家族信託の受託者を法人化することで、多くのメリットがあります。一方でデメリットも存在します。この記事では、家族信託の法人化を検討してる方に向けて、法人化にどのようなメリットやデメリットがあるのか、さらに法人化するタイミングや法人化する方法を解説します。
(本記事は2023年12月8日時点の情報です)
- 受託者を法人化することで、受託者の不存在を回避し、安定的な運用が可能
- 法人を受託者とした場合、設立費用及び維持コストが発生する
- 家族信託で受託者を法人にする場合、一般社団法人が適切
- 定款の目的を明確にすることで、委託者の想いや信託財産を守ることに繋がる
家族信託の受託者が法人にするメリット
家族信託は、自分の財産を信頼できる家族に託す仕組みです。
基本は信頼する家族が財産を預かり、管理するのですが、「法人」が受託者として財産管理を行うことも可能です。特に、アパートなどの収益不動産を信託財産とする場合には法人を受託者とすることを検討してはいかがでしょうか。
家族信託で法人を受託者とするメリットとして、次の3つについて解説します。
- 節税効果がある
- 個人で負担していた費用を法人の経費として計上できる
- 受託者が存在しないことを回避できる
節税効果がある
法人として賃貸事業を行う場合、該当の不動産の財産権を法人に移し、個人から法人へ贈与を行います。、贈与税は、個人間の贈与のみに課せられるもので、法人の場合は、贈与税は課せられません。ただし、受贈益に対しては法人税が課せられます。
贈与した個人は、不動産時価に相当する金額を、譲渡収入として所得税を計算する必要があります。法人へ無償または著しく低い価額で、資産の譲渡をした場合でも、譲渡時の時価でその資産が譲渡がされたものされ、「みなし所得税」が課せられます。
つまり、法人・個人どちらにも税金がかかることになります。ところが、家族信託にした場合、受託者である法人の業務は土地や建物の管理となるため、収益(家賃収入)は受益者のものになります。したがって、法人に収益が発生しない場合、所得がない法人には法人税がかかりません。
個人で負担していた費用を法人の経費として計上できる
法人に収益がある場合、経費で計上できる幅が広がるため、節税対策が可能です。
法人化すると、個人負担だった、通信費(携帯代・プロバイダ料金)、ガソリン代、交際費など経費にできる項目が多くなります。その他にも生命保険料、社宅、慶弔費、出張費や休日出勤の手当などがあります。出張手当を支給することで、会社の経費となり、支給された側も所得税が課されません。
受託者の不存在が回避できる
法人の場合、「認知症」や「死亡」などの心配をする必要がありません。
受託者を法人化することで、組織的な運営となるため、突発的な事故による受託者の不存在を回避し、長期にわたる安定的な運用が可能です。
また不動産も法人名義になるため、その法人の構成員に変動があっても受託者としての法人に外形上の変化は起きません。信託口座が凍結される可能性も低くなります。
家族信託の受託者が法人にするデメリット
法人を受託者とした場合、設立費用及び維持コストが発生します。
一般的な一般社団法人を設立した場合、費用の目安は下記のようになります。
設立費 | 登録免許税 | 60,000円 | |
定款認証・謄本費用 | 52,000円~ | ||
維持費 | 法人住民税均等割 | 70,000円~ | |
税理士報酬 | 税務申告などの依頼 | 300,000円~ | |
社会保険料 | 給与支給額の一定割合 | 12,500円~ |
法人の場合、赤字でも法人住民税の均等割として年間7万円の税金がかかります。
それ以外にも、税務申告を行う際の、税理士報酬や加入必須の社会保険料がかかります。
家族信託の受託者を法人にしたほうが良いタイミングとは
個人で払う所得税よりも法人で払う税額が安くなるタイミング
法人化の目安としては、個人で払う所得税よりも、法人で払う法人税・住民税・事業税の方が安くなるタイミングです。
収益物件の信託報酬は家賃収入の5~10%程度が妥当といわれています。例えば、家賃収入が月に700万円ある場合、毎月70万円、年間840万円が信託報酬となります。法人の場合、ここから法人化した際にかかる法人税・住民税・事業税などを計算します。個人の場合は、年間840万円の報酬として所得税を計算します。法人の税務はかなりハードルが高いので法人化に際しては、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
受託者が高齢者とみなされるくらいの年齢になったタイミング
家族信託は、長期的な財産管理が前提となります。財産管理を任せたい方が高齢、または高齢に近い場合は法人化の検討をしてもよいでしょう。高齢の方は、認知症や死亡リスクが高まってしまうため、認知症や死亡により職務ができなくなる可能性があります。
