1950年代のアメリカでは、抽象表現主義の美術が盛り上がりました。その後、また新たなコンセプトの作品が次々と生まれていきますが、中でもポップアートと呼ばれる作風で美術界に賛否を起こし、そしてビジネスとして成功し、現在も世界的に大きく知られている人物が、アンディ・ウォーホルです。
シルクスクリーンという大量生産可能な版画の手法で作品を作っていましたが、作品は高額で、20世紀の作品最大の250億円で落札された作品すらあります。
今回はアンディ・ウォーホルの生涯や、作品が高額で取引される理由を紹介します。2022年9月からは、京都市京セラ美術館にて、展覧会「アンディ・ウォーホル・キョウト」が開催されます。アンディ・ウォーホルの初来日の100作品を含め、200作品の展覧会が行われますので、その前にアンディ・ウォーホルについてぜひ知ってみて下さい。
絵を描かない?アートはビジネス?
画家と聞くと、キャンバスに向かい、1枚の絵を懸命に描く姿を思い浮かべる方もいるでしょう。アンディ・ウォーホル(1928年〜1987年)は、そのような画家の在り方を覆した人物です。
アンディ・ウォーホルは、新聞や実際の肖像写真を元に、版画の手法「シルクスクリーン」で作品を制作していました。分かりやすくいえば、現在のプリントTシャツと同じ手法です。アンディ・ウォーホルは、アトリエで絵を描くのではなく、「ファクトリー」というスタジオで人を雇い、流れ作業で版画の作品を大量に作ります。逆に、ウォーホル自身は経営者で、自分では絵を描いていないといえます。
また、その絵の内容も、キャンベルスープのような消費物、マリリン・モンローのような芸能人でした。こうした大量消費・生産物をテーマにした作風は「ポップアート」と呼ばれています。
アンディ・ウォーホルは、作品が有名になり、名が売れると、1点25,000ドルで注文肖像画を制作するビジネスを行い始めました。
「金稼ぎはアートであり、または労働はアートであり、良いビジネスは最もよいアートだ」
アンディ・ウォーホル『ぼくの哲学』(1975年)より
アンディ・ウォーホル自身がこう述べるように、アンディ・ウォーホルにとってのアートはビジネスでした。2022年には、作品《Shot Marilyn》が約250億円で落札され、20世紀美術品の最高価格で取引されています。死後も、ビジネスを起こしているといえますし、逆にアートが現在ビジネスとして見られている理由のひとつに、ウォーホルの功績があるともいえます。
イラストレーターから画家へ
ウォーホル自身はもともとイラストレーターでした。
1928年にアメリカで生まれ、20代の頃はニューヨークで雑誌のイラストレーションや広告で仕事のキャリアを積みました。美術としての作品を発表し始めたのは34歳からです。
1962年に個展で『キャンベルスープの缶切り』を発表すると、アメリカの大手雑誌であるTime誌に取り上げられます。シルクスクリーンという機械化された手法、当時の絵画らしくないスタイル、「キャンベルスープ」という商業的なモチーフを使用したことは大きく注目され、賛否を生みました。
その後も絵画で成功を収めていっただけではなく、映画の制作や、女優やモデル、ミュージシャンのプロデュース、テレビ出演と活動していきます。現代、画家がファッションやエンターテイメントとコラボした商品を作ることもあります。が、当時はそうした結びつきは斬新なものでした。
アンディ・ウォーホルの作品
アンディ・ウォーホルの代表作4つを紹介します。アンディ・ウォーホルの注目の作品は、特に1960年代に制作されました。消費社会をテーマにした作品を制作している一方、死や腐敗といったテーマが表現としてあることにも注目です。
①キャンベルスープの缶(1962年)
1962年に個展で発表された、32種類のスープ缶を描いた作品です。他に、アンディ・ウォーホルはコカ・コーラを描いた作品を作っています。同じ見た目の製品が大量に生産される消費社会は嫌われることもありますが、アンディ・ウォーホルが消費社会を肯定していました。
「アメリカの素晴らしいところは、最も裕福な消費者も最も貧しい人も同じ商品を購入する伝統から始まったことだ。みんながテレビを見て、コカ・コーラを見て、大統領がコーラを飲み、そして一般大衆もまたコーラを飲む」
