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整形外科医が解説…足腰が弱ると「認知症リスク」が高まるワケ

歌島 大輔(横浜町田関節脊椎病院/整形外科医)

執筆者

横浜町田関節脊椎病院/整形外科医

歌島 大輔

フリーランス整形外科医として、常に磨き上げ続けている肩関節鏡手術スキルを駆使し、五十肩・腱板断裂などを対象に治療を行っている。また、情報発信ドクターとしての顔も持ち、「正しい医学情報をわかりやすく」をモットーに、情報発信・オンライン教育事業を積極的に展開している。 ★☆★ 公式YouTubeチャンネル ★☆★ すごいエビデンス治療 / 整形外科医 歌島大輔

超高齢社会となった日本において、「認知症」は社会問題でもあり、個々人にとっても身近な心配事です。そして、そんな認知症のリスクをいかにして減らすかは誰もが知りたいテーマであり、世界中で研究が行われています。 

今回は、認知症の研究の中でも足腰や筋力にフォーカスを当て、認知症リスクを減らすためのポイントを、横浜町田関節脊椎病院の整形外科医、歌島大輔医師が解説します。 

65歳以上の5人に1人は認知症

ご存じの方がほとんどだと思いますが、認知症リスクは加齢とともに上がっていきます。厚生労働省によると日本における65歳以上の認知症の方の数は約600万人と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています※1それゆえ、認知症の早期発見・早期治療による進行予防とともに、そもそものリスク低減への方策が求められています。 

認知症の初期症状 

認知症の前兆として注目されているのが、MCI(軽度認知障害)です。MCIは以下のように定義されます。 

  • 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。 
  • 本人または家族による物忘れの訴えがある。 
  • 全般的な認知機能は正常範囲である。 
  • 日常生活動作は自立している。 
  • 認知症ではない。 

この定義を考えると、年齢を重ねると、誰もが少し思い当たるかもしれないレベルの症状に感じられます。筆者も今現在41歳ですが、なかなかの物忘れを自覚しています。そう考えるとやはり、認知機能を高めて、認知症を防いでいくという意識が、どなたにとっても大切と考えていいかもしれません。 

認知症を「足腰から防ぐ」には?

では実際に、どのように認知症リスクを減らせばいいのか、世界の研究結果も交えながら、エビデンスに基づいた認知症と足腰の関係、筋力の関係を紐解いていきたいと思います。 

筋力が強い方、61%も認知症リスクが低い!

まずは2009年の研究論文から。全身の筋力を数値化して、認知症リスクとの関連を調べた研究ですが、筋力が高い方は低い方に比べて認知症発症リスクが61%も低かったと報告しています2。さらに先ほど説明した認知症前段階といわれるMCI(軽度認知障害)のリスクも、筋力が高い方は48%低下したということです。 

全身の筋力といっても、筋肉量の割合でいうと、人間の場合は足腰、つまり下半身から体幹の筋肉量が大半を占めます。これは二足歩行への進化によって、足腰が完全なる土台になり、必要な筋肉量が増えたことが要因です。そういう意味でも足腰を鍛える、つまり筋力を高めていくエクササイズは、認知症予防に大きな役割を果たしそうですね。 

全身の筋力は、握力でだいたい見当がつく

ただ、全身の筋力といわれても、何を指標にしたらいいかわからないですよね。しかし、簡単に数値化できる興味深い「力(ちから)」があります。それが「握力」です。いきなり足腰からは遠ざかりますが、実は握力と全身筋力は関係性が深いことがわかっています。つまり、認知症とも関係あるのではないかという研究があります。 

2022年の研究で、握力低下は将来の認知症・脳機能低下リスクだと報告しています3。さらに、エピソード記憶、流動性知能の低下とも関係している、ということなのです。エピソード記憶とは「個人が経験した出来事に関する記憶」で、例えば、昨日の夕食をどこで誰と何を食べたかというような記憶に相当します。 

流動性知能とは、新しい場面で適応する力、つまり臨機応変な対応能力になります。いずれも加齢とともに低下することが明らかになっている能力ですが、その低下を、握力を指標に全身を鍛えていくことで防ぐことができるかもしれない、ということですね。 

注意したいのは、握力は全身の筋力の指標になるという意味で有用なのであって、握力だけ鍛えた場合の認知症予防効果は不明だという点です。メカニズムを考えても、おそらく握力だけ鍛えても効果は薄いと思われますので、全身を鍛える一環として、握力「も」鍛えるのがいいと考えられます。 

軟骨がすり減る「変形性関節症」…リスクを遠ざけるには?

