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産後うつ病とは?産後うつ病の原因、症状、検査、治療を紹介します

産後うつ病とは?産後うつ病の原因、症状、検査、治療を紹介します
甲斐沼 孟 医師

執筆者
甲斐沼 孟 医師

私は医師として15年以上キャリアを積んできました。これまで消化器外科や心臓血管外科を研鑽して参り、現在は救急医学診療を中心に地域医療に貢献しております。全国学会での学術発表や論文執筆などの多角的な視点で医療活動を積極的に実践しています。さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門的知識を活かして誠心誠意対応します。

日本では出産を経験した女性のなかで、およそ10~15%程度の方が産後うつ病を発症するといわれており、産後にうつ状態になるのは決して珍しいことではありません。

産後うつとは、基本的に出産後数ヵ月以内に抑うつ症状が発生する状態であり、定義としてはうつ病に準じた状態であると認識されています。今回は、産後うつ病になる原因や代表的な症状、治療法や受診のタイミングなどについてお話しします。

産後うつ病の特徴

産後うつ病の特徴

産後うつは、出産してから約1ヵ月以内に発症する大うつ病であると定義されており、日本ではおおむね15%前後の出産後女性に認められる疾患であるといわれています。

※大うつ病とは?

うつ病は大(だい)うつ病とも呼ばれていて、憂うつな気分や意欲の低下などの症状が認められ、食欲不振、不眠、疲労感などの身体的な症状が2週間以上持続する状態をいいます。

ほとんどの女性は、出産経過が正常な場合であってもホルモンの急激な変化、あるいは出産そのものによるストレスなどによって多少なりとも精神的な不調を経験します。

出産前にうつ病に罹患した経験がある際には、産後うつ病を発症しやすくなるといわれており、本疾患では極端に悲しくなる以外にも易怒性や気分変調が随伴して認められることもあり、日常的な業務活動や子どもへの育児意欲などを喪失することも考えられます。

産後うつの現状

産後うつの現状

現代では分娩時の出血や早産時の帝王切開対応など医療技術の進歩に伴って、これまでは救うことのできなかった命を救うことができる時代になって、平成26年では年間約100万人の女性が出産していますが、そのなかで妊産婦の死亡例は約40件と少数になりました。

しかし、産後にうつ病になって、自殺する、あるいは自分の子どもを殺してしまう事例が多くなってきている現状があり、東京23区における妊産婦の自殺者数が過去10年間で約60人近くにのぼることが公表され、妊産婦死亡率の約2倍の数字になっています。

国立神経・神経医療研究センターの研究では、子どもを殺してしまった産後うつ病の事例を報告しており、母親の産後うつ病を発症する背景として、生まれた子どもの健康発育状態を含む出産や育児に関わる因子が強く影響していることを指摘しています。

