近年、高齢者のひきこもりが社会問題として注目されています。退職や心身の衰え、老人性うつなどが原因となり、多くの高齢者が外出を控え、社会から孤立してしまうケースが増えています。
本記事では、高齢者のひきこもりの現状や原因、そして放置した場合の問題点について詳しく解説します。また、大切な親がひきこもりにならないための具体的な対策方法や、離れて暮らす親をサポートする専門的なサポートサービスについてもご紹介します。家族の健康と安心のために、ぜひ参考にしてください。
- 高齢者のひきこもりは定義や現状が明確にされており、社会問題として認識されている
- 高齢者がひきこもりになる原因は、定年退職、健康上の問題、精神的な問題、人間関係の変化など多岐にわたる
- ひきこもりは高齢者の身体的・精神的健康に深刻な影響を及ぼし、死亡リスクも高める
- ひきこもり防止には、専門機関の利用、社会参加、日常生活の工夫などさまざまな対策方法がある
高齢者のひきこもりとは?
近年、高齢者のひきこもりが社会問題として注目されています。若者のひきこもりとは異なる特徴や背景があり、その実態把握と支援が急務となっています。
ここでは、高齢者のひきこもりの定義や現状について解説します。
ひきこもりの定義
ひきこもりの定義は以下の通りです。
- 自室からほとんど出ない
- 自室からは出るが、家からは出ない
- ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける
- ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する
これらの状態が6ヵ月以上続いていることをひきこもりと定義しています。この定義は、さまざまな要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指します。ただし、他者と交わらない形での外出をしていても、ひきこもりに含まれることがあります。
高齢者のひきこもりの現状
内閣府の調査によると、40~64歳のひきこもりは61万3千人以上と推計されています。さらに、2023年版厚生労働白書によれば、「ひきこもり状態の人」の年齢別割合を見ると、55~59歳に並んで、60~64歳が最も多くなっています。
このデータから、高齢者のひきこもりが深刻な問題となっていることがわかります。従来から指摘されてきた「8050問題」、つまりひきこもりのまま年齢を重ねた50代の子どもと80代の親が同居する問題に加えて、中高年以降でひきこもりになるケースも増加傾向にあります。
失業や病気などをきっかけに外出しなくなったり、配偶者との死別後に周囲との関係が途絶えたりするなど、独居高齢者のひきこもりや閉じこもりも問題視されています。これらの状況は、高齢者の社会的孤立や健康面での悪影響につながる可能性があり、早急な対策が求められています。
高齢者がひきこもりになる原因
高齢者のひきこもりは、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる現象です。社会的な変化や個人的な事情が重なり、徐々に外部との接点を失っていくケースが多く見られます。
以下では、高齢者がひきこもりになる主な原因について詳しく見ていきましょう。
退職や失業で仕事がなくなった
長年勤めた会社を退職したり、予期せぬ失業に直面したりすることで、高齢者がひきこもりになるケースが少なくありません。特に、40代から60代の中高年層では、退職がひきこもりの主要な原因となっています。
再就職を試みても、年齢による制限や過去の職場での人間関係のトラウマなどから、新たな仕事を見つけることが困難になることがあります。その結果、社会との接点を失い、徐々に孤立していく傾向があります。また、長年培ってきた職場での人間関係や社会的な役割を失うことで、自己肯定感が低下し、外出する意欲も減退してしまいます。
このような状況に陥ると、家に閉じこもる時間が増え、社会から孤立してしまう可能性が高くなります。特に、仕事中心の生活を送ってきた方にとっては、退職後の生活の再構築が大きな課題となるでしょう。
心身の衰え(フレイル)
加齢に伴う心身の衰えは、高齢者のひきこもりを引き起こす重要な要因の一つです。フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間段階の状態で、筋力や活力の低下を特徴とし、日常生活に支障をきたす可能性があります。
