相続税を申告してからしばらく経った後で、申告した相続税の金額が実際より少ないことに気がついたら、どうすれば良いのでしょうか。相続税の申告期限後に相続税の金額が誤っていることがわかった場合、「相続税の修正申告」という作業を行う必要があります。この記事では、「相続税の修正申告」とは何かということや、どのような作業が必要か、ペナルティはあるのかといったことを説明します。
この記事を読んでわかること
- 相続税の修正申告は、相続税の期限後に一度申請した金額が本来のものより低いことがわかった際に行わなければいけない手続き
- 自分で相続税の申請をして見落としや間違いがあった場合や後から遺産が見つかった場合、相続税の修正申告が必要
- 修正申告の手続きに必要な「相続税の修正報告書」は、国税庁のホームページでダウンロード可能
相続税の申告が誤っていた場合に修正申告が必要
相続税を申告した後になってからその申告が誤っていたとわかった場合、税務署を通して「修正申告」を行う必要があります。
ここでは、「修正申告」とは何かということを、似た言葉である「更正の請求」との違いをふまえて解説します。
修正申告と更正の請求の違い
相続税の修正申告とは、一度申告した相続税の金額が誤っていた場合、相続税の申告期限後に申請をやりなおすことをいいます。
相続税の申告期限は、「相続のあったことを知った翌日から10ヵ月以内」となっています。相続税の申請期限前に申請をする場合は、「訂正申告」という別の手続きを行うことになります。
この手続きと似たものに「更正の請求」というものがありますが、両者の違いは実際の相続税が申告時より多いか、少ないかにあります。今回の記事で取り上げる修正申告は、初めに申告した税額よりも実際の税額の方が高い際に行う手続きです。
一方で、「更正の請求」とは、初めに申告した税額よりも実際の税額の方が少ない場合に行う手続きです。「払いすぎた分を返してほしい」というものなので「請求」となる、と覚えれば間違いないでしょう。
ちなみに、実際の税額の方が少ない場合でも、相続税の申告期限より前であれば、「訂正申告」を行うことになります。
相続税の修正申告を行うケースとは
相続税の修正申告は、相続税の申告期限の後になってから実際に発生した税額が申告していた税額より高いことがわかった際に行います。
では、このような事態はどのような経緯で生じることになるのでしょうか。いくつかの考えられるケースを挙げていきます。
誤って税額を申告・納付した
まず考えられるのは、最初の申告の際に、計算ミスなどによって誤った税額を申告し納付してしまったというケースです。相続税は、特別な資格がなくても自分で計算して申告することができます。
相続税が発生したとき、専門家への依頼でお金がかかることに抵抗を感じるなどさまざまな理由で、自力で計算を行う選択をする場合があります。しかし、自力での相続税申告では、相続財産に含める必要のあることがわかりづらい財産を見逃してしまうことがよくあります。
例えば、死亡以前3年間(令和5年度の相続税法改正により、2024年の1月1日からは相続開始7年間になります)に贈与によって被相続人から得た暦年課税に関わる財産は、贈与税がかかっていたかに関係なく相続した財産に加算されることになっています。また、名義預金という本人の名義ではない口座に入っている被相続人の預金も、相続した財産となりますが、見逃しが発生しやすいです。
また、土地や非上場株式といった財産は、よく知られているものとは異なる方式で計算をしなければいけない場合があり、それにもかかわらず一般的な方式で計算してしまう、ということも起こりやすいと考えられます。
このような財産の評価方式の間違い以外にも、税率の間違い、控除や加算の見逃し、または単なる計算ミスなど、自力での相続税申告には間違った申告を行ってしまう要素が多数存在しています。
上記のような間違いに相続税を申告してから気づいた場合、相続税の修正申告を行わなければなりません。誤った税額の申告を防ぐため、相続前から余裕を持った準備をする、何度も確認するなどの対策が必要になるでしょう。詳しい注意点などは下記の記事を参考にしてください。
関連記事:相続税申告は自分でできる?手続きの流れと注意点を解説
後日追加で相続財産が見つかった
もうひとつ考えられる主要なケースは、相続税の申告を行った後になって追加で相続財産が見つかった、というものです。
遺産を整理し、誰が何をどのくらい相続するかを相続人の間で決定する遺産分割協議終えて、自分の相続した財産にかかる相続税を申告・納付した後になって、押し入れの奥から突然財産が見つかるといったことが起きる可能性はゼロではありません。
近年では財産をインターネットで管理していることも多く、家族の誰も知らないオンライン上で管理されていた財産が相続税の申請後に見つかるということもあるかもしれません。
このような場合、再度遺産分割協議を行って相続人それぞれが相続する割合を決定し、追加で受け取った遺産を含めた遺産総額をもとに税額を算出しなおし、相続税の修正申告をする必要があります。
このとき、はじめに遺産分割協議を行った際に「万が一追加の財産が見つかった場合は〇〇が相続する」など、隠れていた財産の相続の取り扱いをあらかじめ遺産分割協議書に記載しておくと、改めて会議を行う必要がなくなるため、少し手間を省くことができます。
相続税の修正申告の手続き期限はいつ?
