何かと返礼品が話題になるふるさと納税ですが、じつは相続税でもその仕組みを活用できることはご存じでしょうか。相続した財産をふるさと納税することで、例年以上に返礼品の選択肢を広げることも可能です。この記事ではふるさと納税で相続税の節税をする方法について解説します。
- 相続した現金でふるさと納税をすると相続税の非課税財産とすることができる。
- 相続した不動産等を換金してふるさと納税をしても非課税財産にはならない。
- 遺言によってふるさと納税をした場合は、非課税財産にはならない。
相続税の寄付金控除を受けるメリット
相続した現金を地方公共団体などに寄付すれば、相続税の寄付金控除を受けることができます。この控除を受けることで、どのようなメリットがあるのか紹介していきましょう。
寄付金控除とは
寄付金控除とは、納税者が国や地方公共団体などに寄付した場合に所得控除を受けることができる特例制度です。相続税の場合だと、相続した現金を寄付に充てることで、その寄付金を非課税財産とすることができます。
ただし、この特例が適用されるのは、遺産相続した財産をその状態のままで現金で寄付した場合です。現金を相続したのであれば問題はありませんが、不動産や株を現金化した寄付は認められません。
また、寄付をする相手も認められた団体や組織に限られます。寄付先として認められているのは、国や地方公共団体、教育または社会福祉に貢献する特定の公益法人、認定NPO法人です。
寄付のタイミングにも配慮が必要です。相続税は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10カ月以内という申告期限があります。相続税非課税の特例の適用を受けるには、相続税の申告時に申請する必要がありますから、期限までに寄付をしなければなりません。
相続税以外に所得税と住民税の節税にもなる
相続人が寄付をした場合、寄付金控除は、相続税だけでなく所得税や住民税にも適用できます。ただし、必ず相続人が自らの意思で寄付をしなければなりません。遺言書の記載内容に従って寄付をした場合は、遺言者が寄付したものとみなされるため、寄付金控除は適用できないのです。
ふるさと納税なら返礼品を受け取りながら節税できる
相続税では、相続した財産のうち「国または地方公共団体へ寄付」は非課税財産となります。非課税財産があれば、相続財産から差し引けるので、相続税を減額することができます。
ふるさと納税は、「国または地方公共団体へ寄付」に該当するので、ふるさと納税をすることで、相続税の節税だけでなく、地方自治体からの返礼品を受け取れるというメリットがあります。
ふるさと納税とはどんな制度
ふるさと納税とは、生まれ故郷や応援したい任意の地方自治体に寄付をすることで、寄付額の30%相当の返礼品を受け取ることができる制度です。また、寄付金のうち2,000円を超える部分が所得税や住民税から控除されます。
一般的な寄付金控除とふるさと納税の違いは、控除対象です。
一般的な寄付金控除は、所得税が控除の対象であり住民税は控除されない可能性があります。一方で、ふるさと納税による寄付金は、所得税はもちろん、住民税で「基本控除」と「特別控除」の2段階で控除が受けられるのです。
相続した現金を使ってふるさと納税を利用できます。その場合、寄付金控除の特例により、寄付額を相続財産の総額から減額できるため、相続税の節税になるのです。
ふるさと納税で寄付をした場合の節税効果をシミュレーション
それでは実際に、ふるさと納税による節税効果をシミュレーションしてみましょう。
前提として、次のような状況の相続人がふるさと納税をしたものとします。
- 相続額:5,000万円
- 相続人:長男 1名 単身・給与収入600万円
- 寄付金:500万円
相続税の計算方法
相続税の計算手順は、以下のとおりです。
- 相続税の課税遺産総額を求める
相続額-非課税財産 - 法定相続分に応ずる取得金額を求める