フレイルに陥ると、外出すること自体が大きな負担となり、徐々に家に閉じこもりがちになってしまいます。階段の上り下りや長距離の歩行が困難になると、外出の機会が減少し、結果的にひきこもり状態に陥りやすくなります。
さらに、フレイルは身体面だけでなく、精神面にも影響を及ぼします。活動量の減少によって気力が低下し、外出への意欲が失われていくこともあります。このような悪循環に陥ると、ひきこもりの状態がさらに深刻化する可能性があります。
老人性うつ
高齢者のひきこもりの原因として見逃せないのが、老人性うつです。この症状は認知症と類似しているため、見過ごされやすく、早期発見・早期治療が困難な場合があります。
老人性うつは、適切な治療を受けないまま放置すると症状が重症化する恐れがあります。うつ状態が続くことで、外出や人との交流を避けるようになり、ひきこもりの状態に陥りやすくなります。
また、配偶者との死別は老人性うつのきっかけとなることがあります。長年連れ添った伴侶を失うことで、生きる気力を失ってしまい、社会との接点を絶ってしまうケースも少なくありません。特に、男性の場合、妻に先立たれることで日常生活の維持が困難になり、ひきこもりに至ることがあります。
人間関係がうまくいかなくなった
年齢を重ねるにつれて、人間関係の築き方や維持の仕方が変化することがあります。高齢者の中には、若い頃と比べて頑固になったり、他人の言動に対して敏感になったりする傾向が見られます。
このような性格の変化は、周囲との関係性にも影響を及ぼします。些細な意見の相違や誤解が、大きな対立に発展してしまうこともあります。また、自分の考えや価値観を押し付けてしまい、周囲との軋轢を生んでしまうケースも見られます。
こうした人間関係のトラブルが積み重なると、徐々に社会との接点を失っていきます。外出や交流の機会が減少し、結果的にひきこもり状態に陥ってしまう可能性があります。特に、これまで築いてきた人間関係が希薄になってしまうと、新たな関係を構築することに躊躇してしまい、さらに孤立を深めてしまう傾向があります。
最悪の末路も?高齢者のひきこもりの問題点
高齢者のひきこもりは、単に社会との接点が減るだけでなく、次のような心身の健康や生活の質に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
- 周囲に頼る人がいなくなる
- 運動能力や筋力が低下する
- 認知症のリスクが高まる
- 死亡率が上昇する
以下では、それぞれについて説明します。
これらの問題を理解することで、ひきこもりの予防や改善に向けた対策の重要性がより明確になるはずです。
周囲に頼る人がいなくなる
高齢者がひきこもり状態になると、社会的な孤立が進行します。その結果、日常生活で困ったことがあっても、相談したり助けを求めたりできる人が周りにいなくなってしまいます。
これは単に不便というだけでなく、緊急時の対応が遅れる可能性もあり、生命に関わる危険性をはらんでいます。人とのつながりが希薄になることで、精神的な支えも失われ、うつ状態に陥るリスクも高まります。
運動能力や筋力が低下する
ひきこもり生活が長期化すると、体を動かす機会が著しく減少します。その結果、筋力や柔軟性が低下し、身体機能の衰えが急速に進行する可能性があります。
特に高齢者の場合、いったん低下した身体機能を取り戻すのは容易ではありません。極端な場合、家の中での移動や排泄といった基本的な日常動作さえ困難になる可能性があります。これは自立した生活を送る上で大きな障害となり、介護が必要な状態に陥るリスクを高めます。
認知症のリスクが高まる
運動不足は、認知機能の低下にも深刻な影響を及ぼします。特に、記憶をつかさどる海馬への刺激が減少することで、記憶力の低下が加速する可能性があります。さらに、社会との接点が減ることで、思考や判断を行う機会も減少し、理解力や判断力といった認知機能全般の低下につながります。
これらの要因が重なり、認知症のリスクが高まることが懸念されます。認知機能の維持には、適度な運動と社会的な交流が重要であることが、多くの研究で示されています。
死亡率が上昇する
東京都健康長寿医療センターが実施した研究によると、社会的に孤立している高齢者や、閉じこもりの傾向がある高齢者は、そうでない高齢者と比較して死亡率が顕著に高くなることが明らかになっています。具体的には、孤立や閉じこもりの状態にある高齢者の死亡リスクは、そうでない高齢者の約2.2倍にも上るという結果が報告されています。
