前に書いた遺言書がなかった場合、相続発生後は遺産配分について相続人同士で話し合いをして決定します。

この話し合いを遺産分割協議といい、本来は期限がありません。ただし、相続開始から10ヵ月以内に相続税の申告を行う必要があるうえに、限定承認や相続放棄をしたい相続人がいる可能性も考えると、できるだけ早めに遺産分割協議を行いましょう。

生前贈与

被相続人が生きている間に生前贈与を行うことも可能です。つまり、長男など特定の子どもだけに財産を贈与し、他の子どもの取り分はなくしておけば、家督相続と同じような効果が発生します。ただし、2点注意すべきことがあります。

まず、贈与は財産を渡す側・受け取る側双方の契約によって成立するものです。どちらか一方だけの思いで成立するわけではないので、よく話し合いをしましょう。そのうえで、合意できたら贈与契約書を作成し、保管しておくのをおすすめします。

また、贈与税の税率は相続税の税率より高いうえに、基礎控除は相続税の場合に比べ金額が少ないです。このあたりを無視して贈与を行うと「受け取った側」が多額の贈与税を払わなくてはいけないので注意してください。

家族信託の活用

家族信託の活用

家族信託の活用も検討しましょう。家族信託とは、財産を管理する権限をご家族に与える仕組みのことです。例えば、一家の父親が受託者かつ受益者、長男を受託とし、父親の財産の管理・処分を行ってもらう契約を結ぶことが考えられます。

家族信託のメリットは、生前から柔軟な財産管理を行い、相続にも備えられることです。例えば、財産を承継させた長男に万が一のことがあった場合は、その子どもである孫に承継させたいと考えたとします。遺言書ではこのような指定をすることはできませんが、家族信託であれば可能です。ただし、家族信託契約を結ぶ際には、早い段階から専門家を交えて話し合いをし、ご家族が納得いく形で進めるのをおすすめします。

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おわりに 

家督相続は明治〜昭和前期にかけて行われていたものであり、現在では行われていません。しかし「我が家は事業を営んでいるので、継いでくれる長男に財産を集中させたい」というように、家督相続と似たような相続を行わざるを得ないケースも考えられます。

相続が発生してから話し合いをするのでは、話し合いがまとまらないこともあるので生前からの対策が重要です。遺言書を作成してもかまいませんが、より自由度が高い家族信託を使うことも検討しましょう。

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