梅雨明けをすると本格的な暑さになります。「熱帯夜」「猛暑日」など夏の暑さを表す言葉はたくさんあり、毎年皆さんが暑さを乗り切ることに苦労されているかを感じます。
熱中症にならないように気をつけている方は多いと思いますが、気がつくと夏場はぐったりして夏バテになっている、という方も多いのではないでしょうか。東洋医学・薬膳の知恵を使って、夏バテにならないための夏の過ごし方をご紹介いたします。
東洋医学で考える『夏の過ごし方』とは?
夏という季節は暑さがあることが普通です。この暑さによって、私たちの身体は太陽からエネルギーをもらって一年の元気を養っています。
植物は夏場に葉を生い茂らせ、稲穂が成長し、野菜も花をつけ、実をつける準備をします。よく秋の果実は夏の暑さがないと甘みが増さないといわれますが、これも夏のエネルギーを受けて成長したものが秋の実りにつながっているわけです。
人間も同じで夏の日差しと暑さは成長に不可欠なもの。成長期の子どもは夏に背がよく伸びますが、これも夏の日差しと暑さが原動力になります。大人も同じく、1年のエネルギーをこの時期にしっかり太陽からもらうのです。
この時期に身体があまりに暑さを感じていないと、冬場に冷え性になったり、気分が落ち込んだり、腰痛になったり、皮膚の不調が出てしまったり、ということがあります。
このことを利用して東洋医学では『冬病夏治(とうびょうかち)』といって、冬の病を夏に治す、という方法があります。夏は暑いものですが、その暑さの処理をできるだけの対応力がないと熱中症になります。
熱中症にならないためには、水分補給はもちろん、汗をしっかりかくこと、夏野菜を食べてからだを涼しくする性質のものを取っておくことが必要になります。
一方で、身体から暑さを逃すときにその対処方法がうまくいっていないと、夏バテは起こりがちです。身体から暑さをのがす原料である体力や潤いが不足していたり、過剰に胃腸を冷やしすぎたりすると、身体のだるさや体力の低下を引き起こしてしまうのです。もちろん、日本の夏独特の湿度の高さが、夏バテの引き金にもなります。
東洋医学で考える「夏バテ」
「夏バテ」というと、虚弱体質の方に起こりがちなことだというイメージがあるかもしれません。いわゆる「夏負け」の状態で、夏に起きる疲れやだるさ、体力の低下などが起きがちです。
夏というのは、暑いだけで体力を使う季節です。日差しに対抗し、暑さを汗から流すという季節なので、じっとしているだけでも疲れるのです。暑さに対応するというのは、気力も体力もとても消耗するものなのです。何らかの理由で、その原動力となる食べ物からの栄養供給がなされなくなってしまうと、夏の暑さに対応するだけの体力が尽きてしまいます。これが夏バテです。ですから、体力がもともとない方は、夏の暑さを乗り切るだけの体力が不足していて、夏バテになってしまうのです。
しかし、最近では体力があっても夏に弱い方が増えてきています。これは体力に関わらず、夏に対応した生活をできていないことが多くの原因です。
実際に患者様の中にも、体力的には問題はないのに、梅雨時から毎晩アイスを食べている方や夜の冷たいビールが日課の方、アイスコーヒーで水分補給をしている方などは決まって夏バテになります。
日本の夏は暑さだけでなく、湿度がとても高いです。 湿度があることで、気温以上に過ごしにくさを感じることが多いと思いますが、この湿気の対処をすることが夏を快適に過ごす上でとても大切にです。
東洋医学では、このタイプの方のことを、胃腸に痰湿が溜まった方と考えます。胃腸に湿気がたくさんあるという状態で、食欲不振、下痢、身体のだるさ、疲れやすさ、むくみ、頭痛などが起きます。もともと体力がないわけではないのに、夏にだるくなってしまって、気がついたら食欲が落ちている、という方は、この胃腸の湿気が多い夏バテになっている可能性があります。
痰湿タイプの「夏バテ」の対処法
夏場に暑くて水をたくさん飲んでいると、そのうちに気持ち悪くなって胃がチャプチャプしてくるという経験をしたことがある方もいらっしゃると思いますが、これがまさに胃に湿気が溜まった状態です。
消化機能が充分に発揮できない状況になってしまうため、食べたものが消化されず消化不良になり、吐き気や胸焼けなどの症状を引き起こします。また、消化がうまくいっていないので、食欲も湧きません。
よくある症状としては、
- 胃もたれなど消化不良や食欲不振
- 吐き気
- 口臭や口の粘つき
- 下痢
- だるさ
- 頭痛
- むくみ
- のどが渇いても水分を摂りたくない
などがあります。
胃腸に湿気を溜めてしまう、痰湿タイプの夏バテの多くの場合は、冷たいもの、生もの、甘いもの、脂っこいものの取り過ぎが原因です。
暑くなってくると多くなりがちだと思いますが、冷たい飲み物をがぶ飲みしていないでしょうか。食事も冷奴や冷たいお素麺、お刺身に生野菜、かき氷、アイスクリーム、ビールなどお腹を冷やすものばかり。また、精をつけようととんかつやカルビを食べたりすることもあるでしょう。そういった行動が実は夏バテを自ら招いているのです。
たまに食べるくらいは良いのですが、毎日冷たいものを食べたり飲んだりしているとあっという間に胃腸は動かなくなってしまって夏バテになってしまうのです。
