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認知症に備える : 40~60代に向けて【アルツハイマー型認知症を理解してケアを考える】

藤生 大我 理学療法士

執筆者
藤生 大我 理学療法士

祖父母が認知症となり中学生の頃から認知症ケアに関わり始める。2014年に高崎健康福祉大学を卒業後、理学療法士として医療・介護現場で働きながら、認知症の人と家族の会などの地域活動へ参加。2017年から認知症介護研究・研修東京センターで認知症ケア研究に従事し(現在は客員研究員)、2021年4月より医療・介護現場に復帰した。著書に「認知症ケアの達人をめざす」(山口晴保・伊東美緒・藤生大我;協同医書出版社)。 藤生大我研究室

 前回のコラムでは、「認知症に備える : 40〜60代に向けて【認知症のサイン】」について書きました。しかし、実際に自分が介護をすることとなったらどうしたら良いか。事前に備えて勉強しておいたほうが良いことはあるか?と気になる方も多いでしょう。実際には、介護をしながら適宜相談して解決していくしかないのですが、病気について学ぶことはできます。また、今からできることもあります。そこで、病気を理解しながらケアについて考えていきたいと思います。 

まずは病気を理解する 

まず明言しておきたいのは、少なくとも私の知る限りはコレをすれば全て解決!というケアは、現段階ではないということです。よく「コレで解決!」のような見出しも見かけますが、その方によって困っていることも解決法も異なります。私も祖父母がアルツハイマー型認知症で在宅介護をしていましたが、症状の出方も全く異なっていました。なぜこのような元も子のないことを書くかといいますと、コレで解決!しなかった場合に、介護者が自身のやり方が悪いのか?などとご自身を責めてしまうことにつながってしまうことがあるからです。 

とはいえ、病気である以上はそれを理解することはできますし、コツのようなものやうまくいく確率の高いものはあります。一方で、病気の特性のみでも多岐にわたり、発症してからの時期によっても特徴が変わるため、今回は最も多いアルツハイマー型認知症に焦点を絞って書きたいと思います。また、あくまでも介護者側の視点で書いていきます。 

アルツハイマー型認知症の進行過程 

下の図1は、FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer’s Disease)という認知症のステージと、子どもの成長過程を示したものです。アルツハイマー型認知症の進行は、子どもの成長に逆行をするそうです。また、軽度の時点ですでに小学生くらいの生活管理能力です。ここで大切なことは、「病気の影響」で生活の管理が難しいことがあるという理解です。また、記憶や複数の課題を同時に行うなどの能力が必要となる金銭管理、買い物などは初期から難しくなりますが、感情表出や身体の機能は残っています。できないことが増えていくという見方ではなく、どのようなことがまだできるのかという見方が大切です。新しいことを覚えるのは苦手でも、昔取った杵柄で、身体にしみ込んだ作業はできることが多いです。料理の献立や火の管理は難しくても、包丁さばきは見事です。 

図1 アルツハイマー型認知症の進行過程 

参照元:Reisberg B. Dementia: a systematic approach to identifying reversible causes. Geriatrics41(4):30-46, 1986. 

例えば、炊事を例にとっても図2のようにさまざまな能力が求められます。初期では特に記憶の障害が目立ちますので赤枠部分は少し苦手になるかもしれません。一方で、包丁さばきや配膳などは変わらずできたりします。また、苦手になったところも少し手伝えば問題がないこともあります。記憶することが難しいのであれば、書いておく、タイマーをかける、誰かに教えてもらうなどの発想です。  

図2 炊事も多くのステップからなりたつ 

空気を読むのは難しい? 

アルツハイマー型認知症の特徴として、ご自身を客観的に見ることが難しくなります。例えば、ご自身が物忘れをしたとしても、その自覚が薄れていきます(物忘れ自体の認識が薄れる)。これが加齢による物忘れとの大きな違いです。また、自覚が薄れますが、なくなるというわけではなく、本人も異変には気付いており、不安を抱いていることを理解することも大切です。 

加えて、相手の立場に立って考えることが難しくなります。例えば我々は、相手の声色や仕草などから発した言葉の真意を推察しながら、察する、空気を読んでコミュニケーションをとっていますが、これが難しくなります。例として、ふくよかな方を見かけたら「あの人太ってるね」と平然と言ってしまうことがあります。病気の影響であり本人は悪気がないのですが、周囲からすると「嫌な人だ」と捉えられてしまうこともあります。また、言葉をそのままの意味で受け取りやすくなりますので、ダジャレや皮肉などの理解が難しくなります。裏を返せば、皮肉を言ってくることはほぼありませんし、素直であり嘘をつきません。皮肉と感じる場合は、受け取る側の意識が影響している可能性があります。 

これらが、本人と介護者など周囲の方を不安にしやすい要因だと思っています。例えば、足の骨が折れていて、ギブスをつけて松葉杖をついている方がいたら、周囲の方もどのような状態か見てわかりますよね。骨折している本人も何で困って、何を手伝って欲しいか伝えられるので、周囲の方も困惑することはそうそうありません。一方で、認知症の場合は、その症状が目に見えづらいです。また、先に説明しましたようにご自身の状態を客観的に見ることが難しく、病気の自覚も低下しているため、どんな状態でどうして欲しいのかうまく伝えることが困難になります。結果として、本人も周囲の方も不安となります(図3)。ここで、我々の客観的に見る力が問われます。 

