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認知症に備える: 40~60代に向けて【町で認知症の方を見かけたら】

藤生 大我 理学療法士

執筆者
藤生 大我 理学療法士

祖父母が認知症となり中学生の頃から認知症ケアに関わり始める。2014年に高崎健康福祉大学を卒業後、理学療法士として医療・介護現場で働きながら、認知症の人と家族の会などの地域活動へ参加。2017年から認知症介護研究・研修東京センターで認知症ケア研究に従事し(現在は客員研究員)、2021年4月より医療・介護現場に復帰した。著書に「認知症ケアの達人をめざす」(山口晴保・伊東美緒・藤生大我;協同医書出版社)。 藤生大我研究室

 これまで認知症に関するコラムを書いてきました。地域で活動していると、認知症の方を町で見かけたらどうしたら良いですか?どう見極めたら良いですか?などと聞かれることがあります。実際に私は迷われている高齢者の方を保護したこともあります。その経験を踏まえて、町で認知症の方を見かけたらどうしたら良いか?について考えていきたいと思います。 

年々増加する認知症の行方不明者 

警察庁の報告によると、2020年の年間行方不明者数は計79,640名、そのうち認知症の方は17,532 名でした。認知症の方の行方不明者数は8年連続で増加しています。また、認知症の行方不明者のうち死亡発見が527名(3.0%)、未発見が118名(0.7%)でした。その一方で、発見された認知症者の99.3%の方が行方不明者届受理から1週間以内に所在確認がとれています。安心して外出できる町が求められています。 

参照元:警察庁.行方不明者.(2022年2月13日アクセス) 

認知症かどうかよりまず助け合いの心 

これをいってしまうと元も子もないのですが、「手助けが必要そうであれば」助け合えれば良いのかな、と考えています。たしかに、外見的に「季節感のない服装(夏なのに厚着、冬なのに軽装など)」、「その場所にそぐわない状態(近所に住宅はないが、サンダルに少ない手荷物の高齢者)」、「迷っている(周囲を見渡し、目的地がはっきりとせず歩いている様子など)」などを見て、もしかしたら認知症?と疑うことがあるかもしれません。ただ、どのような場面においても、おそらく困っていそうだということがわかると思います。例えば、道に迷っている方がいたら助けますよね?「この人は認知症ではないから助けない」ということはないと思います。そのため、まずは「困っている人がいたら助けよう」の精神が必要だと考えています。それが、誰にとっても安心して外出できる町になると思います。 

良かれと思って…が裏目に出る 

ただ、このご時世、知らない方に声をかけたら何か面倒ごとに巻き込まれるかもしれない…とも考えてしまうこともあるでしょう。また、気軽に手助け、良かれと思って行動した結果、怒りを買う場合もあります。私は「助け合い」を推奨しますが、それなりの心持ちも必要ではないかと考えています。例えば、以前私が夜中に迷っている高齢者を保護した時には、勤務終了後に関係先への確認、警察とのやり取りも含めて約2時間半を要しました(少し特殊な例だとは思いますが)。また、通勤中にうずくまっている方を見かけた時には、色々と確認しているうちに仕事に遅刻しました(フレックスタイム制なので正確には遅刻ではないが)し、時には「大丈夫、放っておいてください。」といった時もあります。この人たちのせいで遅刻したなどと言いたいわけではなく、助ける、関わるのであれば、一生懸命、真摯である必要があると思っています。「親切で声をかけているのに、なんだその態度は。」などと言ってしまったら本末転倒です。助け合いの心が大切ですが、真摯ある覚悟が必要だとも思います……ではどうしたら良いでしょうか? 

具体的にはどうする? 

そこで、具体的な対応のヒントを以下に書いてみました。 

認知症の方への接し方 

まずは今回助けようとしている相手である認知症の方のことを理解する必要があります。今では、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の方やその家族に対してできる範囲で手助けする「認知症サポーター」を全国で養成し、認知症高齢者等に優しい地域づくりが行われています。その認知症サポーター養成講座標準教材には、①驚かせない②急がせない③自尊心を傷つけないの3つのないを基本とし、1.まずは見守る、2.余裕を持って対応する、3.声をかけるときは1人で、4.後ろから声をかけない、5.相手に目線を合わせて優しい口調で、6.おだやかに、はっきりとした滑舌で、7.相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する、の7つの対応が示されていますので、接する時の参考になります。また、これらは認知症サポーター養成講座で具体的に学ぶことができます(詳細は後述)。 

参照元:厚生労働省.認知症サポーター.(2022年2月7日アクセス) 

参照元:認知症サポーター養成講座標準教材 

相談先を持っておく 

実際に私が夜中に高齢者を保護した時も、認知症サポーター養成講座を受講しており、認知症の知識がありましたが、「どうしよう?どうすることが正しい?」と思いました。個人差はあるかもしれませんが、知識があっても焦ります。改めて、インターネットで検索しても、認知症の方に実際であったら具体的にどうしたら良いか…はすんなり出てきませんでした。警察は認知症の方の保護への対応は行っていると思いますので、通報すべきか困った時は、電話で相談して良いと思います。最寄りの交番があればそちらへの相談でも良いと思います。捜索願いが出ている場合もありますし、何度か保護されており、スムーズに解決する場合もあります。 

ただ、警察に電話をかけたら大事になる?本当に警察にかけるべき?などと悩むこともあるかもしれません。このような時に、相談できる誰かがいると冷静になることができます。もし、親せきや友人に医療・介護の専門職がいる方は、身近な方を頼っても良いかもしれません。誰かと話すことで、良い判断につながるときもあります。私も、はじめて対応した時は知人の地域包括支援センター勤務の方に、この対応で良いですかね?と電話で相談したことを覚えています。知識があっても、はじめての実践は迷います。 

ただ、知識があったからこそ冷静な対応ができました。認知症サポーター養成講座も活きた知識となりました。 

ヘルプカードについて 

高齢の方を保護した時に、警察の到着を待っている間それなりに時間がありました。たまに、身元がわかるように衣服にステッカーや縫い付けやヘルプカードがあることもあるので、お話ししながらチェックもしました。また、時間がたつと同じところにとどまっていられず、違うところに行くという雰囲気もありましたので、姪っ子のダンスしている動画を見たり、YouTubeで昔の演歌等を聞いたりしながら時間を過ごしました。いまどきはスマホで何でもみられるので、とても便利です。 

認知症サポーター養成講座を受講する 

具体的な対応を行うために認知症サポーター養成講座を紹介しましたが、この受講は認知症の方への対応について学ぶひとつの近道です。認知症サポーター養成講座は、地域や職域団体等で、住民講座、ミニ学習会として開催されていますので、受講希望の場合は、在住・在勤・在学の自治体事務局へお問い合わせ下さい(全国キャラバン・メイト連絡協議会/全国の自治体事務局一覧)。この講座では、認知症の基礎知識や町で認知症の方を見かけたときの対応のコツなどを教えてくれます。私の今までのコラムの中でも認知症については書いていますが、実際に受講したほうが身に付きやすいと思います。 

参照元:厚生労働省.認知症サポーター.(2022年2月7日アクセス) 

参照元:全国キャラバン・メイト連絡協議会.(2022年2月7日アクセス) 

おわりに 

一番はじめに認知症の方の行方不明者数を示しましたが、このような背景もあり各自治体などでさまざまな取組みが行われています。ただ、それを成り立たせるためには今回紹介したような一人ひとりの助け合いの意識が必要だと思います。私が、あなたが、認知症になっても安心して外出できるような町を作っていきたいですね。

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