法人化すると、受託者が認知症や死亡した場合、受託者が不在とはなりません。他の人が仕事を引き継ぐことが可能です。受託者の死亡というリスクがない点は永続性を考えるうえで大きなメリットと言えます。
家族信託で受託者を法人にする際に注意すべきこと
家族信託で受託者を法人にする場合、一般社団法人が適切とされています。
株式会社・合同会社・有限会社は、利益を上げることを目的とする「営利目的法人」という括りです。一般社団法人は営利・非営利を問いません。受託者となる法人は、家族の財産を預かり、長期にわたって管理します。その運営費を賄うため信託財産から定期的に「信託報酬」を貰うことが一般的です。
法人が信託報酬を受け取る場合は、信託業法で定められた「不特定多数の財産を反復継続して預かる場合」に抵触しないことが必要です。
営利を目的としない法人として、信託の引受けを目的とし、親族が社員・理事になる一般社団法人を設立し、一度限りの信託引受けとすれば、信託業法に抵触することなく民事信託の受託者になることが可能です。
法人を受託者とする場合の手順
一般社団法人設立の手順を詳しく確認する前に、まずは概要を把握しておきましょう。
- 社員や理事を確定させる
- 定款を作成する
- 法人の設立登記を行う
- 信託財産の分別管理を行う
これら4つのポイントをご紹介します。
社員や理事を確定させる
一般社団法人設立のため、設立時社員(代表者)として2名以上の社員で法人化を決定します。
一般社団法人の社員とは、一般社団法人の構成員であり、意思決定機関です。社員総会にて議案提出したり、議決に参加し、議決権を行使する者です。 株式会社でいう「株主」と同じような立場です。一般的な従業員やスタッフではありません。社員は、信託財産の管理・処分をする権限を持つことになるため、通常、受託者の家族が社員となるでしょう。
理事は一般社団法人の重要事項を決定する権限をもつ役員です。 一般社団法人から委任を受け、決められた範囲の中で法人の運営を行う業務執行権を持ちます。株式会社でいう「取締役」と同じような立場です。
定款を作成する
定款は、一般社団法人の根本規則で、設立の際に必ず作成する書類です。設立時社員が共同して作成し、公証人の認証を受ける必要があります。
一般社団法人の定款は公証人の定款認証を受けなければ効力を生じません。
定款で最も大切なのは、定款の目的です。目的は、会社設立にあたって何を事業とするのか具体的に明示するものです。
目的を明確にすることで、委託者の想いや信託財産を守ることに繋がります。定款には、法人の名称や目的、本店の所在地、設立時社員の氏名など、絶対に記載しなければいけない「絶対的記載事項」があります。
【定款の目的例】
当法人は、Aの安定した生活と福祉を確保するとともに、次代への円滑な資産承継支援を行うことを目的とし、信託財産の適正な管理・運用・処分、その他本信託目的の達成のために必要な以下の事業を行う。
(1)Aの財産を信託財産とする信託業法の規制を受けない民事信託の受託
(2)前号に付帯する一切の業務
法人の設立登記を行う
定款の作成・認証後、その他の書類を作成して、法務局で設立登記の申請を行います。
法務局へ登記申請をした日(書類の提出日)が、一般社団法人の成立日となり、不備がなければ1週間程度で登記が完了します。
信託財産の分別管理を行う
受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、財産の区分に応じ、定められた方法により、分別して管理しなければなりません。ただし、分別して管理する方法について、信託行為に別段の定めがあるときは、それに沿った方法で管理しなければなりません。
(参照元:信託法34条1項より)
受託者は、信託契約を行った場合、自身の固有財産と信託財産とを分別して管理する必要があります。
信託財産が現金の場合、自身で記帳して管理するより、信託口口座と言われる法人名義の信託口座を銀行に開設して、信託口口座に預け入れて分別管理するのが一般的です。
信託口口座は、信託の機能の1つである「倒産隔離機能」が働きます。信託した金銭は受託者の状態に関係なく安全に守られます。口座が凍結されることもありません。
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おわりに
今回は、家族信託の受託者の法人化のメリットやデメリット、タイミングについてまとめました。法人を受託者にする場合の進め方も解説しました。法人化にはリスクやメリット、デメリットがあります。その上で、法人化する価値があるかの判断が必要です。
このコラムで得た知識をもとに、ご自身の目や耳で情報を判断し、法人化を検討してください。