さらに深刻な問題として、周囲に世話をしてくれる人がいない場合、最悪の事態として孤独死に至る可能性も否定できません。これらの事実は、高齢者のひきこもりが単なる生活様式の問題ではなく、生命に関わる重大な問題であることを示しています。
高齢の親がひきこもりにならない対策方法
このように、高齢者はひきこもりになりやすい傾向があり、ひきこもりになることで心身ともにリスクがあります。離れて暮らす親がひきこもりにならないためには、適切な支援と環境づくりが重要です。
以下に、効果的な対策や改善策をいくつか紹介します。
ひきこもり支援センターに相談する
ひきこもりに関する悩みや不安を抱えている高齢者やその家族にとって、専門的な相談窓口は心強い味方となります。各自治体やハローワークなどが連携して運営しているひきこもり地域支援センターでは、中高年のひきこもり相談を積極的に受け付けています。
これらのセンターでは、経験豊富な相談員が個々の状況に応じたアドバイスや支援策を提案してくれます。また、同じような悩みを持つ人々との交流の機会を設けたり、社会参加への具体的なステップを一緒に考えたりすることもあります。早い段階で相談することで、ひきこもりの長期化を防ぐことができるでしょう。
コミュニティに所属してみる
高齢者にとって、安心して過ごせる居場所をつくることは非常に重要です。デイサービスなどの介護サービスを利用することで、同世代の人々と交流したり、さまざまなアクティビティを楽しんだりする機会を得ることができます。
また、自分のやりたいことや得意なことがある場合は、アルバイトやボランティア、市民サークルなどへの参加もおすすめです。これらの活動を通じて、社会とのつながりを維持し、生きがいを見出すことができます。定期的に外出する機会があることで、ひきこもりのリスクを大幅に軽減することができるでしょう。
出かける習慣をつくる
外出することへの心理的なハードルを下げることが重要です。必ずしも遠出する必要はなく、近所の散歩や日用品の買い物でも構いません。重要なのは、定期的に外に出る習慣を身につけることです。
例えば、毎朝の散歩や庭の手入れなど、無理のない範囲で外出する機会を作ってみましょう。これらの小さな外出が、徐々に行動範囲を広げるきっかけとなり、社会との接点を維持することにつながります。家族や友人と一緒に外出する計画を立てるのも良いでしょう。
医療機関に相談する
高齢者のひきこもりの背景には、精神的な健康の問題が隠れていることがあります。うつ病や不安障害などの症状が疑われる場合は、精神科や心療内科などの専門医療機関を受診することをおすすめします。
医療機関では、専門的な診断と適切な治療を受けることができます。必要に応じて薬物療法やカウンセリングなどを組み合わせた総合的なケアを受けることで、精神的な健康を回復し、社会参加への意欲を取り戻すことができるでしょう。
家の中でも動き出しやすい工夫をする
ひきこもりがちな高齢者にとって、家の中での環境整備も重要です。普段過ごしている部屋で、動き出しやすい工夫をすることで、活動性を高めることができます。
例えば、普段ソファーに座っているのであれば、立ち上がりやすい高さの椅子に変えてみるのも良いでしょう。また、手すりの設置や段差の解消など、安全に移動できる環境を整えることで、自然と体を動かす機会が増えます。こうした小さな変化が、外出への第一歩となることもあります。
これらの対策を組み合わせることで、高齢者のひきこもりリスクを軽減し、豊かで活動的な生活を送ることができるでしょう。家族や周囲の人々の理解と支援も、高齢者の社会参加を促す重要な要素となります。
おわりに
高齢者のひきこもりは深刻な社会問題となっており、早期の対策が重要です。原因を理解し、適切な支援を行うことで、高齢者の生活の質を向上させることができます。家族や周囲の人々の理解と協力、そして専門的なサポートを活用することで、ひきこもりのリスクを軽減し、健康的で充実した生活を送ることが可能となります。離れて暮らす高齢の親が心配な場合は、専門的なサポートサービスの利用も検討しましょう。適切な対策を講じることで、高齢者の社会参加を促し、豊かな老後を実現することができます。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。