課税価格-基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の人数) - 相続税の総額を求める(※税率と控除額は下記相続税の速算表利用)
法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の減税額
それでは具体的に計算をしてみましょう。
【ふるさと納税をしない場合】
課税遺産総額:5,000万円
基礎控除額:3,000万円+600万×1人=3,600万円
法定相続分に応ずる取得金額:5,000万円-3,600万円=1,400万円
相続税の総額:1,4000万円×15%-50万円=160万円
【ふるさと納税を500万円した場合】
課税遺産総額:5,000万円-500万円=4,500万円
基礎控除額:3,000万円+600万×1人=3,600万円
法定相続分に応ずる取得金額:4,500万円-3,600万円=900万円
相続税の総額:900万円×10%-0万円=90万円
ふるさと納税をしない場合は、納税額が160万円ですから、ふるさと納税をすることで70万円の節税になります。
ただし、相続した現金の内の500万円を寄付したうえでの70万円の節税です。返礼品の価値を含め節税効果が見合っているのかは考え方次第ともいえます。
所得税の計算方法
所得税は、(所得金額×税率-基礎控除額)から算出できます。適用する税率と基礎控除額は、下記の「所得税の速算表」によります。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 基礎控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税の減税額
寄付金控除は相続税対策としてふるさと納税を行った場合でも所得税や住民税の寄付金控除として併用することができます。ただし、所得税額の25%までという減税額の限度があります。上限額は住民税にもあり、具体的な上限額は給与収入や家族構成によって異なります。
総務省のホームページ『控除されるふるさと納税額の目安』によると、給与収入600万円で単身者だと、上限の目安は77,000円とされていますので、ここでは77,000円を控除額として申告したことにします。
ふるさと納税による所得税の還付額は、次の式により算出します。
所得税の還付額 =(ふるさと納税の寄付金額 - 2,000円)×(所得税の税率)
ただし、2037年までの寄付は、所得税の税率は復興特別所得税の税率を加えた率となるので、所得税の税率に1.021をかけます。
所得税の速算表から税率は20%に1.021をかけ20.42%、ふるさと納税による還付額は、(77,000円-2,000円×20.42%)から、15,315円になります。
住民税の計算方法
住民税も相続税対策として行ったふるさと納税を寄付金控除として併用できますが、「基礎控除」と「特別控除」にそれぞれ上限額があります。
住民税は、前年の所得に対して課税される「所得割」と、定額で課税される「均等割」で構成されています。これを合算した金額を納付します。
所得割の税率は10%(道府県民税・都民税4%+区市町村民税6%)で、均等割の負担額は5,000円です。
住民税の減税額
住民税の控除は「基礎控除」と「特別控除」があります。それぞれ次の計算によって求めます。
(1)基礎控除分の減税額=(寄付額-2,000円)×10%……総所得の30%までが対象
(2)特別控除分の減税額:(寄付額-2,000円)×{90%-(所得税率×1.021)}……総所得の20%までが対象
(1)+(2)の合計金額が控除額となります。
課税所得が600万円の長男がふるさと納税を77,000円で申告した場合、(7,500円+52,185円)から、59,685円が住民税から控除されます。
相続税・所得税・住民税でいくら節税になった?