相続税の修正申告について、特に期限は設けられていません。ただし、後で詳しく説明しますが、修正申告で課される可能性がある延滞税は相続税の申告期限から手続きまでの日が空くほど高額になってしまいます。
また、税務調査などで申告の間違いが発覚し、税務署から直接間違いを指摘された場合は速やかに修正申告をする必要があります。
一方で、相続税の修正申告には時効があります。申告期限から5年が経過するまで間違いに気がつかず、税務署からの連絡もなかった場合、その後で申告した相続税額が実際にかかる税額より少ないことがわかっても、追加で納付をする必要はありません。
しかし、だからといって「気づかなかったことにして5年が過ぎるまで待とう」と申告をしなかった場合、意図的に修正申告を行っていないと判断されて申告の時効は7年になり、5年が経過したとしても申告から逃れることはできず、より重たいペナルティを課されることになります。
相続税の修正申告は間違いがわかり次第、できるだけ早く行いましょう。
相続税の修正申告の手続き方法
実際に相続税の修正申告をする必要が出てきた場合、どのような手続きを行わなければならないのでしょうか。以下では、修正申告に必要な書類と、手続きの流れについて説明します。
修正申告に必要な書類
相続税の修正報告を自分自身で行う場合、以下のような書類を揃える必要があります。
- 相続税の修正申告書
相続税の修正申告書は、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。さまざまな書類が含まれていますが、「第1表 相続税の修正申告書」と「第15表 相続財産の種類別価格表」の2つは、必ず作成し、提出することになります。その他の「計算書」などは、相続した財産の種類などに応じて記入することになります。 - 相続税納付書
相続税納付書は、税務署か金融機関の窓口で入手することができます。なお、クレジットカードやインターネットバンキングなどを使って電子納付を行った場合、発行する必要はありません。 - 本人確認書類
現在は修正申告表にマイナンバーを記載する必要があるため、マイナンバーの番号が確認できる書類と、記載されたマイナンバーの持ち主であることを証明する書類の2つの写しが必要になります。前者の「番号確認書類」として使えるものは、マイナンバーカードの裏面、マイナンバーの通知カード、マイナンバーが記載されている住民票の写しなど、12桁のマイナンバーが確認できるものです。後者の「身元確認書類」として使えるものは、マイナンバーカードの表面、運転免許証、パスポート、在留カード等となっています。 - その他必要に応じた書類
上記に挙げた書類の他に、特例の使用や相続した財産の種類に応じた書類を用意する必要があります。
修正申告の手続き・流れ
上記のような必要書類を用意したうえで、修正申告の手続きを行います。用意した書類は窓口への持参、郵送、e-Tax(国税電子申告・納税システム)のいずれかの手段で提出することができます。
そこで確定した払うべき不足分の税額と延滞税をすぐに、被相続人(亡くなった方)の住所地であった土地を管轄する税務署に納付します。申告後すぐに納税を行う必要があるのは、後で詳しく説明しますが、申告から納税まで期間が空くと、「延滞税」という税が高額になる場合があるためです。
以上のような手続きを行えば修正申告は完了です。大変なのは申告や納税の手続きそのものより、むしろそのために必要な書類を準備する段階だといえるでしょう。
修正申告を怠った場合は追加課税によるペナルティがある
修正申告や申告した不足分の相続税の納付を怠った際には、不足分の相続税に加えて、ペナルティとして別の税金が課される場合があります。
延滞税
第一に挙げられるのが納税の期限(相続税の場合は、相続を知った日の10ヵ月後となる日)を超えた税金にかかる利息である、延滞税というものです。延滞税の税率は毎年変更されるため、国税庁のホームページなどで確認する必要があります。
また、延滞の長さによっても税率は変わり、相続税の修正申告では、相続税の修正申告書を提出した日から納税までが2ヵ月を超えるかどうかで、その期間に発生する延滞税の税率が異なります。
令和5年の場合は、申告書提出の翌日から2ヵ月を経過するまでの期間にかかる税金の税率は年間2.4%、それ以降の期間では税率は年間8.7%となっています。