産後うつのセルフチェック

産後うつのセルフチェック

子どもを出産してから直近7日間までに、以下質問事項のそれぞれ10項目に関して4段階の評価で自分が感じたことに最も近い答えの数字を足して合計点を算出しましょう。

【質問表】

1.笑うことができたし、物事のおかしいこともわかった

(0)いつもと同様にできた

(1)あまりできなかった

(2)明らかにできなかった

(3)まったくできなかった

2.物事を楽しみにして待つことができた

(0)いつもと同様にできた

(1)あまりできなかった

(2)明らかにできなかった

(3)まったくできなかった

3.物事がうまくいかなかったとき、自分を不必要に責めた

(3)はい、たいていそうだった

(2)はい、ときどきそうだった

(1)いいえ、あまりなかった

(0)いいえ、そうではなかった

4.はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配した

(0)いいえ、そうではなかった

(1)ほとんどそうではなかった

(2)はい、ときどきあった

(3)はい、しょっちゅうあった

5.はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた

(3)はい、しょっちゅうあった

(2)はい、ときどきあった

(1)いいえ、めったになかった

(0)いいえ、まったくなかった

6.することがたくさんあって大変だった

(3)はい、たいてい対処できなかった

(2) はい、いつものようにはうまく対処しなかった

(1)いいえ、たいていうまく対処した

(0)いいえ、普段通りに対処した

7.不幸せなので、なかなか眠りにくかった

(3)はい、ほとんどいつもそうだった

(2)はい、ときどきそうだった

(1)いいえ、あまりたびたびではなかった

(0)いいえ、まったくなかった

8.なんとなく悲しくなったり、惨めになった

(3)はい、たいていそうだった

(2)はい、かなりしばしばそうだった

(1)いいえ、あまりたびたびではなかった

(0)いいえ、まったくそうではなかった

9.不幸せなので、泣けてきた

(3)はい、たいていそうだった

(2)はい、かなりしばしばそうだった

(1)いいえ、ほんのときどきあった

(0)いいえ、まったくそうではなかった

10.自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた

(3)はい、かなりしばしばそうだった

(2)はい、ときどきそうだった

(1)いいえ、めったになかった

(0)いいえ、まったくなかった

これらの質問表で9点以上(欧米では10~13点以上)に該当する場合には、産後うつ病の疑いがあると判断することができますのでぜひ参考にして下さい。

産後うつ病に関連する知識

産後うつ病に関連する知識

Q 産後うつ病の原因は何ですか?

産後うつ病になる原因として代表的な要素は、女性ホルモンの急激な変化、あるいは日々の睡眠不足などが挙げられます。

出産すると、妊娠ホルモンと呼ばれるエストロゲンとプロゲステロンが急激に減少するために、気分の浮き沈み症状に影響しますし、甲状腺から分泌されるホルモンも同時に減少して、疲労感や気分を憂鬱にするきっかけになります。

出産後に悲しみや抑うつ症状が生じる産後うつに罹患する原因は完全に判明していませんが、妊娠前や妊娠中にうつ病を発症したケース、近親者や家族にうつ病患者さんが存在する場合、または経済的な問題を抱えている際には発症リスクが上昇すると考えられています。

Q 産後うつ病の症状は?

多くの女性においては、出産してから2日~5日経過したころに、涙もろくなって不安定な気分に陥る、あるいは抑うつ症状やイライラ感、不安症状などを自覚するといわれていますが、ほとんどが一過性で自然に症状が軽快していきます。

これらの一連の変化は、「マタニティブルーズ」と呼ばれており、軽い症状で経過するために生活や育児へ与える影響はほとんどないと指摘されている一方で、産後うつ病では、出産後数週間から数ヵ月後まで極度の悲しみの感情が続き、さまざまな心理的障害を認めます。

産後うつ病の症状は出産後数ヵ月間にわたって徐々に現れることが多いですが、突然本疾患における代表的な症状が出現して、自分自身の仕事や家事業務、あるいは子どもの育児をするなど母親としての日常生活に重大な支障が現れます。

産後うつ病の症状としては、極度の悲しみがあって自分で感情がコントロールできずに泣き叫ぶ、気分の変動が大きく易怒性を認めるなどが典型的な事例です。

産後うつ病になると、悲しみの感情が数週間から数ヵ月間にかけて継続して、日常生活にあらゆる重大な支障が出現することが知られています。

それ以外にも、常に疲労感に襲われる、不眠など睡眠障害を感じる、頭痛や全身痛を自覚する、日常活動への興味喪失、不安発作が出現する、食欲減退または過食、子どもの世話ができない、または母親として不適切であるという罪悪感を抱くことも見受けられます。

ひどい場合には、日常生活を送ることが困難になる、子どもに対する関心を喪失する、自分の子どもを傷つけることに対する恐怖心が芽生えて自殺念慮を抱くことも考えられます。

母親が産後うつになることで、父親サイドもうつ病を発症することがあり、夫婦間のストレスが増すとともに、子どもとの絆を築けずにさまざまな問題に発展することが想定されます。

Q 産後うつ病の受診目安は?

産後うつ病と実際に診断された際には、精神科や心療内科など心理専門職のサポートも必要になり、通常であればカウンセリングを含めた精神療法と抗うつ薬を組み合わせた薬物治療が実践されることになります。

産後うつ病に関連する症状が深刻な患者さんの場合には、抗うつ薬以外にも抗精神病薬が症状コントロールのために必要になるケースも考えられますので、早急に受診するようにしましょう。

産後うつは発症率10~15%の病気ですから、早めに精神科や心療内科を受診することが大切であり、病院やクリニックでカウンセリングを受けて、抗うつ薬や抗不安薬を処方してもらう、あるいは整体院などで自律神経の乱れを整えることで改善が期待できます。

Q 産後うつ病はどのような検査をしますか?

