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フレイルとはどんな状態?その予防方法やチェック方法は

フレイルとはどんな状態?その予防方法やチェック方法は
矢島隆二 医師・医学博士

執筆者
矢島隆二 医師・医学博士

新潟大学医学部卒業後、幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症研究を行い医学博士となった。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた医療を担っている。神経内科専門医・指導医、総合内科専門医、認知症専門医・指導医、認知症サポート医、日本医師会認定産業医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。医学博士。講演や執筆の依頼も積極的に受けている。法曹の方々からの依頼で遺言能力を鑑定し、遺言書の有効性についての鑑定書作成もしている。https://yajima-brain-clinic.com/

人生100年時代、長く元気に健康で過ごしたいと考える方も多いでしょう。年齢を重ねることによりさまざまな生理機能が低下し、ストレスへの耐性が低下した状態であるフレイルは、認知機能障害との関連が注目されています。「最近フレイルってよく聞くけど、どういう意味なの?」という方にもわかりやすくご紹介いたします。

フレイルとは

フレイルとは

フレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す“frailty”の日本語訳として日本老年医学会が提唱した言葉です。

フレイルは、「要介護状態に至る前段階として位置づけられていますが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する」と定義されています。

参照元:フレイル診療ガイド 2018年版

また、フレイルの前段階を「プレフレイル」と呼んでいます。さらに、認知症に至らない程度の軽度の認知障害と身体的フレイルが合併した状態をコグニティブ・フレイルと呼び、単独のフレイルの状態に比べて、より認知症や要介護になりやすいといわれています。

フレイルの原因

フレイルの原因

フレイルの原因としては、生活習慣(偏った食事内容や運動不足など)、身体的要素(全身の疼痛、難聴、ポリファーマシー、ビタミンD不足など)、心理的要素要素[意欲低下(アパシー)、抑うつなど]、環境要素(配偶者のフレイルなど)、各種疾患(生活習慣病、心血管疾患など)があります。

フレイルのチェックリスト

フレイルのチェックリスト

 「自立障害はないものの、近い将来介護が必要となりうるハイリスク高齢者」を選定するために、厚生労働省は「フレイルの基本チェックリスト」を作成しています。この基本チェックリストは、生活状態や心身の機能に関する25の質問に対して「はい」か「いいえ」で回答する自記式質問票となっています。質問票の内容は、暮らしぶりに関わる10項目の評価(チェックリストNo.1~5、No.16~20)、運動器に関係した5項目の評価(No.6~10)、栄養や口腔機能などに関係した5項目の評価(No.11~15)、抑うつ気分に関係した5項目の評価(No.21~25)の質問があります。各質問において、問題があると考えられる場合には点数が1点ずつ加算されます。得点が高いほど生活機能への問題があると評価することになっています。これらの点数の結果によっては、市町村が提供する介護予防事業を利用できる可能性があります。

また、外来などでのスクリーニングで使用するツールとして、「簡易フレイル・インデックス」も、特別な機器なしで短時間での評価ができるため有用です。この簡易フレイル・インデックスで評価する際も、5項目のうち 3項目以上該当でフレイル、1~2項目該当でプレフレイルと判定されますが、あくまでスクリーニングツールでのため、正確な診断は専門医にご相談ください。

フレイルの診断方法

フレイルのチェックリスト

フレイルの診断方法には統一された基準がありませんが、以下が主要な診断方法です。

Phenotype model(表現型モデル):身体機能の測定

フレイルの診断方法

表現型モデルは、加齢に伴って現れる身体機能の衰退徴候を捉える考え方です。表現型モデルの概念は、要介護状態に至る過程つまり、健常と要介護状態の中間の症状を呈する高齢者を指しています。 1)体重減少、2)疲労感、3)活動量低下、4)動作の緩慢さ、5)虚弱の5項目を用いた診断基準のうち3つ以上に該当する場合を「フレイル」、1つあるいは2つに該当する場合を「プレフレイル」としています。ただし、各徴候の評価基準は定まっておらず、同じ表現型モデルでも多数の基準値が存在しています。

そのため日本では、基本チェックリストの質問を取り入れた日本版 CHS基準(J-CHS基準)が提唱され、2020年に改定日本版CHS基準(改定J-CHS基準)が国立長寿医療研究センターから公表されました。具体的には、「6ヵ月で2kg以上の(意図しない)体重減少」、「握力低下(男性で28kg未満、女性で18kg未満)」、「(ここ2週間で)わけもなく疲れたような感じがする」、「通常の歩行速度が1.0m/秒より遅い」「軽い運動・体操や、定期的な運動・スポーツをいずれも週1回もしていない」の5項目で、このうち3つ以上に該当する場合を「フレイル」、1つあるいは2つに該当する場合を「プレフレイル」としています。

参照元:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

Accumulated deficit model(欠損累積モデル):精神的、社会的測定

一方表現型モデルの身体的側面に加えて、欠損累積モデルでは精神心理的、社会的側面を含む概念です。表現型モデルは、身体的フレイルの評価法としては適しているものの、精神心理的、社会的側面の評価ができないという欠点があります。そこで、欠損累積モデルでは、身体的、認知的、社会的にさまざまかつ複数の問題や機能障害を有する高齢者をフレイルと捉えて、その障害の集積を評価する方法をとっています。評価項目数に対する累積障害数の割合を Frailty Index として表します。加齢に伴う機能障害の累積がフレイル状態の程度を反映すると考えて、一部の機能評価に偏らないように30項目以上を組み合わせて、Frailty Index (=該当した項目の総合点/評価した項目の総数)を算出します。Frailty Index が高いほどフレイルが重度であることを意味しており、カットオフ値は定まってはいないですが、概ね0.25以上をフレイルと評価することが多いです。

フレイルの予防法とは

フレイルの予防法とは

フレイルの定義が幅広いため、フレイルの予防法についても多岐にわたって検討されています。

食事

まず、フレイルと栄養(素)・食事との関係についてです。特にビタミンD不足に注意し、地中海食をはじめ、バランスの取れた良質な食事はフレイルを予防する可能性があります。ただし、基本的な食事内容を変えずにゼリー飲料やシリアルバー、バランス栄養食などの栄養補助食(1日に必要な栄養素を食事だけでは補うことが難しい場合に、その栄養素を補助することを目的とした食品)に頼ることは推奨されておらず、適度な運動や野菜、タンパク質を意識した食事を摂るようにしましょう。

運動

フレイル予防では運動が必要とされています。歩行、筋力、身体運動機能、日常生活活動度を改善し、フレイルの進行を予防するため推奨されています。運動プログラムの内容としては、レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的トレーニングなどを組み合わせる運動プログラムが推奨されています。さらに、運動プログラムは中等度から高強度の運動強度で、段階的に運動強度を上げていくことが推奨されています。

日常生活で活動量を多くする工夫として「通勤を徒歩や自転車で行う」「エスカレーターやエレベーターをできるだけ使わず、階段を使う」「歩くときに、意識的に早歩きをする」「家事の合間にストレッチをする」などが挙げられます。毎日続けられる工夫を、個々人の環境に合わせて検討することが望ましいです。

参照元:日本サルコペニア・フレイル学会からも、フレイル診療ガイド

おわりに

できるだけ長く、自分らしく生活したいという思いをお持ちの方も多いでしょう。長く元気に過ごすためにはフレイルを予防していくことが大切です。フレイルは単一の疾患ではなく、状態を指す用語です。フレイルを予防し、健康寿命をできるだけ延ばすためにも、食生活や運動習慣を見直していきましょう。

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