延滞税の計算は複雑なので、ここで具体的な例を挙げて計算を行ってみましょう。修正申告で納めなければいけない税金を300万円、法定納期限の50日後に相続税の修正申告を行ったとします。
相続税の修正申告を行った日に納税する場合
相続税の修正申告を行った日に納税する場合、延滞税は以下のように計算できます。
延滞した税金×税率(2.4%)×延滞の日数/365
=300万円×0.024×50/365
≒9,863円
100円未満は切り捨てで計算するので、延滞税は9,800円となります。
相続税の修正申告を行ってから101日後に納税する場合
一方で、相続税の納付を怠り、相続税の修正申告を行ってからさらに101日後(2ヵ月+50日)に納税することになった場合、納めなければいけない延滞税の計算は少し複雑になります。まず、修正申告を行うまでの50日と、相続税の修正申告を行ってから2ヵ月(61日)までの計111日間にかかる延滞税は、税率2.4%として計算します。
延滞した税金×税率(2.4%)×延滞の日数/365
=300万円×0.024×111/365
≒21,896円
次に、修正申告から2ヵ月後、さらに経過した期間(50日)にかかる税金は以下のように、税率8.7%として算出されます。
延滞した税金×税率(8.7%)×延滞の日数/365
=300万円×0.087×50/365
≒35,753円
したがって、支払わなければならない延滞税は両者を足して100円未満を切り捨てた57,600円となります。
このように、申告から納税の期間があくと、延滞税の金額は非常に高額になります。修正申告を行ってからはなるべく早く納税を行わなければなりません。
また、「法定納期限から一年を経過した日の翌日」から、「修正申告書を出した日」までは免除期間として延滞税を計算するときに期間から除外されることになっています。
過少申告加算税
延滞税の他に、税務調査に伴って相続税の修正申告を少行った場合は、「過少申告加算税」というものが課せられます。税務調査が行われる際は、事前に通知が送られます。
その通知を受け取ってから税務調査が行われるまでの間に自分で不足分の相続税を確認して申告した場合と、税務調査を受けて不足分を指摘されてから修正申告をした場合で、税率が異なります。
また、不足分の税額が50万円を超えた場合、その分にかかる税の税率は高くなります。それぞれの場合の税率をまとめると、以下の表のようになります。
50万円までの部分にかかる税率 | 50万円超の部分にかかる税率 | |
事前通知を受け取ってから税務調査が行われるまでの間に修正申告をした場合 | 5% | 10% |
税務調査を受けた後に修正申告をした場合 | 10% | 15% |
相続財産の隠蔽や偽装によって生じていた相続税の不足など、悪質なケースであると判断された場合は重加算税という税金が課せられます。申告書の内容に隠蔽や偽装がある場合、過少申告加算税として35%という重い税率で追加の税金がかかることになります。
このように、相続税の申告の間違いに気がついてから手続きまでに時間がかかった場合や、申告した相続税が誤りであったと気づいていながら申告を怠った場合は、ペナルティとしてさまざまな税金を追加で課される場合があります。
関連記事:相続税の申告に対するペナルティとは?よくある申告漏れパターンやばれる仕組み
相続税申告は専門家に任せて負担を少なく
相続税の修正申告は相続税の申告と同様にさまざまな手続きなどを必要とする非常に手間のかかるものであり、作業に手間取り、修正申告までの期間が長引けば、税負担も重たくなってしまいます。
「セゾンの相続 相続税申告サポート」では相続税の申告に関わる手続きを、相続の専門家による支援を受けることができます。相続税の修正申告をしなければいけない場合や、この記事を読んで修正申告が必要になる可能性を減らしたいと考えておられる方は、一度ご相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
この記事では、一度申告した相続税が間違っていた場合に行う必要がある「相続税の修正申告」について、どんなときに発生するか、何をする必要があるか、申告を怠った場合どうなるのか、といったことについて説明しました。
相続税に間違いが発生しないことが最も望ましいですが、もし何らかの事情で修正申告を行う必要が生じたときは、早急に対応するようにしましょう。またその際には専門家への相談も効果的ですので、ぜひご検討ください。