産後うつ病の診断は、一般のうつ病の診断基準を用いて判断し、産後うつ病の一次スクリーニング検査としては、10項目からなる自記式質問票で構成されているエジンバラ産後うつ病質問票が多く活用されています。

この質問票は、公費負担で行われる産婦健診での必須スクリーニングとして利用されていて、合計9点以上の場合にスクリーニング結果が陽性と判定されますが、産後うつ病の確定診断というわけではありません。

また、産後うつ病に似た症状は、甲状腺や脳下垂体機能の異常など産後に起こりやすい病気によって引き起こされることも考えられるため、症状の背景に産後うつ病以外の身体疾患が潜んでいないかを血液検査やCT検査などの画像検査で評価されることもあります。

Q 産後うつ病はどのような治療をしますか?

産後うつ病と実際に診断された際には、精神科や心療内科など心理専門職のサポートも必要になり、通常であればカウンセリングを含めた精神療法と抗うつ薬を組み合わせた薬物治療が実践されます。

症状が深刻な患者さんの場合には、抗うつ薬以外にも抗精神病薬が症状コントロールのために必要になるケースも考えられます。

また、治療中に子どもに母乳を与える場合には、薬剤の副作用などが懸念されるため、それらの処方薬を服用しながら授乳を継続できるかどうかを主治医に確認しておくことをおすすめします。

産後うつ病に対するカウンセリング治療においては、患者本人にできるだけ多く休息を取って安静を保持するように伝えて、全ての物事を完璧にやり遂げようと思わないようにアドバイスを提案します。

また、しんどい時には家族や友人に前向きにサポートを求めるようにして、自分の気持ちを夫やパートナーに素直に話すように心がけることを提唱していきます。

カウンセリング支援グループにおける治療内容として、毎日シャワーを浴びて、服を着替えると気分もリフレッシュできますし、頻繁に外出して気の許せる仲間に出会って好きな散歩コースを歩くことなどによって症状緩和を得ることが期待できることを共有します。

Q 産後うつ病に対して自宅でできる改善方法はありますか?

新しい家族が増えて、赤ちゃんの命を預かることでどの母親にも多大なプレッシャーがかかり、真面目で一生懸命な母親ほどきちんと子育てしなければならないとさらに自分にプレッシャーを感じて辛い感情に陥りやすくなってしまいます。

産後の女性が悲しい気持ちに陥っても、自宅で家族の温かい支えがある、あるいは他の母親と共通の経験や感情について相談するなどを実践することで患者さん本人は安心して症状が改善することもあります。

Q 産後うつ病の症状が改善しない場合はどうすれば良いか?

多くの出産女性が経験する産後数日以内に認められる悲しさなどの否定的な感情はマタニティーブルーと呼ばれており、ほとんどが2週間以内に症状が軽快するためにあまり心配する必要はありませんが、産後うつ病はこれよりも深刻な気分の変動が現れます。

産後うつになると、悲しみの感情が数週間から数カ月間にかけて継続して、日常生活にあらゆる重大な支障が出現することが知られています。

したがって、出産後2週間以上ネガティブな感情を認める、あるいは自分や子ども自身を傷つける恐れを抱いている場合には、精神科など専門医の診察を受けて適切な診断や心理職によるカウンセリングを含めた確実な治療に結びつけましょう。

今回の記事の情報が参考になれば幸いです。

【引用文献】

1)伊田 瞳, 安達 太郎, 森田 麻里子, 河本 輝敬, 渡部 良雄, 新家 俊郎, 相良 博典:SNS“Twitter”による産後女性のエジンバラ産後うつ病自己評価票の日内変動の分析. 女性心身医学. 2022 年 26 巻 3 号 p. 363-368

DOI https://doi.org/10.18977/jspog.26.3_363

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