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あごの痛みを引き起こす病気とは?

あごの痛みを引き起こす病気とは?
猪股 美菜 歯科医師・歯学博士

執筆者
猪股 美菜 歯科医師・歯学博士

1983年生まれ。2007年歯学部卒業後、臨床研修医として大学病院に在籍。その後大学院歯学研究科(口腔病理学講座)に所属。大学院では口腔内病変の病理診断を学ぶとともにレーザー治療の研究に邁進。卒業後は勤務医として働く。「週に5時間」を自分の勉強時間と課し、より良い治療や研究を探索している。一児の母。

口を開けるとあごが痛い、ものを噛んだときにあごに痛みがあるなど、一度はこのような経験をされたことがあるかもしれません。痛みを感じる頻度は人によりさまざまです。痛みを感じる部位やその頻度に沿って、その原因を探っていきます。

1.あごの痛みを引き起こす病気とは?

あごの痛みを引き起こす病気とは?

1-1.顎関節症

「あごが痛い」原因の多くは、顎関節症によるものです。顎関節症は、あごの関節やその周囲の筋肉の痛み、開口障害を主な症状とする病気で、通常はあごの使い過ぎによって起こります。あごが大きくて頑丈な人と、ほっそりとして華奢(きゃしゃ)な人がいるように、人にはそれぞれもって生まれたあごの丈夫さがあり、顎関節症はその人のあごの耐久限界を超えるほどあごの関節や筋肉を酷使したときに起こる、というのが現在の考え方です。簡単にいえば、顎関節症は筋肉痛やねんざに近い病気なので、時間とともに自然治癒するのが普通です。

1-2.側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)

側頭動脈炎は自己免疫疾患で、自分の免疫細胞が自分の動脈の壁に対し攻撃をしてしまうために炎症が起こります。その結果、血管の壁が厚くなり、血管の内腔が狭くなって、最終的に動脈がつまってしまう病気です。リウマチ性多発筋痛症を合併している場合もあります。

1-3.舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)

脳からは左右12対の脳神経が直接出ており、それぞれに役目があり番号と名前がついています。舌咽神経は、第9神経であり、味覚やのど・舌の奥の部分の感覚を司っています。この神経に起こる神経痛を舌咽神経痛といいます。

上記の3つの病気以外にも、咀嚼筋(そしゃくきん)と呼ばれる顔の筋肉が筋肉痛を起こしたり(筋筋膜痛)、口内炎や虫歯ができた場所によって、あるいは親知らずが炎症を起こすなどでもあごの痛みが出ることがあります。

2.あごの痛みを引き起こす病気の症状

あごの痛みを引き起こす病気の症状

1-1.顎関節症の症状

顎関節症は、前述した通り、あごの痛みのほか、あごの関節やその周囲の筋肉の痛み、開口障害などが主な症状です。次第に病気が良くなる可能性が高いので、症状が長引くことはほぼありません。しかしながら、どんな治療をしても全く痛みが改善せず、顎関節症の症状が何年にもわたって続いているという難治性顎関節症の患者さんもいます。

2-2.側頭動脈炎の症状

側頭動脈炎の発症平均年齢は60代後半から70代です。全身の動脈の内腔が狭くなる全身疾患ですから、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身症状が出ます。

あごの筋肉に血液を送る動脈の内腔が狭くなると、「食事をするとあごが痛む」という症状が出るため、顎関節症のように見えることがあります。痛みが起こるのは採血時に腕をしばられて手を握ったり開いたりするとたちまち腕に痛みが起こるのと同じです。十分な血液が供給されない状態で筋肉を運動させたときに起こる痛みで、「阻血性疼痛(そけつせいとうつう)」といいます。

2-3.舌咽神経痛の症状

舌咽神経痛は加齢により脳の血管が硬くなり、蛇行して、舌咽神経に食い込むようになるために起こるとされています。したがって、通常は50歳以上で発症するとされています。

舌咽神経の支配領域は舌の後方3分の1、耳の奥、下あごのえらの奥、のどの奥などです。痛みは深いところで起こるため、患者さん自身には痛みの部位がはっきりわからないことも多く、「あごの関節が痛い」と自覚する人もいます。その他、開口時や食事をする際に痛みが出るなどの症状があります。

