東洋医学は、西洋医学に相対する代替医療のひとつとして思い浮かべることが多いと思います。また、“東洋医学”という言葉がいろいろなところで使われております。
みなさまもなんとなく理解しているように思われているかもしれませんが、でも、実際にご自身で東洋医学を取り入れてみようかなと思ったとき、どこからどこまでが東洋医学なんだろうと疑問に感じたことはないでしょうか?
さらに最近では東洋医学ではなく、中医学という言葉もよく見かけるようになったと思います。 今回は、「東洋医学ってなに?」と題して、基本的なところから理解できるように連載していこうと思います。東洋医学に関しての基本的な知識を持っていただけたらと思います。
伝統医学であるということ
まず東洋医学という言葉の大前提のひとつとして、“伝統医学である”ということが挙げられます。逆にいえば、西洋医学は“現代医学”と言い換えることができると思いますが、その知見は常にアップデートされ最新ということに価値があります。古い知識はすぐに過去のものとして追いやられてしまいます。
しかし一方の東洋医学は、必ずそれが発祥した時代にしっかりと根付いているという特徴があり、そこから極端に離れるということはありません。
そのために“伝統医学”とも言い換えることができます。もちろん、東洋医学も現代の科学的な研究が進められており、これまで言い伝えられてきたことに科学の光が当てられています。
そしてそれによって東洋医学についても科学的なエビデンスや論文が数多く発表されていますので、決して伝統という言葉の上に胡坐をかいていたり、古いままで良しとしているわけではありません。
伝統的な手法を大切にしながら、かつ新たな息吹を加えていくその姿はまさに温故知新といえるでしょう。実は西洋医学においても、このような東洋医学についての科学的な研究によって伸展したことも少なくありませんが、
例えばインフルエンザの治療薬であるタミフルの主成分は、漢方薬や薬膳で使用される八角から見つかっているということもあります。
いずれにせよ、東洋医学といった場合、そこには必ず“伝統的”というものがついてきます。つまり人類の歩みや歴史が積み重なって、その土台の上に成り立っているというのが、東洋医学ということになります。
広義の東洋医学
さらに“東洋医学”といった場合に、その“東洋医学”が指す“東洋”の地域的・地理的な範囲を考えてみたいと思います。
東洋医学の“東洋”という言葉から、皆さんは国や地域をどこからどこまで思い浮かべるでしょうか?よく「香港は東洋一の夜景」などといわれますが、“東洋”とはどこの範囲でしょうか?
広辞苑を引いてみますと、「東洋とは、トルコ以東のアジア諸国の総称。特に、アジアの東部および南部、すなわち日本・中国・インド・ミャンマー・タイ・インドネシアなどの称」と書かれています。
この定義を読みますと、西はインドまで含めていてとても広い範囲を指すことがわかると思います。 そこでこの定義のとおりに“東洋医学=東洋に存在する医学”として見渡してみましょう。
すると、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダ、インドネシアの伝統薬であるジャムゥ、また韓国の四象医学など、東洋の各地域にはそれぞれに発達した、独特の医学が現在も存在していることが見受けられます。このように、東洋の地域を広義に解釈すれば、さまざまな地域医学が“東洋医学”に含まれると思います。
狭義の東洋医学
しかし、以上のような広義の東洋医学で捉えると、あまりに広大になりすぎてしまいます。実際のところ、東洋医学といっても、そこまで網羅しているものではありませんし、みなさまもそこまで広く想定はしていないと思います。
そこで、重要なのは東洋医学も“医学”であるということを考えて、もう少し条件を狭めていく必要があるのではと思います。では、伝統医学でありながら、医学と呼んでも差し支えない条件とは何でしょうか?それを以下のようにまとめてみましょう。
- 条件1 より広く普遍性がある
- 条件2 より広く安全性がある
- 条件3 より広く効果がある
- 条件4 より広く活用しやすい
- 条件5 しっかりとした体系がある
先に結論から申しますと、この五つの条件を満たすものは、中国発祥の伝統医学ということになります。
中国発祥の伝統医学は、そのはじまりは、書物になったのが2,000年以上前で、そこから長い歴史を経て今日まで多くの人々を救ってきました。
すなわち、この長い年月そのものが効果や安全性の証明でありますし、そしてさらに現在は世界中の多くの人々がその恩恵にあずかっていますので、活用しやすく、そしてしっかりとした体系があるということにもなります。
もちろん、インドのアーユルヴェーダにしても、インドネシアの伝統薬ジャムゥにしても、どれも有効であるからこそ今日までつながってきたという事実はあります。
しかし、そこに地域という枠を超えた普遍性があるかどうかや、安全に利用することができるのか、そしてそれを体系的に学ぶことはできるのだろうか、
といった医学としての基準・水準から見てみると、果たしてそこまでの条件が揃っているかどうかは難しいのではないかと思います。
もちろん、これらの地域色豊かな伝統医学が、これからもっと解明されていき、より広く世界で利用される可能性はありますので、今後の発展の余地は残っていますが、現在のところ上記の条件1~5をクリアするまでには至っていないのではないでしょうか。
そうして見ると、現時点での到達度・完成度では、中国発祥の伝統医学が一歩、二歩くらいはリードしているといえると思います。
ということで、これから「セゾンのくらし大研究」のコラムでは東洋医学全般についてお話してまいりますが、ここでいう“東洋医学”とは、主に、“中国発祥の伝統医学体系”を指すものとご理解ください。
しかし・・・
鋭い読者の方はすでにお気付きかもしれませんが、では、どうして“中国発祥の伝統医学体系”をあえて“中医学”と素直にいわないのかと思われるかもしれません。
巷では中医学という言葉も使われていることも多く、目にしている方も多いと思います。それでやや混乱をして、東洋医学と中医学では何が違うのか、それらはどれほどの違いがあるのか、どっちを選んだ方が良いのだろうかと迷う方も少なくありません。
東洋医学と中医学の違いをお話してまいりたいと思いますので、乞うご期待ください。
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