今年4月、60歳を迎えたTRFのSAMさんが著書『いつまでも動ける。』を発表しました。超高齢化社会の日本において、「コロナ禍の長期化による運動不足や疲労感から、急激に老いを感じ始めている人が増えていること」、「人生100年時代、誰もが歳のとり方に向き合っていかなければならないこと」から、老化と健康を考える本書。
前回は、その考えのベースになっている学問「ジェロントロジー」についてお聞きしました。今回は、「ジェロントロジー」を学ぶ以前からSAMさんが取り組んでいるシニア向けのプログラム「ダレデモdANCE(ダレデモダンス)」について伺います。
本記事は、YouTuber・サイソンKAZUYAのチャンネルと連動して、SAMさんとサイソンKAZUYAの対談をもとに作成しています。YouTubeでは対談の様子やSAMさんによるレクチャーも見られるので、ぜひチェックしてください!
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デビュー30周年、還暦を迎えたTRF・SAMさんにインタビュー①「ジェロントロジーは、老化をポジティブに捉える学問」
SAM(サム)さん
1962年、埼玉県生まれ。15歳で初めてダンスの面白さを知り、単身ニューヨークへダンス留学。1993年、TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。コンサートのステージ構成・演出をはじめ、多数のアーティストの振付、プロデュースを行い、ダンスクリエイターとして活躍中。2016年には一般社団法人ダレデモダンスを設立、代表理事に就任。 誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子どもからシニアまで幅広い年代へのダンスの普及と、質の高い指導者の育成、ダンサーの活躍の場の拡大を目指す活動を行っている。
(DVD紹介 各4,000円)
コンセプトは「高齢者の健康寿命を延ばしていく」
――ダレデモダンスの創作のきっかけを教えてください。
前回のジェロントロジーの回でも触れましたが、TRF20周年の時に出したエクササイズDVD『EZ DO DANCERCIZE(イージー・ドゥ・ダンササイズ)』が思っていたよりもだいぶ反響があって。ダンササイズはTRFの曲で踊ることによって身体を引き締めるというプログラムでしたが、次は高齢者に向けたプログラムを作ろうと思いました。ちょうど10年前は日本が超高齢化社会に入っていく時期だったので、高齢者の方を元気にしていこうと。
その前から、僕の身内に医者で弁護士免許を持っていて、参議院議員にもなっている一つ年下の従兄弟がいるんですけど、彼がよく僕の健康のこととかを心配してくれて、連絡をとっていたんです。その時に、「いつか国会議員でもできるような”じじばばダンス”を作ってくれないか?」と、ずっと言われていて。それで、ダンササイズがきっかけで高齢者向けのプログラムを作ろうと思った時に、彼の話を思い出して、ダレデモダンスを手掛けました。
――ダレデモダンスは名前の通り誰にでも簡単にできますか?
そうですね。コンセプトは「高齢者の健康寿命を延ばしていく」ですが、普段、運動しない方とか子どもにも有効です。
――ダレデモダンスはどんなところで教えていますか?
コロナ禍前は年間30〜50回くらいワークショップに行っていました。全国の地方自治体とか、医療関係の医学学会にゲストで呼ばれたり小学校に行ったりとかが多かったですね。コロナ禍はリモートでやったりもしましたが、今年になってちょっとずつ対面のワークショップができています。今は定期的にやっているところがなく、ワークショップがあればホームページやTwitterで告知していますので、チェックしていただきたいです。
――では、このYouTubeをきっかけに「セゾンのくらし大研究」としてワークショップを開催しても面白いかもしれないですね。
もうぜひ、やらせてください(笑)。
簡単な動きも音楽に合わせればダンスになる
――実際に「ダレデモダンス」に触れてみたいのですが、今すぐできる動きはありますか?
いっぱいありますよ。「簡単な動きを音楽に合わせてやるとそれがダンスになる」のがダレデモダンスです。実際にやってみましょうか。
――ぜひ、お願いします!
かかとを軸につま先を動かすことによって自然と股関節の可動域が広がり転倒防止に。
膝を上げて手で膝を叩く。これも股関節を使うし、腿(もも)の力も使う。
――意外と難しいかも……。
ゆっくりやればすぐできますよ(笑)。
効果効能と安全性のエビデンスがとれているダンス
――ダレデモダンスは、エクササイズDVD『EZ DO DANCERCIZE』と同じ振り付けですか?