図3 症状が見えづらい 

ケアを考えてみる 

アルツハイマー型認知症について、生じやすい状態を簡単に説明してきました。そのうえで、どのようにケアをしたら良いかを考えてみたいと思います。 

相手の視点を推測する 

病気の影響で、その自覚が低下し、相手の意図をくみ取ることも難しくなってくる…。このことを理解していないと、認知症の方が「家にいるけど家に帰りたい」といっている場面に出くわした時に、熱心にここが家だと説明をして、余計に混乱を招くといったことになります。良かれと思って行った行動が裏目に出て、疲弊します。まずは、病気の影響があることを理解することは大切です。そして、我々の相手の視点を推測する力が試されるわけです。しかし、専門職が行うなら良いですが、家族が行うことは少し酷かもしれません。また、相手の視点を推測して対応する場合は、それが絶対に正しいとは思わないことが重要です。認知症の有無にかかわらず、人の気持ちを完全に理解することは不可能です。これを絶対だと思ってしまうと、うまくいかなかったときに燃え尽きてしまいます。 

日頃からのトレーニングで家庭円満 

酷とはいいましたが、相手の視点を推測するということは皆さん普段から無意識に行動されているはずです。そのため、日頃からトレーニングできます。例えば、私はこのコラムを書くにあたって皆さんの視点を推測しながら書いています。40〜60代の方に役に立つのはどんな内容か、そのくらいの年代の方はどのような時代を生き、どのような人生のタイミングかなどをリサーチしたうえで執筆します。また、日頃の生活でもトレーニング可能です。今日の妻は「おかえり。」といった時の声のトーンが低かった。目もあまり合わない…。よく考えると残業続きで育児を手伝えていなかった。明日は早く帰ってみよう。など…これもそうですよね。相手がどうしたら喜ぶかを常日頃考えて実行するトレーニングです。私の場合は…ですが、これを生活で意識してトレーニングすることで、仕事も家庭も比較的円満になっています。 

また、推測は推測に過ぎないので、「相手に聞く」ことも大切です。相手が真意を伝えてくれるかどうかという問題はありますが、この姿勢は大切だと思います。認知症の方もなにもわからないわけではありません。「聞く」姿勢は大切です。最近では、認知症当事者の方々が多くの発信をしており、著書などでどのように見えているか、感じているかを具体的に書いてくれています。このような書籍を見ることも理解する手助けになります。また、「認知症の方の行動・心理症状(BPSD)を包括的に予防・治療するための指針」では「初期の認知症の人の”想い”」をまとめたパンフレットを無料で見ることができます。 

参照元:認知症の方の行動・心理症状(BPSD)を包括的に予防・治療するための指針.(2022年2月3日アクセス) 

ケアのコツを情報収集

認知症ケアに絶対的な方法はないといいましたが、今まで説明してきた病態を踏まえて、うまくいきやすいケアとうまくいきづらいケアはあります。「認知症ちえのわnet」では、認知症の方に起こる様々な症状に対する対応法の「うまくいく」確率を公開しています。皆さんの体験したケアを投稿し、共有できます。また、「うまくいく」確率をコンピュータが自動集計して表示します。例えば、「同じことを何度も聞いたり行ったりする」に対して、「メモを書いて本人が確認できるようにする」はうまくいった確率100%(母数5件)ですが、「忘れていることを指摘し、正しい情報を提供する」は33.3%(母数3件)です(2022年2月3日時点)。先に書きました病気の影響を理解していれば、この結果も納得できると思います。また、「認知症ケアのヒントがみつかる「あんなこんな」by SOMPOケア」では、具体的な工夫をイラスト付きで分かりやすく公開しています。これらのサイトを活用するのはひとつの手です。さらに、家族介護者の会などに参加すると、実際に介護されている方からの経験談やアドバイスをもらえることもあります。 

参照元:認知症ちえのわnet.(2022年2月3日アクセス) 

参照元:認知症ケアのヒントがみつかる「あんなこんな」by SOMPOケア.(2022年2月3日アクセス) 

どの時期にどんなサポート・サービスがあるか 

以前も紹介しましたが、進行に応じてどのようなサービスやサポートがあるかは、各自治体で作成している認知症ケアパスが参考になります。SOMPO笑顔俱楽部では、認知症ケアパス等の検索ができるようですので興味のある方は覗いてみてください(SOMPO笑顔俱楽部/ケアパス等の紹介)。また、ケアマネジャーがついていれば適宜相談すると良いと思います。 

参照元:SOMPO笑顔俱楽部.ケアパス等の紹介.(2022年2月3日アクセス) 

おわりに 

アルツハイマー型認知症の知識やケアを行う上で理解しておいたほうが良いこと、ケアに役立つサイト等を紹介してきました。相手の視点を推測して対応することは、今からでも実践可能です。しかし、知識や技術があれば良いということであれば、専門職が家族介護を担う時に大きな問題はないはずです。ただ、そうはいかないことが多いと経験的に感じています。その反対に、専門職であるからこそ、なぜうまくいかないのか、なぜできないのか…といった葛藤を抱えやすいかもしれません。そのため、家族介護者の支援には、心理的な支援がより重要と考えています。そこで次回は、「認知症に備える : 40〜60代に向けて【介護者の心理を考える】」について紹介したいと思いますので、ご期待くださいませ。

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