相続税対策としてふるさと納税を行った場合でも、所得税や住民税の寄付金控除を併用することができます。ただし、所得税と住民税は控除の上限額があるので、寄付金額がそのまま控除されるわけではありません。
また、上限額は収入や家族などの要因によって異なるので、具体的な金額は税務署や地方自治体に確認する必要があります。
本記事では、唯一の相続人である長男が500万円を寄付したケースをシミュレーションしました。所得税と住民税は上限額を超えた金額は節税効果がないため、目安の上限額である77,000円で申告したものとしました。
その結果、節税額は次のとおりとなりました。
- 相続税……70万円
- 所得税……15,315円
- 住民税……59,685円
これにより、775,000円が節税できたことになります。
なお、所得税と住民税の節税額の合計は75,000円です。つまり上限額から2,000円を引いた金額が所得税と住民税を合わせた節税額となるのです。
ふるさと納税を相続税の寄付金控除で使う注意点
相続した財産でふるさと納税をしても、その金額がすべて効果的な節税対策となるわけではありません。ふるさと納税のデメリットも示しながら、相続税の寄付金控除を受ける際に注意すべきポイントを紹介します。
相続財産が減ってしまう
相続税の非課税の対象になるとはいえ、ふるさと納税は実際に自治体に現金を寄付するので、相続財産を減らすことになります。一方で寄付控除は寄付した金額を下回るため、節税の大きな効果は見込めません。
返礼品の経済的価値も含め、本当にふるさと納税を利用した節税をするのか十分に検討する必要があります。
控除には上限がある
所得税と住民税の控除では、ふるさと納税の控除の上限額が定められています。一定の上限を超えた分の寄付は控除対象外となるので、思ったような節税効果が得られないこともあります。
控除上限額は、所得や家族構成などの複数要素の影響によって変わるため、いくらから対象外になるのか判然としないことがあります。高額の寄付を検討している場合は、ぜひふるさと納税に詳しい税理士に相談してください。
50万円を超える返礼品は課税対象になる
ふるさと納税への返礼品は、一時所得に該当します。一時所得は年間50万円を超えると超過分が課税対象となるので、高価な返礼品を受け取る場合は注意が必要です。
換価した金銭では控除が受けられない
相続した財産で寄付金控除の特例の適用を受けるのは、相続した現金に限られます。相続した不動産を換価処分して得た金銭は、相続税の寄付金控除に利用することはできません。
ふるさと納税で寄付金控除を受ける手順
ふるさと納税で寄付金控除を受ける場合、相続税は管轄の税務署に申請をします。所得税と住民税は確定申告によって手続きをしますが、さらに簡単な手続き方法があります。ふるさと納税で寄付金控除を受ける手順について解説していきましょう。
相続税は管轄の税務署に申請する
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内が期限です。ふるさと納税で相続税非課税の特例の適用を受けるには、それまでに地方自治体に寄付をする必要があります。
寄付の内訳は、国税庁のホームページより「相続税申告書第14表」をダウンロードして記入します。
相続税の申告書の提出先は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。財産を取得した人の住所地を所轄する税務署ではないので注意してください。
所得税と住民税は確定申告で申請する
所得税と住民税は確定申告で申請をします。申告時期は、ふるさと納税をおこなった翌年2月16日~3月15日までです。相続人が個人事業主であれば確定申告の必要がありますが、給与所得者であれば書き方の簡単なワンストップ特例制度で申請が可能です。
ワンストップ特例制度では、ふるさと納税をおこなった翌年1月10日までに申請する必要がありますが、郵送またはオンライン申請するだけで、住民税の控除を受けることができます。
相続税に関する困りごとは「セゾンの相続」にご相談ください
相続税の申告期限は、大切な方が亡くなってから10ヵ月以内と定められています。限られた期間内に、相続財産の調査、各財産の評価、遺産分割の話し合い、申告書の提出および納税を完了させる必要がありますから、ご遺族のご負担も非常に大きいものとなります。
セゾンの相続では、相続税申告に強い税理士と提携しているため、信頼できる専門家との無料相談や最適なプランの提案を受けることができます。今すぐには依頼を考えておらず、相談だけしたい方も、まずはお気軽にお問い合わせください。
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おわりに
ふるさと納税では、相続した現金を寄付に充てることで、その寄付金を非課税財産とすることができます。
寄付は、遺産相続した財産をその状態のままで現金で行う必要があります。不動産や株を換金して寄付をすることは認められません。
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10カ月以内という申告期限がありますから、相続税非課税の特例の適用を受けるには、相続税の申告時に申請する必要がありますから、期限までに寄付をしなければなりません。
本人の意思によって寄付をしなければならず。遺言の記載に従って寄付をした場合は、相続税の非課税財産として認められません。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。