全く別ですね。ダンササイズの振り付けをそのままやるとテンポが早くてハード。ダレデモダンスはテンポが早いと危険なので、だいぶテンポを落として、高齢者の方でも安全にできるようにしています。例えば、足がもつれる恐れがあるステップは排除しています。
それと、これもダレデモダンスの特長なのですが、僕の従兄弟である医者と一緒に組んで、彼の病院で7年くらいデータを細かく取りながら作っているので、効果効能と安全性のエビデンスがしっかりとれている点です。それは、学会でも発表しています。
――「エビデンスがとれているダンス」というのは初めて聞きました。
もうひとつの特長としては、運動強度を「METs(メッツ)」という単位で表すのですが、ラジオ体操が4メッツで「ダレデモダンス」はそれと同じ強度に合わせるようにしています。僕がプログラムを1個作ると、彼や彼の病院の医学療法士の方がデータをとってくれて、強度が高ければ、「これはちょっとハードなので下げてください」と試行を重ね、4メッツに合わせていきます。
――ラジオ体操以外で、4メッツとは具体的にはどのくらいの強度ですか?
散歩、家の掃除、ボウリングもそう。高齢者の方でも無理なくできるような強度です。あと、従兄弟は循環器系の医者で心臓疾患を持った患者さんが多いので、一番最初にダレデモダンスを作る時には彼の患者さんを20人くらい集めてもらって、その方たちを対象に作っていました。
リハビリ室で70歳くらいのおじいちゃんやおばあちゃんに初めて会った時は、みなさん本当に困った顔や不安そうな顔で、「私たち年寄りだから激しいダンスはできませんよ」って言っていて。でも、「みなさんができる動きを少しずつ作っていくので」とお伝えして、ゆっくり説明しながら教えていくと最初不安がっていた方達が最後は笑顔になる。
70歳になるまでダンスをやったことなかったし自分がやるとは思っていなかったけれど、「こんなに楽しいと思わなかった」と、ほとんどの方がそう言ってくれます。
――どのようにその最初の不安を取り除いていったのですか?
とにかく細かく丁寧に教えること。「膝を上げてください」「ここで手をつけましょうか」「順番も間違えても良いので、楽しくやりましょう」とか。音楽に合わせて動くとリズムがしっかり入ってきて、リズムを体感できる。音楽の明るさもあったり、しっかり身体が動かせることで精神的にも気持ちが軽くなってくるし、必ず笑顔になってきます。
音楽とダンスには元々ポジティブな効果が詰まっているし、ダンスも1人でやるよりも集団でやるほうがポジティブな効果が強くなる。20人くらいで同じステップを一緒に踏むことも、楽しさにつながっていると思います。
――音楽にもポジティブな効果があるということですが、通勤時間やどこかに出掛ける時に聴くのにおすすめの音楽はありますか?
自分の好きな音楽が一番です。車の中で自分の好きな音楽をかけていると幸せじゃないですか。
――そうですね。SAMさんは普段、何を聴いていますか?
僕はハウスというジャンルが好きなのでハウスばかり聴いています。
――TRFの曲は聴かないですか?
TRFは流石に聞かないですね(笑)。
――今日、僕はTRFを聴いてきて、やっぱりめちゃくちゃテンション上がりました。
90年代のあの小室さんのサウンドは気分が上がりますよね。いまだに色褪せない。
――いつ聴いても同じモチベーションでテンションが上がります。
分かります。踊っていてもテンションが上がります。
ダレデモダンスは脳トレにもなる
――先ほどのダレデモダンスの振りを見て思ったのですが、複雑そうな動きもあって、ダレデモダンスは脳トレにもなりそうですね。
まさに、脳トレです。ダンスの振り付けは日常生活にはない動きが多いので、頭の中で知らない間に「覚える」という作業が生まれます。さらに、音楽・テンポに乗せてタイミングを合わせるので脳トレになります。
――理に叶っているんですね。
そうですね。身体、心、頭の全部に効果的。だから、改めてダンスと音楽は素晴らしいと思います。ダンスは「どこでやれば良いの?」ってなると思いますが、ダレデモダンスはDVDも販売していますので、そういうダンス動画を見ながらやるのも良いと思います。宣伝みたいになっちゃってごめんなさい(笑)。
――ちなみに、盆踊りも身体を動かす意味では同じですか?
めちゃくちゃ良いと思います。盆踊りも音楽が流れていろんな動きを入れていくので。普段、身体を動かさない方は盆踊りからでもラジオ体操からでも良いと思います。それを考えると、今になってラジオ体操ってすごく良いことしてたんだなって思いますね。子どもだけじゃなく、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんもできるし、全身の運動になっている。
――最後になりますが、ダレデモダンスの中ではどういう動きが人気ですか?
複雑で難しそうに見えるけど、「やってみたらできた!」みたいな動きは達成感があるみたいです。
――では次回、ここにいるスタッフも一緒に実際にそういったダンスも教えていただけますか?
ぜひ、やりましょう!
次回は、「ダレデモdANCE(ダレデモダンス)」実践編。読者のみなさんも一緒にダンスしましょう!