「我が家は争うほどの財産はないし、家族は仲がいいから大丈夫」と思っていても、遺産の相続方法や分割割合でトラブルに発展するケースは少なくありません。この記事では、遺産相続で揉めやすい家族の特徴と揉めない家族がやっている具体的な対策方法をご紹介します。遺産相続を巡って家族が険悪になることを避けたい方やトラブル回避の対策をしておきたい方はぜひ参考にしてください。
(本記事は2024年5月24日時点の情報です)
- 相続トラブルが起こるのは富裕層とは限らない。遺産が5,000万円以下の事案が約80%を占める
- 遺産相続で揉めやすい家族には、特定の相続人が大きな負担を担っていた、などの特徴がある
- 遺産相続で揉めないためには、生前から対策をしておくことが重要
遺産相続で揉める家族は少なくない
「仲が良かった兄弟が遺産相続で揉めて絶縁した話を聞いたけれど…」、相続トラブルへの漠然とした不安を感じる方は多いのではないでしょうか。実際、最高裁判所事務総局の令和5年司法統計年報によると、家庭裁判所に持ち込まれた相続に関する事件数は13,872件ありました。
しかも、トラブルになるのは遺産の額が多いからとは限りません。同調査によると遺産分割事案で認容・調停が成立した7,297件のうち、1,000万円以下が2,475件(約34%)、5,000万円以下が3,181件(約43%)となっています。つまり遺産が5,000万円以下のケースで全体の約80%になるのです。
このように富裕層ではなくても相続トラブルは起こり得るものです。相続トラブルを他人事とせず、揉めやすい家族の傾向を知り、生前から対策しておくことが大切です。
参考元:裁判所|令和5年司法統計年報
遺産相続で揉めやすい家族の特徴
相続で揉める家族には特徴があります。ここではトラブルになりやすいケースを確認しながら、相続で揉める原因を探っていきましょう。
そもそも家族仲が悪い
そもそも相続人同士の仲が悪い場合は、争いになりがちです。遺産の分け方について互いに主張を譲らず、合意が取れないケースが多くあります。感情が邪魔をして冷静な話し合いができなかったり、連絡しても無視されたりするので、遺産分割協議が進まず揉めてしまうのです。
また、被相続人に前妻・前夫との子がいる場合も、他の相続人と揉める傾向があります。法的に権利があることを理解できても、心情的に受け入れることができず揉めるケースがあります。
遺産に不動産や事業を含んでいる
遺産に不動産が含まれる場合も、揉めることが多いです。不動産は現物を分けることが難しいからです。共有名義にする選択肢もありますが、現在居住している相続人がいたり、二世帯住宅の場合など共有名義にすることが難しい場合もあります。
よくあるケースは次のとおりです。
- 複数の不動産があり、それぞれ価額が異なるため、誰がどの不動産を取得するのかで揉める。
- 現物分割、換価分割、代償分割、共有のどの方法を取るのかで意見が合わない。
- 遺産が実家のみだった場合、残しておくのか売却するかで意見が異なる揉める。
さらに、相続財産に事業が含まれていると、遺産内容が複雑化しやすく、相続人の間で揉めるケースがあります。事業の承継者は継続的な収入が見込めるため、他の相続人が不公平を感じトラブルになりやすいのです。特に株式や事業用資産をめぐって遺産分割協議が紛糾すると、事業に支障をきたす恐れもあるため注意が必要です。
プラスだけではなくマイナスの遺産もある
遺産にはプラスの財産だけでなく借金や住宅ローンなどのマイナスの財産も含まれます。そのため、被相続人に借金がある場合、トラブルが起こりやすくなります。遺産相続をしたいけれど、借金は負いたくないと考える相続人が出て揉めてしまうのです。
なお、マイナスの遺産を相続しない方法としては、限定承認と相続放棄があります。限定承認は、相続財産の範囲内で債務を精算し、残った財産があれば相続するというものです。相続放棄は、文字通り相続しないというものです。
ただし、限定承認は複数相続人がいる場合は全員でしなければなりません。相続放棄は単独で行えますが、借金だけでなくプラスの財産を相続する権利も失います。
特定のひとりが全財産を管理している
相続人のうち特定のひとりが財産管理をしている場合も、トラブルへ発展しがちです。両親と同居し財産管理をひとりでしていた長男が、他の兄弟からの財産開示を拒否したり不透明なお金の使い方が見つかったりして、財産の使い込みを疑われ揉めるケースがあります。
後で返すつもりだった、自分の口座と一緒にして生活費などに使用した、などいくら長男が使い込みではないことを主張しても、他の兄弟からの不信感は払拭できません。お金の使途を記録し書面に残しておくことや監督人を置くなど、透明性を確保しておくことが重要です。
多額の生前贈与があった
特定の相続人に多額の生前贈与があった場合も、相続人の間で不公平感を生み、争いになりがちです。学費や結婚式費用の援助などは、生前贈与として特別受益の対象になる可能性があります。
特別受益とは生前贈与や遺贈などによって被相続人から特別に受け取った利益のことです。特別受益については公平性を保つため、相続財産に加えたり控除したりして相続分を算定します。これを特別受益の持ち戻し計算と言います。特別受益の持ち戻し計算が行われると、特別受益を受けた相続人の取得分が減少します。特別受益を受けた相続人と受けていない相続人の間で利益は相反しますので、揉めるケースが多いのです。
なお、被相続人が特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしていた場合は、特別受益の持ち戻し計算は行われません。
また、生前贈与ではなくても、長男は財産すべてを相続するものという旧態依然の考え方で、他の相続人の権利を認めようとせずに揉めるケースもあります。
特定の相続人が遺産を独り占めしようとしているときは、遺留分侵害請求をすることができます。遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている権利で、法定相続分の2分の1(相続人が直系尊属のみの場合は3分の1)が保障されています。