アンディ・ウォーホル『ぼくの哲学』(1975年)
「東京で最も美しいものはマクドナルド。ストックホルムで最も美しいものはマクドナルド。フィレンツェで最も美しいものはマクドナルド。」
アンディ・ウォーホル『ぼくの哲学』(1975年)
②Shot Marilyns , Shot Sage Blue Marilyn(1964年)
アンディ・ウォーホルは、著名人の写真を版画にして多く制作しました。1962年、マリリン・モンローの死後に制作されたこの肖像画は、アンディ・ウォーホルの作品の中でも高い価格がついています。赤、オレンジ、ライトブルー、セージブルー、ターコイズブルーの5色のマリリン作品が制作されており、2022年にはセージブルーの作品が250億円で落札されました。
工場に訪れたある方が完成したばかりの作品を見て、「撃っても(shot)いいか?」と言ったところ、アンディ・ウォーホルは「写真を撮る(shot)」の意味だと思い、了承しました。結果、その方が銃を取り出して、作品を撃ちぬきます。セージブルー以外の4作品に弾痕が残されました。4作品は修復され発表されましたが、このエピソードが逆に作品の希少さを高めたともいえます。
マリリン・モンローだけではなく、毛沢東やベートーヴェン、エリザベス女王など、アンディ・ウォーホルは数々の著名人の肖像画を作りました。どれも高額で取引されています。日本でも2022年にイセ食品が行ったオークションにて、ハリウッド女優エリザベス・テイラーを描いた「シルバー・リズ」が22億円で落札されました。
③ブリロボックス(1964年)
アンディ・ウォーホルは、絵画だけではなく、このブリロボックスのように市販のパッケージの模倣も行っています。1964年に行った展示「アメリカンスーパーマーケット」では、スーパーマーケットと同様に、キャンベルスープやブリロボックスが積み上げられています。
④銀色の車の事故(1963年)
こちらは、車の事故の写真を作品にしています。アンディ・ウォーホルは1960年代に起きた事件を題材にした作品も制作しています。
消費社会は、ものが作られ、使われを繰り返すことが特徴ともいえます。アンディ・ウォーホルが消費社会に近い概念として、死、腐敗といったテーマにも関心を寄せていたことにも注目です。マリリン・モンローの死後に肖像画を作ったことや、犯罪者の肖像画も作品にしていたことも見逃せません。
アンディ・ウォーホルの作品が京都に
アンディ・ウォーホルの作品として注目されているのは、60年代の作品ですが、70年代、80年代もビジネスマンとして依頼の肖像画を作り、雑誌の出版や自伝の出版、批評家としての活動で経済的に成功を続けました。1987年に59歳で亡くなっています。
アンディ・ウォーホルは、アートを誰よりもビジネスと見ていた人物で、その作品や背景にある哲学には、刺激となるものも多くあるでしょう。気になる方はこのコラムでも少しご紹介した『ぼくの哲学』がおすすめです。
2022年9月17日から、京都市京セラ美術館にて、展覧会「アンディ・ウォーホル・キョウト」が開催されます。アンディ・ウォーホルの初来日の100作品を含め、200作品の展覧会が行われますので、気になった方はぜひ足をお運び下さい。
『アンディ・ウォーホル キョウト』
会場 | 京都市京セラ美術館 新館東山キューブ |
会期 | 2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日) 10時~18時 休館日:月曜日(但し祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日 |
住所 | 〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124 |
最寄り駅 | 地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約8分 京阪電鉄「三条駅」・地下鉄東西線「三条京阪駅」より徒歩約16分 |
公式HP | 『アンディ・ウォーホル・キョウト』 |