3.あごの痛みを引き起こす病気の治療法について

あごの痛みを引き起こす病気の治療法について

3-1.顎関節症の治療法

顎関節症の治療法として、口にはめるマウスピース(スプリント)をつくり、装着するようにすすめられるのが一般的です。マウスピースの厚み分、上下の歯と歯の間に距離ができるので、あごの関節や筋肉を安静に保つことができます。しかし、マウスピースは顎関節症の治療に不可欠なものではありません。「マウスピースを使うとあごが楽」という感じがする場合には、使用をおすすめします。逆に、数日間使用したが、効果を感じられないようなら、使い続けない方がいいでしょう。マウスピースを装着したことにより症状が悪化したように感じられた場合はすぐに使用を中止してください。

マウスピース

また、顎関節症の患者さんは、上下の歯を接触させる癖がある場合が多いです。その場合、マウスピースを入れることで逆に嚙みしめが強まってしまう場合もあります。これでは安静を保てないので、すぐに使用を中止してください。

スプリントを装着する他、痛み止めを服用したり、上下の歯を接触する癖を意識的にやめる努力をすることで、顎関節症は3ヵ月以内には痛みが治まるはずです。一方、難治性(治療が特に難しく、病状も長く続いて日常生活の負担が大きい)の顎関節症の場合、①行動医学療法と②認知行動療法の2つをもって治療に取り組みます。すなわち、患者自身で積極的に悪習慣を改め、場合によっては精神科で投薬を受けて痛みに対するネガティブな考え方を阻止しようという取り組みです。現在では顎関節症を専門とする歯科医師の多くが精神疾患の分野についての知識を備えています。

なお、顎関節症のほとんどは手術までは不要ですが、顎関節の組織がくっつき合ってはがれなくなる癒着などを認めた場合は手術が検討されます。

3-2.側頭動脈炎の治療

側頭動脈炎はステロイド療法で速やかに改善しますので、診断結果次第で、副腎皮質ステロイドの投与を開始します。

3-3.舌咽神経痛の治療

初期には、薬物療法が有効です。舌咽神経痛は、瞬間的に激痛が起こる発作性の神経痛です。そのため、発作的に症状が出るてんかんの薬が効きます。しかし、薬物が効かなかったり、副作用のために服用できない場合には外科療法の適応となります。神経の圧迫は硬くなった血管だけとは限らないので、20〜30代で舌咽神経痛が起こった場合などは精密検査が必要です。

4.あごの痛みについてみんなのお悩みに答えるQ&A

あごの痛みについてみんなのお悩みに答えるQ&A

Q.片方のあごが痛いのはなぜですか?

痛みが出ている側のあごの関節や筋肉が疲労し、顎関節症を引き起こしている可能性があります。あるいは虫歯や歯茎の炎症によりあごの痛みを感じている可能性もあります。

Q.あごが痛い時どうすればいいですか?

歯科医院を受診してください。いつ痛みを感じるか、どのような痛みか、などをできるだけ詳しく話してください。

Q.あごが痛くて口が開かない時はどうすればいいですか?

痛みが辛く、体力が落ちている場合は受診を待ってもいいでしょう。市販の痛み止めで様子を見てもいいでしょう。受診できるまで体力が落ち着けば歯科医院を受診しましょう。

Q.あごの痛みはどのくらいで治りますか?

何らかの病気が引き金となって痛みが起きているため、その病気の原因や重さによります。

通常の顎関節症であれば3ヵ月以内には痛みが治まるはずです。診断に時間がかかることもありますが、開かないからといって無理に力をかけて開けるということは避けてください。

Q.あごが痛いとリンパまで 痛くなるのはなぜですか?

リンパ節は免疫細胞が集まっているため、あごの周囲で免疫系の異常が出ると、腫れたり、痛みが出たりします。

6.歯科医からのメッセージ

歯科医からのメッセージ

「あごが痛い」という主訴だけで病気の診断をするのは難しい面もあります。受診の際には、前述した通り、痛みはいつ、どんなふうに起こるかを、詳細に伝えてください。それが痛みをなくすための近道です。

[参考文献]

井川雅子・今井 昇・山田和男『口腔顔面痛を治す』講談社、2009

木野孔司『自分で治せる!顎関節症』講談社、2014

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