介護など負担が大きかった家族がいる
通常、遺産の分割は民法で定める法定相続分で行われますが、特定の家族が被相続人の介護を長期間続けていた場合などは、寄与分を考慮する場合があります。この寄与分を巡って揉める傾向があります。
寄与分とは、労務の提供や療養の看護などにより被相続人の財産の維持または増加に寄与をした相続人が、その貢献度に応じて多く相続分を計算するというものです。どの程度の貢献をすれば特別な寄与に当たるのか決めにくいという声もありますが、寄与分は単に一生懸命世話をしただけでは認められません。相続人の看護によって看護人を雇う費用を免れたなど、被相続人の財産の減少を免れることが要件となります。
しかし、同居していた相続人が献身的に介護していたにも関わらず、他の相続人が寄与分を認めなかったり、どのぐらいの額にするのかで意見が対立したりして、揉めるケースが多いのです。
遺産相続で揉めない家族がやっている対策
どうすれば遺産相続のトラブルを回避することができるのでしょうか。ここで具体的な対策をご紹介します。遺産相続で揉めないためには、生前の準備が肝要です。
生前から相続について話し合う
まずは相続が発生する前に、家族で話し合いをしておくことです。相続のことは言い出しにくいものですが、禍根を残さないためにも目を逸らさずに向き合って話し合いましょう。お盆や年末年始など家族が集まる機会を活用して、話し合いを進めておくことをおすすめします。
話し合いでは、不動産や事業の承継者、生前贈与に当たる財産の洗い出しや介護負担の寄与分、遺産の相続割合など、被相続人の希望や考えを考慮し、相続人全員で共有しておくことが大切です。
遺産相続で揉めないために、日頃から家族同士でコミュニケーションを取って相談し合える間柄を築いておきましょう。
公平さを考慮した遺言書の作成
しかし、いくら家族の仲がよくても意見の対立が起こらないとは言い切れません。相続トラブルを防ぐためには、遺言書が重要になります。遺言があれば基本的にその内容のとおりに相続されます。
遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類がありますが、揉めそうな場合は公正証書遺言が適しています。公正証書遺言は公証役場で証人2人の立ち会いのもとで作成し保管されますので、法律上の不備や隠匿・偽造・紛失の恐れはありません。
ただし、遺言書を作成しても、内容が極端に不公平な場合はトラブルの元になるため注意が必要です。特定の相続人に偏った内容だった場合、遺留分を侵害する恐れがあるからです。
遺留分は先述した兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている権利で、生活保障を図るなどの観点から、遺言の内容に関わらず取得できる最低限の遺産割合のことです。遺言が特定の相続人に偏った内容で他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害請求をされる可能性があります。
遺言書の作成にあたっては、遺留分に注意すると共に寄与分なども考慮し、公平な内容を心がけましょう。
家族信託などを活用した財産管理方法などの取り決め
遺産相続のトラブル予防には、家族信託の活用も効果的です。
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託して管理・処分を任せるという、家族による財産管理手法のことです。委託者と受託者の間で信託契約を結び、受託者はこの信託目的に従って財産の管理・処分を行います。子が親のために財産を管理し、利益は親へ渡すケースが多く、委託者、受託者、受益者の関係は下図のとおりです。
元気なうちから家族信託を利用することで、親が認知症になってしまった場合も資産を凍結されることがなく、子が財産を管理・処分することができます。さらに家族信託は生前から死後にかけての財産管理を取り決めておくこともできるため、相続の手続きもスムーズに進めることができます。
また、成年後見で財産管理も可能です。成年後見とは、認知症や知的障害などで判断能力が不十分になった方を法的に保護し、支援するための制度です。
成年後見は大きく2つ、家庭裁判所に後見人等を選任してもらう「法定後見制度」と、本人があらかじめ判断能力のあるうちに後見人を選び公正証書で支援の内容を契約しておく「任意後見制度」があります。元気なうちは任意後見を、判断能力が低下してからの場合は法定後見を利用することになります。
家族信託と違い成年後見は、財産管理だけでなく身上監護といった被保険者の生活サポートもしてもらえますが、生前贈与などの相続税対策はできません。また、家族信託に比べると制限も多く自由度がありません。
いずれにしても、元気なうちに準備を進め対策をしておくことが大切です。
相続のプロへ相談するのもおすすめ
揉める要素があり、不安が残る場合は、弁護士や司法書士などプロへ相談することをお勧めします。専門家からは法的な観点に基づく解決方法の提示やアドバイスをしてもらえます。さらに、相続人や相続財産の調査、家族信託の手続きなど、遺産相続に関する煩雑な業務も依頼することができます。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」なら、相続のプロである司法書士と提携しているため、最適なプランの提案を受けることができます。生前対策から相続後の手続きまで幅広く対応してもらえますので、ぜひ相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
遺産相続のトラブルは決して他人事ではありません。揉める原因は、特定の相続人への多額の贈与や介護の負担などさまざまですが、ごく普通の家族でも相続トラブルに発展することはあります。相続トラブルを回避するには、生前から対策をしておくことが何より重要です。認知症になるなど判断能力が低下してからでは、手遅れになりかねません。元気なうちから家族と話し合い、遺言書の作成や家族信託の活用など対策を進めておきましょう。