さらに、足腰における整形外科的な問題の代表として「軟骨のすり減り」があります。病名でいうと「変形性関節症」です。 

膝や股関節の軟骨がすり減ると認知症リスクが上がる 

この変形性関節症(関節の軟骨がすり減ってしまう状態)も実は認知症リスクと関連しているとする、エビデンスレベルが高い(信頼性が高い)研究があります4。 

しかし、変形性関節症と認知症リスクが関係するメカニズムは明らかにはなっていません。動物実験ですが、膝の変形性関節症マウスで、脳の炎症性サイトカインレベルの上昇や、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβが蓄積されていたとする報告があります。 

また、シンプルに、変形性関節症があると痛みのせいで運動習慣が維持できないというメカニズムも、大いに考えられます。運動習慣は認知症予防にとても大切なので(記事『筋トレ・ストレッチ・有酸素運動…「認知症リスク」を軽減する、整形外科的アプローチ』参照)、この仮説が有力かなと考えています。 

そうなると「変形性関節症があっても、運動できればいいのではないか?」とも考えたくなります。そして、そのためには「痛み」をなんとか抑えたいという考えに至ります。 

筋力は変形性関節症の「痛み」とも関連 

変形性関節症の「痛み」に関しても、やはり「筋力」がポイントになるということが示されています。2009年の研究では、太ももの前の筋肉である大腿四頭筋の筋力は膝の軟骨のすり減り自体の予防効果は不明ですが、痛みや身体機能を良好に維持する効果があったと報告しています※5。 

すり減った軟骨自体は再生医療が試みられていますが、基本的にはまだ元には戻せないと考えるべきです。そうなったとき、できることは「筋力を高めていく」ということです。このように、「できることに集中する」ということは、加齢性の変化に対しても大切な考え方ではないかと思っています。 

変形性関節症がある場合は水中エクササイズがおすすめ 

では、どんな運動で筋力を鍛えていけばいいのでしょうか。例えば、ウォーキングやランニング。これもいい運動ではありますが、変形性関節症で膝や股関節が痛いときには、なかなかできない方もおられると思います。では、スクワットなのか、マシーンでのレッグエクステンションなのかというと、いやいや、膝や股関節にダイレクトに負荷がかかり、痛みを感じる方は少なくありません。 

そこでよく整形外科医が推奨するのが「水中エクササイズ」になるわけです。浮力によって重力が軽減され、関節にかかる体重という負荷が減ります。そのうえで、あらゆる方向に足を動かす際にも水圧が負荷になってくれて、エクササイズ効果が出るわけです。 

実際、2009年の研究では、筋力が低下傾向にあるご高齢の方でも1回60分、週2回の水中エクササイズによって膝を伸ばす筋力(大腿四頭筋筋力)や日常生活の動作能力(ADL)が維持できたと報告しています※6。 

認知症リスクを低減するために「足腰」を鍛えよう!

ここまで様々な研究論文をもとに、医学的根拠がある認知症予防策をお伝えしてきました。 

  • 全身、とりわけ足腰を鍛えることによる筋力アップ自体が認知症予防につながる 
  • 軟骨のすり減りである変形性関節症がある方はそれ自体が認知症リスクにもなり得る 
  • 変形性関節症の痛みや状態に応じた足腰の鍛え方をすることが認知症対策にもなり得る 

以上の3点が大切なポイントです。 

この視点を持って、あなたなりの筋力アップ、筋力維持習慣の構築を考えていっていただけると幸いです。 

参考資料 

Deepak Prasad Gupta et al. Mol Brain. 2023 

Knee osteoarthritis accelerates amyloid beta deposition and neurodegeneration in a mouse model of Alzheimer’s disease 

出典 

※1 厚生労働省 こころの病気を知る 認知症 

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html 

※2 Patricia A Boyle et al. Arch Neurol. 2009 

Association of muscle strength with the risk of Alzheimer disease and the rate of cognitive decline in community-dwelling older persons 

※3 Kate A. Duchowny et al. JAMA Network Open. 2022 

Associations Between Handgrip Strength and Dementia Risk, Cognition, and Neuroimaging Outcomes in the UK Biobank Cohort Study 

※4 Weber A, Mak SH, Berenbaum F, et al. Association between osteoarthritis and increased risk of dementia: A systemic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2019;98(10):e14355. doi:10.1097/MD.0000000000014355 

※5 Shreyasee Amin et al. Arthritis Rheum. 2009 

Quadriceps strength and the risk of cartilage loss and symptom progression in knee osteoarthritis 

※6 Daisuke Sato et al. Arch Gerontol Geriatr. 2009 

Comparison of 2-year effects of once and twice weekly water exercise on activities of daily living ability of community dwelling frail elderly 

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