体質的に胃腸の弱い方は、消化する力が弱いので、ちょっとしたことで消化不良になったり、食欲不振になってしまったりします。特に夏場は、湿気が多い天気が続き、胃腸の調子が落ちがちなので注意が必要です。痰湿タイプの夏バテになってしまったら、冷たいものや生もの、甘いもの、脂っこいものをとにかく減らすこと。
暑い盛りですから冷たいものを飲むのを控えるのは難しいと思いますが、少なくとも冷たいものをガブ飲みしないように気をつけてください。飲む時も頭や喉を冷やすように、口の中でしばらく溜めておいてから、ゆっくり飲むようにしましょう。
食事も基本は加熱するようにして、できるだけ生ものは控えましょう。夏に熱々のものは流石に辛いですから、常温やぬるめのもので大丈夫です。とんかつや焼肉ではなく、しゃぶしゃぶなどさっぱりしたもので体力を補うと良いでしょう。
湿気を取り除いてくれるものを積極的に食べるのもおすすめです。
豆類、トウモロコシ、海藻、ウリ科のものは湿気を取ってくれます。夏に旬を迎える、枝豆やインゲン豆、きゅうり、冬瓜などがおすすめです。カレー粉や唐辛子も湿気を取ってくれるものなので、少量加えてみると食欲も増すのでおすすめです。
湿気が溜まっている場合は、適度に汗をかくことも必要です。涼しい時間帯に少し長めに歩くなどすると良いでしょう。ただし、無理に汗をかこうとしたり、炎天下にいたりすると気持ち悪くなったり、めまいや頭痛がしたり、熱中症になってしまうこともありますので、無理は禁物です。常温の水など胃腸の負担にならないもので水分補給をしながら行なってください。
夏負けタイプの「夏バテ」の対処法
夏負けタイプの夏バテの方は、暑さにより体力や身体の潤いの在庫が枯渇してしまったタイプです。東洋医学で身体は「気・血・津液」のバランスが保たれていると健康と考えます。
夏場はこのどれもが消耗されがちです。暑さで大量に汗をかくとそのあと非常に疲れを感じることがあるかと思いますが、実は水分(=津液)が消耗されるだけでなく、東洋医学では気や血(=血液)も消耗したため、ぐったりとしてしまうのです。
この体力や水分の消耗をしても、しっかりと休息をとり、食事を取っていれば、補うことができるので夏バテになりません。しかし、もともと体力がない方や胃腸が弱い方、食事をきちんとバランス良く取っていない方、寝不足や過労の方は、夏の消耗の方が多くなってしまうので、夏バテになってしまうのです。
夏負けタイプの夏バテの方は、
- 元気や気力がない
- 疲れやすい、おっくう
- 息切れがする、声を出すのもしんどい
- ぼーっとする、そして頭が働かない
- めまいや立ちくらみがする
といった症状が多いです。
人によっては貧血症状が出たり、もともと貧血のある方はさらに症状が進むことがあります。食欲不振、消化不良、下痢など痰湿タイプの夏バテと同じ症状が出ることがあり、痰湿タイプの夏バテと同時に起きてしまう方もいます。
ただし、「夏負け」の夏バテの場合、より体力に不安を感じる症状が強くなります。いつもやっている家事が全然できないほど体力が落ちている、大したことない作業でも考える気力が出ない、話す気力もない、などです。
夏負けタイプの夏バテの解消法は、体力がかなり落ちている状態ですので、まずは食事と休息をしっかり取ることが大切です。食事は滋養のあるもので、体力を補うことが大切です。特に気血となるタンパク質をしっかり食べるのが良いです。
一方でこのタイプは消化力も弱くなっていますので、無理に栄養価の高いものを食べようとしても、消化できないことが多いです。
よく夏痩せに鰻がいい、とされますが、これはあくまでも消化力が残っている方に当てはまることです。もし消化力が落ちている場合は、脂が多い鰻などよりも、脂肪分の少ない穴子や豚しゃぶなどさっぱりしたものを食べるようにすると良いです。
場合によってはおかゆやにゅうめんなど消化が良く温かいものをとることで胃腸の調子を取り戻すことが先決になることもあります。一度に食事を取れない場合は、食事を3回に限らず食べても良いでしょう。
胃腸を冷やすと消化力がますます落ちてしまいますので、冷たいものは控えましょう。食欲がないとついつい冷奴や冷たいそうめん、冷やしトマトなどにしてしまいがちですが、これでは胃が冷えて消化力も出ず、栄養不足にもなりますので注意しましょう。
生活では、クーラーなどで冷えることもあるので、腹巻をしたり、お腹にハンカチを当てて置いたり、汗をかいたらこまめに着替えたり、身体やお腹の冷えにも注意を払いましょう。
できるだけ涼しい時間帯に出かけたり、熱い時間帯に出かけるときは移動も身体に負担のかからない方法にしたり、体力を温存する工夫をした方が良いです。
寝不足も体力を奪いますので、熱い夜はクーラーなども上手に活用しながらしっかり眠れるようにした方が良いです。身体がだるい時や疲れが取れていない時、しっかり眠れなかった時などは、昼寝もおすすめです。
身体を夏に合わせていくことが夏バテにならないコツです。旬のものは夏に適した身体にしてくれますので、できるだけ旬のものをたくさん食べて、夏の暑さを乗り切っていきましょう!